2011年12月30日金曜日

電子書籍端末、市場が急拡大=タブレットとすみ分け定着か

http://www.asahi.com/international/jiji/JJT201112290055.html
米インターネット通販最大手アマゾン・ドット・コムの「キンドル」などに代表される電子書籍端末の市場が急拡大している。米調査会社IHSアイサプライによると、2011年の世界出荷台数は前年比約2.1倍の2710万台、12年は3710万台に達する見通しだ。アップルの「iPad(アイパッド)」などタブレット型多機能携帯端末の市場拡大が著しい中、専用端末も相次ぐ値下げなどで顧客数を着実に伸ばしているようだ。

アマゾンはタブレット型端末「キンドル・ファイア」の市場投入に伴い、従来型のモノクロ画面の電子書籍端末を最低79ドル(約6200円)に抑えたほか、タッチ画面の低価格端末を拡充したのが奏功し、米年末商戦で販売が急増している。画面のカラー化で先行した米書店大手バーンズ・アンド・ノーブルもタブレット参入に伴い専用端末を最低99ドルに値下げ、市場拡大に寄与している。

米調査会社IDCによると、世界の電子書籍端末市場の8割を米国が占める。コンテンツとなる電子書籍の不足で普及が進まない日本とは対照的に、米国の電子書籍市場は10年に前年比約12倍の規模に達するなど、豊富なコンテンツが端末の伸びを後押ししている。

2011年12月9日金曜日

ついにアマゾンが電子書籍読み放題サービス開始!? 音楽・映画から活字コンテンツに広がる定額制の衝撃

http://diamond.jp/articles/-/15252

 デジタルコンテンツのサブスクリプション(定額契約制)モデルがジワジワと広がりそうな気配を見せている。

 サブスクリプションというのは、たとえば月額いくら払えば映画が見放題、音楽が聴き放題といったサービスだ。年額契約のこともあるだろう。現在ならば、音楽で言うと、iTunesストアのように楽曲1曲あたり1.29ドルなどを払って購入するものというのが広く知られた方法。だが、これに対してサブスクリプションモデルはドンブリ計算的な課金方法だ。

 以前、この欄でも取り上げたことのあるスポティファイは、音楽のサブスクリプションサービスとしてよく知られている。その後も人気をどんどん増し、有料契約者は250万人にも拡大している。

 スポティファイは3段階のサービスを提供し、ひとつは無料、残り2つは有料で月額4.99ドルと9.99ドルだ。無料は聴ける楽曲の数や利用時間に制限があり、有料サービスでは音質や、モバイル機器でも利用できるか、オフラインでも利用できるかで違いがある。同じような音楽のサブスクリプションサービスには、ラプソディーやズーンなどがある。

 映画でサブスクリプションモデルを持つのは、ネットフリックスやブロックバスターなど。一度に借り出しできるDVDの枚数で月額契約料が変わるが、効率よく借り出し返却していけば、かなりの数の映画が見られるものだ。

 ただ、DVDを物理的に借り出すのではなく、ストリーミングサービスに目を転じると、こちらは確実にサブスクリプションモデルが優勢だ。ネットフリックスは、月額7.99ドルで見放題。ムービーフリックスは、無料と月額11.95ドルのモデルを提供。アマゾンは、有料のプライム会員(年額79ドルで、アマゾン商品の無料配送などのサービスを提供)には、タイトルが限定されているものの、やはり映画見放題のサービスを提供している。

 テレビ番組では、フールーがやはりサブスクリプション・モデルで運営、映画も含み月額7.99ドルで見放題だ。ケーブルTV各社も、契約者に対してインターネットによるストリーミングサービスに乗り出しており、これもサブスクリプションモデルと言える。

 こと音楽と映画については、現在はさまざまな配信、課金方法が混在している状態になっている。従来通り、楽曲や映画を購入してファイルをダウンロードし、「所有する」モデルがひとつ。所有せずに「レンタル」するモデルも映画にはある。オンラインならば、何日後には借りたファイルが消滅するとか、見始めたら何時間内に見終わらなければならないといった条件がつく。音楽では、インターネットラジオのようなサブスクリプションに似たモデルも存在する。

 それ以外に最近は、ストリーミングサービスで「視聴する」モデルが音楽、映画の両方に出てきた他、クラウドサービスを同時に提供して、クラウド上のストレージに自分のファイルを保存してそこから利用したり、それと購入する所有モデル、ストリーミングで視聴するモデルを組み合わせたりするケースもある。グーグルやアマゾンはここに進出している。

 さて、オンラインゲームの世界ではサブスクリプションモデルがかなり広まっている。世界のデジタルコンテンツ消費のうち39%とトップを占めるのはゲームの世界。消費が増えれば増えるほど、ユーザーはサブスクリプション・モデルへの移行を好むのかもしれない。

 新聞や雑誌はどうか。もともと「サブスクリプション」というのは、新聞や雑誌の年間契約という意味で使われ始めた言葉。だが、これらはデジタル時代になって無料でコンテンツを公開したために、その後苦戦。今、再びサブスクリプションモデルにたどり着いているところだ。デジタルコンテンツを有料化し、その中でサブスクリプションモデルの選択を提供するというものだ。

 新聞で有料化、サブスクリプションモデルへの移行を図ったところは限られているが、ウォールストリートジャーナル、ニューヨークタイムズは比較的成功しているようだ。ニューヨークタイムズは、今年初めに本格的なサブスクリプションモデルを提供し始めたが、9月までの6ヵ月間に有料契約者数が25%アップし、120万人に増えたという。

 雑誌については、デジタルコンテンツ化で1部あたりの価格が実質上は高くなったため、うまく離陸できていないのが現状だ。だが、タブレットコンピュータやスマートフォンによってデジタル雑誌のサブスクリプションへの関心が高まりつつあり、アップルがiPad用に10月半ばに始めたデジタルニューススタンドでは、雑誌社大手のコンデナストの有料契約者数が2週間で268%増となったという。複数の雑誌出版プラットフォームを提供するデジタルマグは、1週間で1150%増となったとしている。

 そうした中、びっくりするようなサブスクリプションモデルを計画しているとされるのが、アマゾンだ。電子書籍が読み放題になるサービスを、やはりプライム会員向けに検討中で、出版社との交渉に入っているとのことだ。

 アマゾンは、新しく発売した自社タブレットのキンドルファイアとプライム会員との親和性を高めて、積極的にユーザーの囲い込みにかかっており、この電子書籍読み放題もその一環と見られる。

 ユーザーが、一体サブスクリプションモデルに大きくなびくかどうかは、今のところまだ不明だ。コンテンツを提供する側から見れば、サブスクリプションモデルはユーザーを囲い込むことができる利点があるものの、コンテンツ制作者との契約料、インフラへの投資などとの兼ね合いが勝負となる。ユーザー側にとってみれば、サブスクリプションモデルは便利ではあるものの、ひとつのプラットフォームに縛られてしまって抜け出せなくなる危険性がある。

 値段とコンテンツ量、そして配信の速度、デバイスとの親和性など、多様な要素が今後の勝者を決めることになる。闘いはこれからが本場だ。

欧州委員会、Appleと電子書籍のエージェンシーモデルによる価格操作に対し欧州連合競争法に基づく調査を開始

http://ebook.itmedia.co.jp/ebook/articles/1112/08/news031.html

Appleとのエージェンシーモデルによる電子書籍の販売契約に価格カルテルの疑いがあるとして欧州委員会が出版社5社の調査を開始した。

欧州委員会は米Appleと幾つかの出版社に対して公式調査を開始した。Hachette Livre、Harper Collins、Simon & Schuster、Penguin、Verlagsgruppが欧州で違法なカルテルにより電子書籍件の価格操作を行った疑いで告発されている。

欧州委員会は12月6日(現地時間)からAppleと同社のiBookstoreが大手出版社と共謀し、競合よりも安く価格を設定するAmazonの商慣行を不当に損なっている事実を調査している。欧州委員会はAppleと大手出版社による共謀がカルテルと制限的商慣習を禁ずる欧州連合競争法(EU機能条約101条)に抵触する可能性があるとの懸念を抱いている。EU機能条約101条は加盟国間取引と域内市場競争を制限する可能性のある契約および協調的行為を禁じている。この条項は欧州委員会とEU加盟国が適用できるとして独占禁止規制(理事会規則No 1/2003)に規定されている。

エージェンシーモデルは欧州に起源があり、書店による独自価格設定を禁じている。出版社が書籍の平均小売価格を決定し、オンラインの電子書籍ストアはそれよりも安く書籍を販売することができない。電子小売業者には平均で全書籍売り上げの30%前後の手数料が支払われる。

Amazonは「エージェンシーモデル」による価格操作に直接反対しているのに対し、Appleは自社のオンライン電子書籍ストアをローンチした際に出版社と密室で契約を交わした。Random House U.S.は今年、自社の電子書籍にそのモデルを採用することで、iPad 2の販売開始直前にAppleのiBookstoreに参入を果たした。一方、英国のRandom Houseはいまだに電子書籍の卸売モデルを採用しており、欧州委員会の調査対象にはなっていない。

今年3月、われわれはEUが幾つかの出版社を強制捜査したとリポートした。今回の調査では出版社に対して確たる証拠をつかむために内部文書の押収を行おうとしている。多くの業界関係者が、エージェンシーモデルは反競争的であり、出版社が成熟しつつある業界に対して過剰な統制を行うことができるとして不安を覚えている。

2011年12月8日木曜日

電子書籍ストア「BookLive!」が三省堂書店と提携

http://ascii.jp/elem/000/000/654/654539/
BookLiveと三省堂書店は12月6日、「電子書籍ストア」と「リアル書店」の連携による書籍市場の拡大と新たなビジネスモデルの創出を目指し、事業提携および戦略的パートナーシップを構築すると発表した。
今回の事業提携で、「BookLive!」会員とクラブ三省堂会員の連携、両社の書籍販売を中心としたサービスの連携を軸に、(1)ネットとリアルの書籍サービスを連携させた相互のターゲットを補完する幅広い層への情報提供と相互送客、(2)三省堂書店内での電子書籍販売と決済システムの連携による新たなサービスの開発、(3)ネットとリアルを連携させた新たな販促プロモーションの実施、(4)「BookLive!」および三省堂書店で購入した書籍情報をユーザー自身が一元管理することを実現するなど、書籍販売を中心とした多面的なサービスの提供が可能となる。
三省堂書店は、創業130年を迎え、国内35店舗、海外5店舗、外商10拠点に書店業務を展開。BookLiveは、凸版印刷株式会社をはじめとするトッパングループに属し、電子書籍取次会社のビットウェイの子会社として設立され、現在、約4万点の書籍を販売する電子書籍ストア「BookLive!」を運営している。

2011年12月2日金曜日

Kindle Fire、BestBuy.comではiPadを抜いてタブレット分野におけるベストセラーに

http://jp.techcrunch.com/archives/20111129the-kindle-fire-bests-the-ipad-at-best-buy-becomes-the-retailers-best-selling-tablet/

Kindle Fireに完全に火がついたようだ。燃え上がっている、という状態かもしれない。名前がFireだけにこうした動きも予想されていたものなのだろうか。

結局のところ、Amazonによる最初のタブレット市場参入の動きは大成功をおさめたということになりつつある。Amazonのベストセラーリストでも販売前から何週間にもわたってトップに位置している。そしてついに、Best Buyにて199ドルのFireがiPad 16GB版を抜いて、タブレット部門のベストセラーとなってしまった。そう、やはりFireはAndroidタブレット戦争で勝利を収めつつあるのだろう。

Amazonは「昨年に比べて4倍のKindleが売れている」と言っていた(台数についてはいつもながらに発表がない)。Black Fridayのウイークエンドにも大いに売上を伸ばし、多くの消費者に受け入れられつつあることを示した。

当初、Fireについてはかなりの数の批判的意見が集まっていた。不具合や、バグ、あるいは初期不良について書いていたが、同時に199ドルという低価格についても触れていた。低価格実現のために、妥協が必要であったのだろうという意見も多く見られた。しかしそれと同時に、Amazonの「まずコンテンツありき」のスキームについては好意的な意見もあった。Fireの強敵はNookタブレットだという位置づけだが、こうした関係の中、優劣をスペックで語られることは少なかった。スペックではなく、AmazonおよびB&Nはそれぞれのデバイスのメディア消費能力とでもいう点に注目して利点を語っていた。こうした戦略はAndroidマーケットでは広まらなかったが、Appleはやはりこの方向にしたがっているように見える。スペックは死んだと言える状況もあるわけだ。

FireがAmazonやBest Buyなどのメジャー小売サイトでiPadをリードする状況が続くのかどうか、予測は難しいところだ。199ドルという価格の魅力は、確かにホリデーシーズンの間は大いに通用するだろうと思われる。しかしホリデー消費が一段落した際にどうなっているのかはわからない。ただ、Fire所有者は大いに増え、デバイスの使い勝手の良さを大いにアピールするということにもなり得る。するとFireの勢いを止めるのはiPad 3のみということになるケースもあり得るが、こちらは2月ないし3月までリリースはない予定だ。と、いうわけでタブレット業界はなかなか目が離せない状況にあるのだ。

市場調査会社の英Juniper Research、2016年の世界全体のモバイル電子書籍市場規模を7,500億円強と予想

http://hon.jp/news/modules/rsnavi/showarticle.php?id=2929

通信業界専門の市場調査会社であるJuniper Research社(本社:英国ハンプシャー州)は現地時間の12月1日、全世界におけるモバイル向け電子書籍市場に関する市場調査レポート「eBooks, eMagazines & eNewspapers for Smart Devices 2011-2016」を発売した。

 サイト会員向けの無料レジュメによると、同レポートでは2011年のモバイル機器(スマートフォンやタブレット含む)向けの電子書籍市場規模は世界全体で32億ドル(約2,490億円)で、2016年には97億ドル(約7,540億円)に成長すると予想。その牽引役となるのは北米・欧州市場だが、日本を中心とする極東アジアは「旧携帯電話向けコミックの売上減少分が足を引っ張る」と予想されるため、欧米と比較して成長ペースは緩やかになると試算している。

2011年11月28日月曜日

今度こそ立ちあがるか?電子書籍市場 メディアビジネスはどこに行くのか

http://ascii.jp/elem/000/000/651/651747/

市場成立の高いハードル

電子書籍、あるいは電子雑誌と呼ばれる市場で、タブレットマシン向け、ということになると、iPad専用のデジタル配信コンテンツが想起されます。

iPadは2010年の販売台数が概ね75万台ほどとして出されています、今後右肩上がりに増えていくのではないかとの市場予測は出されていますが、累計では、実稼働している台数としては(カウントの仕方で変わっては来ますが)、100万から200万くらいの規模になろうかと考えられます。

雑誌として成立させるのに20万人の読者が必要だった場合、最大予測の200万人に対してシェアが10%を獲得する必要があります。雑誌自体のニーズが分散化を続ける現状も踏まえると、なかなかに厳しいという予想が立ちます。

この高いハードルを越えるには、

iPadを含めたタブレット市場の伸びを待つ
読者数が少なくても回るようなビジネスモデルをひねり出す
のいずれか、あるいは両方が必要となります。

電子書籍(メディア)はいつから成立可能か

では、タブレット市場は先々どうなるのかという見通しについては、2015年で年557万台との見通しが出されています。

・2011年上半期のiPad出荷台数は70万台、市場シェア85%に――ICT総研調べ

ざっくりの業界感覚として、1000万台くらいが実稼働している状況になればメディアチャネルとして存在感を増してくるとの言い方がされているため、販売予測数字が正しいとするなら、2010年代の後半くらいから、タブレットデバイスを意識したメディアは成立しやすくなると予測出来ることになります。

反対側で、デジタルコンテンツ(というか漫画)販売サービスを展開している株式会社イーブックイニシアティブジャパンが上場しているように、スマートフォンやタブレット向けのデジタルでのコンテンツ流通については、相応の規模を確保しつつあります。同社については、PCも含めたマルチ配信を行っているため、特定のデバイスの市場評価には不適切なケースでもありますが、全体の流れとしては参考になるところと言えます。

市場の起爆剤として期待、あるいは出版業界が戦々恐々としながら注目しているのが、AmazonがKindleを市場投入しようとしていることです。PC的なツールであったタブレットと違い、書籍端末としての立ち位置が非常に強いツールなことから、よりダイレクトな影響を生むのではないかという、典型的な黒船論の構図となっています。

雑誌は雑誌としてもう難しいのか

上記の方策 2.のところで記述した、読者数が少なくても成立させられる仕掛けは、パッケージ販売と広告以外の収益チャネルを作ることとなります。一番大きなところでは、テレビの地方局が通販広告ばかりになっている。あるいは通販番組ばっかり流しているとの現象が該当します。メディアのリーチを、広告という間接的な商材にて収益転換するのではなく、直接的な物品販売需要にて転換させようとの話です。つまり、利益率を高めたいとのアプローチです。

全てはコミュニティビジネスに帰結する、とまとめると少々短絡的ですが、磁石となるコアの強いテーマが軸として存在し(特定の人やコンテンツテーマであることが多い)、周辺にマルチチャネル、マルチコンテンツ的に展開しつつ収益を確保していくという整理図はメディアコンテンツ界隈では一般化しつつあります。

出版業界でも、先日メディアファクトリーを買収した角川グループがこの方針を明確に表明しており、数字的にも順調な伸びを見せています。書籍パッケージという特定のコンテンツ形態を水平に展開する、いろんな本を順に出していくというモデルではなく、人気を得たコンテンツを映画にし、アニメにし、ゲームにし、グッズも売りイベントも、との展開させていくビジネスモデルに同社は転換しています。

「コンテンツ+リーチ」の仕組みをデジタルで

角川の最近の動きとしては、ニコニコ(ニワンゴ)と連携して同社のニコニコ静画にコンテンツを提供していくとの発表を出しています。

・ニコニコ静画(電子書籍)スタート!

この発表は表面だけなぞると角川が電子書籍、電子雑誌の強化を進めている動きに他らならないのですが、少し突っ込んで解釈すると、雑誌や旧来の書店が持っていた「コンテンツ+リーチ」の仕組みをデジタルで再度作りなおそうとの試みに見えます。

補助線としては、こちらの記事が良いところでしょう。

 ・ネットは市場全体を縮小させてしまう ネットの恐ろしきマイナス効果

なかなかにショッキングなタイトルですが、同様の趣旨での議論は他でも出ており、体感としては概ね正しい指摘と考えています。分かりやすいのが、「電子書籍のサイトを作ったんですけど、ユーザーがいないのでどうしたらいいでしょう」との相談が各所で交わされているという話です。

古典的な回答としては、いいコンテンツが無いのでユーザーがいつかない。なのでいいコンテンツを揃えるのが吉、となるのですが、どうも起きている事態を観察しているとそうとも言い切れないところがあります。間に立ってるはずのソーシャルも「これ面白いよ」と十分に見つけ切れてないように見えます。

角川が取ったアクションは、自分たちのコンテンツをよりいろんな人の目に触れやすい場所に出すようにした、という動きです。取り扱い書店を増やした、あるいは書店だけでなくコンビニにも並べるようにしたと言い換えても良いでしょうか。ネットに公開する=書店に本を卸す、という解釈では不正解というのがアクションから見て取れます。

電子雑誌のチャネル開発は出来ていなかった課題
つまり、紙の雑誌が販売が立たなくなってるという方はともかくとして、電子雑誌の側については、根本的なリーチの問題の捉え方を修正しないとならないとの見方が立ちます。出版社でも、取次や書店との関係が良い、営業に優れたところはしばしば良い成績を生んでいるように、チャネルの問題は(普段あまり言われませんが)厳然としてあります。

「何をどうすれば」の答えはまだはっきりとしていませんが、電子雑誌におけるチャネル開発、日経の記事の方に寄せるとインターネット上での販促というのは、実は出来てるようで出来ていなかった課題であると言えそうです。物販に行かないと雑誌は駄目だ、というのはもしかすると過渡的な現象か早計かもしれません。個人的には、マルチコンテンツのマルチチャネル化は必然の現象と捉えているので、緩やかな解釈としては正しいと感じています。

純粋(?)なメディアビジネスはどこに行くのか
では、純粋なメディアはどこにどう成立するのでしょう?

これは、禅問答みたいになってしまいますが「成立するところに適時成立する」との言い方がどうも正しいのではないかと、このところ考えています。

例えばの例として、手前味噌ながら弊社も多少関わっているのですが、WirelessWire News(ワイヤレスワイヤーニュース)という通信業界に特化したメディアサイトがあります。 同サイトは、業界のプロ向けを意識した一般人は視野から外してしまった専門メディアとの立ち位置ですが、業界内の濃いニーズに特化して絞ったスポンサーで成立させています。マスの読者といろんな広告主という汎用プラットフォームではなく特化した受託の変種のようなメディアです。

これは、一昔前の感覚としては、雑誌の中の一特集が切りだされてメディアになってるようなものかもしれません。あるテーマに絞ってステークホルダーも見える形で、ただしそこの濃度を高めたという仕組みで、メディアの立ちうるところにメディアを立たせる。役目を終えたら閉じるかサーバー代が残せる範囲では残す、という形です。

ある雑誌が汎用的な形でずーっと続く、というのはデジタルの環境では難しい感じになってくるのかもしれません。特定のファンコミュニティに近いようなテーマコンテンツサイト、折々の事情を鑑みてスナップショットで作られるオーダーメイドのメディア、あるいは角川のようなマルチプレイヤー。傾向としてはこのあたりに絞られていっているのでは、というのが最近の感覚です。

2011年11月25日金曜日

電子書籍で読みたいジャンル、iPadとタブレット端末のユーザーで違い

http://wirelesswire.jp/News_in_Japan/201111251847.html

MMD研究所(モバイルマーケティングデータ研究所)は2011年11月24日、「タブレット端末の所有率、及び満足度調査」の結果を発表した。それによると、もっと増えて欲しい電子書籍のジャンルが、iPadとタブレット端末で異なる傾向がある。

まず、端末の満足度を尋ねたところ、iPad(iPad 2を含む)は「非常に満足している」が30.5%、「満足している」が55.0%で、合計85.4%が満足している結果だった。一方、iPad以外のタブレット端末では「非常に満足している」が25.5%、「満足している」が43.1%であり、満足していると回答したのは全体の68.6%にとどまった。満足している利用者の率は20ポイント近くiPadが高い数値となった。追加して欲しい機能は、iPad、タブレット端末所有者ともに「防水機能」が最も多く、そのほかに「ワンセグ」「USB接続」が挙がった。

増えたらいいと思う電子書籍のジャンルを尋ねたところ、iPadとタブレット端末で需要が異なる結果が表れた。iPad所有者のトップは「ビジネス書」で60.3%、タブレット端末所有者では「雑誌」が58.8%で首位だった。


【報道発表資料】
もっと増えて欲しい電子書籍のジャンル、iPadユーザーの60.3%が「ビジネス書」タブレット端末のユーザーの58.8%が「雑誌」と回答

電子書籍の利用率、日本は1割、中国は7割~ネットエイジア調査

http://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/20111124_492926.html

 株式会社ネットエイジアは22日、電子書籍に関するアンケート調査の結果を公表した。調査はネット上の共通ポイントサービス「ネットマイル」の会員600人および中国人のパネル450人に対して実施。電子書籍の利用状況や期待感では、中国が日本を大きく上回っていることがわかった。

 日本で電子書籍を「利用している」という人は9.8%、「利用していないが、今後は利用したいと思う」が32.5%、「今後も利用したいと思わない」が57.7%だった。一方、中国は「利用している」が75.6%と最も多く、「利用していないが、今後は利用したいと思う」が19.8%、「今後も利用したいと思わない」が4.6%という結果となった。

 日中の調査結果を比較してみると、日本人よりも中国人のほうが「利用している」もしくは「利用していないが、今後は利用したいと思う」の割合が高く、中国人の9割以上が電子書籍を利用を希望していた。対照的に、日本では過半数を超える人が「今後も利用したくない」という回答だった。

 電子書籍の利用端末で最も多く挙げられたのは、日本が「テスクトップPC」(25.4%)、中国が「スマートフォン」(29.1%)で、ネットエイジアは「日本はいつでもどこでも読める電子書籍の利点が、あまり重視されていない」と分析している。

 電子書籍市場規模の予測については、日本では「そこそこ発展する」が62.3%と最多で、次いで「あまり発展しない」が18.2%、「大きく発展する」が14.0%の順。一方、中国では「大きく発展する」が57.8%と最も多く、「そこそこ発展する」が38.4%、「あまり発展しない」が2.9%と続いた。

 日中の調査結果を比較してみると、「大きく発展する」の割合が中国では日本に比べて4倍以上だった。また、「大きく発展する」と「そこそこ発展する」を合計した場合でも、日本では8割弱であるのに対し、中国では9割を超えており、「中国では電子書籍への期待感がとても強い」(ネットエイジア)としている。

2011年11月14日月曜日

各社の電子書籍リーダーが一斉値下げ――どれを買う?

http://ebook.itmedia.co.jp/ebook/articles/1111/13/news006.html

ここのところまたにぎやかになってきている電子書籍市場ですが、米国のホリデーシーズンでの需要を見計らってか、海外勢の電子書籍リーダーが実質的な値下げを行っています。

まずは先日楽天が買収することが明らかとなったカナダのKobo。「『出版、そして書籍の歴史が変わる重要な日』――楽天三木谷氏が明かすKobo買収の意図」で楽天の三木谷氏もほのめかしていた広告付きKobo端末(Kobo Touch with Offers)が発表されました。

広告付きというのは、スクリーンセーバーなどに特定の広告を表示する代わりに、端末価格を安価にする手法で、Amazonの広告付きKindleなどがよく知られています。広告付きKindleだと30ドルほど値引きされて提供されており、少しでも価格を抑えたい方には魅力的な選択肢です。

今回Koboが発表した広告付きモデルは6インチのE Ink Pearlディスプレイを搭載する「Kobo Touch」が対象となっており、従来の129.99ドルから30ドル値引きした99.99ドルで販売されます。Amazonと同じですが、広告付きKindleが購入後に30ドルを支払えばいつでも広告をカットできるのに対し、広告付きKoboは現時点でそうした機能は用意されていないようです。

一方、米Barnes & Nobleは、249ドルの「NOOK Tablet」発表に合わせ、6インチのE Ink電子書籍リーダー端末「Nook Simple Touch」を139ドルから99ドルに値下げしました。こちらは広告が付くわけではなく、純粋な値下げです。同製品はNOOK 2nd Editionなどと表記されていたこともありましたが、今後はこの名称で統一するようです。

Amazonの広告付きKindle 4は79ドルですが、こちらは基本的に日本からは購入できず、日本から購入できる広告なしKindle 4は109ドルとなります。ただし、このモデルはタッチ操作に対応していません。タッチ操作に対応したKindle Touchの価格は、広告付きモデルが99ドル、広告なしモデルが139ドルです。

結局「買い」の1台はどれ?
以上をまとめると次のようになります。参考までに、国内で販売されているソニーの電子書籍リーダー端末「Reader」の最新モデル「PRS-T1」と、再度値下げされた前モデル「PRS-650」も紹介しておきます。

端末ベンダー価格広告の有無日本への発送
Kindle 4Amazon79ドル×
Kindle 4Amazon109ドル×
Nook Simple TouchBarnes & Noble99ドル××
Kobo TouchKobo99.99ドル×
Kobo TouchKobo129.99ドル××
PRS-T1ソニー1万9800円×
PRS-650ソニー1万2800円×

各社のE Inkベースの電子書籍リーダーの価格

日本への直接発送が不可となっているモデルでも、転送業者などを利用すれば基本的には日本から購入の購入は可能です。ただし、その場合、手数料などを加味する必要があるので注意したいところです。79ドルのKindleを取り上げた記事の中には、こうした点に触れていないものもあります。

それらを考えると、Amazonが直接発送してくれ、手数料なども比較的安価な109ドルのKindle 4が現時点で最も新しく、かつ安価な海外製の電子書籍リーダー端末といってよさそうです。

ただし、楽天が買収を発表したKoboの端末は、年明けにも国内販売が開始される予定です。AmazonもKindle Storeの国内展開を予定していますが、国内の出版社との交渉次第では、しばらくは国内のコンテンツが十分にラインアップできないことも予想されます。

Koboの国内販売が開始されると、楽天のRabooはもちろん、Rabooと連携しているReader Storeのコンテンツも利用できるでしょうし、長期的には紀伊國屋書店の「紀伊國屋書店BookWeb」で販売されているコンテンツをKobo Touchで読むことも可能になるかもしれません。

以上を勘案してここで挙げたものの中から選ぶとすれば、現時点ではKobo Touchの国内販売開始を待って購入するか、いち早く電子書籍を堪能したいならソニーのReaderを選択するのが比較的賢明な選択といえそうです。

2011年11月11日金曜日

消費者の満足が市場を活性化する:BISGレポート

http://www.ebook2forum.com/members/2011/11/bisg-completes-vol2-of-consumer-additudes-report/

米国のシンクタンクBook Industry Study Group (BISG)の「E-Bookでの読書に関する消費者態度調査」の最新版(Vol.2)が11月9日に発表され、市場の拡大とともに消費者の満足の高さが浮き彫りになった。過去18ヵ月間に印刷本を購入し、同時にE-Bookも買った消費者の50%近くは、好きな作家の新刊を、3ヵ月までなら電子版の発売を待つと回答した。1年前の調査では38%だった。BISGでは、消費者の態度が、数ヶ月の単位で変化していると述べている。レポートの提供は11月21日の週から。

デジタル読者が出版市場全体を牽引
Vol.2で明らかになった点には以下のようなものがある。
積極的消費者(パワーバイヤー)ほど本を読む。毎週のようにE-Bookを買っているという消費者の46%は、フォーマットによらず購入金額を増やしたと回答している。これは全回答平均の30.4%より高い数字で、彼らが全消費者の行動を3~6ヵ月、リードしていることを示している。
プラットフォーム別満足度でアマゾンの勢いは止まらず。アマゾンはE-Bookの購入(70%)でも情報(44%)でも、消費者に選ばれており、B&N(26%)とアップルが続いている。他方で図書館が増えていることも注目される。
E-Book読書の障害は減少している。入手性に関する懸念は縮小、デバイスの価格はなお問題ではあるものの、問題は「何もない」とする消費者が、昨年の17.6%から33%に増えた。

出版市場調査の新傾向
この消費者調査は2009年から始まり、昨年に最初のレポートが刊行された。調査時点から最大18ヵ月以前にE-BookあるいはE-Readerを購入したことのある印刷本購入者を対象とした、全国規模のパネルサーベイに基づいている。バウカー社のPubTrack Consumerサービスの一部を構成するもので、四半期毎の要約版も発行される。データは、毎月約6,000人を新規に選び、本の購入行動について回答を求めている。累計の対象者数は65,000人にも及ぶ。今回の有効サンプルは750人。今年11月にスタートするVol.3のサイクル(~09-2012)では、Real-Time ReportingというWebベースのオンライン・ツールで提供されることになる。
この調査は、出版情報サービス会社、シンクタンク、調査会社が運営・実施に当たり、大手出版社、書店、テクノロジー企業がスポンサーになって行われる大規模なもの。従来の静的統計とは異なるもので、こうした調査がなされること自体、デジタル化によって市場がダイナミックに変化し、ビジネスとしての出版の魅力が増していることを示している。

2011年11月10日木曜日

「NOOK Tablet」はKindle Fireに対抗できるか

http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1111/09/news083.html

米書店大手Barnes & Nobleが「NOOK Tablet」でローエンドのタブレット市場に参戦。「Kindle Fireよりも優れたハード」という評価はあるものの、形勢は変わらないという声も。(ロイター)

 米書店大手Barnes & Nobleが新型タブレット端末「nook Tablet」を発表し、ローエンドのタブレット端末市場に参戦した。新端末はAmazon.comの競合端末「Kindle Fire」よりも容量が大きく、速度も速いが、価格も50ドル高めだ。

 Barnes & NobleはNOOK Tabletを249ドルで発売する。容量は16Gバイト。Amazonが先ごろ発表したタブレット端末Kindle Fireは容量が8Gバイトだ。NOOK Tabletは来週後半に店頭に並ぶ予定であり、今年の年末商戦では、同じく来週発売予定のKindle Fireとの間で熾烈な戦いが繰り広げられることになりそうだ。

 さらにBarnes & NobleはAmazonの積極的な価格攻勢に対抗し、一部のNOOK端末の値下げも発表している。

 Barnes & Nobleは全米に約700の店舗をチェーン展開しているが、Amazonのような十分な資金力は持っていない。だが同社の端末は、生粋のテクノロジーファンよりも電子書籍リーダーやタブレット端末に関心を持つ読書好きな人たちの間でニッチな市場を形成している。

 「われわれはまずコアな読者に対応したい」とBarnes & NobleのCEOを務めるウィリアム・リンチ氏はニューヨークで開催した製品発表会で記者らに語っている。同氏はAmazonのKindle Fireについては、書籍のほかにも同社の各種サービスに利用できる「自動販売機」となぞらえている。

 さらにリンチ氏はKindle Fireのストレージ容量を「不十分」と指摘、「nook Tabletのほうが速度が速く、容量が大きく、店頭での顧客サービスも受けられ、価格が高めなのはその分だ」と説明している。

 だが一部のアナリストによれば、買い手は二の足を踏むかもしれないという。「この場合、50ドルという価格差は大きい。25%も違うわけだから」とNPDのアナリスト、ロス・ルービン氏はReutersの取材に応じ、語っている。

 NOOK tablet4 件は7インチのディスプレイを搭載し、重さは約400グラム。バッテリー持続時間は動画視聴なら9時間で、Netflixのオンライン映画レンタルやHulu Plusの動画配信サービスを利用できる。1GHzのデュアルコアプロセッサを搭載し、RAMは1Gバイトだ。

 業績悪化に苦しむBarnes & Nobleは2009年に電子書籍リーダーNookの初代モデルを発表して以来、その開発に数千万ドルを投じている。

 その戦略は奏功し、同社は電子書籍リーダーおよびデジタル書籍の市場で約25%のシェアを獲得――ただしトップのAmazonには依然大きく水をあけられている――、実店舗での書籍の長期的な売上減によるダメージの緩和に役立っている。

 Barnes & Nobleは電子書籍リーダー市場への参入がAmazonよりも2年後れたが、まずまずの健闘を見せている。Barnes & Nobleの電子書籍リーダー「nook Color」はタブレット端末ふうの機能も幾つか備えており、「フル装備のタブレット端末を購入するところまではいかない」という顧客層に支持されている。さらに同社はAmazonの「Kindle Touch」に数カ月先立ち、今年5月にタッチスクリーン対応の電子書籍リーダーを発表している。

 Barnes & Noble株はニューヨーク証券取引所の7日午後の取引で2.4%値を下げ、11ドル33セントで取引された。Barnes & Nobleの株価は9月28日、当時同社のトップセラーだったNOOK Colorよりも安価なタブレット端末がAmazonから発表されたのを受けて、急落していた。

優れた製品だが、形勢はそのまま

 NOOK Tabletについての早期レビューは概ね好意的だ。Forrester Researchのアナリスト、サラ・ロットマン・エップス氏は「アッと言わせるような製品」と評している。

 またテクノロジーブログEngadgetの編集者ティム・スティーブンス氏は、「NOOK TabletはKindle Fireよりも優れたハードウェアのようだ」と評価している。

 ただし、NOOK TabletがKindle Fireキラーになると指摘している人はいない。それよりも、この端末は「Kindle FireよりNOOKを好む顧客」をそのまま定着させる役割を果たすことになるようだ。

 「この端末はBarnes & Nobleの買い手の忠誠を保つことになるだろう。手軽なタブレット端末のセグメントは依然として成長している」とMorningstarのアナリスト、ピーター・ウォルシュトルム氏は指摘し、AppleのiPadよりも安価なタブレット端末の隆盛に言及している。「Barnes & Nobleは価格競争は望んでいない。それによって、プレミアムな製品の売り手としての同社のイメージを高められる」と同氏。

 Engadgetのスティーブンス氏は、どちらの端末のユーザーも「現状の路線を進むだろう」と予想している。

 Barnes & Nobleが一部の端末で値下げを敢行したのは、9月にAmazonから受けたプレッシャーへの対応だろう。Amazonは9月にKindleの基本モデルの価格を引き下げ、Barnes & Nobleの端末よりも安価なタッチスクリーン対応の電子書籍リーダーを発表している。

 Barnes & Nobleは7日、NOOK Colorの価格を249ドルから199ドルに引き下げた。ただし、このことでNOOK端末同士の共食いが起きる危険性も高まっている。

 さらにBarnes & NobleはAmazonの競合製品の価格に合わせ、タッチスクリーン対応の NOOK Simple Touchの価格を139ドルから99ドルに引き下げている。

 「NOOK Colorが199ドルに値下げされたことで、この価格帯の端末を探している消費者にとって、NOOK ColorはKindle Fireのより直接的で強力な競争相手となる」とNPDのルービン氏は指摘している。ただし同氏によれば、NOOK ColorがNOOK Tabletの売り上げを侵食することになる可能性も考えられるという。

2011年11月9日水曜日

電子書籍を貸し出すアマゾンの出血サービスっぷり‎

http://pc.nikkeibp.co.jp/article/column/20111109/1038603/

 11月に入って、楽しみなことがひとつある。事前予約しているKindle Fireがもうすぐ出荷されることだ。15日の発送予定なので、今から10日後には私の手元に届いているはずである。

 アマゾンの電子書籍リーダーのKindleを、カラータブレットに進化させたKindle Fireは、ようやく私も持ち歩けるタブレットになるだろうと、それが楽しみなのである。iPadは私には重過ぎて、ダイニングテーブルの上の固定物になってしまっている。

 さて、そのKindle Fireが楽しみだと思っていたら、アマゾンがまたびっくりするようなサービスをそこに付け加えた。Kindle、あるいはKindle Fireを持っていて、さらにアマゾンのプライム会員ならば、毎月1冊ずつ電子書籍を無料で借り出せるというのだ。

 すでにプライム会員には、いろいろな特典がある。日本でも会員になって、送料無料で書籍や商品を送ってもらっている人は多いだろう。アメリカではこれに加えて、1万3000本ほどの映画が無料でストリーミングできる。私は、Kindle Fireが届いたら、これで本も読んで、映画もうんざりするほど観てやろうと思っていた。小さなKindle Fireを手に、自宅のソファで、ベッドの上で、そして出張へ出かける空港のロビーで「楽しんでいる私」まで想像していた。そこへ無料の貸し出しが加わった。

 Kindle FireはiPadの本格的な対抗機と目されているのだが、なんとなくアップルがヘコんでいるこの時に、アマゾンの攻め方はすごい。デバイスは少々ダサイだろうが、Kindleはサービスの点ではアップルや、同じような電子書籍リーダーのNookを出すバーンズ&ノーブルのずっと先を行ってしまっている感じがする。

 この無料の貸し出しというのは、上述したように1カ月1冊に限られていて、いつまで借りていてもかまわないらしい。ただし、次の本を借りると、その本は消滅してしまう。買ったのではなくて借りているだけだから、ファイルは残らないのである。ライブラリーの蔵書数は数千冊ということだ。

 興味深いのは、この貸し出しライブラリーに関するアマゾンの説明である。「貸し出しライブラリーの蔵書は、いろいろな契約条件のもとに集められています。大部分は、アマゾンが出版社と固定料金で契約したものです。部分的には、ユーザーが借り出す本を、アマゾンが卸売価格で購入しているものもあります。後者の場合、出版社側には何のリスクもなく、しかしこの新しいサービスによって収入が得られ、今後の増収の機会となることを確認していただくものとなっています」。

 つまり、アマゾンは自ら本を買ってまでして、このサービスを提供しているのだ。この負担がどれほどか計算しよう。書籍の場合の卸売価格はだいたい売価格の半分で、電子書籍はほとんど10ドル前後の価格が付けられている。従って、1冊借り出されるにあたりアマゾンは5ドルも出血サービスしているということになる。1セント、2セントも積もれば大きな損得となる小売業にあって、5ドルはすごい額ではないだろうか。

 このライブラリーに参加しているのは中小規模の出版社ばかりで、「ビッグ6」と呼ばれる大手出版社は本を提供していない。ビッグ6は、消費者に書籍の価格は安いもの(あるいはただ)と印象づけられるのを怖れているからだ。一方、中小規模の出版社は勢力者のアマゾンに逆らう力はなく、しかしだからこそアマゾンのマーケティングや価格の実験へ共にこぎ出す先駆者になってしまっているわけである。ただし、中小出版社だからと言って本の内容が劣っているわけでは決してない。このライブラリー蔵書には、ベストセラーも100冊以上含まれている。

 そもそも、アマゾンがこうした舞台裏まで説明するところが面白い。それは、1年半ほど前に電子書籍の価格設定で出版社側とかなりもめたためだろう。今度はいっさい明らかにして、ユーザーも含めて一緒になりゆきを見ましょうというアプローチだ。

 それにしても、アマゾンの出血サービスはいつものことだが、最近はますます磨きがかかっている。どうも見ていると、アマゾンという会社のやり方は、何でもひとつの同じ枠の中で採算を採ろうとはしないことだ。別のサービスも含めたもっと大きな図の中で採算を考えているとか、あるいは将来の発展型を想定して、そこから採算をはじき出しているとか、そんな風に見受けられる。

 そうして描かれる螺旋状にワープしたアマゾンの戦略図に沿って、われわれの消費行動が変わってしまったのだから、これは非常に効果的というか、強引というか。しかし考えさせられるのは、アマゾンが、私がいる出版界には大きな変動を起こす超本人である一方で、消費者としての個人の私にはありがたい存在であることなのである。

楽天、カナダの電子書籍事業者Koboを約236億円で買収へ

http://japan.cnet.com/news/business/35010277/

楽天は11月9日、電子書籍事業を手がけるカナダKoboの完全子会社化に向け、同社の株式を取得することを臨時取締役会で決議したと発表した。買収額は約3億1500万ドル(約236億円)。2012年第1四半期中にも楽天がKoboの既存株主より全株式を買い取る予定。買収にはカナダ政府の承認が必要となる。

 Koboは、2009年の設立。各国の書籍販売や小売り企業大手と提携するかたちで、カナダや米国、イギリス、フランス、ドイツ、オーストラリア、ニュージーランドなど100カ国以上のユーザーに電子書籍コンテンツを提供してきた。同社のコンテンツは専用端末である「Kobo eReader」に加えて、iOSやAndroid、BlackBerry、Windows、Macなどでの閲覧が可能。また、英語、フランス語、ドイツ語、スペイン語、イタリア語、オランダ語の6言語に対応。感想や気に入ったフレーズを共有できるソーシャル機能なども有する。

 楽天では、Koboの子会社化により、自社ブランドの電子書籍端末を持つことに加え、北米・欧州を中心とした海外の出版社や権利者、専用端末を販売する小売業者、製造委託先などとのネットワークも得られるとしている。また今後は、日本をはじめ世界各国で展開するEC事業などのサービスとの融合を図るとしている。

2011年11月8日火曜日

「Amazonとは1年交渉している」角川会長、電子書籍販売で

http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1111/08/news084.html

日本向けに電子書籍販売を目指す米Amazonに対し、角川グループホールディングスの角川歴彦会長は既に「1年間交渉している」ことを明らかにした。

角川グループホールディングスの角川歴彦会長は11月8日、日本向けに電子書籍販売を目指す米Amazonと交渉が続いていることを明らかにした。

角川会長は「1年間交渉している。ハードな交渉をずっとやっている」とし、現在は「11条件くらいに収まってきているが、その11条件に出版社としてのめないというのも入ってきている」とした。

Amazonが日本参入に当たり、国内出版社に強硬な条件を提示しているという報道について、角川会長は「デジタル化も含めてAmazonが行う場合にAmazonの取り分が55%ということでは。だが出版社は自己責任で自らデジタル化すべきだ」と述べた。

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角川グループ「BOOK☆WALKER」、アプリダウンロード30万件突破
http://ebook.itmedia.co.jp/ebook/articles/1111/05/news016.html

ついに来た! ドワンゴが角川GHD協力の下電子書籍サービス「ニコニコ書籍」を発表

http://ebook.itmedia.co.jp/ebook/articles/1111/08/news043.html

 ドワンゴと角川グループホールディングスは11月8日、ドワンゴが運営するニコニコ動画の1サービスとして展開されている「ニコニコ静画」で、電子書籍サービス「ニコニコ静画(電子書籍)」(略称:ニコニコ書籍)を開始することを明らかにした.

 角川グループホールディングスとドワンゴは昨年10月、包括的な業務提携を発表しており、「Book☆Walker」とニコニコ動画(ニコ動)の連携を構想として発表していたが、これがいよいよ実現することになる。

 11月中のサービスインを予定するニコニコ書籍のサービス概要は大きく2つに分けられる。1つは、角川グループ直営の電子書籍配信プラットフォーム「BOOK☆WALKER」で配信されているコンテンツの一部をニコニコ静画で閲覧可能にすること。もう1つは、角川グループの人気コミックを毎週無料で配信する「角川ニコニコエース」の創刊だ。

 BOOK☆WALKERとの連携では、角川グループのコミックを中心とするコンテンツがニコニコ静画で見ることができる。一部の人気コンテンツは無料で配信予定であるという。ニコニコ動画の特徴ともいえるコメント機能も当然利用で、文章の範囲指定によるコメント閲覧なども可能となっている。後者の機能は、作品中の特定のせりふや印象的なフレーズに対するほかのユーザーのコメントなどが見られるという意味で、ソーシャルリーディングを実現したものだといえる。具体的なイメージは「ニコニコ静画(電子書籍)体験版」にアクセスしてみるとよいだろう。

 一方、“創刊”という表現を用いている角川ニコニコエースは、「少年エース」「ヤングエース」「コンプエース」「ニュータイプエース」など角川グループのエース系コミック作品をニコニコ静画内で毎週無料配信するというもの。上記のニコニコ書籍と異なるのは、コンテンツプロバイダーがどうコミュニティーを盛り上げるかが勘案されたものとなっており、コミックの配信だけでなく、新人作家の作品を掲載し、ユーザーからの直接投票による勝ち抜きコンテストの実施や、「描いてみた」系イラストコンテストなどを盛り込んで、盛り上げを図ろうとしている。角川ニコニコエースで配信予定の作品は、「そらのおとしもの」「大好きです!!魔法天使こすもす」「デッドマン・ワンダーランド」「タイガー&バニー」など。このほか追加予定の作品や新人連載を加え30タイトル以上のラインアップを提供する考えだ。

 若年層を中心に絶大な支持を集めるライトノベルやコミックの分野などで圧倒的なシェアを持つ角川グループ。先日はメディアファクトリーも買収し、ますます力を増している。同じく若年層のユーザーが多いドワンゴのニコニコ動画。この2社のコラボレーションにより、電子書籍市場に新しい潮流が生まれることになりそうだ。

 なお、この発表の模様は11月8日14時からニコニコ生放送でライブ配信される。2部構成となっており、第1部では上述したようなサービスの説明が、第2部では、角川GHDの角川歴彦会長とドワンゴの川上量生会長が「電子書籍・ソーシャルリーディングの未来に向けて」と題したトークセッションに登壇する。

2011年11月7日月曜日

書籍販売、両立目指す 補完しあう紙と電子

http://sankei.jp.msn.com/life/news/111107/trd11110708390012-n1.htm

電子書籍の発売点数が増加する中、紙の書籍との販売両立を目指す動きが加速している。書店の中には、電子書籍端末の体験コーナーを設置したり、特定作品の購入者に電子書籍をプレゼントするところも。店頭で紙の書籍と一緒にPRすることで、従来とは異なる客層を呼び込むのが目的だ。

「読者に近い存在の書店として、紙の本と電子の本に(同時に)取り組み、読者の幅広い期待に応えていきたい」。紀伊国屋書店の森啓次郎常務は10月20日、東京・新宿本店で開いた電子書籍端末のイベントで、こうあいさつした。

今年5月から配信を始めた電子書籍アプリ(応用ソフト)は5カ月でダウンロード10万回に達し、タイトル数も約8千から約2万に増加。8月からは新宿本店に電子書籍端末を体験できるコーナーを設け、10月20日からは計4店に増やした。森常務は「紙の本だけでは、多様化する読者のニーズすべてに対応できない」と説明。今後も店頭での電子書籍サービスの充実を図っていくという。

「TSUTAYA」を運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブは10月13日から同31日まで、コラムニスト、辛酸なめ子さん(37)の新著『サバイバル女道』(サイゾー)を店頭で購入した客に、今冬発売される辛酸さんの電子書籍の簡易版をプレゼント。今後も電子書籍をPRする取り組みを検討していくという。

 出版界では、紙の書籍と電子書籍の両立で成功を収めた事例もある。平成22年5月、講談社から紙と電子書籍で発売された小説家、京極夏彦さん(48)の『死ねばいいのに』は紙版(1785円)が10万部を突破し、電子書籍版(iPad、iPhone向け900円など)は数万のダウンロード数があった。同社は、京極さんの新著『ルー=ガルー2』を単行本、新書判サイズのノベルス版、文庫、電子書籍と4つの形態で10月に発売した。幅広い読者の要望に応えることで、購入者の裾野を広げたい考えだ。

ヤフー、電子書籍サービス「Yahoo!ブックストア」公開…閲覧無制限の買い切り方式を採用

http://www.rbbtoday.com/article/2011/11/04/82651.html

 ヤフーは2日、従来より提供していた「Yahoo!コミック」を刷新し、新たにEPUB(イーパブ)形式を採用した電子書籍サービス「Yahoo!ブックストア」を公開したことを発表した。

 「Yahoo!ブックストア」では、コミックに加えて、国内大手出版社などから提供される小説・実用書・写真集・雑誌・絵本など幅広いジャンルのコンテンツを提供。スタート時には、コミックなど30000冊以上を、まずパソコン版(Windows)で公開する。今後は、Android端末(スマートフォン・タブレット)、Mac、iPhone、iPadなどにも順次対応していく予定。価格帯は単品販売が約300円より、月額セット販売が約500円よりとなっている。

 「Yahoo!ブックストア」では、「ストリーミング型」での配信に加えて、「ダウンロード型」をメインに提供する。これにより一度購入した商品は基本的に無期限で閲覧可能となる。スマートフォン対応時には、パソコンで購入(ダウンロード)したコンテンツをスマートフォンで読む、といったことも可能になるという。

 なお、Yahoo!JAPANでは、「Yahoo!ブックストア」の公開を記念して、『ONEPIECE』『トリコ』『青の祓魔師』などの人気コミック20冊が一律100円で購入できるキャンペーンを実施する。同時に作品購入ごとにYahoo!ポイントを最大1000ポイントプレゼントするキャンペーンも実施する。

2011年11月4日金曜日

アマゾンが米国で「電子図書館サービス」書籍の無料貸し出しでキンドルの販売後押し

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/28311

米アマゾン・ドットコムが電子書籍リーダー端末「キンドル(Kindle)」とネット小売りの分野でまた攻勢をかけている。

 同社は11月2日、商品配送優遇プログラム「アマゾン・プライム」の米国加入者を対象に、キンドルを使った電子図書館サービスを開始したと発表した。約5000冊の電子書籍の中から好きなものをキンドルに無料でダウンロードできるというものだ。

一度に1冊、貸出期間に制限なし
 これは「キンドル所有者向け貸出図書館(Kindle Owners' Lending Library)」と呼ぶサービスで、会員制DVDレンタルのような仕組みを採り入れている。
 利用者が一度に借りられる電子書籍は1冊のみだが、貸出期間に制限はなく、読み終わらなければいつまでも借り続けられる。
 新たな書籍を借りる際は、既に借りている書籍が返却(自動消去)される。また1カ月に借り換えられるのは1回のみという条件がある。
 アマゾン・プライムとは、同社が米国で提供している商品配送優遇プログラムだ。注文日の翌々日までに品物が届く「急ぎ便」を無制限で利用でき、年会費は79ドル。
 アマゾンはこのプログラムの会員に対し、追加料金なしで約1万3000本の映画/テレビ番組をストリーミング配信できるという特典も付けており、コンテンツ配信事業と、ネット小売りの相乗効果を狙っている。

新端末発売前に顧客囲い込み
 今度はこれに電子書籍も加え、顧客を取り込むというわけだ。アマゾンのキンドルには専用の読書端末と、スマートフォンなどのモバイル端末やパソコンで利用できるアプリ版があるが、今回のサービスはアプリ版を対象にしていない。
 これに先立ちアマゾンは、キンドル端末の最新モデルを発売しており、11月15日には、同社初のマルチタッチカラーディスプレイ搭載タブレット端末「キンドル・ファイア(Kindle Fire)」、同月21日にはタッチスクリーン搭載の電子ペーパー端末「Kindle Touch」を出荷する予定だ。
 アマゾンによると新たな図書館サービスでは、ほかのキンドル向け電子書籍と同様、借りた書籍コンテンツにハイライトや注釈を書き込むことができ、しおり機能も利用できる。
 これらの情報はアマゾンのサーバーに保存され、次回同じ書籍を借りたり、アマゾンから購入したりした際に、記入した内容が表示される。
 こうした機能を盛り込むことで、結果として顧客の利便性が高まり、書籍の販売増にもつながることから、顧客、出版社、作者の3者にとってメリットがあるとアマゾンは説明している。

アマゾン、また赤字覚悟の販売戦略
 アマゾンは赤字になっても製品を普及させるためなら徹底的にサービスを強化する企業として知られており、今回のサービスも同様の戦略だ。
 アマゾンと出版社との契約には、固定料金方式と、貸し出される回数に応じて料金を支払う卸売方式の2つがあるが、いずれにしてもこれらはアマゾンの持ち出しということになる。
 ただ、米ウォールストリート・ジャーナルによると、今回のアマゾンのサービスに脅威を感じている出版社も多いようだ。大手出版社は、書籍販売に及ぼす影響や、ほかの小売店との関係悪化につながる恐れを懸念していると同紙は伝えている。

2011年11月2日水曜日

AAP発表、米国内の2011年8月の電子書籍売上高は前年同期比2倍超の約68億円

http://hon.jp/news/modules/rsnavi/showarticle.php?id=2845

米mediabistro.comによると、米国の出版社業界団体の1つであるAssociation of American Publishers(本部:米国ニューヨーク州)が米国の2011年8月の市場統計情報の速報値を発表した模様。

 電子書籍部門の販売高は前年同月比で116.5%増の8,800万ドル(68億円)。次いでオーディオブックが30.2%増の850万ドル(6億6000万円)で、デジタル製品の増加が顕著だった。それ以外の紙書籍は全カテゴリーが前年同期比で減少となった。

 AAPは米国の300社以上の大手・中小・学術出版社などが加盟する業界団体。なお、本統計はすべて出版社純売上(卸売)ベースであるため、小売ベースでの金額はさらにこの2倍強程度になっているものと推測される。

電子書籍革命で攻めに転じた米出版社、守る日本の出版社

http://www.newsweekjapan.jp/column/takiguchi/2011/11/post-406.php


いったい、電子書籍にはどんな価格が適正なのだろうか?

実は今のところ、その正解を知っている人間は誰もいない。電子書籍では日本の数年先を行き、無数に出版されているアメリカでも、価格はまちまちだ。同じ書籍でも、注意深く見ていると時々値段が変わっていることもある。

ただ、ハードカバーの単行本と値段がほとんど変わらない日本の電子書籍に比べると、アメリカでは格段に安い。アメリカではハードカバーの単行本が日本よりずっと高く、平均して25ドルほどの価格がついているが、電子書籍ならば10ドル前後が普通。だいたい半分、あるいはそれ以下の価格で買えるのだ。

この価格破壊を先導したのはアマゾンだった。新しい市場を開拓するために出血サービルで激安値段をつけるのは同社の常套手段。電子書籍でも同様で、ほとんど持ち出しの9.99ドル均一で売り出し、電子書籍の普及に大いに貢献した。

ただ、電子書籍に安値を付けたのはアマゾンだけではない。出版社も、安すぎるアマゾンの価格設定には抵抗していたものの、ハードカバーよりも安く設定すること自体には前向きだった。安い電子書籍に読者が流れていってプリント版書籍が売れなくなれば、プリント版書籍にかかっている印刷や流通のコストが賄えなくなる。そんなリスクも大きかったが、とりあえずはハードカバーよりも安い値段でスタートすることは当初から想定していた。

さて、これをハードカバーと同じ値段、あるいは似たような値段を付けられている日本の状況と比べてみよう。この違いの理由は何か。

ひとつは、日本ではそれがまかり通ることである。日本の電子書籍市場はまだ揺籃期で、はっきりしたかたちがない。どのプラットフォームでどのデバイスを用い、どこからコンテンツを買うのかついて、クリアーな選択の全貌が見えないのだ。そうした状況の中では、適正価格の見極めようもなく、したがってどんな価格でもかまわないのだ。

ふたつめは、消費者、つまり読者による圧力がないことが挙げられるだろう。印刷にも流通にも金のかからない電子書籍をプリント版と同じ値段にしてしまったりすると、少なくともアメリカでは出版社が総スカンを喰う。アメリカの消費者は価格に厳しい上、デジタル時代になって以降、企業が技術導入によって価格を押し下げて当たり前と感じるようになっている。そんな努力やイノベーションをアピールしない企業は、魅力半減なのだ。

さらに、これはよく言われることだが、硬直的な日本の産業構造にも言及しないわけにはいかない。アメリカではデジタル技術に合わせて、あらゆる産業が再編成されているのだが、日本の場合は現状の構造をがっちりと維持したまま、ある限られた部分がデジタルによって置き換えられるということになっているようだ。ハードカバーと変わらない電子書籍の価格設定もその現れで、取り次ぎ構造などの複雑な現状を維持するコストなのだろう。これでは電子書籍が大きく離陸できるはずもなく、既存の産業がデジタル技術によって受ける恩恵も限られたものになってしまう。

さらに大げさなことを付け加えると、産業界がどんな世界観を描いているのかの違いもある。日本は電子書籍や、出版界で今「黒船」と呼ばれているアマゾン、アップルなどアメリカのプラットフォームの到来によって、市場の取り合いが激しくなると見ているようだ。書籍市場、読者市場はこれ以上大きくならないという見方だ。だが、アメリカでは、多少プレイヤーの入れ替えはあるだろうが、やり方次第で市場自体が大きく拡大し、そこに参加したみながその益に利するのだという、漠然とした楽観的な世界観がある。

この点における両国の違いはけっこう大きく、アメリカ企業が守りよりも攻めに出ているのはそのためだ。そうすることによって、次の時代の正式プレイヤーになろうとしているのだが、同じような意気込みが日本からは感じられない。

先だって、マーケティングのグルと呼ばれるセス・ゴーディンと話す機会があった。超人気の著者であるゴーディンは既存の出版界を離れ、今や一切の活動をアマゾン上に移してしまった。同社のプラットフォームを利用し、プリント版書籍も電子書籍もアマゾンから発行するというのである。ゴーディンは個人作家だが、彼も「攻め」に出ていると言えるだろう。

ゴーディンは、電子、プリント版に限らず、果たして書籍の適正価格があるのかどうか自体がわからなくなっていると語っていた。同じ著作でも、安い電子書籍で出すものもあれば、手作り風にして、特製のおまけなどをつけて高価な値段で売ることもできる。特定のスポンサー付きで、限定期間の特価バーゲンもありだ。つまり、こうなると「本」という定義自体が伸縮自在なわけで、それもデジタル技術によって可能になったことのひとつだろう。

ここ数年、電子書籍関係の会議に連続して参加しているのだが、電子書籍に対するアメリカの出版社の姿勢はその間に180度変わった。今や躊躇することなく壮大な大実験に乗り出しているという様相である。どう本が再定義されるかも興味深いが、個人読者としては本が安くなったことが何よりも嬉しい。

アマゾン電子書籍契約は妥当か無茶か 大手は反発、中小は興味示す?

http://www.j-cast.com/2011/11/01111860.html?p=1

ネット通販最大手の米アマゾンが各出版社に電子書籍の契約書を送ったと報じられ、その内容が妥当か無茶かどうかを巡って論議になっている。
日経が2011年10月20日付朝刊1面トップでアマゾンが日本で年内にも電子書籍事業に参入とスクープしたのに続き、今度は一部メディアがその「契約書内容」を報じた。

売り上げの55%をアマゾンになど
それは、ライブドアのサイト「BLOGOS」が29日に配信した「『こんなの論外だ!』アマゾンの契約書に激怒する出版社員」だ。
記事によると、アマゾンは、10月上旬に日本の出版社約130社を集めた説明会を都内で開き、出版社には、それから数日後に「KINDLE電子書籍配信契約」が送られてきた。
そこでは、すべての新刊を電子化してアマゾンに提供し、出版社がそうしないときはアマゾンが電子化すること、アマゾンの推奨フォーマットでは、売り上げの55%をアマゾンのものとすること、書籍より価格を低くすること、そして、出版社が著作権を保有すること、などの条項が挙げられていた。アマゾンへの回答期限は、10月31日までになっている。
記事では、説明会に参加したある中堅出版社の怒りの声を紹介した。その書籍編集者は、いずれも出版社側には不利となる内容で、特に、出版社が著作権を保有するのを1か月以内に決めろというのは無理難題だと反発している。欧米流の著作権管理だが、著者から了解を取るなど難しい手続きが必要だからだ。
こうした契約書内容は、本当なのか。
日経が「詰めの交渉」中と報じた小学館や集英社では、それぞれ「交渉は進展しておらず、内容も守秘義務があるのでお答えできません」「(日経で)報道されている事実はありません」とだけコメント。交渉中という講談社でも、「契約状況はまったく明かせません」とした。一方、日経がアマゾンと合意したと報じたPHP研究所(京都市)は、その報道を否定。検討中ではあるものの、まだ合意していないとし、内容については、「守秘義務がありますので、一切話せません」と言っている。

大手は「無茶」多く、中小の一部は理解示す
アマゾン・ジャパンに取材すると、広報部は外出中だったため、契約書内容の事実関係は確認できなかった。
もし内容が本当だとすると、出版社には受け入れられるものなのか。
ある大手出版社の担当者は、アマゾンの契約書について、「あんな無茶な要求は、飲むわけがありません」と明言した。特に、出版社が著作権を保有するという条項については、著作物の複写などを認める著作隣接権を出版社が求めても著者らが拒否しているような状況で、実現させるのは難しいと指摘した。
また、この出版社はアマゾンと交渉中だが、飲めない条項ではそもそも交渉しない。こうしたことから、担当者は、「同一の契約書を配っているとは思えませんね」として、アマゾンが中堅出版社などとの二刀流を使っている可能性を示唆した。
アマゾンと交渉している別の大手出版社では、出版社が著作権を保有という条項の話はないといい、「そんな厳しいことは無理では」と漏らした。売り上げの55%をアマゾンのものとすること、すべての新刊を電子化してアマゾンに提供することなどの提示もなかったという。
一方、中小の出版社からは、アマゾンの条項は必ずしも法外とは言えないとの声も出ている。ある出版社は、契約書は来ていないとしながらもこう話す。
「55%は法外かもしれませんが、出版社に入る利益は、紙と大差ないんですよ。電子書籍なら、取り次ぎへの支払いや印刷などのコストがかからないからです。著作権の保有についても、アップルがiTunesを手がけたときに無理とぼろくそに言われながら成功していますし、ケースバイケースでしょう。大手の営業の力が強くて本をなかなか書店に卸せない中小の出版社にとっては、逆にチャンスかもしれないですね」
ネット上でも、アマゾンの契約書について、賛意を示す書き込みも多い。「半分以上とかボリ過ぎだろ」といった指摘もあるが、「消費者は望んでいます」「動揺してたら作家と直接取引し出すぞ」との声が出ている。

2011年11月1日火曜日

「Sony Tablet」向け電子書籍3万冊

http://www.yomiuri.co.jp/net/news/bcn/20111031-OYT8T00402.htm

 ソニーは、10月28日、Android搭載タブレット端末「Sony Tablet」向けのネットサービスとして、eBookストア「Reader Store(リーダーストア)」、位置情報サービス「PetaMap(ペタマップ)」のサービスを開始した。

 「Reader Store」は、雑誌や絵本などのカラーコンテンツを含む3万冊以上の書籍を揃えたeBook(電子書籍)ストア。EPUB3やXMDF、ドットブック(.book)規格対応の電子書籍を販売する。EPUB3は、EPUB規格の最新バージョンで、縦表示やルビなど、日本語組版に対応。欧米に続き、日本国内でも利用が広がると予測されている。

 EPUB3対応のカラーコンテンツは順次販売を開始し、10月中に雑誌『オズマガジン』『GQ JAPAN』『DIME』『SPA!』『AERA』など、約200冊をラインアップする予定。また、「Reader Store」で購入したXMDF、ドットブック規格のコンテンツは、「Sony Tablet」とソニーの電子書籍リーダー「Reader」のどちらでも読むことができる。

 「PetaMap」は、5.5型のデュアルディスプレイを備えた折りたたみ形状の「Sony Tablet」Pシリーズ専用のオリジナルアプリ「PetaMapガイド&ナビ」として提供。Pシリーズの2画面ならではの快適な操作感で、ソニーが提供する位置情報サービス「PetaMap」の全国100万件の豊富なスポット情報をもとにナビゲートする。

 ソニーは「Sony Tablet」向けに、すでに10月からプレミアム映像配信サービス「Video Unlimited」と初代「プレイステーション」のゲームなどを購入して遊べる「PlayStation Store」を開始しており、タブレット端末上で、さまざまなエンタテインメントコンテンツを楽しむことができる。

 「Sony Tablet」は、現在、2シリーズ計4モデルをラインアップ。9月17日に9.4型ディスプレイを備えたSシリーズのWi-Fiモデル「SGPT111JP/S」「SGPT112JP/S」を発売し、10月28日にSシリーズの3G + Wi-Fiモデル「SGPT113JP/S」と、3GとWi-Fiに対応するPシリーズ「SGPT211JP/S」を発売した。価格はオープンで、ソニーストアでの販売価格は「SGPT113JP/S」「SGPT211JP/S」ともに6万2880円。3G対応機種を販売するNTTドコモでは、2012年4月30日まで「FOMAタブレットスタートキャンペーン」を実施している。

2011年10月25日火曜日

講談社、電子書籍版「スティーブ・ジョブズI」を発売

http://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/20111024_486028.html


株式会社講談社は24日、スティーブ・ジョブズ氏公認の評伝「スティーブ・ジョブズI」電子書籍版の配信を開始した。紙の書籍の全世界同時発売に合わせたもので、PC・スマートフォン・読書専用端末向けの電子書籍サイトで販売する。「スティーブ・ジョブズII」は11月1日に配信開始予定。価格は紙の書籍と同じで、各巻1995円。

同書は、スティーブ・ジョブズ氏が積極的かつ全面的に取材に協力した唯一の評伝。米伝記作家のウォルター・アイザックソン氏が、2009年から3年にわたって本人や関係者への取材を行ったものをまとめた。

電子書籍版は「GALAPAGOS STORE」「紀伊國屋書店BookWebPlus」「ソフトバンク ブックストア」「TSUTAYA.com」「BookPlace」「BookLive!」「VOYAGER STORE」「honto」「LISMO Book Store」「Reader Store」「ebookjapan」「電子文庫パブリ」「BooksV」で販売する。

講談社では今後、携帯電話向けの電子書籍サイトでも順次販売するほか、iPhone/iPad向けアプリも近日中に配信を開始する予定。


http://dt.business.nifty.com/articles/7830.html

Amazon、電子書籍フォーマット「Kindle Format 8」を発表

http://journal.mycom.co.jp/news/2011/10/24/021/


米Amazon.comはこのほど、Kindle用電子書籍の新しいフォーマットとして「Kindle Format 8 (KF8)」を発表した。同社がこれまで公開してきたMOBIフォーマットに代わり、Kindle Fireから利用できる。
Kindle Format 8はHTML5をサポートし、同社では、子供向けの絵本やコミック、図版を用いる技術書、料理本などといった、より豊富なフォーマットやデザインを必要とする書籍の発行が可能になるとしている。
新フォーマットでは、固定配置やネストしたテーブル、吹き出しなど150以上の機能が追加されており、サポートされる主要なHTMLタグ、CSSが公開されている。
また、HTMLやXHTMLなどから電子書籍への変換ツール「KindleGen 2」や、端末での表示をプレビュー確認できる「Kindle Previewer 2」を近日中に公開するとしている。

Amazon、今年日本で電子書籍ストアを開始

http://ebook.itmedia.co.jp/ebook/articles/1110/25/news022.html

AmazonはKindle Storeをグローバルに展開しつつある。ドイツ、フランス、スペインなどの国々で2011年末から2012年第1四半期までにサービス開始予定だが、同社は現在、日本でのサービスインを目指し大手出版社と詰めの交渉に入っている。海外からの視点をお届けしよう。

 Amazonは今年電子書籍ストアを多くの国々で開始し、グローバルでの規模を拡大しつつある。ドイツ、フランス、スペインなどの国々で2011年末から2012年第1四半期までにサービス開始予定となっているが、日本経済新聞によると、同社は現在、日本の大手出版社との交渉に入っている。

 2010年12月に「PRS-650」を発売したソニーは、現在日本の電子書籍市場で最も存在感のある企業の1つだ。同社はすべての大手出版社、新聞社、漫画出版社とReader Store経由でコンテンツを販売する契約を交わした。日本市場への参入はソニーにとっては2度目のことで、今回はうまくいった。その理由は部分的には電子書籍が広く受け入れられつつあるということだが、技術に対する人々の認知が高まりつつあるということも挙げられよう。

 Amazonはこのマーケットで競争する2番目の国際的企業になろうとしている。同社は数カ月にわたって日本の出版社および新聞社と交渉しているが、明確な契約には至っていない。出版社が抱える不安要因は、Amazonが競争を排除するために低価格でコンテンツを提供しようとする傾向がある点だ。エージェンシーモデルは日本の商習慣からするとやや異質で、Amazonは、契約を締結してもほとんど利益がないのではないかと懸念する企業と交渉を続けている。日本経済新聞によると、Amazonは契約の最終詳細をほぼ固めつつあり、価格引き下げの範囲などは事前に出版社と議論するものとしている。

 Amazonにとってまず足掛かりとなるのは、デバイスで日本語が読め、ローカライズ可能な機能を提供するためにカスタムファームを搭載した新たな第4世代Kindleを小売市場で販売することだ。日本市場で、Kindleがどのように販売されるか、またその価格がどのようになるかはまだ分かっていないが、Amazonは自社サイトだけでなく、小売市場でKindleを販売しなければならないだろうということを理解している。

 魅力的な電子書籍市場に参入する企業にとって日出ずる国は豊かな市場となっている。電子書籍および電子コミックのファイルフォーマットが複数競合しているため、まだほとんど手つかずの市場だからだ。時事通信は日本の電子書籍市場は8億4600万ドル規模、紙版書籍および雑誌について2兆円規模と算定している。

2011年10月21日金曜日

紀伊國屋書店、購入済み電子書籍を管理・閲覧できる「Kinoppy for PC」を無償公開 -PC、スマートフォン、タブレット、電子書籍端末で電子書籍を共有可能

http://www.forest.impress.co.jp/docs/news/20111021_485380.html

 (株)紀伊國屋書店は20日、同社が運営するオンラインストア“紀伊國屋書店BookWeb”で購入した電子書籍を管理できるソフト「Kinoppy for PC」を無償公開した。Windows XP/Vista/7に対応するフリーソフトで、現在本ソフトの公式サイトからダウンロードできる。

 「Kinoppy(キノッピー)」は、“紀伊國屋書店BookWeb”で購入した電子書籍の管理ソフト。PC版の「Kinoppy for PC」のほか、iPhone/iPad/Android版が用意されており、さまざまなデバイスで購入済み電子書籍を楽しむことができる。また、ソニー製の電子書籍端末“Reader”での閲覧にも対応している。

 「Kinoppy for PC」では、本棚を模した画面で購入した電子書籍を管理可能。本棚ではユーザーが自由に電子書籍を並び替えることもできるほか、購入済み電子書籍の検索や詳細情報の確認が可能。“紀伊國屋書店BookWeb”での購入履歴を閲覧する機能も備える。

 さらに、本ソフトはシャープ製「ブンコビューア」およびボイジャー製「T-Time」といった電子書籍リーダーを同梱。電子書籍を選択すると、フォーマットに適した電子書籍リーダーが起動して、内容を閲覧できる仕組みになっている。

紀伊國屋書店、電子書籍サービスを大幅拡充――ソニーのReaderをサポート

http://ebook.itmedia.co.jp/ebook/articles/1110/20/news108.html

紀伊國屋書店は、自社の電子書籍サービスでソニーのReaderを新たにサポート。そのほか一挙にサービスを拡充した。

紀伊國屋書店は10月20日、同社の電子書籍サービスについて、新たにソニーの電子書籍リーダー「Reader」をサポート、合わせてPC向けのストア/ビューワアプリ「Kinoppy for PC」をリリースし、サービスを一挙に拡充した。

 Readerの新モデル「PRS-T1」が10月20日から国内販売を開始したのに合わせ、業界が大きく動きつつある。ソニー、楽天、紀伊国屋書店、パナソニックの4社は、電子書籍サービスの利便性向上に向け、それぞれが提供する電子書籍端末や販売ストアの相互接続を行っていくことを6月に発表しており、10月19日には楽天の電子書籍ストア「Raboo」で購入したコンテンツを11月初旬をめどにReaderで閲覧可能にすることが発表されている。

 紀伊國屋書店はこの日、同社の電子書籍サービス「紀伊國屋書店BookWeb」で販売するコンテンツをReaderでも閲覧可能にすると発表した。こちらは同日からの対応となるが、現時点ではRabooの発表と同様、PCを介してコンテンツをReaderに転送する形での対応となる。

 紀伊國屋書店BookWebで購入したコンテンツをReaderで読むには、紀伊國屋書BookWebのアカウントとReaderのひも付けが必要。紀伊國屋書BookWebにログイン後、マイページのメニューにある「Reader利用機器の登録・解除」から「機器認証を行う」に進むことで、最大2台のReaderをひも付けることができる。2台となっているのは、Sony Tabletのサポートも視野に入れたものとみられる。いずれにせよ、ReaderでReader Store、Raboo、紀伊國屋書店BookWebが利用可能になったことで、お勧めできる端末になったといってよいだろう。

 また、紀伊國屋書店は、紀伊國屋書BookWebのアプリとして提供している「Kinoppy」について、新たにPC向けの「Kinoppy for PC」をリリースした。これにより、iOS、Android、PCで紀伊國屋書店の電子書籍サービスが利用可能となる。

 Kinoppyアプリについては、iOS版が最新の機能をいち早く取り入れる形で進化しており、最新バージョンで青空文庫フォーマットおよびEPUB 3にいち早く対応、さらにOpen in(次の方法で開く)機能にも対応した。いずれのフォーマットも紀伊國屋書BookWebでは現時点で取り扱っていないことを考えると、マルチビューワ的な使い方ができるようになったのも注目したい。

 Readerのサポートに合わせ、主要4店舗に「電子書籍コーナー」を設置。8月にコーナーが設置された新宿本店に加え、梅田本店、札幌本店、流山おおたかの森店では実際にスマートフォンやタブレット、Readerなどから同社の電子書籍サービスを試すことができる。新宿本店1階ひろばでは20日から23日までReaderのタッチ&トライも実施しているので、店頭に足を運んだ際には試してみてほしい。なお、一連の発表に伴い、上記4店舗および紀伊國屋書店BookWebではReader本体の販売も開始している。

2011年10月14日金曜日

EPUB 3の正式化:日本語組版仕様を含む世界標準

http://www.ebook2forum.com/members/2011/10/next-generation-pub-standard-epub-3-supports-japanese-typesetting-rules/

EPUB 3の標準化を進めてきたIDPFは10月11日、会員による投票の結果、提案どおりに最終仕様(IDPF勧告)として採択し、公開したと発表した。EPUB 3は2010年5月に着手され、今年5月に勧告提案として決着して正式採択を残すだけとなっていた。最新のWeb標準であるHTML5をベースとし、リッ チメディアや対話機能、日本語縦組みを含む多言語表現、スタイルとレイアウトの拡張、メタデータファシリティ、MathML、アクセシビリティなどを含み、プリミティブだった従来の面目を一新した。

新世代の世界標準に日本語組版仕様が入った奇跡
IDPFのビル・マッコイ事務局長は「デジタル出版は、電子テキストから拡張E-Bookや新しい形の表現形態へと進化していますが、EPUB 3は、様々なデバイスやブラウザ、アプリを利用する読者に豊かな体験を届ける上での著者と出版者の能力を劇的に広げるでしょう」と述べている。彼が要約し たように、それは構造化され、信頼性が高く、デバイス非依存でアクセシビリティを備えた、新世代のツールをサポートする標準といえる。EPUB 3の機能に対応した製品の開発は、昨年5月以降に本格化しており、一部はリーディング・システムやオーサリング・ツールで実装され実用されている。
日本からみると、初の本格的E-Book標準ともいえるEPUB 3の中に日本語組版仕様を含められたことは、じつに画期的な成功といえる。事情を知る者からすれば、奇跡とも言えるものだ。成功の要因を3つあげておきたい。
第1は、大改訂のタイミングを的確に捉えたこと。大きな改訂は5年に一度のイベントで、1年~1.5年の集中的な活動の中で行われる。こんなチャンスはそうない。
第2に、国際舞台でチャンスを生かす上で必要な、実績あるエキスパートがいたこと。W3Cなど過去の活動の、有形無形の遺産がないと不可能である。
第3に、JEPAを中心によくまとまり、困難とみられた「公的支援」も得て、最も重要な日本国内での理解・支持・要求のとりまとめに成功したこと。
「国際標準」に対する日本の産業界(それにメディア)のリテラシーは高くない。そのため「日本 vs.…」とか「日本発」という間違った期待が、エンジニアを縛り、ITの標準化の場では最も必要とされる調整能力(=リーダーシップ)の発揮を妨げる傾向があり、そのために「独自利害」にのみこだわる日本人という風評が定着しているからだ。ただでさえ英語でのディベートというハンデがある上に、有難くない風評まで立っているのだから、国際舞台で活動する日本のエキスパートは、技術、人格、実績、調整能力のいずれでも高い水準が求められる。しかし、逆にそうした人物は日本では煙たがられることが多いのだから、成功率が低いのは当然だろう。
EPUB についても、日本の理解は高くなかった。最もITから遠いところにいる出版界がユーザーなのだから当然でもある。出版界の関心は、対話機能でもマルチメ ディアでも、アクセシビリティでもない日本語組版、それも「縦組・ルビ」に集中していた。文章に正書法がなく、文字にも組版にも標準というものがない(整合性のない無数のルールが存在する)日本語というユニークな言語文化を前提にしつつ、そうした渾然たる表現をサポートする「標準」を仕様化しようとするの だから、あらゆるレベルの議論が噴出するのも無理もない。誰しも「日本語」については熱くなる傾向があるが、それは言語生活が混沌としており、また日本語 以外を知らないからでもある。そして日本人以外は、そうした熱い話に付き合ってはくれない。
EPUB 3の日本語仕様を、まだきちんとチェックしたわけではないが、標準に「完全」ということはあり得ない。標準はあくまで技術経済的に解決する手段を規定する ものだからだ。それに飽き足らず、経済的余裕があれば、別の道はいくらでもある。日本語組版は、木版、活版、写植、DTP、Webと、実現技術が変化する 間に変化してきた。出版社や編集部ごとに違う無数の「ローカルルール」はその遺産であり残骸である。この際、「仕分け」が必要だろう。EPUB 3に日本語仕様を盛り込むことでわれわれが勝ち取ったものは、E-Readerやタブレット、Webブラウザ、E-Bookオーサリングツールを含む世界のIT製品での日本語組版のサポートだ。これにより、日本語の国際化を進め、日本語作品をそのまま海外に輸出することも容易になる。これをどう生かすかは出版界の仕事だ。

2011年10月13日木曜日

ACCESS、EPUB 3準拠の電子書籍ビューワを発表

http://ebook.itmedia.co.jp/ebook/articles/1110/12/news093.html

 ACCESSは10月12日、EPUB 3に準拠した電子書籍ビューワ「NetFront BookReader v1.0 EPUB Edition」を発表した。同日から10月14日まで東京ビッグサイトで開催される「Smartphone & Tablet 2011」の同社ブースでは、Android端末上で動作する同ビューワが披露されている。

 EPUBはHTML5やCSS3などのWeb標準技術をベースにした電子書籍のファイルフォーマット。AppleやGoogleなども自社の電子書籍サービスでEPUBを採用しており、グローバルでは標準的な電子書籍フォーマットとなっている。10月11日には電子書籍標準化団体の1つであるInternational Digital Publishing Forum(IDPF)がEPUBの最新版「EPUB 3」について、Final Recommendation版として委員会で正式に承認したと発表しており、EPUB 3を基にしたビューワやオーサリング環境などが今後数多く登場するとみられている。

 ACCESSでは、組み込み向けソフトウェアで培った技術力、2011年4月に発表した電子出版プラットフォーム「ACCESS Digital Publishing Ecosystem」のノウハウを活用、プラットフォームを問わず動作するフットプリントの小さなEPUBビューワを完成させた。国内ではイーストがEPUB 3.0に準拠したPC向け電子書籍リーダー「espur」を7月に無償公開しているが、商用目的あるいはAndroid上で動作するEPUB 3準拠の電子書籍ビューワは国内初となる。同ビューワはACCESS Digital Publishing Ecosystemでも利用されるという。

 同ビューワの開発には、朝日出版社、NHK出版、学研ホールディングス、河出書房新社、幻冬舎、主婦の友社、新潮社、日経BP、早川書房、丸善出版、メディアファクトリーなど出版社18社が協力、EPUB 3で可能になった複雑な日本語組版――縦書き、ルビ、禁則、傍点など――が本当に出版社のニーズを満たせるのか評価をこの数カ月重ねたという。名前が明かされていない出版社の中にはいわゆる「御三家」と呼ばれる小学館、集英社、講談社のいずれかも含まれるとみられるが、いずれにせよ、多くの出版社がEPUBの評価に取り組んでいることが分かる。

.bookやXMDFからEPUBへの変換もワンクリックで

 この発表で注目は、技術支援を行ったワイズネットの存在。同社は電子書籍のオーサリングなどで知る人ぞ知る業界では有名な会社だが、同社の協力の下、.bookやXMDFなど国内で有力な電子書籍フォーマットからEPUBへの変換がワンクリックで忠実に行える(正確には直接の変換ではなく、HTMLを介した変換)。過去にイースト代表取締役社長の下川和男氏もeBook USERのインタビューで、「(どれもHTMLベースで作られたものなので).bookやXMDFからEPUBへの変換というのはそれほど難しくない」と話しているが、既存資産のEPUB化はすでに現実的なレベルで機能しているといえる。

 EPUB 3はHTML5やCSS3などのWeb標準技術がベースとなっていることは上述のとおりだが、それぞれの仕様は非常に膨大なものとなっている。出版社などからすれば、どうやって使えばよいか分からないような仕様も少なくない。そのためACCESSでは、最大公約数的に必須と思われる仕様をまずはしっかりカバーし、細かな仕様は出版社のニーズを拾いながら逐次対応する姿勢でいる。また、EPUB 3ではまだ難しい表現などは独自拡張で対応しているようだが、長期的にはそうした部分をEPUBの仕様に盛り込むため、今回の発表に併せてACCESSはIDPFへの加盟を発表している。

 この発表の数日前には、ヤフーもEPUBを採用した電子書籍配信サービス「Yahoo!ブックストア」を今冬にも開始すると発表している。EPUBの仕様は公開されているため、EPUB 3に準拠したビューワは今後数多く登場するだろう。GoogleがAndroidにGoogle謹製のEPUB 3ビューワを用意したとしてもさほど不思議ではない。そうなると、ビューワだけの提供では大きなビジネスとならない可能性があるため、周辺環境まで含めた包括的なソリューションを各社が今後打ち出していく可能性が高い。製作から販売まで急速に整備が進むEPUB 3関連のトピックはしばらく注目を集めるだろう。

2011年10月11日火曜日

電子書籍アプリ開発者は要注目、米FacebookがHTML5 Webアプリ販売インフラをiOS向けに正式稼働

http://hon.jp/news/modules/rsnavi/showarticle.php?id=2785


SNS最大手のFacebook社(本社:米国カリフォルニア州)は現地時間の10月10日、同社が会員ユーザー向けに公開しているiPhone版アプリを大幅アップグレードし、iPadにも対応した。

今回Version 4.0として公開されたこのiPhone/iPad版「Facebook」アプリでは、ここ半年ほどサードパーティ開発者たちの間で噂されていたHTML5アプリ配信サービス(コード名:Project Spartan)に対応。これにより、ゲームなどのアプリデベロッパーや一般のWebデザイナーが、iOS版Facebookユーザー向けに自作のHTML5アプリを配信・販売できるようになる。ただし課金システムは、Apple社の規約により、Facebook独自の「Facebook Credits」ではなく、Apple社のInApp課金を使う必要がある模様。

なお、すでに「Magic Land: Island」「Huffington Post」など一部のHTML5アプリが検索で引っかかるようになっている。さらにFacebook社では、Apple社への配慮から、HTML5形式アプリだけでなく既存のネイティブiOSアプリ(iTunes App Store上で販売されるアプリ)へリダイレクト誘導する機能も提供している模様だ。

ビューワ開発者から見た、電子書籍業界のいま 電子書籍覆面座談会

http://ebook.itmedia.co.jp/ebook/articles/1110/06/news006_1.html

電子書籍において、ビューワの操作性が読書体験に及ぼす影響は大きい。ユーザーとコンテンツの出会いを演出するのがビューワ開発者の力量だ。本企画では、電子書籍ビューワの開発者に集まっていただき、覆面座談会という形で電子書籍市場の今を聞いた。

2人の開発者が電子書籍ビューワ開発の苦労や葛藤を明らかに

電子書籍にまつわるさまざまな課題点が指摘される中で、コンテンツの内容に次いで言及される機会が多いのが「ビューワの操作性」。操作の分かりやすさ、カスタマイズ性など、ビューワの使い勝手がそのまま電子書籍という媒体の評価につながることも少なくない。

ビューワ開発者からすると、世代やリテラシーを問わない実装や、キャリア側が要求する仕様との兼ね合い、さらにiOSやAndroidといったプラットフォームの仕様に依存する制限など、さまざまな葛藤があることだろう。こうした点について、国産の電子書籍ビューワの開発者お二人に覆面座談会という形で事情を伺った。

一人は、ケータイキャリアを中心に採用されている著名な電子書籍ビューワの開発者「T氏」、もう一人は、iOSやAndroid向けに電子書籍ビューワアプリを開発する「X氏」だ。それでは早速ご覧いただこう。ビューワの設計思想、デバイスやターゲットユーザーに応じた設計の違い、さらに各キャリアや出版社との日ごろのやりとりなど、ビューワ開発者から見た電子書籍業界を。

ビューワ開発者かく語りき

―― 今日はよろしくお願いします。まずはお二人の自己紹介からお願いできますか。

T もともとはガラケー向けのビューワの開発をやっていまして、その後Android向けのビューワの開発を手掛けるようになりました。最初は様子見でガラケーの移植版から始めたのですが、世の中の携帯がAndroidに急速に移行しているのと、Android自身のバージョンアップの速さもあり、順次ビューワの機能追加、および各種サービス事業者向けへの展開をしています。

―― いまはAndroidの案件が中心ですか。

T そうですね。自社のソリューションをカスタマイズしてキャリアさんに出すという形です。ガラケーはもう何年もやっていますが、今後販売台数が減っていくのは間違いないので、ビジネスとしてAndroid向けに注力していかなくちゃいけないというところです。

―― Xさんは、最初はiOS向けにビューワをリリースし、その後Android向けにも展開されていますよね。

X はい。ここ数年でネットワーク周りの状況がいろいろ変化し、そこに追いつこうとしている間に、どんどん変わっていったというのが実情ですね。

ユーザーの感覚が落ち着くまでもう2~3年掛かる

―― 今、お二人が開発されているビューワも含めて、世間にはさまざまなビューワがありますが、インタフェースや挙動はバラバラです。例えば画面の右側をタップしたときに、ページが進むものもあれば戻るものもあったり、タップにすら反応しなかったり。お二人はこうした部分の設計をどう決めてらっしゃるんですか。

X 今は何がいいかという正解がありませんし、みんな「どうしたらいいんだろう」といいながらあがいている、そういう時期だと思うんですよ。「こういうのが常識だろう」というユーザーの感覚が落ち着くのにもう2~3年掛かると思うので、その過渡期といったところでしょうね。

T 出版社と話をしていると、最初は「このページめくりのエフェクトはいいね」となるんですが、しばらくして「すいません、やっぱり飽きました。やめときましょう」みたいな展開になることが多いですね。出版社の方はどうしても紙の本のイメージを前提にめくりの話をされますが、慣れてくるとやっぱり邪魔なんですよね。

―― ビューワを開発されるとき、そういった仕様は、出版社からの依頼で決めるのか、それともご自身でいろいろ調べて実装していくんでしょうか。

T まずはOSの作法に合わせます。iPhoneとAndroid、ガラケーもそうですが、OSやプラットフォームならではの作法があるので、それを守るのが第一ですね。例えば、Androidだと1.6まではピンチに非対応なので、ピンチ前提で作ってしまうとUIが破たんします。だからやっぱりプラスマイナスボタンを出さなきゃダメだよね、とか。
また、「画面タップでメニューを出す」というiOSアプリによくある操作は、Androidの作法からするとNGなんです。Androidはメニューボタンを押してメニューを出すから、それに合わせてUIを変えなきゃいけない。ただ、たいていの出版社はiPhoneを前提に話をするんですよね。「そこは違う」と伝えるんですが、押し切られることもあって難しいところです。

―― Xさんのビューワは「使われないから機能から省く」ではなく、「設定でオフにする」という方向で対処されていますよね。

X ページめくりの機能が必要か否かという議論でいくと、僕たちではなくユーザーが判断すればいい話だと考えています。先ほどお話ししたように今は過渡期なので、いろいろなやり方を「まずはトライしてみてよ」という意味であえて残しています。設定項目が多すぎるとダメという話もあるので、シンプルにしたいのは山々ですが、これは僕が決める問題ではないかなと。

T Android向けの仕事だと、キャリアやサービス側が絡むので、いろんなビューワベンダーに「これは共通仕様として最低限守ってくれ」と言われてその仕様に合わせざるを得なくなることが多いですね。

―― つまり、ある電子書籍ストアで、見た目は1つのアプリだけど、買ったコンテンツの種類によってアプリに内包されているビューワが立ち上がるようになっているので、それぞれで操作性を統一するよう要求されるという、そういうことですよね。

T そうです。同じストアから買ったコンテンツなのにフォーマットごとに作法がバラバラというのはユーザー視点で考えれば確かに大変なので、これはしょうがないかなと思います。
それと、長い歴史を持つXMDFや.bookにも独自の作法が存在しますが、それをひっくり返されちゃうのも逆にあります。例えば右左をタップしたら進むとか、上下で1行ずつ進むとか、ビューワごとの作法があります。XMDFに至ってはザウルス以来の作法があるので、XMDFを使い慣れた人間からすると、「何でこんなに使い方が違うんだよ」みたいになったりもしますね。さらに最近はタッチ操作などUIの前提条件が変わってきているので、それをどこまで踏襲しつつOSの作法に合わせるかが難しいところです。

iOS、Android、Windows Phone 7……UIの設計はますます困難に

―― iOS向けのビューワアプリだと、設定画面の呼び出し方も、画面中央をタップするタイプもあれば、例えば「理想書店」のように上もしくは下にドラッグしたら出てくるタイプもあったりとバラバラですが、これはAndroidのようなメニューボタンがないから、そうせざるを得ないということなんでしょうか。

T そうです。特に電子書籍のビューワは、とにかく全画面にコンテンツ表示させたいというのがあるので、そうした設計になるんですよね。ほかのアプリだとタイトルバーに置かれたボタンから辿れますけど、全画面でコンテンツを出されちゃうともうどうしようもない。iOS系はもう百花繚乱ですよね。Android端末をメインで触っているわたしなんかがたまに触ると、どうすればいいんだろう? てなっちゃう(笑)。

X 全画面表示で使えるボタンはホームボタンしかないということになると、操作としては完全に詰んでいるんですよね。だから、何か操作方法を考えなくちゃいけなくて、その中で一番単純なのが、真ん中タップだということです。どうしようもないんで、とりあえず何かたたいたら起こる、という範ちゅうで収めるしかないですよね。

T だから、既存の電子書籍ビューワの多くが「タップ=進む」なんですよ。気軽に読み進めたいっていうニーズがあるわけですよね。先ほどの理想書店の場合は、タップにそういう割り当て済みの操作が存在するので、ほかの操作にしなくちゃいけなかったんでしょうね。
画像系のビューワは特にそうですが、フリックのつもりが動いちゃったり、逆だったりすることが多いですね。慣れている人と慣れてない人、はらうスピードが速い人と遅い人がいるので、チューニングが難しいんですよ。最大公約数もありませんし。
また、特に問題になりやすいのが、「タップとロングタップの差」です。スマートフォンに慣れている方は使い分けられるんですけど、そうじゃない方だと震えてしまってうまく押せなかったりで、微調整が大変です。画面サイズにも関係するので、なおさらですね。

X 僕もユーザーからメニューが出ないとか、結構クレームが来ましたね。いったいどんな操作をしているんだろうと。

―― 例えばそれは年齢による違いとか、リテラシーの違いとか、有意な傾向はあるものですか?

T やっぱり年配の方は、ロングタップが難しいようですね。後はユーザーのPC歴。慣れてない人の方が、操作中に手がぶれてしまっている印象はありますね。

X 「母親が操作していたら、操作のたびに何か動くといわれた。これをオフにする機能を付けろ」って言われて、機能を付け足したことがありました。タップしてめくろうと思ったら指が当たったみたいで、ピンチになって拡大になっちゃうから、こんな機能は要らないって言われて。

T サービス提供社側から、この機能は使わないから要らないとか言われることもあります。ありすぎて分からなくなるとか、どうせ使われないとか。確かに、そういうオン/オフの設定を触る人ってあまりいないんですよね。そもそもメニューまでたどり着かなかったりするので。だったら取っ払ってくれと。恐らくサポートが大変なので、できるだけ制限して問い合わせがこないようにしてくれということだと思います。

―― なるほど。サポート絡みの事情ですか。概して、Tさんの場合はITリテラシーが低い人に合わせて仕様の部分で切る、といったところでしょうか。

※写真
Metro UIを採用したWindows Phone 7.5。OS間で異なるUIが開発の障壁に?

T そうですね。Androidだと、OSの作法に合わせるというのも心掛けています。普通にブラウザを触っていれば、OSの作法に慣れてくるはずなので。逆にビューワ側で勝手なことをやってしまうと、「何か違う」って違和感を覚えるはずなんですよ。

―― OS標準の操作に合わせておくことが、ITリテラシーが低い人への対策にもなるということですね。Androidもこれから初心者がどんどん流入してくる可能性が高いわけですけど、そこはもうOSの作法で学んでくれと。

T はい。ただ出版社の方はiPhoneに合わせて話をしてくるので、Androidのユーザーが本格的に使い始めたら、お互い違う意見を言ってくると思うんですよ。今後そこは揉めるかもという懸念はあります。しかも、Windows Phone 7が新しく出てきたじゃないですか。あれはMetro UIというまったく別のUIなので、iOS、Androidと三つ巴になってきたらとてもじゃないですが共通化できないでしょうね。そうした事情が分からない出版社の方の意見は、今後もっと増えるとみています。

ユーザーに「要らない」と言われる機能は、見せ方に問題があるだけかもしれない

―― ビューワの機能で、本全体のどのくらいの割合を読んだかという、既読表示の機能がありますよね。あれなんかはどう思われますか?

T 「あんまり画面にごちゃごちゃ出さないでくれ、うざったいから」ってユーザーから言われちゃうんですよね(笑)。

―― それに敢然と立ち向かっているのがiBooksなんですけど(笑)。先日の漫画家さんの座談会でも話題に上りましたが、iBooksだとページの左右に紙の厚みを示すデザインがあります。こういうのはXさんの設計思想からするとどうでしょう?

X 厚みが変わらないやつですよね(笑)。こうした縁を付けようと思ったら、その分ページの面積を減らさなくちゃならないので、ちょっと違うかなと思います。

※写真
iBooks

T 余白というのは本来、印刷などの都合であって、コンテンツは関係ないですから。もっとフルに見せて、情報量を増やしてくれと思いますね。
そもそも、既読の割合を気にするコンテンツと、気にしないコンテンツがあると思います。長編作品なら「どのくらいまで読んだかな」というのがあるでしょうけど、短編だとあまり気にしなかったり。ガラケーはどこまで見てるか表示できないことも多いのですが、閉じたときにどこまで読んだかページ位置を保存していることもあってか、あまり批判は聞かないですね。特に漫画は1話売りが多いですし。

X 僕は結構ユーザーから言われますね。

T ただ、声の大きい人が大多数というわけじゃないですよね、実際のところ。

X つまり「要らない」と自信を持って言える人と、「要る」と自信を持って言える人、どっちなんだってことですよね。「どっちでもいい」という人と「要る」人だったら、それは「要る」ってこと。「要らない」と「どっちでもいい」なら「要らない」。その考えでいったら、やっぱり「要る」になるんじゃないかなと。

T ただ、「要る」と思ったけど、消してみたら気にならなかったという人もいる(笑)。
X それは「どっちでもいい」人ですよ。問題なのは「要らない」という人の中に、僕ら開発者の見せ方が下手くそだから要らないといっている人が含まれていることなんですよね。「こんなウザいのは要らない」という声、それが怖いんですよ。それさえクリアできればもちろん付けたいですし。どういったアプローチがいいのかは、開発ですごく悩むところです。

―― 例えばシャープのGALAPAGOSだと、ページ番号の表示は文字サイズを変えても変わらないんですよね。最初全部で500ページって表示があったとするじゃないですか。それで、文字サイズを小さくして1ページに収まる文字量が倍になったら250ページに減るはずなのに、500ページのまま変わらない。どうなるかというと、1ページめくるたびにページ番号が1つずつスキップされるという。

X おお、考えましたね。

T XMDFはザウルスのころからやってて、ノウハウはあるはずなんですけどね。どうやって計算してるんだろう。デフォルトのフォントサイズでやってるってことですよね、それって。

―― デフォルトのフォントサイズでページ数をカウントして、大きくなったり小さくなったりしたら、分母を変えずに分子をいじるということですよね。だから考え方としてはパーセンテージに近い。結果として、めくった次も同じページというケースが発生するわけですよね。1、1、1、2、2、2とか。

X 電子教科書になったときに「教科書の何ページを開いて」って言われてページを開けたところ、みんな違うところを開けていたという笑い話がありましたけど、その辺りを考慮した結果かもしれませんね。

―― それにしても、操作性に多少なりとも共通項のあるページめくりに比べて、既読位置の表示方法はバラバラですよね。デジタルコミックに至ってはコマ単位表示でページという概念もないわけですし。

T そうですね。デジタルコミックではしおりを保存したときや、目次のところに「何コマ目」というのを表示していますね。コマ系だったら何コマ目、ページ系だったら何ページ目というように。

―― なるほど。「何コマ目」なんですよね。そう考えても、ページングで考えられているものとは作り方がまったく異なりますね。

「書庫に保存したい」「買ったらすぐ読みたい」、相反する2つの需要

※写真
写真はezPDFreader(Android版)。画面下部に各ページのサムネイルを表示していることが分かる

―― 最近のビューワのトレンドとして、画面下部に各ページのサムネイルを表示できるというのがありますよね。国内でもそうですし、海外のPDFビューワ、例えばezPDFreaderにもあります。読み込みが遅いのが残念なんですが。

X 読み込みの遅さは、デバイスのハードウェアスペックが高くないので、どうしても出てきます。でもそれは過渡期ゆえのことであって、もう1~2年もしたら解決するんじゃないかと。CPUを2~3個に増やせば済みますから(笑)。

T ヤッパのビューワなんかは、ページをめくったら必ず全体表示するので、それ用に低い解像度の画像を用意していて、ペラペラめくる分にはかなり高速です。キャッシュもしているようですし、そこが1つの売りですよね。頻繁に拡大するユースケースが多いから、そうなっているんでしょうね、恐らく。

―― ガラケーでも、スペック依存の問題はありましたか?

T ガラケーは、auだとコンテンツサイズが1.5Mバイトまでという制限があるので、そこに縛られますね。よく「なぜコミックスを話数単位で分割するんだ」といわれるんですが、それは容量制限の問題です。コマ分割は画面サイズの問題で、コンテンツの分割は配信側の問題ということになります。また、スマートフォンでコンテンツサイズの制限が解除になったからといっても、例えば3G回線で50Mバイトのデータを落とすのはきついですからね。
読者からすると「買ったらすぐに読みたい」なんですよ。繰り返して読む方はコンテンツを書棚に残しておきたがるんですけど、読み捨て的な需要も実は多くて、ストリーミングで今すぐ読みたいという相反する需要があったりして、とても難しい問題です。

―― ストリーミングだと、例えばマガストアですね。そういった仕様を最終的に決定しているのは誰なんですか。

T サービス側です。ストリーミングだとダウンロード側よりもDRMを考えなくて済むので、提供する側としては実装が楽なんですよ。DRMを考え出すと、結局出版社がコンテンツを出したくないとか、そういう話も出てくるので。
E Ink採用端末向けには設計に違いも

―― 少し話は変わりますが、電子書籍端末は液晶以外にE Inkを採用した製品もあります。E Ink向けのビューワでは、液晶の場合と設計を変えざるを得ないところがあるそうですね。

T ボタンを押したときの操作性ですね。普通ならボタン押しっぱなしでパッパッとめくるじゃないですか。ところがE Inkは画面の書き替えに時間が掛かるので、表示が間に合わなくてめくれないんですよ。E Inkを採用しているソニーの「Reader」やKDDIの「biblio Leaf SP02」では、液晶の端末と違って、ボタンを押していったん離すことでページがめくられますよね。

―― なるほど。押すだけじゃなくて、押して離さなくちゃいけない。
T ええ、離したときです。だから、押しっぱなしでは連続めくりができません。製品によって多少違いますけど、E Inkはページが切り替わるまで確か0.8秒くらい掛かるので、自然とそうした設計になります。

「デジタルコミックはコマ区切りが標準」という人も実は多い

―― 画面サイズについてはどうでしょう。Tさんだと、これまではガラケー、いまはAndroid中心ということで、サイズの種類も多そうですね。

T そうですね。ガラケーでは多少の大小はありますがだいたい同じ画面サイズで、解像度は基本的にQVGAとWVGAの2種類ですが、スマートフォンになってから、さまざまな画面サイズと解像度のものが登場しています。片手で持てる小さいものから、GALAXY TabやXOOMなどの大きなものもありますし。物理的な画面サイズが違うと、やっぱり世界が変わってきますからね。
基本的には表示倍率を変えて画面に合わせるのですが、何でも無限に拡大すると粗くなりますし、さらにオーサリング時に「最低限この範囲は表示」「最大はここまで」という設定があるのでそれらを基に表示を計算しています。もともとガラケーは、各キャリアごとに標準とするサイズが違います。コンテンツを作る側はそれぞれのサイズ向けに生成する手間は掛けたくありませんから、1つの元データから別々に最終データを作るという概念を導入しているわけです。
出版社の編集の方からは、「ページで作る方が楽なのは分かっているが、ガラケーで漫画を読んでいる人たちは『デジタルコミック』としてその動きに慣れてしまっているので、ページでは売れない」とよく聞きます。つまり、コマ区切りが標準というデジタルコミックならではの動きに慣れている層が一定数いるわけです。だからといって最初からコマ区切りで制作してしまうと、いざ売れたから単行本化しようという段階で困るわけですが(笑)。
―― 今、デジタルコミックは幾つか種類があるじゃないですか。ページ全体を見せるタイプもあれば、ページを拡大しながら右上、左上、右下、左下という逆Zの順序でスクロールするタイプ、完全なコマ単位で横に長ければスクロールするタイプ、だいたいその3パターンですかね。

T そうだと思います。スクロールについては逆Zに限らず、コマに合わせて読む順番をオーサリングできますね。スクロールするスピードも制御できます。

―― こうしたスタイルが出てきたのは2003年前後ということですが、7、8年経ってこのスタイルに慣れたユーザーが増え、漫画の読者の中でも、コマ分割タイプに慣れているユーザーもいれば、1ページ単位で決められたレイアウトがなじむユーザーもいると。

T そうですね。「携帯で見る漫画はこう」みたいな。ガラケーに関しては、9割はコマ形式での配信だそうです。実際に編集者の方に聞くと、「だってコマが売れるんだもん」という(笑)。製作コストが10倍ぐらい違うらしいので、できればコマ形式で配信はしたくないというお話はよく伺います。
実際に使っていても、iPhoneサイズぐらいだと、まだコマ分割タイプの方が見やすいですよね。ページだと頻繁に拡大しなくちゃならないので。GALAXY Tabぐらいの画面サイズになると、まあいいかなという気になるんですけど。

X 元の漫画がどういう形で描かれているかですよね。元からデジタルコミックを前提に制作されているのならともかく、ページング前提で制作されたものを無理やり切り貼りして、バイブのところでブルブルブルっていうのはちょっと。個人的には、ページングで作られたものはそのまま見たいですね。

―― 携帯漫画のバイブ機能、あれは誰がディレクションしてるんですか。

T 出版社によって外注のオーサリング会社に丸投げもあれば編集者がやることもあったりとさまざまなようです。TVアニメを静止画で取り込んで漫画風に見せるコンテンツなどでは、アニメの演出家の方が絵コンテみたいな感じで細かく演出を入れているそうです。

―― その一方で「これ、やっといて」みたいな感じで紙の単行本をポーンと渡されて、自炊みたいな感じで裁断して、後はお任せというパターンもあると。

T あるようですね。聞くところでは、吹き出しが切れているのをくっつけたり、足らないコマを勝手に描き足しちゃうケースもあるそうです。それはちょっとどうかなとは思うんですけど。海外のオーサリング業者に出したらひどいのが返ってきたという話も聞きますね。

EPUB 3はあくまでもフォーマットで、運用フローはまだない

―― 今、EPUB 3という新しい規格が出てこようとしています。お二人はEPUB 3についてどのような見解をお持ちですか?

X EPUB 3はHTMLの拡張でしょ。HTMLの拡張ということは、HTMLを表示しなくてはいけない。HTMLを正確に表示するためには現状WebKitとかのライブラリを使うしかない。
でも、文字を表示して横にルビを打つだけなんて、文字を書ければ出ますよね。そこに対してHTMLのレンダラを持ってきて、CSSのレンダラを持ってきて……となると、初めから書けないくらい実装難度が高いんですよね。オープンソースのソフトウェアを持ってきたらいいと簡単に言う方もいますけど、どうやって使っていいか分からないものを持ってきても、うまくはまるか分かりませんしね。今のビューワをEPUB 3対応させたいとは思いますが、実装するのはコストが高いので悩ましいところですね。

T わたしは直接EPUB 3にはタッチしていませんが、組版をそこまで意識しなきゃいけないのかな、という気はします。それと、あんなに仕様が大盛りだと、果たしてそれに合わせたコンテンツが作れるのかなという。
あと、例えばiBooksは今のEPUB 2でも独自拡張していますよね。だからEPUB 3といっていても、昔のブラウザ問題みたいな、例えばIEだけスクロールバーの色を変えられたりとか、そうなる懸念はありますね。特にEPUB 3はJavaScriptも全部動いちゃうんで、高機能なものを作ろうとすると、挙動もみんな違うし、作るコストも高くなるという。

―― コンテンツについては、紙を前提に制作されたものと、これから増えるであろうボーンデジタルの違いもあるかと思います。例えば漫画なら、既存のものはPDFやZIP圧縮JPEGで見せるとか、あるいはEPUB 3で一手間掛けてコマ単位で切って見せていくかという。それに加えて、今後、何か出てくるかもしれないけど、現時点ではまだ見えてないと。

T そうですね。作り手側もいきなり作れるわけじゃないですからね。EPUB 3はあくまでもフォーマットであって、アウトプットをEPUB 3にする標準的な運用フローはまだないじゃないですか。

X ユーザーにとってはフォーマットなんてどうでもいいですしね。ましてやDRMが掛かっていたらどのフォーマットも無理ですからね(笑)。

T そこがFlashが支持される理由の1つですよね。凝ったものが確実に作れて、しかも実行モジュール込みだからDRMも掛けられる。結局のところ、リッチなコンテンツで作るんだったら、じゃあ、みんな「やわらか戦車」つくるのか、という話になってきますよね。あれは全然違うものじゃないですか。アニメでもない、まあ、パラパラアニメですよね。

X 個人的には、漫画家さんにはそういったものにチャレンジしてもらうのではなく、その時間を使って、好きなように描いてほしいですね。
T 漫画家さんは本を出して初めてまとまった収入になるわけですし、もちろんデジタルコミックがお金になるのならやる人は増えるでしょうけど。何だかんだ言って電子書籍単体で収益を上げている方はそうそういないですしね。

1年でこれだけ変わったら、むしろ十分

―― 最後に、ビューワに限らず、電子書籍界隈で最近気になっていることがあれば。

T これからの新しいサービスですが、楽天の「Raboo」は、すでに楽天市場でECとしての実績がある分、ほかの電子書籍ストアとは違うかなと思います。楽天で買い物しました、楽天スーパーポイントが500ポイントある、じゃあ電子書籍でも買おうかみたいな。配送料も要らないですし、そういう強みがありますよね。

X 僕は、日本に来るといわれていたAmazonやGoogleに何の動きもないのが「まだ来ない」なのか、それともこのままスルーされてしまうのかが気になっています。もしかして、日本という狭い市場に対してコストが合わない、やるだけの価値がないと判断されたのかなと。

T ある会社で電子書籍のコンテンツ制作をやっている人から、彼らから打診があってテストコンテンツを作ったという話は聞きましたね。

X ええ、いろいろなところに打診は行ってるようですが、Goしないというところがやばいのかな、という気がしますね。

T Amazonは流通から課金から何から全部抑えているわけで、普通に考えると出版社がちょこちょこやったところで勝ち目はないので、出版社はあれを使って商売するしかないのかなと思います。特にKindleはマルチプラットフォームでやっていますから、あれに勝つのは難しいですよ。
ただ、日本の出版や流通は複雑で、出版社に話を持って行っても、コンテンツがそろうわけじゃなかったりもしますし。本来は出版権であって著作権ではないはずが、出版社が全部握っている。そういう日本特有の構造があるから「面倒だな」ってなると思うんですよね。

X 出版社としては、黒船が来たので身を潜めて「過ぎ去れ」と思ってるんでしょうけどね。たいていの出版社は電子書籍なんか望んじゃいないですからね。望んじゃいないものはやりたくないですよね。

T いままでの仕組みと違うものになっていくと、既得利権を持つ方はどうしても抵抗しますよね。ある印刷会社は、極端な話、既存の印刷工場などを縮小していきたいらしいんですけど、電子を全面的に推進して人を切れるかというとそうもいかないので、そこはソフトランディングしていくしかないと。

―― なるほど。

T ただ出版自体が下り坂であるのは間違いないので、新たな媒体ができたつもりでやっていくしかないと思います。ある総合書籍ストアは、電子書籍サービス側でユーザー情報を取りながら紙の本と電子書籍で総合的にマネタイズしていくという話をされていて、それはそれで正しいと思いました。
ただ実際は、パブーのような新興勢力がやるか、Amazonのような大きいところがやるか、そのどちらかだと思います。特にAmazonは本屋であると同時にIT企業なので、あそこまでできるという。ただ、どんなにいいサービスを作っても、コンテンツを集めないことには誰も振り向いてくれないので。問題はそこですよね。

X 構図はこれからいろいろ変わってくるでしょうが、いきなり勢力図が変わることはないでしょうし、焦らずもうちょっとゆっくり見ていても構わないんじゃないかなと。「1年たってこれだけしか変わらなかった」ではなく「1年でこれだけ変わったら十分じゃない?」という。紙の印刷を始めて何十年、何百年ってやってきたわけですからね。Amazonだって、いきなりKindleをバーンと売り出したわけじゃなくて、それまでに書籍通販として経験を積んできたからできたわけで。

―― 確かに、総括を急ぎたがっているような感はあります。

T 電子書籍ビジネスって、例えば電子書庫パブリやeBookJapanなどは2000年ぐらいから、パピレスは1995年にサービスインしているわけで、別に去年はじめて出てきたわけじゃないですか。出版社からするとXMDFや.bookでいままで培った運用フローがあるので、当面はそれでモノを出していくしかないんですね。だからこそ角川とかはひとまず.bookでやろうとなったわけで。
要するに今現在、できる運用フローはそれだけなわけです。EPUB 3も研究はしているでしょうが、今すぐ始められる状態じゃないわけで、その辺りが実際に立ち上がるのは来年、再来年といったところではないでしょうか。

―― 今年来年といわず、もう少し長いスパンで見ていく必要があるということですね。今日はありがとうございました。

Kindle Fireの裏側

http://www.ebook2forum.com/members/2011/10/business-model-behind-kindle-fire/

アマゾンの新製品発表(9/28)に関して、同社のKindle事業担当デイブ・リム(Dave Limp)副社長(写真=下)がシアトル・タイムズ紙に行っていたインタビューには、Kindle Fireに関して注目に値する論点が含まれていた。たとえば、$199という価格は「出血価格」ではない、EPUBはサポートしていない、OSは「Gingerbread (2.3)ベースのHoneycomb (3.0)変種」、iPadとは競合しない、Netflixアプリを搭載していること、などだ。アプリ内決済の問題など、iPadとの比較上問題となることは順次明らかにされていくだろう。


デバイスでもサービスでも利益を上げる
Fireの原価についてはiSuppliが部品ベースで約199ドルという推定を発表し、赤字はほぼ確実と思われているが、リムVPは、「それは私たちのビジネス観とは違う」と否定し、「デバイスでもサービスでも利益を上げ、それを持続可能にすることが株主に対する責任でもある。」とした。慎重な答えだが、これは
•採算ラインをかなり高く設定し(たとえば100万~200万台)
•台湾メーカーからの調達価格を他より安く抑えた
ことを意味しているものと考えられる。100万台以上をコミットすれば、部品ベースで100ドルに近いものとすることも不可能ではない。部品の中で最も高いのは液晶パネルとメモリだが、Fireのメモリは2GBと最低水準だ。2007年12月発売の初代Kindleでも利益は確保していたと考えられている。

「Gingerbread (2.3)ベースのHoneycomb (3.0)変種」
この表現は、オープンソースのAndroidを独自に拡張し、Googleがソースコードを公開していないHoneycomb相当品を開発したことを意味している。最新版ではないが、現在のAndroidアプリのほとんどが使用可能だ。リム氏も互換性を重視していると述べている。これは次のことを意味する。
•Googleのライセンス(統制)は受けず、互換性はアマゾンが保証する
•アプリ開発者はAndroidの開発環境をそのまま利用することが出来る
この「付かず離れず」というスタンスは、まだ成長途上のAndroid Marketに大きな影響を与える。膨大な顧客を擁するアマゾンの引力は大きく、開発者はGoogleよりもアマゾンを見て開発するようになる。それに、開発者はiPad (iOS)と同時に開発しなければならないから、Androidの方言には付き合いたくない。両手10本指(iOS)、片手2本指(Kindle)というタッチスクリーンの操作性の違いに対応するだけでも簡単ではない。

EPUBはサポートしない:外部環境・ファイルへの対応
外部ポートはUSB (とヘッドフォン端子)しかないが、という質問にリム氏は、Kindleと同様、Fireの外部接続はすべてUSBを通じて行うことを明らかにした。PCやMacと接続するとフォルダーが立ち上がり、他で購入したDRMなしのコンテンツ(たとえばiTunesの音楽ソース)をドラグ&ドロップで移せばFireで再生することが出来る。これはローカルだけでなく、クラウドでも対応する。他のデバイスのMP3音源や画像はこうして保存・利用することも想定されているようだ。

ではE-Bookはどうか。「EPUBはサポートするのか」という質問に、リム氏は「当社はサポートしない。」と答えた。これでアマゾンがEPUBをサポートするのではという観測は否定されたことになる。その代わり、デスクトップ級の強力なPDFエンジンを搭載し、書籍・雑誌に対応する。これを解釈すれば、アマゾンの認識は次のようなことであろう。
•今後ともEPUBファイルを受け入れ、自社でKindleコンテンツ化する
•商業的コンテンツは、ほとんどすべてがKindle対応になっている
•EPUB仕様は、実用上問題のない範囲でKindleフォーマットに吸収可能

周知のように、EPUB仕様はHTML5/CSS3を土台としたEPUB3に移行しつつある。通常の欧文書籍に関する限り、EPUB2とKindleが使っているMobiの違いは僅かで変換も可能だが、たとえば日本語組版を含めたEPUB3をサポートするとなると、Mobiもそれに対応した拡張を実装する必要がある。アマゾンはEPUB3対応の実装をすでに行っている可能性が高い。つまり、Acrobat PDFではない独自のPDFビューワでいくPDFの場合と同様、EPUB 3対応のエンジンをを開発してサポートするということだ。

出版社にとっては実質的な影響はない。アマゾンの独自仕様を気にする必要もないだろう。つまりアマゾンの独自フォーマットは、著者・出版社・読者がいちばん気にする文書構造の記述と表現に関することではなく、独自のWhisper Syncや図書館からの借り出し、DRM認証、SNSなど、もっぱらサービス・インタフェースに関連するものなのだ。アマゾンのロックインの仕掛けは巧妙だ。

アプリ開発者への条件提示は近日発表
Kindle FireとiPadの違いは、iPadがPCを代替することも可能な全方位タブレットであるのに対して、Fireはもっぱらメディア・コンテンツの消費に特化しているということだ。リム氏はそれが$500と$200という価格の違いでもあり、「おそらく比較の対象にはならない」と述べている。もちろん、額面どおりに受け取る必要はない。Fireは現在のiPadの用途の大半をカバーしているからだ。Fireはフルブラウザとメールソフトを搭載し、メールソフトではWordとExcelファイルを読むことが出来る(PowerPointは不明)。
外部のネットサービスとの関係では、Netflix、Pandora、Facebook、Twitterに関してはアプリの搭載で合意した、としているがその他については近日中に明らかにされるという。つまり有償サービスを受け入れる場合には売上の一部をシェアするのだが条件はまだ提示されていない。アップルiOSでのアプリ内決済を経験したアマゾンが、どんな条件を提案するかが注目される。

2011年10月7日金曜日

EPUB採用の電子書籍サービス「Yahoo!ブックストア」年内開始へ

http://internet.watch.impress.co.jp/docs/event/ceatec2011/20111007_482445.html

ヤフー株式会社は7日、自社の最新サービスを紹介するカンファレンス「Yahoo! JAPAN Day」を「CEATEC JAPAN 2011」の会場で開催した。その中で、電子書籍配信サービス「Yahoo!ブックストア」を2011年中にもスタートさせることが表明された。フォーマットとしてEPUBを全面的に採用。2012年4月には、オンラインストレージサービス「Yahoo!ボックス」を活用したクラウド型の書庫機能も提供する計画。

● 「Yahoo!コミック」を総合電子書籍販売ストアへリニューアル

電子書籍配信サービスについて講演を行ったのは、ヤフー株式会社の高田正行氏(R&D統括本部 フロントエンド開発2本部 開発1部 部長)。現在の電子書籍市場については「昨年ごろから『電子書籍元年』と言われ続けているが、現在もリクープ(費用回収)しきれていないというか、大成功している事業者は少ない」と分析する。

その理由については、作品の品揃え、サービスの仕様などが一般に課題として挙げられるが、電子書籍を閲覧するために必要なスマートフォンやタブレットの市場規模が現時点で2000万台に達していない点が重要ではないかと高田氏らは分析する。「2000万」という数字は、関連する商品の市場が成立するために必要な「マジックナンバー」なのだという。

高田氏は「スマートフォンやタブレットが1000万台を超えはしたものの、PCの普及の実績を鑑みると、やはり2000万台がリクープラインになると思う」と解説。今年末から来春にかけて2000万台達成が見込まれることから、事業展開上でのスケールメリットは拡大するとした。

また、ヤフーでは、紙製の書籍を電子化した「電子書籍」だけでなく、各種のコンテンツ配信サービスを「電子出版」と捉えている。マスコミから提供を受けたニュースをウェブに最適化した上で配信する「Yahoo!ニュース」、著名雑誌の記事が一部読める「X BRAND」なども、ある意味において「ブラウザーで閲覧する電子書籍」と定義。さらに、いわゆる電子書籍型の漫画配信サービスである「Yahoo!コミック」や、「Yahoo!ショッピング」「Yahoo!オークション」での紙版書籍の流通も電子出版の一形態とすることで、各サービス間の相乗効果を高める方針を従来から示している。

Yahoo!ブックストアは、この既存電子出版サービスの1つであるYahoo!コミックをリニューアルする形式でスタートさせる。これまでは漫画のインターネット配信専門だったが、その他のカテゴリーの取り扱いを開始。総合電子書籍販売ストアへと発展させる。当初はスマートフォン、タブレット、PCからの閲覧を想定する。

リニューアルは年内にも実施する予定という。なお、Yahoo!コミックはすでに約8年に渡って運営。累積利用者数は約300万人としている。

● 「Yahoo!コミック」を総合電子書籍販売ストアへリニューアル

Yahoo!ブックストアの開設にあたっては、サービスの基本理念にあたる「電子書籍3原則」を消費者向け・出版社向けにそれぞれ制定した。

まず消費者向けには「すべての本を探せる、買える」「マルチデバイスで読める、所有できる」「ソーシャル連携で感動が深まる、繋がる」の3つを標榜。高田氏は「“オープン”を第一にするということ。端末も、フォーマットもオープンにしていく」と、そのオープン性を特に強調した。

対して、Yahoo!ブックストアで電子書籍を販売する業者、つまり出版社向けには「販売価格や期間を自由に設定できる」「課金のみならず、広告モデルも選択できる」「国内外を問わず同じプラットフォームで販売できる」の3つを示した。

高田氏は「Yahoo!ブックストアは、ヤフー自らが本を編集したり独自に値付けして販売するサービスではない。本が購入しやすい場所を提供するが、あくまでも(販売の)主体となるのは出版社や、コンテンツの権利を保持する会社。形態としては、Yahoo!ショッピングやYahoo!オークションを思い浮かべていただくとわかりやすいだろう」と説明。販売業者と消費者を取り持つプラットフォーム役に徹する方向性を示した。さらに、単なる書籍の販売だけに止めず、ヤフーの強みである検索、広告との連動はもちろん、海外市場への展開なども模索していく。

 Yahoo!ブックストアはオープン性の高さを標榜することから、書籍のフォーマットにはEPUBを全面的に採用する。「(オープンな仕様である)HTMLを使ってウェブでサービスを展開してきた我々としては、HTMLにより近しい(EPUBという)フォーマットでやっていきたい」と説明する。

 その技術仕様が完全には確定していないEPUBだが、Yahoo!コミックではすでに相当の利用実績があるという。「実は今年3月から、部分的にEPUBを導入している。国内の商用運用実績はナンバーワンだろう」と、高田氏は胸を張る。

 具体的な例としては、東日本大震災発生直後、集英社が実施した「週刊少年ジャンプ」のネット向け無料配信がある。このフォーマットにEPUBが採用されており、アクセスの集中を踏まえた運用実績もすでに積んだ。また、EPUBによる有料配信作品もすでに600点程度ラインナップ。EPUBビューアー自体の提供も行っている。

 出版社向けには、EPUBによるコンテンツ作成のコンサルティングも計画。高田氏は「EPUB 3.0が先般策定され、縦書きやルビといった日本ならではの出版表現も再現できる可能性が高まってきた。ただ、我々が勝手にフォーマットを決めるのではなく、出版社とも十分協議し、最適な、一度作ればずっと使えるフォーマットを提案していきたい」とも説明。柔軟な対応方針を見せた。このほか、人気コンテンツの品揃えに注力する姿勢も示している。

● 1つのIDで複数端末に対応、「クラウド書庫」も
 
国内最大手ポータルサイトを持つ強みを生かし、電子書籍販売サイト以外でのプロモーションがワンストップで行えるようにする。「Yahoo! JAPAN」トップページでの露出はもちろん、動画サイトの「GyaO!」で関連動画を配信したり、同様に「Yahoo!モバゲー」でゲームを配信するなど、多面的な販売促進策がとれると高田氏はアピールした。

 サービスの細かな仕様面では、まず「Yahoo! JAPAN ID」1つで複数の端末から閲覧できるようになる予定。割引プラン、ポイント、プレミアム会員向け特典なども制度として導入されるという。また、コンテンツの配信形態についても、ダウンロード型の買い切り(売り切り)だけでなく、ストリーミングによる期間限定提供なども可能。

 Yahoo!ブックストア年内開始後のマイルストーンも示された。まず来年1月ごろに縦書き対応を予定している。高田氏は「現状でも縦書きは可能だが、クオリティ的に納得できていない。出版社とも協力して、何とか来年頭には実現させたい」と語る。同時に、外部サービスとの連携機能も追加する予定。外部電子書籍ストアの作品をYahoo!ブックストアで検索・購入できるようになる見込みという。

 続いて3月には、ソーシャル連携機能の追加、複雑な組版書籍への対応も実施。さらに4月には、近く開始予定のオンラインストレージサービス「Yahoo!ボックス」とも連動させた「クラウド書庫」の提供を計画している。

 壇上では、実機を使ったデモンストレーションこそ行われなかったが、高田氏は「リニューアルを正式発表できる段階で、また改めてサービスの詳細を説明したい」と予告。講演を締めくくった。

2011年10月6日木曜日

2011年10月4日火曜日

iPad追撃へ燃えるキンドル・ファイア

http://www.sankeibiz.jp/macro/news/111003/mcb1110030502013-n1.htm

■成功の絶対条件はコンテンツ戦略

 世界中のPCメーカーがこぞってタブレット型端末を生み出そうと試みてきた。しかし、これらの端末は消費者が一番求めていたある物を欠いていたため、成功には至らなかった。コンテンツがなかったのだ。

 だが、先週その全貌が明らかになったアマゾンのキンドル・ファイアは、それら敗者を尻目に成功を遂げるだろう。タブレット型端末を世に送り出すよりもずっと前から、アマゾンはコンテンツの獲得に力を注いできたからだ。

 多くの解説者が「果たしてファイアはアップルのiPad(アイパッド)に対抗できるだろうか」との視点から分析を加えているが、私はこの2つの端末が競い合うことにはならないと考えている。少なくとも、現時点では。

◆抜けて2社が優位

 なぜなら、現状の未成熟の市場では、タブレット型端末において本当のユーザー体験を提供できるアマゾンとアップルの2社だけが他社に比べて優位に立っており、それぞれがお互いの売り上げを奪い合う構図にはならないからだ。

 キンドル・ファイアの価格は199ドル(約1万5300円)。単なる好奇心からでも多くの人が購入を検討する手ごろな価格だ。もしかしたら、私がかつて経験したように、iPadとキンドル端末の両方を購入するかもしれない。

 長期的に見れば、2年後にアップルとアマゾンが互いに商売敵となって競争をし始めたときに、消費者の選択はいかにコンテンツが手に入りやすいかにかかってくる。今のところ、アマゾンはアップルに対して競争優位にある。これまでに、アマゾン上でコンテンツ製作者の商品を販売することによってコンテンツ製作者との取引関係をすでに築いているからだ。

この市場にとってもう一つ重要な要素となるのがユーザー体験だが、ここではアップルに軍配が上がるだろう。アップルはそのオペレーティングシステムと、システム上で使えるアプリを完全に管理できているからだ。それに対し、アマゾンは、グーグルのアンドロイドをオペレーティングシステムとして採用し、アプリにも一貫性がない。ユーザーにとっては頼りなく感じられるだろう。ただ、アマゾンの名誉のためにいえば、この新しいキンドル・ファイアにおいて彼らはユーザー体験の改善に最大限の努力を行った。

 タブレット型端末市場はいまだ若く、発展途上にある。タブレットPCなるものが出てきてからすでに10年ほどたつが、アップルがiTunesを通じたコンテンツ配信と、シンプルで調和のとれたユーザー体験を組み合わせて初めてこの市場が生まれたと言ってよい。コンテンツとユーザー体験、これが違いを生むのだ。覚えているだろう、さえない音楽機器が山のようにあった中で、アップルが初めてiTunesとiPodを組み合わせて独り勝ちしたことを。

 米ヒューレット・パッカード(HP)や、ブラックベリーを製造するカナダのRIM、そしてその他たくさんのハードウエアメーカーが競争力のあるハードウエア機器を作ろうと試みてきた。しかし、これらは10年前のタブレットPCとさして変わるところもないハードウエア機器にすぎないのである。コンテンツとアプリを欠いたタブレット型端末は、高価なウェブブラウザにしかならない。

 HPもRIMも、その他のハードウエアメーカーとともにこの市場から退散しようとしている。消費者は、「コンテンツはないが、動作の速い機器」には興味がない。初期のキンドルが、パワーが欠けていたにもかかわらずアメリカやヨーロッパで成功を収めることができた理由はここにある。アマゾンは大量のコンテンツを用意していたのだ。

 ◆年月かけ取引契約

 先週ニューヨークに滞在していた私は、キンドルやiPad片手に地下鉄に乗る人を何百人も見かけた。彼らがこれらの端末を何に使っていたか。皆一様に、何らかのコンテンツを読んだり見たりしていた。コンテンツのない機器は、地下鉄テストに落第してしまうだろう。この大切な鍵となる要素が、アップルとアマゾン以外のどのタブレット型端末にも欠けている。

 アマゾンのCEO(最高経営責任者)であるジェフ・ベゾスはこうしたコンテンツの価値を深く理解し、キンドル・ファイア発売のはるか前から、何年もかけて映画や音楽スタジオとコンテンツ取引契約を交わすために交渉を続けてきた。このプロセスは複雑で、ほとんどのハードウエア会社はやりたくもないだろうし、実際に着手もできないだろう。

 例えば、キンドルは日本市場ではまだ販売されていない商品だが、アマゾンは日本の消費者にも良い体験を提供したいと考え、すでに最低3年は日本で書籍の版権をめぐる交渉に取り組んできた。もちろん、映画や音楽コンテンツについても同じである。

 デジタルコンテンツビジネスに長年携わってきた者として私が言えるのは、コンテンツ獲得は簡単な仕事ではないということだ。なぜなら、大規模なコンテンツ保有者は、新しい機器によってもたらされ得る潜在的で長期的な収入増よりも、四半期あたりの収益率をより高めたいと考えがちだからだ。それでも、アマゾンは、タブレット型端末を成功に導くには、キンドルがハードウエア・プラットホームではなく、コンテンツ・プラットホームでなければならないことを理解している。

アマゾンはこの1つの目的に集中し、世界中のあらゆるタイプの出版社からデジタルコンテンツ契約を取りつけてきた。それに加えて、彼らはすでに大規模なユーザー基盤を抱えており、このユーザーたちをデジタルコンテンツの顧客に変貌させることは難しくない。これらすべてを考慮すると、ファイアの成功の道筋が見えてくる。

 ◆対抗ならグーグル

 ただひとつ、アマゾンやアップルにこの市場で対抗できる会社があるとするならば、それはグーグルだろう。もし、彼らがモバイル機器による決済ビジネスの拡大に成功し、その決済プラットホームにもっと多くのユーザーをひきつけることができれば、グーグルにとってデジタルコンテンツ分野へのビジネス展開は最良のプランになる。グーグルには、ビデオコンテンツ・プラットホームとしてはユーチューブが、そして書籍、雑誌、新聞といったその他のコンテンツのためにはアンドロイドアプリがあるのだ。

 グーグルがこれらを組み合わせて実際に始動させるまでは、アマゾンのキンドル・ファイアとアップルのiPadが、古びた馬車ばかり目につくこの世界にたった2台ある自動車として走り続けるだろう。

2011年10月3日月曜日

書籍“自炊”代行、「今後もサービス継続」は4.7% 出版社と作家の質問書に書籍スキャン事業者が回答

http://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/20111003_481348.html

書籍の裁断やスキャンを行う、いわゆる“自炊”を代行する事業者98社に対して、サービスの存続意志などを尋ねる質問書を送付していた出版社7社と作家122人は9月30日、事業者からの回答を公開した。それによれば、質問書の差出人に名を連ねる出版社と作家の書籍について、今後はスキャンを行わない姿勢を示す回答が大部分を占めたという。

 講談社、角川書店、集英社、小学館、光文社、新潮社、文藝春秋の7社と作家122人は9月5日、自炊代行業務が複製権侵害にあたると指摘した上で、今後もサービスを継続するかなどについて、9月16日までに回答を求めていた。質問書は87社に届き、うち43社が回答した。

 その結果、「今後も依頼があればスキャン事業を行う」という回答は2社(4.7%)にとどまった。「差出人作家の作品について、今後スキャン事業を行わない」という回答や、事業の終了方針を記載したりサイトを閉鎖した事業者も合計37社(86.0%)に上った。無記載は4社(9.3%)で、質問書に返信しないままサイトを閉鎖・停止する事業者も数社確認された。

 また、スキャン事業の発注を受け付ける際に、依頼者が実際に私的使用を目的としているかどうかを確認しているかという質問に対しては、「特に確認していない」という回答が2社(4.7%)、「依頼者に私的使用目的であると申告させている」が14社(32.6%)、「上記以外の方法で確認」が19社(44.2%)、無記載が8社(18.6%)だった。

 なお、「上記以外の方法」の具体的な記載としては、すべて依頼者に私的使用目的である旨を画面上で確認・同意してもらうという趣旨のものであり、「依頼者の自己申告」以外の回答は見いだせなかったとしている。

 このほか、法人からの発注に応じているかどうかについては、「応じている」という回答が6社(14.0%)、「応じていない」が26社(60.5%)、無記載が11社(25.6%)だった。

 質問書への回答について出版社7社と作家122人は、「対象書籍のスキャン事業を行わない姿勢を示した回答が大部分だったことは評価できる」とコメント。その一方で、一部の事業者は今回の通知が「拒否リスト」であるとして、質問書の差出人となった作家と出版社の書籍以外は、著作権者の許諾がなくともスキャン事業を継続できるかのような発言が見られたことを挙げ、「通知書の趣旨と現行著作権法を曲解するもの」と非難している。

 今後は、未回答の事業者を含めて状況を注視し、特に悪質と判断した事業者については法的措置を含めて弁護団と対応を検討していくという。

2011年9月30日金曜日

ソニー、電子書籍端末「Reader」新モデルを発表、3G+Wi-Fi対応モデルも

http://ebook.itmedia.co.jp/ebook/articles/1109/29/news076.html

ソニーは、タッチ操作に対応するE Inkディスプレイ搭載電子書籍リーダー端末「Reader」の国内新モデルを2機種発表した。Wi-Fiや3Gといった通信手段を搭載し、価格は約2万円からとなっている。

電子書籍市場ではここ数日、発表が相次いだ。シャープはCCCとともに立ち上げたTSUTAYA GALAPAGOSを完全子会社とし、シャープとの協業を解消したCCCはネットエンタメ事業を「TSUTAYA.com」として別会社化した。さらに海外では、Amazonが199ドルという7型タブレットをついに発表し、Barnes & Nobleはそれに対抗すべく新モデルを間もなくリリースしようとしている。

そうした中、ソニーもいよいよ動いた。同社は9月29日、8月末にドイツで開催された「IFA2011」で発表したReader新モデルの国内投入を正式発表した。IFA2011で発表されたモデルは「PRS-T1」で、販売予定国に日本は含まれていなかったが、PRS-T1を日本市場に合わせた形にし、さらに国内市場向けに3Gモデルを用意した。

9月29日に都内で開催された製品発表会でお披露目されたのは、6型のタッチ対応E Inkディスプレイを搭載した「PRS-T1」と「PRS-G1」の2モデル。前者がWi-Fiモデル、後者が3G+Wi-Fiモデルとなる。カラーバリエーションは、PRS-T1がブラック・レッド・ホワイトの3色、PRS-G1がブラックとホワイトの2色。発売はPRS-T1が10月20日、PRS-G1が11月25日で、価格はオープンプライス。店頭予想価格はPRS-T1が2万円前後、PRS-G1は2万6000円前後とされている。

本体サイズや重さなどは以下の表の通りで、サイズ的には新書とほぼ同じサイズといえる。

PRS-T1PRS-G1
サイズ※最厚部110(幅)×173.3(奥行き)×9.6(厚さ)ミリ110×173.3×10.1ミリ
重量168グラム185グラム
通信方式IEEE802.11b/g/n3G、IEEE802.11b/g/n
内蔵メモリ2Gバイト
メモリカードスロットmicroSD
バッテリー持続時間最長7週間最長5週間
価格2万円前後2万6000円前後
発売日10月20日11月25日
PRS-T1およびPRS-G1のスペック

 
新モデルで目を引く特徴は大きく2点。1つは、従来モデルのように電子書籍の購入にPCを介す必要がなく、内蔵した無線LAN機能を使って端末から直接「Reader Store」にアクセスし、Reader単体で電子書籍を購入できること。もう1つは、3G接続も可能な「PRS-G1」をラインアップしたことだ。現時点でPRS-G1は日本でのみ発売され、反応を見ながらグローバルに展開したい考えだ。

3G接続のパートナーにはKDDIを選択。プランは2種類用意され、Reader Storeにだけ接続できる「Reader Storeプラン」は、初年度の利用料金は無料で、2年目も1年目にReader Storeで1冊以上電子書籍を購入していれば無料となる(それ以外の場合は年額1050円)。3年目以降は年額1050円だ。また、Reader Store以外のWebブラウジングなどを行いたいというユーザー向けには、月額580円の「Webアクセスプラン」も用意している。3G契約は、本体をPCとUSB接続した上でWeb上で申し込む必要がある。

このほか、従来モデルからの変更点として、タッチパネルでの直感的な操作が可能になったことも見逃せない。従来は、フォントサイズの変更などもメニューから深い階層をたどって設定する必要があったが、新モデルでは、ピンチイン・ピンチアウトで文字サイズを変更できるなど使いやすさが格段に向上した。画面の解像度は従来モデルと変わらないが、フォントサイズは従来の6段階から8段階に変更可能になっている。また、日本語フォントは筑紫明朝が新たに採用された。辞書機能も強化され、英和辞典「ジーニアスG4」、英英辞典「Oxford American English」のほか、国語辞典として「大辞林第三版」を内蔵する。

端末から直接電子書籍を購入できるようになったことで、Reader StoreはPC WebだけでなくReaderに最適化されたサイトも用意された。BRAVIAの「おすすめナビ」などにも使われている同社のレコメンデーション技術「VoyAgent」も盛り込まれ、購入履歴や類似した購入履歴を持つユーザーの情報も加味して作品のレコメンドを行うスペースも確保されている。なお、端末にはReader Storeで先行販売する作品を含め、31作品がプリインストールされ、さわりの部分を読むことができる。

国内向けに投入されるモデルでは、Reader Storeの配信コンテンツ(.mnh)のほか、XMDF、.book、EPUB、PDF、TXTなどのフォーマットをサポート。EPUB 3.0についてはソフトウェアアップデートで対応する意向で、アップデータは無償で提供する考えだ。なお、利用頻度は従来より減ると予想される管理ソフト「eBook Transfer for Reader」は、新たにMac OSにも対応した。

 質疑応答では、この発表の数時間前に米Amazon.comが発表した「Kindle Touch」との価格差についての質問があった。タッチ対応のE Inkディスプレイを搭載したKindle Touchの価格は99ドルからとなっているのに対し、PRS-T1は海外での市場想定価格が約150ドルと割高感があることについて尋ねたものだ。

 この質問に対し、ソニーのコンスーマープロダクツ&サービスグループ VAIO&Mobile事業本部デジタルリーディング事業本部の野口不二夫氏は、「(99ドルのKindle Touchは)広告付きのモデルである点に注意が必要。Kindle Touchで広告なしのモデルは139ドルからなので、実質的にはほとんど差はないと考えている」と回答。ただし、広告を入れることで本体価格を下げたAmazonの取り組みには興味を示し、広告付きで本体価格を下げる施策も検討したいと述べた。しかし、「Amazonとはビジネスモデルが違う。同じ業態ではない」とし、ソニーの考えるビジネスモデルでどう拡大させていくかが問題」であるとし、ソニーのビジネスドメインの中でシナジー、優位性を追求していきたいとした。

シャープ、CCCと提携解消-電子書籍事業を独自展開

http://www.asahi.com/digital/nikkanko/NKK201109280016.html

シャープは27日、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)と電子書籍配信事業での提携を解消し、共同出資会社を9月30日付で完全子会社化すると発表した。解消理由について大畠昌巳執行役員は「幅広いコンテンツサービスに拡充するには独自で活動した方が目指すところに近くなる」と話している。
両社は2010年12月1日にシャープが49%、CCCが51%出資してツタヤガラパゴスを設立し、シャープの電子書籍端末「ガラパゴス」向けにコンテンツ配信サービスを開始した。同社のCCC出資分をシャープが買い取り、社名もガラパゴスネットワークスに変更する。現時点で約3万6000あるコンテンツ数などサービス内容はそのまま継続する。
シャープは電子書籍専用端末の販売を今月末で終了し、スマートフォンやタブレット向けのサービスに移行。一方、CCCは6月に電子書籍サービスを独自に始めるなど、同事業で両社の方向性がずれ始めていたことが提携解消につながったと見られる。

2011年9月29日木曜日

米Amazon.comが最新「Kindle」発表、Androidアプリ対応モデルも

http://k-tai.impress.co.jp/docs/news/20110929_480424.html

 米Amazon.comは、電子書籍端末「Kindle」の最新モデルを発表した。発表モデルは「Kindle」「Kindle Touch」「Kindle Touch 3G」のE INK採用電子ペーパーモデル3製品と、カラー液晶ディスプレイ搭載の「Kindle Fire」。

 「Kindle」は、Amazone.comが展開する電子書籍リーダー。価格は「Kindle」が79ドル(約6000円)で、「Kindle Touch」が99ドル(約7500円)、「Kindle Touch 3G」が149ドル(約1万1400円)、「Kindle Fire」が199ドル(約1万5000円)。「Kindole」は本日より米Amazone.comで販売が開始され、そのほかのモデルは本日より予約を受け付ける。発売は「Kindle Fire」が11月15日、「Kindle Touch」と「Kindle Touch 3G」が11月21日。

 「Kindle」は従来のモデルよりも軽く、薄くなった。大きさは166×114×8.7mmで、重さは170g。ディスプレイは、6インチのE INK電子ペーパーを搭載し、内蔵メモリ容量は2GB。Wi-Fi対応。5方向のコントローラーを搭載する。動作時間は約1カ月。

 「Kindle Touch」と「Kindle Touch 3G」は、「Kindle」よりも少しサイズアップし、約173×119×10mm、重さは約212gとなる。ディスプレイサイズは「Kindle」と同じだが、マルチタッチに対応する。「Kindle Touch 3G」については、Wi-FiのほかAT&Tの3G網でコンテンツがダウンロードできる。内蔵メモリ容量は4GB。動作時間は2カ月。

 「Kindle Fire」は、これまでの「Kindle」シリーズとは一線を画したモデルで、ブラウジングや動画やゲーム利用などが可能なタブレット型端末となっている。

 映画、テレビ番組、音楽、雑誌、書籍、アプリ、ゲーム、ブラウジングなどが利用可能で、Amazonのクラウドサービスと連携するブラウザ「Amazon Silk」を搭載する。ディスプレイは、7インチ、1600万色表示のIPS液晶を装備し、マルチタッチをサポートする。デュアルコアプロセッサーを採用。内蔵メモリ容量は8GBとなる。

 また、端末プラットフォームはAndroidと見られ、「Amazon App Store」からアプリが利用できる。電子書籍フォーマットはKindle(AZW)、TXT、PDFなどをサポートする。なお、「Amazon Silk」は、Amazon Elastic Compute Cloud(Amazon EC2)という(Amazon EC2)という仮想サーバーを利用して、人気のあるWebサイトをキャッシュしながらブラウジングの高速化を図るとしている。

 約191×119×11mmで、重さは約414g。動作時間は8時間。


■ URL
 ニュースリリース(Kindle、英文)
 http://phx.corporate-ir.net/phoenix.zhtml?c=176060&p=irol-newsArticle&ID=1610968&highlight=
 ニュースリリース(Silk、英文)
 http://phx.corporate-ir.net/phoenix.zhtml?c=176060&p=irol-newsArticle&ID=1610970&highlight=