2012年1月27日金曜日

教科書市場再編目指すアップルEテキストのビジネスモデル

http://www.ebook2forum.com/members/2012/01/apple-strategy-to-change-textbook-market/

アップルの出版戦略の要ともいえるiBook Author (iBA)の持つ多様なコンテクストについては前号でまとめたが、主要なターゲットである電子教科書の市場での成功は、基本的にマグロウヒルやピアソンのような既存出版社とのパートナーシップにかかっている。先週のイベントでは、一律14.99で販売するプランが発表された。これにはマグロウヒルが参加することになっている。そこにはどんなビジネスモデルと収益構造が考えられるだろうか。

アップルのプランでは、電子教科書は学生に(直接あるいは教育機関を通して)15ドルで、1年間の期限付で提供される。1冊買った学生が別の教科書を購入する可能性はかなり高い。これまでにも学生は(不況にもかかわらず)かなりの経済的負担に耐えてきたので、受忍限度までは買うだろう。米国の学生は、とにかく大量のテキストを読む。マグロウヒルのような出版社は、75ドルの紙の教科書と15ドルの電子教科書が釣り合うと考えているが、それはボリュームが5倍以上になり、利益率も向上すると考えているからだ。

アップルの手数料が、通常の30%なのか、それともそれ以上/以下となるかは見えていない。15ドルの30%の4.5ドルとすると、出版社の売上は10.5ドル。75ドルを超えるには7.2冊必要だが、もともと75ドルの本の市場は限られていたので、出版社は5倍以上は売れると考えているのだろう。そして利益率は紙の数倍になる。マグロウヒルは15ドルという価格をテストケースと考えているが、アップルはそれ以上を考えるつもりはないようだ。

iPadは高額なので、一般的には高校生よりも大学生が主要なターゲットとなるはずだ。しかし大学市場では出版社が独自のチャネルを持っているので、当面は高校生から始めざるを得ない。15ドルプランは、高校からカレッジレベルをターゲットにしている。500ドルのiPadは敷居が高いが、市場の規模を決定するのは、教科書コストを含めた教育費用としてみた学生側のコストメリットだ。Eテキストが安く提供できれば、教育費用には影響せず、逆にお釣りがくる。そして出版社も量販が可能になる。これまで高等教育用教科書はかなり高額で、大学生の印刷本は100ドル前後もしていたので、古書やレンタルも含めた流通システムも成立していた(最大手はB&N)。アップルの戦略はこれらを含めた再編を狙っている。

日本の教科書市場は義務教育レベルが中心だが、2年制のコミュニティ・カレッジを含めた大学生が1700万人を超え、平均レベルの大学では学生一人当たり年1,000ドル以上を教科書に遣う米国では、大学教科書は独立した存在感を持っている。また、カレッジレベルでは高校教科書、学部レベルでは専門書の市場ともリンクしている。エルセビアやシュプリンガーなど欧州系の大出版社も含めて、出版社は世界市場に展開しており、米国はその中での最大市場、中国とインドは最大の成長市場となっている。

2012年1月26日木曜日

電子書籍のページが「リアル」になるiPadアプリ:動画

http://wired.jp/2012/01/25/multi-touch-ipad-e-book-lets-you-flip-pages-like-a-deck-of-cards/

指でパラパラしたり、ひとつのページを押さえながら別のページをさっと探したり。まるで紙の本のように電子書籍のページを自在にめくるアプリを動画で紹介。

http://www.youtube.com/watch?feature=player_embedded&v=rVyBwz1-AiE

電子書籍のページをパラパラとできる、このデザインは素晴らしい。米Apple社のドキュメントにはないプライベートなAPIが利用されているので、『App Store』にお目見えする可能性は低いが、だからといって、この素晴らしさは損なわれない。

韓国科学技術院(KAIST)情報技術融合研究所によるこのデモは、現在私たちが手にしている電子書籍が、まだ出来が悪いものであることを証明している。

タブレットによる電子リーダーの大半には、装飾的な「ページめくり」アニメーションが備わっているが、これは気が散るとして機能をオフにする人が多い。しかし実際の紙の書籍のページは、親指でパラパラしたり、ランダムに開いたり、さっと探したりといったことができるし、ページの間に指を挟んで複数のページにまとめて印をつけたりもできる。KAISTによるこのプロトタイプは、素早く簡単に移動できる紙のメタファーを利用することで、そんな便利さをマルチタッチの画面に持ち込んでいる。

小説を読んでいるときはこうした機能は不要かもしれないが、雑誌やマニュアルについては、こういう「リアルなページ」があると便利だろう。もしウェブブラウザのタブがこれと連動するなら、筆者はすべての仕事を『iPad』でやれるようになるかもしれない。

確かに、これは古い時代への逆行なのかもしれない。サムネイルなどを使って、ページを素早く拾い読みできる新しい方法を見つけ出し、紙のメタファーのことは忘れてしまうべきなのかもしれない。それでも、とても印象的なアプリだし、ぜひ買いたいと思う。

青少年E-Book市場開拓の鍵は「ソーシャル」

http://www.ebook2forum.com/members/2012/01/us-children-prefer-ebooks-more-than-ya/

米国バウカー社が行っている定期の出版市場調査PubTrack Consumerが、10-11月度に行った調査で、12歳以下の児童ではE-Bookへの関心は高いものの、それ以降では相対的に低いことが明らかにされた。もちろんデジタルが嫌いなわけではない。子供から大人への時期は、読書習慣(つまり読書市場)の形成上で重要な意味を持つが、課題はE-Bookにおける「ソーシャル」と利用の「自由」ということのようだ。(paidContent, 01/23)
児童・青少年市場の規模は30億ドル(2010)で、E-Bookは金額ベースで児童書の11%、青少年(YA)図書の13%が占めている。E-Bookの平均価格は印刷本の40~60%ほどなので、点数ベースのデジタル化率は、いずれも20%を越えていることになる。出版社はこの市場の成長を担うものとしてE-Bookに期待している。この調査は、市場の区分を反映して、0-12歳の子供を持つ両親と13-17歳の子供を持つ両親の2つのグループに対して行われた。

0-12歳市場
27%の子供は自分のコンピュータを持ち、25%がiPhone、12%がiPod Touch、7%がE-Readerを保有するなど、デバイスの浸透はかなり進んでいる。また親が新製品を購入する際のお下がりや親との共有が多いので、親のガジェット好き、デジタル好きが影響する傾向も読める。レポートによると、2011年の初めのデータで、家庭の児童書のうち、新規購入は37%で、34%はお下がり、17%はプレゼント、9%が図書館の借り出しとなっており、譲渡や貸し借りがほとんど出来ないE-Bookは不利だ。75%はまだE-Bookを購入したことがないが、うち半数以上が「近いうちに」と答えており、E-Bookを買う両親が増えることで、ある程度は自動的に子供のEリーディングも増えていくだろう。しかし、両親の3分の2は、子供には印刷本を読ませたいようで、紙でもデジタルでも気にせず、Eリーディングを楽しんでいる子供と対比を見せている。

13-17歳市場
驚いたことに、ティーンはあらゆる年代の中でE-Bookへの適応が最も遅れている。66%は印刷本のほうを好み、選り好みしない26%、デジタルを好む8%を圧倒している。レポートによると、これはE-Bookのソーシャル・ネットワーキングへの対応が遅れているのが主な理由のようだ。また利用に制約が多すぎると考えている子供も、1年で6%から14%に増加している。リーディング・デバイスの保有率は高くないが、6割は両親からのお下がりがあるので、2012年からは増加することが期待される。ティーン・エイジャーは、ソーシャルネットワークからの影響を最も受けやすいので、FacebookやTwitterからすぐに購入できる環境や、E-Bookプラットフォームでのソーシャル・リーディング対応を進化させることが課題となっていると見られる。もともと読書率が下がるこの年代は、ほとんどがPCを保有し、スマートフォン、ゲーム機と使い分けているが、E-Bookの機能性を高めないと読書は印刷本で完結していたものと思われる。この年代の市場開拓は児童より難しいが、課題を克服できれば潜在市場は大きいと見られる。

〈はじめての青空文庫〉タブレット広まり利用者急増

http://www.asahi.com/culture/news_culture/TKY201201240364.html

 インターネット図書館の先駆けとして、15年前に始まった青空文庫。昨年、収録作品が1万点を超えた。折からのタブレット型端末の普及で、利用者も着実に増えている。

■元日の告知

 「あまねく人の上に広がる青空のように、万人が本を共有できたら」。横浜市のライター、富田倫生(みちお)さん(59)ら4人の呼びかけで始まった青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)。毎年元日に、著作権が新たに切れ、収蔵可能になった作家が告知される。今年は童話作家の小川未明ら15人が加わった。

 利用が無償なら、入力や校正もすべてボランティア。これまで編集者や学校の先生など延べ800人が支えてきた。高校のクラスや大学のサークルなど団体で参加する例も。ネットの掲示板やメールでやりとりしているという。

 入力方法は、元の本を見ながら手作業で打ち込むか、スキャナーで読み取って文字ファイルにする方法がほとんどだ。できあがったものをメールで運営サイドに送ると、ファイルが文庫の仕様に合わせた形に変換され、掲載される。

 文庫には、少数だが著作権の保護期間中のものもある。「スローなブギにしてくれ」などの著作がある片岡義男さん(71)の一部作品もそう。入力ボランティアの知人から公開を持ちかけられた片岡さんは「作品を広く読んでもらおうと賛同した」という。

■急増のわけ

 青空文庫はここ数年、アクセスが急増している。なぜだろうか。

 一つは、アップル社の「iPad(アイパッド)」などタブレット型と呼ばれる薄い板状の情報端末が続々と登場したのが理由だ。無料または有料の専用ビューワー(閲覧用ソフト)を導入すれば、画面にタッチしてめくったり、ワンクリックで次ページに進めたりと、紙の本を読む感覚に近づいた。また、図書館や電子書籍販売サイトなど多方面から文庫にリンクが張られるようになったのも大きい。

 青空文庫は現在、テキストファイルとXHTMLファイルの2種類が中心だ。テキストファイルはダウンロードしてワードやメモ帳に貼り付けても読めるし、XHTMLファイルなら「インターネットエクスプローラ」などのウェブブラウザーで、そのまま読める。

■「暗黒」の恐れ

 急成長の青空文庫だが、富田さんは「暗黒時代に突入する可能性がある」と危惧する。かぎを握るのは、著作権だ。

 出版物の場合、日本の著作権は、作者(翻訳ならば翻訳者も)の死後50年で切れて利用は自由になる。ところが、ここにきて環太平洋経済連携協定(TPP)などで、著作権の保護期間を20年延長して70年にできないかという議論がクローズアップされてきた。

 保護期間が延びても「今切れているものについて再延長にはならない」(文化庁)が、仮に来年から延びるとすれば、新たに文庫に仲間入りする作家が2033年まで途絶える。ゲーム機の文学全集ソフトや視覚障害者のための点訳など文庫の二次利用も制限され、富田さんは「文化の発展にとって大きな損失」と話す。

2012年1月25日水曜日

米国のEリーダ保有が3年連続急上昇、読書層全体に

http://www.ebook2forum.com/members/2012/01/us-ereaders-ownership-doubles-over-holiday-season/

2010年のホリデー・シーズンと同様、E-Bookの売上がまたも急上昇していることが確認されているが、1月23日に米国のNPOシンクタンク、ピュー・リサーチ・センターが発表した最新レポートで、タブレットとE-Readerの普及も倍増に近いペースで進んだことが明らかになった。これで3年連続だが、ベースが高くなっているので出版全体への影響は過去2年とは比較にならないだろう。

ピュー・センターは、米国人の知的生活におけるインターネットの影響を定期調査によってフォローしている (American Life Project)。11-12月に行われた電話による調査は16歳以上の2,986人を対象とし、1月の調査は18歳以上の2,008人を対象としている。11-12月中旬に10%だった成人のタブレット保有率は、数週間後の1月初旬には19%となり、E-Readerも同じ増加が見られた(誤差±2%)。タブレットの保有率はとくに中心的な読書層である年7.5万ドル以上の中所得以上の高学歴層で高く(36%)、カレッジ卒業以上では31%になっている。E-Bookの購入者は男性より女性に多い。

ホット(E-Reader)とクール(タブレット)は共存

E-Readerとタブレットを合わせたリーディング・デバイスの保有率は、18%から29%に上昇しているが、おそらくこれは米国の中心的読書層にEリーディングが行き渡ったことを示すものだろう。ちなみに。両方のデバイスの性格はかなり異なっており、活字メディアに限れば、タブレットは新聞・雑誌に強く、E-ReaderはE-Bookに強い(両方を保有するのは約1割)。後者はタブレットによって影響を受けると見られていたが、iPad登場時と同じく、Kindle Fireの登場によっても影響は受けなかったことになる。自慢ではないが、本誌の予測が再び実証された。
多機能の汎用機は専用機を兼ねるというのは、必ずしも真実ではない。TVの映画放送によっても映画館はなくならないのと同じだ。読書という行為は、広告を散りばめた新聞を読むのとは違う。中断され、集中を邪魔されては困るのだ。モードの違いだが、マクルーハンが説いた、ホット(没入型)メディアとクール(散漫型)メディアの関係は、21世紀にあっても継続している。商業メディアやマーケティングなど「業界人」は、基本的に「クール」の価値を絶対視しているので、ホットなものの存在意義を見落とすのである。職業病のようなものか。