2011年6月15日水曜日

電子書籍がもたらした「価格の自由」 「本のリンク」が書籍のマーケティングを変える!

http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20110613/220732/?ST=manage

2010年は日本の「電子書籍元年」と呼ばれた。この年の前半にアップルがiPadを発表・発売した。後半には、日本メーカーが独自の電子書籍リーダーを競って発売した。紙の書籍が新刊として発行されると同時に、あるいはそのちょっと後に、電子書籍が発売されるケースが増えた。

電子書籍の登場で出版界は「価格の自由」を手に入れた

 こうして日本でもぼっ発した電子書籍戦争が、日本の出版ビジネスに与えた最大のインパクトは何だろうか?
 私は「価格変更の自由」だと考える。日本の出版業界は、長い間再販制度の下にあり、一度発売した本は同じ定価で売り続けるというやり方に慣れきっている。その定価の設定も、初版の発行部数を前提に、コストを積み上げて決めることが一般化している。このため、日本の出版ビジネスには「価格戦略」がほとんどなかった。売れ行きが悪いから値下げして売るといったことさえしないのだから。
 しかし、電子書籍には再販制度が適用されない。値下げも値上げも自由である。実際に時々、値下げされた電子書籍を目にする。そもそも、最初の価格設定がバラバラである。紙の本では、同じジャンルでページ数も同じぐらいなら、価格に大きな差がつくことは珍しい。でも、電子書籍を見ると、同じテーマを扱ったビジネス書が、大幅に異なる価格で売られていたりする。
 電子書籍の形式や内容ばかりに目が行きがちだが、価格の設定・変更の面で、紙版と電子版の書籍に大きな違いがあることに、もっと注目すべきである。著者は、2010年後半のほとんどの時間を電子書籍の執筆・製作に費やした。この短期連載では、この経験を元に、主に価格に注目しながら、電子書籍のマーケティング、そして電子書籍と出版ビジネスの関係を論じてみたい。

電子書籍で「本のリンク」を実現

 私はiPadの発表に刺激されて、「どうしても電子書籍を作りたい」「それも電子書籍ならではの工夫をした本を書き下ろしたい」と考えた。それを実現したのが拙著『マクドナルドはなぜケータイで安売りを始めたのか? クーポン・オマケ・ゲームのビジネス戦略』(講談社)である。最初から電子書籍化を前提に原稿を書き、2010年11月に紙版を発行、同年12月に電子版を刊行した。
 内容は、私が面白いと感じた価格戦略の実例を紹介し、解説するものである。マクドナルドやファミリーマートなど、最先端の価格戦略を実践していて、かつ身近な企業を題材にした。ゲームソフトやゲーム機の話も取り上げた。中学生でも興味をもって読める、経済学の入門書を本気で目指したからだ。
 この電子書籍は、iPhone用とiPad用のアプリとして発売した。電子書籍ならではの工夫をあれこれ検討し、いくつかは断念したが、いくつかは実現した。iPhoneの画面で読んだ時の文字の読みやすさを考えて、図で使う文字サイズなどを執筆前に決めていた。大量に動画をつけた。音声入りの動画もある。
今回、私が作った電子書籍の一番の工夫は「本のリンク」だ。これが後に説明する価格戦略と密接にかかわってくる。これを発想した経緯から説明しよう。
 『マクドナルドはなぜケータイで安売りを始めたのか?』には、ゲーム機のプレイステーションを題材にした章がある。私はそれほどゲーム機に詳しくない。それでも、中学生にも経済に興味を持ってもらうために、どうしてもゲーム機の話を入れたかったからだ。この章を書くため、関連する本を何冊も読んだ。その中で『美学vs.実利 「チーム久夛良木」対任天堂の総力戦15年史』(講談社)がダントツに面白いと感じた。このため、この章では、『美学vs.実利』からあれこれ引用している。
 偶然なことに、同書を担当した編集者の倉田卓史さんが私の電子書籍の担当になった。これが縁で、『美学vs.実利』の著者の西田宗千佳さんと電子書籍をめぐる話をする機会を得た。西田さんは2010年に『iPadvs.キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏』と『電子書籍革命の真実 未来の本 本の未来』という2冊の電子書籍関連本を出している。
 西田さんとの話し合いの中で思惑が一致したのが、私の本と西田さんの本を「リンク」することだった。具体的には、『美学vs.実利』の中で私が一番参考にした章を、私の『マクドナルドはなぜ……』の電子版にオマケとして丸々つけさせてもらう。他方、『美学vs.実利』の電子版が出るときには、私の『マクドナルドはなぜ……』でゲーム機ビジネスの基礎理論を書いた章を、オマケとして提供する。こうして1章ずつをオマケとして提供し合うことで、本と本をリンクさせようとしたのである。実際に、私の電子書籍の末尾には、西田さんの本の第3章がついている。
 本のリンクは、その輪をどんどん広げることを目指している。私自身が過去に講談社から出した本で、関連する部分を追加のオマケとしてつける。他の著者が新しく電子書籍を出す時にも、相互に関連する内容があれば、オマケを交換する。交換によって新しく提供してもらうオマケは、アプリの「無料アップデート」機能を使って読者に届ける。

「本のリンク」が書籍のマーケティングを変える!

 無料アップデートによるオマケの追加は、本の販売促進策として画期的なものである。もし、既にかなりの読者がいる電子書籍Aに、関連するテーマを扱った電子書籍Bの一部をオマケにつけることにして、無料アップデートできるようにするとどうなるか? 電子書籍Bにとっては、効率的な販売促進策になる。関連するテーマに興味がある読者に対して、特に関連性が深い部分を試し読みしてもらえるからだ。
 しかも、この販売促進策は、電子書籍が出版されてからかなり年月が経過した場合にも有効である。出版から何年か経過した本であっても、新刊としてこれから売り出す本とリンクすれば、ついでに宣伝できるからだ。これまで、本の販売促進は、新刊として発行する時に集中的に行うのが一般的だった。従って、発行時に売れないと、その後もヒットしない確率がきわめて高かった。だから、新刊として扱われる時期が過ぎてしまうと、余計に販売促進策が打たれなくなる。電子書籍の世界では、「本のリンク」を使うことで、この欠点を補うことができるのである。

マーケティングの工夫で電子書籍市場を切り開く

 電子書籍の市場は、日本ではまだまだ小さい。一般的に、電子書籍は儲からないというのが今の日本の現状である。売れているのは、紙版がベストセラーになった本の電子版が、紙版の“七光り”で売れるケースくらいではないだろうか。
 こうした現状を打破するために、著者や版元はもっと、電子書籍ならではのマーケティング戦略を工夫するべきだ。その時には価格戦略が重要になる。次回は、紙版と電子版それぞれの商品としての基本性質つまり「商品としての本の性質」を考える。その上で、その後の2回で、価格戦略についてもっと詳しく論じる。

2011年6月14日火曜日

電子書籍“権利者データベース構築”へ、米Book Rights Registryと欧州ARROWの両代表の討論会内容が公開

http://hon.jp/news/modules/rsnavi/showarticle.php?id=2470

米国の著作権管理団体の1つであるCopyright Clearance Center(本部:米国マサチューセッツ州)は現地時間の6月12日、業界ニュースブログにおいて、欧米それぞれで進行中の電子書籍権利者データベース構築プロジェクト「ARROW」および「Book Rights Registry」両代表による討論会の音声を公開した。

 欧州側の ARROWはもともと、米国のGoogle Book Search和解協議の副産物として考え出されたBook Rights Registryへの対抗馬として急きょ立ち上がった権利者データベース構築プロジェクト。双方ともまだまだ未完の巨大プロジェクトで、実質的にはライバル関係にあるが、先月ニューヨークで開催されたBook Expo Americaカンファレンスで両代表による公開討論会が行なわれた。今回公開されたのは、その内容。

 デジタル著作権業界の最新動向を盛り込んだ面白い議論内容となっているが、結論としては「世界統一の権利者データベースを構築するのは現実的ではなく、相互リンク方式のほうが現実的」というかたちで討論会を終えている。

紀伊國屋書店など4社、電子書籍の利便性向上に向けて共同合意

http://ascii.jp/elem/000/000/612/612576/

紀伊國屋書店、ソニー、パナソニック、楽天の4社は6月13日、日本における電子書籍サービスについて、顧客の利便性向上を図り普及・拡大を加速するため、共同で取り組むことに合意した。
 取り組みの内容は、(1)顧客が自由に電子書籍端末を選び、さまざまな電子書籍ストアからより多くの電子書籍タイトル(コンテンツ)を購入できる環境を整備・推進すること。具体的な目標としては、2011年後半から4社がそれぞれ提供、運営する電子書籍端末および電子書籍ストアが相互に接続できる環境の実現を目指す。(2)顧客がさまざまな電子書籍ストアから購入したコンテンツを、顧客自ら一元的に管理できる環境の提供。(3)リアル書店、ネット書店、電子書籍ストアの売れ筋情報が一目でわかるランキングを主体としたポータルサイトの開設、など。
 これらの取り組みの実現にあたっては、出版各社への協力を求めるとしている。また、電子書籍共通配信プラットフォームを提供するブックリスタとの連携も、併せて検討している。