2011年1月28日金曜日

実は重要! よくわかる電子書籍フォーマット規格!!

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一口に「電子書籍」といっても、実はそのフォーマット(データ形式)によってさまざまな種類が存在する。そのため、気に入った電子書籍を読む前に、その本がどのフォーマットのものなのか把握して、サポートしている閲覧用ソフト(あるいはハードウェア)を手に入れなければならない。いわば、VHS対ベータ、Blu-ray対HD DVDのような規格争いが電子書籍においても繰り返されており、主流となりそうなフォーマットはどれか、ある程度気に留めておく必要があるのだ。
 ユーザーとしては悩ましいところだが、閲覧用端末を数多く売りたいメーカーの思惑、不正コピーは避けたいがより多く流通させたい出版社の本音、場所や時間を気にせず紙同様に楽しみたい消費者の心情、その狭間で落とし所を見つけようという努力の結果が、フォーマットとしての電子書籍だといえる。
 電子書籍フォーマットは、いくつかの基準により分類できる。その分類を把握したうえで、電子書籍フォーマット個別の解説に進むことにする。

レイアウト方式の違い

 電子書籍フォーマットは、紙の印刷物と同様に所定のデザインに従って文字と図版を決まった場所に表示する「固定レイアウト方式」と、表示用デバイスや閲覧ソフトの設定に応じて文字と図版の流量を変えて表示する「可変レイアウト」の二方式に大別できる。
 固定レイアウト方式のメリットは、制作側が意図した通りのデザインで表示できること。その代表的な存在が「PDF」(Portable Document Format)で、紙の印刷物向けのデザインそのままを電子書籍ビューワーで再現できる。「JPEG」や「PNG」といった静止画ファイルも、デザインを変更できないという意味では固定レイアウト方式に分類できるが、拡大表示するとジャギーが発生し滑らかさが失われてしまう。その点PDFは、文字やベクター画像はスケーラブルで、どのような画面サイズ/解像度でも適切に表示できるため、静止画ファイルより優れているといえる。
 ではデメリットは何かというと、レイアウトを崩せないことだ。表示装置のサイズが変われば情報量(文字量や画像の点数)も上下するが、固定レイアウトではそれができない。作成時に想定された表示領域以外の表示、例えば画面サイズの大きなiPadとスマートフォンのiPhoneで同じ固定レイアウトの電子書籍を見た場合、iPadでは1ページにより多くの文章や画像を入れたくてもできないし、逆にiPhoneでは文章や画像が多すぎて小さく読みにくく感じる場合もある、という具合だ。
 可変レイアウトは、HTMLで作成されたウェブページをイメージしてもらうといいだろう。ハードウェアの画面サイズに沿った情報量の表示が可能なうえ、ハードウェアを縦横どちらの状態で持って閲覧しても、それに応じた表示を行ないやすい。この点がメリットで、小説など文字主体の電子書籍に向いている。デメリットは、雑誌やマンガのような凝ったレイアウトデザインの実現が難しい点だ。

仕様策定プロセスの違い

 グーテンベルクによる活版印刷の発明以前も以後も、「(紙に)文字や図を記録し他人の閲覧に供する」という書物のあり方に変わりはなく、その制作に際しての制約も課されていない。大量の部数や特殊な印刷技術を要する場合はともかく、極端な話、紙と筆記具さえあれば誰でも書物は制作できる。
 一方電子書籍の場合、いつでも気軽に制作できるわけではない。制作プロセスはコンピューター上で完結することが前提であり、表示用端末や閲覧ソフト、流通業者によって「フォーマット」が異なる場合が多いため、どのような読者を対象とするかを念頭に置いたうえで出力用フォーマットを決めなければならない。
 そのフォーマットは、単独あるいは少数の企業が策定プロセスに参加し以後の権利を保有する「プロプライエタリ(proprietary)なフォーマット」と、多数の企業や個人が策定プロセスに参加した「オープンなフォーマット」の2種類に大別できる。
 プロプライエタリなフォーマットの例としては、AmazonのKindleが採用する「Topaz」、ボイジャーの「.book」(ドットブック)やモリサワの「MCBook」が挙げられる。またセルシスとボイジャーが、「BookSurfing」フォーマットに対応するフィーチャーフォン・スマートフォン向け総合電子書籍ビューワー「BS Reader」(旧:BookSurfing)を提供している(.bookフォーマットをフルサポート予定)。
 これらのフォーマットで電子書籍を作成する場合には、契約を交わすなどして仕様書や専用の制作ツールを入手し、所定の方法で作業することが原則だ。
 オープンなフォーマットには、電子出版関連の企業を中心に構成される米国の標準化団体IDPF(International Digital Publishing Forum)が推進する「EPUB」が挙げられる。プレーンテキストやHTML/XMLのように、電子書籍フォーマットに応用可能な(狭義の電子書籍フォーマットではない)技術も、オープンだからこそ電子書籍を支える基礎技術として採用された面がある。オープンなため特定の制作ツールを用意する必要はなく、アプリケーションを選ぶ自由度は高い。
 PDFと、シャープが策定した電子書籍フォーマット「XMDF」(ever-eXtending Mobile Document Format)は、プロプライエタリとオープンの中間的存在といえる。PDFは、「電気分野を除く工業分野」における国際標準化機構ISO(International Organization for Standardization)に、XMDFは「電気/電子工学、関連技術」を扱う国際電気標準会議IEC(International Electrotechnical Commission)に、それぞれ認定されている国際標準規格だ。
 PDFについては、米国の工業分野標準化団体ANSI(American National Standards Institute)内のCGATS(Committee for Graphic Arts Technical Standards)がPDF/X(PDF for Exchange)の規格化を行ない1999年にISOに提出して、2001年に国際標準化がなされた(ISO15930)。
 また2007年には、Adobeがエンタープライズコンテンツ管理に関する国際的な非営利機関AIIM(The Association for Information and Image Management)にPDF 1.7の全仕様を譲渡し、そのうえでISOへの提出がなされた。AIIMは、PDF/A(PDF for Archive、ISO 19005)、PDF/E(PDF for Engineering、ISO 24517)、PDF/UA(PDF for Universal Access、ISO/DIS 14289)、PDF/H(PDF for Healthcare)の管理を行なっている。
 XMDFは、規格を制定するまでのプロセスがオープンではなく、特定企業が仕様として完成させたものを公開する形となっている(IEC62448)。

機能の違い

 電子書籍フォーマットを選ぶ基準は、出品先のオンラインストアが定める形式だからということが最大の理由として挙げられることが多い。しかし、フォーマットごとの機能差もまた判断の基準となりうる。
 ここ日本の場合、小説など読み物の多くは縦書きで右から左へとレイアウトされているため、これに対応するかどうかは重要なポイントだ。ルビや圏点、縦中横といった日本語組版で多用される表示は、海外発の電子書籍フォーマットではサポートされないことが多いため、これらを併せて「日本語をサポートしているかどうか」の判断基準とする。EPUBやTopazなど世界規模で流通しているフォーマットは、このサポートが後手に回る傾向があり、その意味では日本発の3フォーマットとPDF以外は(現状では)日本語対応でないといえる。
 図版の対応も重視される。写真などのラスターデータ(サイズ固定で見るイメージデータ)にはJPEGやPNGを使うとして、イラストなどのベクターデータには拡大してもジャギーが発生しないPostScript/PDF、SVGが好まれるからだ。
 ほかにも、動画や音声といったマルチメディアデータ、ユーザーの操作により動的に変化する要素(インタラクティブ性)、フォントの埋め込み、デジタル著作権管理機能(DRM/Digital Rights Management)など、電子書籍フォーマットにより対応が異なる機能は多い。

主な電子書籍フォーマットと特徴(2011年1月現在)
名称中心となる
団体
拡張子オープンDRM静止画音声動画リフロー縦書き
AZW/MOBI、Topaz(Kindle)Amazon.azw、.tpz××
CEBX方正.cebx
EPUB 2IDPF.epub×
EPUB 3IDFP.epub
HTML5/CSS3W3C.html×
MCBookモリサワ.mcb×
MobipocketMobipocket.mobi、.prc、.azw××
PDFAdobe.pdf
XMDFシャープ.zbf、.mnh
.bookボイジャー.book、.ttz×
プレーンテキストなし.txt××××××

リフロー:端末や閲覧ソフトの設定に応じて画面あたりの文字数を自動調整する可変レイアウト

主な電子書籍フォーマットの閲覧環境と作成ツール(2011年1月現在)
名称閲覧可能なプラットフォーム作成ツール
Androidbiblio Leaf SP02iOSKindlePCReaderフィーチャーフォン
AZW/MOBI、
Topaz
×××Kindlegen
EPUB 2△(Wave Text Viewer)各種
EPUB 3各種
CEBX××××方正飛翔など
HTML5/CSS3各種オーサリングツール
MCBook×××××MCBook Maker
Mobipocket×××Mobipocket Creator
PDFAdobe Acrobatなど
XMDF△(GALAPAGOS)△(電子文庫パブリ for iPhone)×XMDFビルダー
.book×××○(BS Reader)BS BookStudio
プレーン
テキスト
汎用のエディター


AZW/MOBI、Topaz(Kindle)

 Amazonの電子書籍プラットフォーム「Kindle」は、2つの専用電子書籍フォーマットに対応している。ひとつが「AZW」、もうひとつが「Topaz」だ。ハードウェアとしてのKindleそのものはバージョン2(Kindle 2)からPDFをサポートしているが、、Amazonで販売されている電子書籍タイトルは、AZWかTopazのいずれかとなっている。

日本語フォントを収録し、あとは縦書き対応を待つばかりの「Kindle」(写真はKindle 3)

 AZWは、仏Mobipocket(2005年にAmazonが買収)が開発したフォーマット「MOBI」をベースとしている。DRMのサポートが追加されたことと拡張子が異なることを除けば仕様に違いはほとんどなく、Kindle端末でもMOBIファイル(.mobi/.prc)を閲覧できる。
 表示はリフロー(端末や閲覧ソフトの設定に応じて画面あたりの文字数を自動調整する可変レイアウト)を基本とし、ハイパーリンクでウェブにアクセスすることが可能。Mobipocketと同様、HTMLをソースに制作されることが一般的だが、EPUBをAZWに変換してKindleで読むというユーザーも多い。
 2008年後半に投入された新フォーマット「Topaz」(.tpz)は、フォントの埋め込みをサポート。そのぶんAZWに比べファイルサイズが大きく、表示速度に劣る傾向がある。AZWの作成用には、HTMLを素材として手軽に作成できるツール「KindleGen」が登録の必要なしに無償提供されているが、Topaz用は一般公開されず契約を交わした企業に限定されている。
 Kindleは、専用端末以外にもWindows/Mac OS Xやスマートフォン(iOS/Android)上で動作する閲覧ソフトを無償配布している。読者情報や読んでいる途中のページ数は同期されるため、 Windows/Mac OS X用ビューワーで読んだ続きをiPhone/iPod touch/iPad/Androidで読む、という使い方も可能だ。この機能はフォーマット側でサポートされているわけではないが、どこでも買えるし読めるという、Kindleのポリシーを支える重要な要素となっている。

WindowsやMac OS X、iOS/Android、専用端末などで、場所を選ばず読書できる点がKindleの強み(画面はiPhone版)

EPUB

 AppleのiPad/iPhoneやGoogle eブックストアなどが採用する「EPUB」は、電子書籍関連企業で構成される米国の標準化団体IDPFが策定を進める電子書籍フォーマット。ウェブで実績のある技術を電子書籍に転用し、XML/XHTMLをベースにCSSでレイアウトを行なうことで、電子書籍としての体裁を整えることが特徴だ。ロイヤリティーのないオープンなフォーマットであるうえ、Apple、Barnes & Noble(Nook)、Google、ソニー(Reader)など多数の企業が対応していることもあり、世界に向けて発信できる電子書籍フォーマットのひとつとされている。

Appleが「iBooks」でEPUBをメインの電子書籍フォーマットとして採用すると発表、一気に注目が集まった

 表示はリフローが前提で、表示装置の違いによる制約は少ない。ウェブの技術をベースとしているうえ、欧米のメンバーを中心にフォーマットの仕様が固められた経緯から、現行の仕様(EPUB 2.0.1)では横書きなど日本語の組版に欠かせない機能のいくつかがサポートされていない。
 ただし、今年前半にも勧告される予定の次バージョン「EPUB 3」では、縦書きがサポートされる。日本人メンバーを中心に構成されるIDPF内のグループ「Enhanced Global Language Support sub-group」(EGLS)の働きかけにより、縦書きを可能にする2つのライティングモードがCSS 3に採用されることが決定したからだ。禁則処理や傍点についても対応される予定で、日本語のサポートは大幅に向上する。
 EPUB 3では、HTML5の機能が多く採用される。ルビの表示や動画の埋め込みは、HTML5で規定されているものだ。

HTMLとCSSというウェブの技術を生かして制作できるところが強み(画面はオーサリングツール「Sigil」)


XMDF

 シャープが策定した電子書籍フォーマットXMDFは、同社小型端末「ザウルス」向け電子書籍配信サービス用として2001年に登場して以来、多くの電子書籍サービスに採用された実績を持つ。NTTドコモの「M-stage book」サービスやKDDI(au)の「EZ-book」サービスをはじめ主要携帯キャリアに公式採用されていることもあり、十分有力な電子書籍フォーマットといえるだろう。
 表示はリフローを基本としたもので、そこに多彩な日本語表現を可能にする仕様がいくつも盛り込まれている。たとえば、縦中横(縦組みの文書の中で英数字を横組みで表現する方法)やルビのサポート。行頭/行末の禁則文字や追い出し文字をタイトルごとに設定できたり、外字を画像またはフォントとしてコンテンツに内包したりできる。
 小説などの文芸書、コミックで豊富な採用実績を持つことも、XMDFの特徴のひとつ。シャープが公開した「電子ブック技術(XMDF)の取組みと国際標準化推進について」(PDF)によれば、対応コンテンツの市場流通ボリュームは、小説など文字中心のものが3万点、コミックが6万3000点、辞書が100点としている。
 2006年に提供が開始されたバージョン2.0では、各種表示効果や音/振動など、携帯電話向け電子コミックをターゲットした表現方法がサポートされている。コンテンツ全体に対し検索することもできるため、電子辞書端末でも利用されている。なお、携帯電話向けにはサブセット規格「コンパクトXMDF」も用意されている。
 昨年12月に発売されたシャープ製タブレットデバイス「GALAPAGOS」(EB- W51GJ-R/S、EB-WX1GJ-B)は、従来のXMDFを拡張した「XMDF 3.0」に対応している。レイアウトを変えずに文字を拡大縮小したり、見出しや図の位置を固定しつつも文字サイズだけを変えたりという表示は、XMDF 3.0でサポートされたものだ。

シャープの「GALAPAGOS 」5.5型モバイルモデル(EB-W51GJ-R)
左の写真が、ソニーの電子書籍端末「Reader Touch Edition」(PRS-650)と「Reader Pocket Edition」(PRS-350)。右は、KDDI(au)がリリースした電子書籍端末「biblio leaf SP02」だ。どちらも、オンラインストアから購入できる電子書籍タイトルはXMDFオンリーだ

.book(ドットブック)

 ボイジャーが提唱する.bookも、日本で広く利用されている電子書籍フォーマットのひとつで、表示はリフローを基本とする。正確には、HTMLを独自タグにより拡張した「TTX」が電子書籍フォーマットで、.bookと「TTZ」は配布用フォーマットに位置付けられる。.bookがウェブブラウザーでの閲覧に対応する以外、フォーマット自体の差はないが、基本的には.bookが出版社向けでTTZが個人出版向けとされ、.bookを制作するためにはボイジャーとのライセンス契約が必要となる。

ドットブック形式の電子書籍は、ボイジャーが運営する「Voyager Store」やライセンス先のオンラインストアで入手できる

PDF

 すでに触れたように、PDFは電子書籍フォーマットとしての側面を持つが、レイアウトが紙の印刷物に忠実(リフローできるよう出力することは可能)なため、スマートフォンのような小型端末で長文を読む用途には不向きとされている。しかし逆にいえば、紙の印刷物をほぼそのままのデザインで電子化できるため、雑誌のようにレイアウトが重要なコンテンツでは本命視されている。
 一定期間経過後は読めなくなるようにするなど、配布後にコンテンツをコントロールすることも可能なことから、独自のポジションを持つ電子書籍フォーマットとなることだろう。

CEBX/JEBX

 中国の方正グループが提唱する「CEBX」およびその日本語対応版「JEBX」は、縦書きのサポートなど日本語の電子書籍に活用できるスペックを備えた電子書籍フォーマットだ。同社は中国国内の新聞社向け電子出版システムでトップシェアを持ち、中国の電子書籍の約8割はCEBXで提供されているという。また、中国内において国家標準の電子書籍フォーマットとして認定されることを目指しているようだ。
 中国は書物の検閲が厳しく、日本の出版物が広く流通する可能性は低いが、電子書籍の形であれば話は別で、電子書籍化された日本のファッション雑誌が高い売れ行きを示しているとも聞く。電子書籍ビジネスをグローバルに考えた場合、同じ漢字文化圏という共通項を持つだけに、今後の可能性に注目したい。

iPhone版CEBXビューワー「Apabi」(Ami for Paperless Application By Internet)。オンライン書店からダウンロードする機能も備えている


フォーマットから2011年の国内電子書籍動向を読む

 「電子書籍元年」と呼ばれた2010年は、さまざまなサービスやデバイスが登場した。これまで事業規模に差はあれど「一国の主」であり続けた出版各社も、電子書籍の流通を睨むと連携に踏み切らざるをえなかったか、印刷会社や取次会社、端末メーカーや通信会社と手を組むケースが大半を占めた。
 その企業間の共通語となりうる存在が「電子書籍フォーマット」だ。共通のフォーマットを採用することは、ビューワーを一本化できるという点で消費者のメリットとなり、制作コストを抑制したり、デザインなど技術的なノウハウを蓄積しやすいという点で出版側のメリットとなる。一本化しなければ、どのフォーマットで読むかという紙の時代には考えにくかった選択を消費者に迫ることとなり、制作コストや技術面における出版側の負担も増えてしまう。
 電子書籍自体に形はないが、データとしての永続性を求められるサービスであるだけに、一度開始してしまうと容易には変更できない。出版物という文化を支える要素でり、ある意味で公共性をも備えることから、フォーマットの選択は重要といえる。ここでは数ある電子書籍フォーマットのうち、2011年に大きな動きが見込まれる「EPUB」と「電子書籍交換フォーマット」について解説してみよう。

EPUB

 GoogleやApple、ソニーなど大手企業が運営する電子書籍サービスに標準フォーマットとして採用されたことから注目を集めたEPUBは、 2011年前半にも新バージョン(EPUB 3.0)がリリースされる予定。このバージョンではHTML5の成果を多数取り込み、ビデオ/オーディオやインタラクティブ性を持たせることが可能になるなど、リッチメディア機能が大幅に向上した。単なる紙の置き換えに留まらない、新媒体としての電子書籍の可能性を広げるという意味でも、EPUB 3.0の機能の豊富さは注目を集めることだろう。
 EPUB 3.0は、日本人にとっては縦書きが正式サポートされることが大きな意味を持つ。完全に紙を置き換えできるほどの柔軟な運用は難しいものの、方向が右から左/左から右という2種類の縦書き用ライティングモードが(CSS 3の機能として)サポートされることで、これまでEPUBに対し積極的でなかった企業の方針も変わる可能性がある。

イースト、一般社団法人日本電子出版協会(JEPA)、アンテナハウスは、「新ICT利活用サービス創出支援事業」(平成22年度/電子出版の環境整備)の「EPUB日本語拡張仕様策定」によって、Safari、ChromeなどのWebKit系ブラウザー、 iBooksなどの電子書籍ビューワー、Android OSで、日本語組版の実装が進んでいることを発表した。最新のWebKit開発版(Nightly Build)では、CSS 3に採用予定の縦書きがいち早く実装されている

 ウェブブラウザーの動向にも要注目。XHTML/CSSでのデザインを基本とするEPUBは元来ウェブとの親和性が高く、EPUBリーダーのiBooksはオープンソースのHTML描画エンジンWebKitを採用している。
 そのWebKitの最新開発版がいち早く縦書き表示をサポートしたということは、EPUB 3.0の正式勧告後間もなくビューワーや作成ツールなどの製品が登場する可能性を意味しているのだ。WebKitがこの状況ということは、「近い将来、Appleが進めるiBooksおよびiBookstoreになんらかの動きがあるかも」という見方も、あながち先走ったものではないはずだ。

電子書籍交換フォーマット

 昨年は総務省と経済産業省、文部科学省を中心とした「デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会」、通称「三省デジ懇」が設置され、国内向け電子書籍フォーマットに関する話し合いが持たれた。その成果として注目されるのが、いわゆる「中間フォーマット」、現在では名を変えて「電子書籍交換フォーマット」と呼ばれるものだ(「電子書籍中間(交換)フォーマット統一規格とIEC62448改訂」)。
 ここでいう電子書籍交換フォーマットとは、国内で豊富な実績を持つXMDFと.bookが協調することで、出版物の制作側からの要望にも対応しうる統一規格を策定、交換時に参照することで異種電子書籍フォーマット間の橋渡しを行なおうというもの。代表提案者は日本電子書籍出版社協会、共同提案物者には印刷大手のほかにシャープとボイジャーが名を連ねている。
 誤解されがちだが、この電子書籍交換フォーマットは「消費者レベルでの閲覧」を目的とはしていない。以下に挙げる総務省の資料にもある通り、既存の電子書籍だけでなく、紙の書籍や印刷データをも対象とした、複数ある電子書籍フォーマットのうち意図するものへの変換を目指しているのだ。
 要は、「この形式で保管していれば未来にわたり資産として活用できる」フォーマットであり、コンテンツホルダーたる出版社だけでなく、端末による区別なくすべてのコンテンツを入手できるようになる消費者にとっても、メリットが大きいと考えられる。

総務省が公開した「平成22年度 新ICT利活用サービス創出支援事業 採択案件(10件)概要一覧」より抜粋

 しかし、正念場はこれから。XMDFや.book、EPUBなどの複数フォーマットに対応した変換ツール(ソフトウェア)の開発には時間を要すと考えられ、その間にもEPUBなど国外を中心に策定が進められるフォーマットは仕様が見直される。時間がかかれば、それだけ(電子書籍交換フォーマットの)変換ツールがカバーする電子書籍フォーマットは旧仕様となる可能性が高くなるのだ。
 意義はあるかもしれないが、実用的かどうか、普及するかどうかはまた別の問題。できるだけ早く運用に供されることが重要で、電子書籍を巡る諸々がかなりのスピードで推移している。IEC62448改訂版として策定を終えて、国際標準として発行される想定スケジュールが2012年第3四半期となっており、その動向に注目したい。

2011年1月27日木曜日

主要携帯キャリア動向—主戦場はスマートフォンと専用端末へ

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電子書籍を利用するための端末としてもっとも期待されているのがスマートフォンやタブレット端末だ。iPhoneやiPadの登場で、国内にもこうした端末が急増しており、NTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンクモバイルの主要3キャリアが製品を発売している。それだけでなく、3キャリアはスマートフォン向け電子書籍配信にも力を入れ始めている。
 日本の携帯キャリアのビジネスモデルは、キャリア自身が独自のサービスを提供し、端末を自社のサービスに最適化して販売するというものだ。NTTドコモのiモードに代表されるように、これらはすでに大きな成功を収めており、スマートフォンが普及の兆しを見せている今、キャリアが同様のサービスに注力するのも当然の流れだろう。

フィーチャーフォン向け電子書籍市場の現在

 電子書籍というと、米国の方が先行しているようなイメージがあるが、これは一面的な見方にすぎず、日本でも電子書籍配信サービスはすでにスタートしていた。
 たとえば、1995年にパピレスがパソコン通信向けに「電子書店パピレス」を開設している。ビットウェイが、1999年にPC向けビューワー「Book Jacket」、2001年からPDA向けに「Book Jacket 2」を配信をしている。角川書店、講談社、光文社、集英社、新潮社、中央公論新社、徳間書店、文藝春秋による電子書籍販売サービス「電子文庫パブリ」は2000年のスタートだ。
 その後、一般の携帯電話(フィーチャーフォン)向けに上記企業を含む公式サイトが電子書籍配信サービスを行ない、一大市場を形成することになった。これら公式サイトでは、小さな画面でも見やすいユーザーインターフェースを備えた電子コミックス配信が支持され、主流となった。
 またこの市場形成は、高速なデータ通信の登場、パケット定額制によるダウンロードのしやすさ、月額制による電子書籍購入も可能なサービスの存在、電話利用料金との合算による請求など、ユーザーにとって利用しやすい環境が整えられた影響が指摘されている。
 2002年、NTTドコモが電子書籍をPDAやPCに配信するサービス「M-stage book」を開始しており、2004年にはマンガの配信をスタートさせた。ソフトバンクモバイルも、2004年に電子コミックの配信を始めている。 2005年、auブランドの携帯電話向けインターネット接続サービス「EZweb」において、書籍関連サービスのポータルサイト「EZ Book Land!」が公開された。EZ Book Land!は、電子書籍販売のサービス「EZブック」と、紙の書籍販売の新サービス「au Books」から構成されていた。
 現在の状況が伺える情報としては、まずシャープが「デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会」において公表した「電子ブック技術(XMDF)の取組みと国際標準化推進について」がある。これによれば、電子書籍フォーマットXMDFに対応する再生環境の市場ボリュームは、KDDI端末が3000万台、ソフトバンクモバイル端末が1600万台、NTTドコモ端末が1500万台、ゲーム端末が1000万台となっている。

XMDFベース再生環境の市場ボリューム
KDDI(au)端末3000万台
ソフトバンクモバイル端末1600万台
NTTドコモ端末1500万台
ゲーム端末1000万台

 またセルシスとボイジャーは、フィーチャーフォン・スマートフォン向け総合電子書籍ビューワー「BS Reader」(旧:BookSurfing)を提供している。KDDI(au)/NTTドコモ/ソフトバンクモバイル/ウィルコム/イー・モバイル向けの日本国内1100以上のサイトで採用されており、コミックを中心に9割を超えるシェアをうたっている。両社は、BS Readerに「.book」(ドットブック)フォーマットの読み込み機能を追加し、テキスト系電子書籍への対応を強化する予定だ。
 インプレスR&D インターネットメディア総合研究所の「電子書籍に関する市場規模の推計結果」(2010年7月)によれば、フィーチャーフォン向けの国内電子書籍市場はすでに513億円規模に達しており、市場は拡大を続けている(電子新聞や電子雑誌などの定期発行媒体、教育図書、企業向け情報提供、ゲーム性の高いものは含まず)。
 対して、新プラットフォーム(iPhoneを中心とするスマートフォン)対象の電子書籍市場規模(2009年度)は約6億円と推計されているものの、 Android端末の登場などにより、スマートフォン自体はさらなる普及が予測されている。これによって、フィーチャーフォン向けを追い抜くほどの電子書籍市場の拡大が期待/予測されており、注目が集まっているといえるのだ。

電子書籍市場規模の推移(単位:億円)。インプレスR&D インターネットメディア総合研究所の電子書籍に関する市場規模の推計結果より作成
電子書籍市場規模の推移
(電子書籍に関する市場規模の推計結果より)
年度PC向けフィーチャーフォン向け新プラットフォーム向け
2002年度10億円
2003年度18億円1億円
2004年度33億円12億円
2005年度48億円46億円
2006年度70億円112億円
2007年度72億円283億円
2008年度62億円402億円
2009年度55億円513億円6億円

 また、同研究所の「電子書籍ビジネス調査報告書 2010[新プラットフォーム編]」では、PCおよびフィーチャーフォン向け電子コミックが、2009年度電子書籍市場全体の約81%(457億円)を占めている点を指摘しており、市場を牽引していることが分かる。
 スマートフォン/電子書籍専用端末向けにおいても、やがては電子コミック配信が主流となる可能性がある。

2009年度電子書籍市場の内訳。インプレスR&D インターネットメディア総合研究所「電子書籍ビジネス調査報告書 2010[新プラットフォーム編]」より作成
電子書籍市場規模の2009年度内訳
(「電子書籍ビジネス調査報告書 2010[新プラットフォーム編]」より)
PC向けフィーチャーフォン向け
電子コミック29億円428億円
電子書籍(文芸系)18億円44億円
電子写真集8億円41億円
合計55億円513億円


スマートフォン向け電子書籍への注目

 米国では電子書籍を読める高機能な携帯電話はなく、2006年に米SonyがSony Readerを発売、そして2007年に米AmazonのKindleが登場したことで一気に電子書籍市場が拡大していった。
 特に、書籍のオンライン販売を行なうAmazonが約75万冊といわれる豊富な電子書籍を用意した点は大きい。さらにMVNO(仮想移動体通信事業者)として、3G通信を使った利用料を無料にして、いつでもどこでも電子書籍を購入できる環境を構築したのもポイントだ。
 また米Appleから登場したiPhone/iPod touch、そしてiPadがこの電子書籍の流れを決定づけた。iPhone/iPod touch、iPad向けにアプリの形で電子書籍や電子雑誌がいくつも登場したほか、Apple自身も電子書籍ストアとしてiBookstoreをスタートした。
 主にテキスト系電子書籍を配信するKindleやSony Readerに対して、iPhone/iPod touch/iPadでは、雑誌やコミック、マルチメディアコンテンツなども配信され、電子書籍の普及が加速している。
 それに対する日本は、フィーチャーフォン向け電子書籍配信に続き、iPhone/iPod touch/iPad向けに電子書籍を配信する動きが出版社から出てきており、PC向け電子書籍配信を行なう各社が取り組みを進めている。
 そうした中、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクモバイルがAndroid端末への注力を進めており、これまで公式サイトごとに電子書籍を配信していたのに対して、スマートフォン向けにこれら3キャリアが主導して電子書籍を配信する電子書籍ストアを開設しようとしている。

NTTドコモ

 NTTドコモは、2010年8月に大日本印刷と提携して電子書籍ビジネスに参入することを発表した。その後2010年12月には、大日本印刷の子会社であるCHIグループとの3社で、紙の書籍と電子書籍を同時に取り扱う「ハイブリッド型総合書店」を運営することに合意し、共同事業会社として「トゥ・ディファクト」(2Dfacto)を設立した。
 2011年1月には、共同事業会社が電子書籍ストアとしての「2Dfacto」を開設しており、12日からサービスをスタートさせている。 2Dfactoでは、大日本印刷傘下のオンライン書店「ビーケーワン(bk1)」ほか、大手書店「丸善」、「ジュンク堂」、「文教堂」などと連携し、紙の書籍も購入できるようにしたのが特徴で、電子と紙で購入履歴を一元化。共通ポイントの仕組みなども構築する計画。サービス開始時の電子書籍数は2万点で、今春までに10万点に拡充する方針だ。

「2Dfacto」はアプリの形になっており、まずドコモマーケットから専用アプリをダウンロードする。そのアプリ内で実際の電子書籍を購入する

 電子書籍閲覧ソフトは、電子書籍フォーマットとしてXMDF、.bookに対応するほか、セルシスとボイジャーによる統一フォーマット「BS Format」を読み込める総合電子書籍ビューワー「BS Reader」を利用できる。
 決済方法は、当初クレジットカードとWebMoneyのみの対応。2月以降、spモードのコンテンツ決済サービスを利用する形で、携帯電話料金と合わせた支払いが可能になる予定だ。
 2011年中には、複数の端末で同一の電子書籍を閲覧できる機能や、しおりやマーカーなどを複数端末で共有する「sync」(シンク)機能も提供する。対応端末はドコモのスマートフォン・タブレット端末、電子書籍端末で、「Xperia」、「GALAXY S」、「GALAXY Tab」、「LYNX 3D」、「REGZA Phone」、「Optimus chat」、「ブックリーダー SH-07C」をサポートする。

KDDI(au)

 KDDI(au)は、大日本印刷と並ぶ凸版印刷と提携。ソニーと朝日新聞社を含めた4社で、電子書籍配信事業を行う準備会社を7月に設立。11月には実際の事業会社としてブックリスタを設立した。
 このブックリスタを利用したKDDIの電子書籍配信サービスが「LISMO Book Store」だ。当初は電子書籍専用端末「biblio Leaf SP02」向けに配信を行い、当初2万点、11年度中に10万点まで書籍を拡充する。KDDIでは、今後ほかのスマートフォンにもサービスを対応させていく考えだ。

電子書籍専用端末「biblio Leaf SP02」
「biblio Leaf SP02」から見た「LISMO Book Store」のイメージ。約2000点の電子書籍を無料ダウンロード可能で、100点はあらかじめ「biblio Leaf SP02」に収録しているPC向け「LISMO Book Store」サイト

 決済については、「auかんたん決済」を利用することで、KDDI携帯電話の利用料と合算して請求される。

ソフトバンクモバイル

 前述の2つの連合に対して、独自のサービスを展開するのがソフトバンクモバイルだ。同社ではすでに子会社のビューンが雑誌配信サービス「ビューン」を展開しており、40の雑誌・新聞などを配信している。さらに、Androidスマートフォン向け電子書籍配信サービスとして「ソフトバンク ブックストア」も立ち上げている。

「ビューン」(iPadアプリ版)「ソフトバンク ブックストア」は15万点以上のラインナップをうたっている

 ソフトバンク ブックストアは、すでに15万点以上のラインナップを準備しており、現段階では最大の書籍ラインナップを誇るサービスだ。これだけの数を揃えられたのは、すでにフィーチャーフォン向けに提供していた電子書籍をそのままスマートフォン向けに提供しているからだという。これによって、早期にラインナップが充実した。現在の対応機種は「GALAPAGOS 003SH」「GALAPAGOS 005SH」の2機種だ。

「GALAPAGOS 003SH」「GALAPAGOS 005SH」

 電子書籍の購入代金は、携帯電話利用料とともに請求される。また利用限度額が設定されており、携帯電話契約日から3ヵ月以内の場合は毎月3000円以下、3ヵ月超の場合は毎月1万円以下となっている。
 さらに、任意のパスワードを設定することで、1ヵ月当たりの利用限度額変更や、ソフトバンク ブックストアからの購入を制限可能だ。ソフトバンクモバイルは、未成年の過度な購入を防止するために利用するよう呼びかけている。
 携帯3社の電子書籍配信では、凸版印刷や大日本印刷という印刷大手2社と連携するNTTドコモとKDDIに対し、独自の立ち位置でサービスを展開するソフトバンクという構図だ。

強みは購入のしやすさ、ただし懸念すべき点もあり

 キャリアが主導するサービスでは、携帯の月額料金と合算して電子書籍の支払いが行なえるため、書籍の購入のハードルが低くなり、普及に拍車が掛かることが予測される。複数端末を提供するキャリアだからこそ、複数のスマートフォン/専用端末で購入した電子書籍を読み回せるという利点も期待できるだろう。
 しかし、キャリアをまたいでMNPをした場合などに書籍が読めなくなるのではないか、スマートフォン以外のPCやキャリアが販売する端末以外のタブレット端末などでも読めるのかといった懸念もあり、今後のサービスがどう発展するのかは大きく注目を集めている。