2011年10月7日金曜日

EPUB採用の電子書籍サービス「Yahoo!ブックストア」年内開始へ

http://internet.watch.impress.co.jp/docs/event/ceatec2011/20111007_482445.html

ヤフー株式会社は7日、自社の最新サービスを紹介するカンファレンス「Yahoo! JAPAN Day」を「CEATEC JAPAN 2011」の会場で開催した。その中で、電子書籍配信サービス「Yahoo!ブックストア」を2011年中にもスタートさせることが表明された。フォーマットとしてEPUBを全面的に採用。2012年4月には、オンラインストレージサービス「Yahoo!ボックス」を活用したクラウド型の書庫機能も提供する計画。

● 「Yahoo!コミック」を総合電子書籍販売ストアへリニューアル

電子書籍配信サービスについて講演を行ったのは、ヤフー株式会社の高田正行氏(R&D統括本部 フロントエンド開発2本部 開発1部 部長)。現在の電子書籍市場については「昨年ごろから『電子書籍元年』と言われ続けているが、現在もリクープ(費用回収)しきれていないというか、大成功している事業者は少ない」と分析する。

その理由については、作品の品揃え、サービスの仕様などが一般に課題として挙げられるが、電子書籍を閲覧するために必要なスマートフォンやタブレットの市場規模が現時点で2000万台に達していない点が重要ではないかと高田氏らは分析する。「2000万」という数字は、関連する商品の市場が成立するために必要な「マジックナンバー」なのだという。

高田氏は「スマートフォンやタブレットが1000万台を超えはしたものの、PCの普及の実績を鑑みると、やはり2000万台がリクープラインになると思う」と解説。今年末から来春にかけて2000万台達成が見込まれることから、事業展開上でのスケールメリットは拡大するとした。

また、ヤフーでは、紙製の書籍を電子化した「電子書籍」だけでなく、各種のコンテンツ配信サービスを「電子出版」と捉えている。マスコミから提供を受けたニュースをウェブに最適化した上で配信する「Yahoo!ニュース」、著名雑誌の記事が一部読める「X BRAND」なども、ある意味において「ブラウザーで閲覧する電子書籍」と定義。さらに、いわゆる電子書籍型の漫画配信サービスである「Yahoo!コミック」や、「Yahoo!ショッピング」「Yahoo!オークション」での紙版書籍の流通も電子出版の一形態とすることで、各サービス間の相乗効果を高める方針を従来から示している。

Yahoo!ブックストアは、この既存電子出版サービスの1つであるYahoo!コミックをリニューアルする形式でスタートさせる。これまでは漫画のインターネット配信専門だったが、その他のカテゴリーの取り扱いを開始。総合電子書籍販売ストアへと発展させる。当初はスマートフォン、タブレット、PCからの閲覧を想定する。

リニューアルは年内にも実施する予定という。なお、Yahoo!コミックはすでに約8年に渡って運営。累積利用者数は約300万人としている。

● 「Yahoo!コミック」を総合電子書籍販売ストアへリニューアル

Yahoo!ブックストアの開設にあたっては、サービスの基本理念にあたる「電子書籍3原則」を消費者向け・出版社向けにそれぞれ制定した。

まず消費者向けには「すべての本を探せる、買える」「マルチデバイスで読める、所有できる」「ソーシャル連携で感動が深まる、繋がる」の3つを標榜。高田氏は「“オープン”を第一にするということ。端末も、フォーマットもオープンにしていく」と、そのオープン性を特に強調した。

対して、Yahoo!ブックストアで電子書籍を販売する業者、つまり出版社向けには「販売価格や期間を自由に設定できる」「課金のみならず、広告モデルも選択できる」「国内外を問わず同じプラットフォームで販売できる」の3つを示した。

高田氏は「Yahoo!ブックストアは、ヤフー自らが本を編集したり独自に値付けして販売するサービスではない。本が購入しやすい場所を提供するが、あくまでも(販売の)主体となるのは出版社や、コンテンツの権利を保持する会社。形態としては、Yahoo!ショッピングやYahoo!オークションを思い浮かべていただくとわかりやすいだろう」と説明。販売業者と消費者を取り持つプラットフォーム役に徹する方向性を示した。さらに、単なる書籍の販売だけに止めず、ヤフーの強みである検索、広告との連動はもちろん、海外市場への展開なども模索していく。

 Yahoo!ブックストアはオープン性の高さを標榜することから、書籍のフォーマットにはEPUBを全面的に採用する。「(オープンな仕様である)HTMLを使ってウェブでサービスを展開してきた我々としては、HTMLにより近しい(EPUBという)フォーマットでやっていきたい」と説明する。

 その技術仕様が完全には確定していないEPUBだが、Yahoo!コミックではすでに相当の利用実績があるという。「実は今年3月から、部分的にEPUBを導入している。国内の商用運用実績はナンバーワンだろう」と、高田氏は胸を張る。

 具体的な例としては、東日本大震災発生直後、集英社が実施した「週刊少年ジャンプ」のネット向け無料配信がある。このフォーマットにEPUBが採用されており、アクセスの集中を踏まえた運用実績もすでに積んだ。また、EPUBによる有料配信作品もすでに600点程度ラインナップ。EPUBビューアー自体の提供も行っている。

 出版社向けには、EPUBによるコンテンツ作成のコンサルティングも計画。高田氏は「EPUB 3.0が先般策定され、縦書きやルビといった日本ならではの出版表現も再現できる可能性が高まってきた。ただ、我々が勝手にフォーマットを決めるのではなく、出版社とも十分協議し、最適な、一度作ればずっと使えるフォーマットを提案していきたい」とも説明。柔軟な対応方針を見せた。このほか、人気コンテンツの品揃えに注力する姿勢も示している。

● 1つのIDで複数端末に対応、「クラウド書庫」も
 
国内最大手ポータルサイトを持つ強みを生かし、電子書籍販売サイト以外でのプロモーションがワンストップで行えるようにする。「Yahoo! JAPAN」トップページでの露出はもちろん、動画サイトの「GyaO!」で関連動画を配信したり、同様に「Yahoo!モバゲー」でゲームを配信するなど、多面的な販売促進策がとれると高田氏はアピールした。

 サービスの細かな仕様面では、まず「Yahoo! JAPAN ID」1つで複数の端末から閲覧できるようになる予定。割引プラン、ポイント、プレミアム会員向け特典なども制度として導入されるという。また、コンテンツの配信形態についても、ダウンロード型の買い切り(売り切り)だけでなく、ストリーミングによる期間限定提供なども可能。

 Yahoo!ブックストア年内開始後のマイルストーンも示された。まず来年1月ごろに縦書き対応を予定している。高田氏は「現状でも縦書きは可能だが、クオリティ的に納得できていない。出版社とも協力して、何とか来年頭には実現させたい」と語る。同時に、外部サービスとの連携機能も追加する予定。外部電子書籍ストアの作品をYahoo!ブックストアで検索・購入できるようになる見込みという。

 続いて3月には、ソーシャル連携機能の追加、複雑な組版書籍への対応も実施。さらに4月には、近く開始予定のオンラインストレージサービス「Yahoo!ボックス」とも連動させた「クラウド書庫」の提供を計画している。

 壇上では、実機を使ったデモンストレーションこそ行われなかったが、高田氏は「リニューアルを正式発表できる段階で、また改めてサービスの詳細を説明したい」と予告。講演を締めくくった。

2011年10月6日木曜日

2011年10月4日火曜日

iPad追撃へ燃えるキンドル・ファイア

http://www.sankeibiz.jp/macro/news/111003/mcb1110030502013-n1.htm

■成功の絶対条件はコンテンツ戦略

 世界中のPCメーカーがこぞってタブレット型端末を生み出そうと試みてきた。しかし、これらの端末は消費者が一番求めていたある物を欠いていたため、成功には至らなかった。コンテンツがなかったのだ。

 だが、先週その全貌が明らかになったアマゾンのキンドル・ファイアは、それら敗者を尻目に成功を遂げるだろう。タブレット型端末を世に送り出すよりもずっと前から、アマゾンはコンテンツの獲得に力を注いできたからだ。

 多くの解説者が「果たしてファイアはアップルのiPad(アイパッド)に対抗できるだろうか」との視点から分析を加えているが、私はこの2つの端末が競い合うことにはならないと考えている。少なくとも、現時点では。

◆抜けて2社が優位

 なぜなら、現状の未成熟の市場では、タブレット型端末において本当のユーザー体験を提供できるアマゾンとアップルの2社だけが他社に比べて優位に立っており、それぞれがお互いの売り上げを奪い合う構図にはならないからだ。

 キンドル・ファイアの価格は199ドル(約1万5300円)。単なる好奇心からでも多くの人が購入を検討する手ごろな価格だ。もしかしたら、私がかつて経験したように、iPadとキンドル端末の両方を購入するかもしれない。

 長期的に見れば、2年後にアップルとアマゾンが互いに商売敵となって競争をし始めたときに、消費者の選択はいかにコンテンツが手に入りやすいかにかかってくる。今のところ、アマゾンはアップルに対して競争優位にある。これまでに、アマゾン上でコンテンツ製作者の商品を販売することによってコンテンツ製作者との取引関係をすでに築いているからだ。

この市場にとってもう一つ重要な要素となるのがユーザー体験だが、ここではアップルに軍配が上がるだろう。アップルはそのオペレーティングシステムと、システム上で使えるアプリを完全に管理できているからだ。それに対し、アマゾンは、グーグルのアンドロイドをオペレーティングシステムとして採用し、アプリにも一貫性がない。ユーザーにとっては頼りなく感じられるだろう。ただ、アマゾンの名誉のためにいえば、この新しいキンドル・ファイアにおいて彼らはユーザー体験の改善に最大限の努力を行った。

 タブレット型端末市場はいまだ若く、発展途上にある。タブレットPCなるものが出てきてからすでに10年ほどたつが、アップルがiTunesを通じたコンテンツ配信と、シンプルで調和のとれたユーザー体験を組み合わせて初めてこの市場が生まれたと言ってよい。コンテンツとユーザー体験、これが違いを生むのだ。覚えているだろう、さえない音楽機器が山のようにあった中で、アップルが初めてiTunesとiPodを組み合わせて独り勝ちしたことを。

 米ヒューレット・パッカード(HP)や、ブラックベリーを製造するカナダのRIM、そしてその他たくさんのハードウエアメーカーが競争力のあるハードウエア機器を作ろうと試みてきた。しかし、これらは10年前のタブレットPCとさして変わるところもないハードウエア機器にすぎないのである。コンテンツとアプリを欠いたタブレット型端末は、高価なウェブブラウザにしかならない。

 HPもRIMも、その他のハードウエアメーカーとともにこの市場から退散しようとしている。消費者は、「コンテンツはないが、動作の速い機器」には興味がない。初期のキンドルが、パワーが欠けていたにもかかわらずアメリカやヨーロッパで成功を収めることができた理由はここにある。アマゾンは大量のコンテンツを用意していたのだ。

 ◆年月かけ取引契約

 先週ニューヨークに滞在していた私は、キンドルやiPad片手に地下鉄に乗る人を何百人も見かけた。彼らがこれらの端末を何に使っていたか。皆一様に、何らかのコンテンツを読んだり見たりしていた。コンテンツのない機器は、地下鉄テストに落第してしまうだろう。この大切な鍵となる要素が、アップルとアマゾン以外のどのタブレット型端末にも欠けている。

 アマゾンのCEO(最高経営責任者)であるジェフ・ベゾスはこうしたコンテンツの価値を深く理解し、キンドル・ファイア発売のはるか前から、何年もかけて映画や音楽スタジオとコンテンツ取引契約を交わすために交渉を続けてきた。このプロセスは複雑で、ほとんどのハードウエア会社はやりたくもないだろうし、実際に着手もできないだろう。

 例えば、キンドルは日本市場ではまだ販売されていない商品だが、アマゾンは日本の消費者にも良い体験を提供したいと考え、すでに最低3年は日本で書籍の版権をめぐる交渉に取り組んできた。もちろん、映画や音楽コンテンツについても同じである。

 デジタルコンテンツビジネスに長年携わってきた者として私が言えるのは、コンテンツ獲得は簡単な仕事ではないということだ。なぜなら、大規模なコンテンツ保有者は、新しい機器によってもたらされ得る潜在的で長期的な収入増よりも、四半期あたりの収益率をより高めたいと考えがちだからだ。それでも、アマゾンは、タブレット型端末を成功に導くには、キンドルがハードウエア・プラットホームではなく、コンテンツ・プラットホームでなければならないことを理解している。

アマゾンはこの1つの目的に集中し、世界中のあらゆるタイプの出版社からデジタルコンテンツ契約を取りつけてきた。それに加えて、彼らはすでに大規模なユーザー基盤を抱えており、このユーザーたちをデジタルコンテンツの顧客に変貌させることは難しくない。これらすべてを考慮すると、ファイアの成功の道筋が見えてくる。

 ◆対抗ならグーグル

 ただひとつ、アマゾンやアップルにこの市場で対抗できる会社があるとするならば、それはグーグルだろう。もし、彼らがモバイル機器による決済ビジネスの拡大に成功し、その決済プラットホームにもっと多くのユーザーをひきつけることができれば、グーグルにとってデジタルコンテンツ分野へのビジネス展開は最良のプランになる。グーグルには、ビデオコンテンツ・プラットホームとしてはユーチューブが、そして書籍、雑誌、新聞といったその他のコンテンツのためにはアンドロイドアプリがあるのだ。

 グーグルがこれらを組み合わせて実際に始動させるまでは、アマゾンのキンドル・ファイアとアップルのiPadが、古びた馬車ばかり目につくこの世界にたった2台ある自動車として走り続けるだろう。

2011年10月3日月曜日

書籍“自炊”代行、「今後もサービス継続」は4.7% 出版社と作家の質問書に書籍スキャン事業者が回答

http://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/20111003_481348.html

書籍の裁断やスキャンを行う、いわゆる“自炊”を代行する事業者98社に対して、サービスの存続意志などを尋ねる質問書を送付していた出版社7社と作家122人は9月30日、事業者からの回答を公開した。それによれば、質問書の差出人に名を連ねる出版社と作家の書籍について、今後はスキャンを行わない姿勢を示す回答が大部分を占めたという。

 講談社、角川書店、集英社、小学館、光文社、新潮社、文藝春秋の7社と作家122人は9月5日、自炊代行業務が複製権侵害にあたると指摘した上で、今後もサービスを継続するかなどについて、9月16日までに回答を求めていた。質問書は87社に届き、うち43社が回答した。

 その結果、「今後も依頼があればスキャン事業を行う」という回答は2社(4.7%)にとどまった。「差出人作家の作品について、今後スキャン事業を行わない」という回答や、事業の終了方針を記載したりサイトを閉鎖した事業者も合計37社(86.0%)に上った。無記載は4社(9.3%)で、質問書に返信しないままサイトを閉鎖・停止する事業者も数社確認された。

 また、スキャン事業の発注を受け付ける際に、依頼者が実際に私的使用を目的としているかどうかを確認しているかという質問に対しては、「特に確認していない」という回答が2社(4.7%)、「依頼者に私的使用目的であると申告させている」が14社(32.6%)、「上記以外の方法で確認」が19社(44.2%)、無記載が8社(18.6%)だった。

 なお、「上記以外の方法」の具体的な記載としては、すべて依頼者に私的使用目的である旨を画面上で確認・同意してもらうという趣旨のものであり、「依頼者の自己申告」以外の回答は見いだせなかったとしている。

 このほか、法人からの発注に応じているかどうかについては、「応じている」という回答が6社(14.0%)、「応じていない」が26社(60.5%)、無記載が11社(25.6%)だった。

 質問書への回答について出版社7社と作家122人は、「対象書籍のスキャン事業を行わない姿勢を示した回答が大部分だったことは評価できる」とコメント。その一方で、一部の事業者は今回の通知が「拒否リスト」であるとして、質問書の差出人となった作家と出版社の書籍以外は、著作権者の許諾がなくともスキャン事業を継続できるかのような発言が見られたことを挙げ、「通知書の趣旨と現行著作権法を曲解するもの」と非難している。

 今後は、未回答の事業者を含めて状況を注視し、特に悪質と判断した事業者については法的措置を含めて弁護団と対応を検討していくという。