2012年1月27日金曜日

教科書市場再編目指すアップルEテキストのビジネスモデル

http://www.ebook2forum.com/members/2012/01/apple-strategy-to-change-textbook-market/

アップルの出版戦略の要ともいえるiBook Author (iBA)の持つ多様なコンテクストについては前号でまとめたが、主要なターゲットである電子教科書の市場での成功は、基本的にマグロウヒルやピアソンのような既存出版社とのパートナーシップにかかっている。先週のイベントでは、一律14.99で販売するプランが発表された。これにはマグロウヒルが参加することになっている。そこにはどんなビジネスモデルと収益構造が考えられるだろうか。

アップルのプランでは、電子教科書は学生に(直接あるいは教育機関を通して)15ドルで、1年間の期限付で提供される。1冊買った学生が別の教科書を購入する可能性はかなり高い。これまでにも学生は(不況にもかかわらず)かなりの経済的負担に耐えてきたので、受忍限度までは買うだろう。米国の学生は、とにかく大量のテキストを読む。マグロウヒルのような出版社は、75ドルの紙の教科書と15ドルの電子教科書が釣り合うと考えているが、それはボリュームが5倍以上になり、利益率も向上すると考えているからだ。

アップルの手数料が、通常の30%なのか、それともそれ以上/以下となるかは見えていない。15ドルの30%の4.5ドルとすると、出版社の売上は10.5ドル。75ドルを超えるには7.2冊必要だが、もともと75ドルの本の市場は限られていたので、出版社は5倍以上は売れると考えているのだろう。そして利益率は紙の数倍になる。マグロウヒルは15ドルという価格をテストケースと考えているが、アップルはそれ以上を考えるつもりはないようだ。

iPadは高額なので、一般的には高校生よりも大学生が主要なターゲットとなるはずだ。しかし大学市場では出版社が独自のチャネルを持っているので、当面は高校生から始めざるを得ない。15ドルプランは、高校からカレッジレベルをターゲットにしている。500ドルのiPadは敷居が高いが、市場の規模を決定するのは、教科書コストを含めた教育費用としてみた学生側のコストメリットだ。Eテキストが安く提供できれば、教育費用には影響せず、逆にお釣りがくる。そして出版社も量販が可能になる。これまで高等教育用教科書はかなり高額で、大学生の印刷本は100ドル前後もしていたので、古書やレンタルも含めた流通システムも成立していた(最大手はB&N)。アップルの戦略はこれらを含めた再編を狙っている。

日本の教科書市場は義務教育レベルが中心だが、2年制のコミュニティ・カレッジを含めた大学生が1700万人を超え、平均レベルの大学では学生一人当たり年1,000ドル以上を教科書に遣う米国では、大学教科書は独立した存在感を持っている。また、カレッジレベルでは高校教科書、学部レベルでは専門書の市場ともリンクしている。エルセビアやシュプリンガーなど欧州系の大出版社も含めて、出版社は世界市場に展開しており、米国はその中での最大市場、中国とインドは最大の成長市場となっている。

2012年1月26日木曜日

電子書籍のページが「リアル」になるiPadアプリ:動画

http://wired.jp/2012/01/25/multi-touch-ipad-e-book-lets-you-flip-pages-like-a-deck-of-cards/

指でパラパラしたり、ひとつのページを押さえながら別のページをさっと探したり。まるで紙の本のように電子書籍のページを自在にめくるアプリを動画で紹介。

http://www.youtube.com/watch?feature=player_embedded&v=rVyBwz1-AiE

電子書籍のページをパラパラとできる、このデザインは素晴らしい。米Apple社のドキュメントにはないプライベートなAPIが利用されているので、『App Store』にお目見えする可能性は低いが、だからといって、この素晴らしさは損なわれない。

韓国科学技術院(KAIST)情報技術融合研究所によるこのデモは、現在私たちが手にしている電子書籍が、まだ出来が悪いものであることを証明している。

タブレットによる電子リーダーの大半には、装飾的な「ページめくり」アニメーションが備わっているが、これは気が散るとして機能をオフにする人が多い。しかし実際の紙の書籍のページは、親指でパラパラしたり、ランダムに開いたり、さっと探したりといったことができるし、ページの間に指を挟んで複数のページにまとめて印をつけたりもできる。KAISTによるこのプロトタイプは、素早く簡単に移動できる紙のメタファーを利用することで、そんな便利さをマルチタッチの画面に持ち込んでいる。

小説を読んでいるときはこうした機能は不要かもしれないが、雑誌やマニュアルについては、こういう「リアルなページ」があると便利だろう。もしウェブブラウザのタブがこれと連動するなら、筆者はすべての仕事を『iPad』でやれるようになるかもしれない。

確かに、これは古い時代への逆行なのかもしれない。サムネイルなどを使って、ページを素早く拾い読みできる新しい方法を見つけ出し、紙のメタファーのことは忘れてしまうべきなのかもしれない。それでも、とても印象的なアプリだし、ぜひ買いたいと思う。

青少年E-Book市場開拓の鍵は「ソーシャル」

http://www.ebook2forum.com/members/2012/01/us-children-prefer-ebooks-more-than-ya/

米国バウカー社が行っている定期の出版市場調査PubTrack Consumerが、10-11月度に行った調査で、12歳以下の児童ではE-Bookへの関心は高いものの、それ以降では相対的に低いことが明らかにされた。もちろんデジタルが嫌いなわけではない。子供から大人への時期は、読書習慣(つまり読書市場)の形成上で重要な意味を持つが、課題はE-Bookにおける「ソーシャル」と利用の「自由」ということのようだ。(paidContent, 01/23)
児童・青少年市場の規模は30億ドル(2010)で、E-Bookは金額ベースで児童書の11%、青少年(YA)図書の13%が占めている。E-Bookの平均価格は印刷本の40~60%ほどなので、点数ベースのデジタル化率は、いずれも20%を越えていることになる。出版社はこの市場の成長を担うものとしてE-Bookに期待している。この調査は、市場の区分を反映して、0-12歳の子供を持つ両親と13-17歳の子供を持つ両親の2つのグループに対して行われた。

0-12歳市場
27%の子供は自分のコンピュータを持ち、25%がiPhone、12%がiPod Touch、7%がE-Readerを保有するなど、デバイスの浸透はかなり進んでいる。また親が新製品を購入する際のお下がりや親との共有が多いので、親のガジェット好き、デジタル好きが影響する傾向も読める。レポートによると、2011年の初めのデータで、家庭の児童書のうち、新規購入は37%で、34%はお下がり、17%はプレゼント、9%が図書館の借り出しとなっており、譲渡や貸し借りがほとんど出来ないE-Bookは不利だ。75%はまだE-Bookを購入したことがないが、うち半数以上が「近いうちに」と答えており、E-Bookを買う両親が増えることで、ある程度は自動的に子供のEリーディングも増えていくだろう。しかし、両親の3分の2は、子供には印刷本を読ませたいようで、紙でもデジタルでも気にせず、Eリーディングを楽しんでいる子供と対比を見せている。

13-17歳市場
驚いたことに、ティーンはあらゆる年代の中でE-Bookへの適応が最も遅れている。66%は印刷本のほうを好み、選り好みしない26%、デジタルを好む8%を圧倒している。レポートによると、これはE-Bookのソーシャル・ネットワーキングへの対応が遅れているのが主な理由のようだ。また利用に制約が多すぎると考えている子供も、1年で6%から14%に増加している。リーディング・デバイスの保有率は高くないが、6割は両親からのお下がりがあるので、2012年からは増加することが期待される。ティーン・エイジャーは、ソーシャルネットワークからの影響を最も受けやすいので、FacebookやTwitterからすぐに購入できる環境や、E-Bookプラットフォームでのソーシャル・リーディング対応を進化させることが課題となっていると見られる。もともと読書率が下がるこの年代は、ほとんどがPCを保有し、スマートフォン、ゲーム機と使い分けているが、E-Bookの機能性を高めないと読書は印刷本で完結していたものと思われる。この年代の市場開拓は児童より難しいが、課題を克服できれば潜在市場は大きいと見られる。

〈はじめての青空文庫〉タブレット広まり利用者急増

http://www.asahi.com/culture/news_culture/TKY201201240364.html

 インターネット図書館の先駆けとして、15年前に始まった青空文庫。昨年、収録作品が1万点を超えた。折からのタブレット型端末の普及で、利用者も着実に増えている。

■元日の告知

 「あまねく人の上に広がる青空のように、万人が本を共有できたら」。横浜市のライター、富田倫生(みちお)さん(59)ら4人の呼びかけで始まった青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)。毎年元日に、著作権が新たに切れ、収蔵可能になった作家が告知される。今年は童話作家の小川未明ら15人が加わった。

 利用が無償なら、入力や校正もすべてボランティア。これまで編集者や学校の先生など延べ800人が支えてきた。高校のクラスや大学のサークルなど団体で参加する例も。ネットの掲示板やメールでやりとりしているという。

 入力方法は、元の本を見ながら手作業で打ち込むか、スキャナーで読み取って文字ファイルにする方法がほとんどだ。できあがったものをメールで運営サイドに送ると、ファイルが文庫の仕様に合わせた形に変換され、掲載される。

 文庫には、少数だが著作権の保護期間中のものもある。「スローなブギにしてくれ」などの著作がある片岡義男さん(71)の一部作品もそう。入力ボランティアの知人から公開を持ちかけられた片岡さんは「作品を広く読んでもらおうと賛同した」という。

■急増のわけ

 青空文庫はここ数年、アクセスが急増している。なぜだろうか。

 一つは、アップル社の「iPad(アイパッド)」などタブレット型と呼ばれる薄い板状の情報端末が続々と登場したのが理由だ。無料または有料の専用ビューワー(閲覧用ソフト)を導入すれば、画面にタッチしてめくったり、ワンクリックで次ページに進めたりと、紙の本を読む感覚に近づいた。また、図書館や電子書籍販売サイトなど多方面から文庫にリンクが張られるようになったのも大きい。

 青空文庫は現在、テキストファイルとXHTMLファイルの2種類が中心だ。テキストファイルはダウンロードしてワードやメモ帳に貼り付けても読めるし、XHTMLファイルなら「インターネットエクスプローラ」などのウェブブラウザーで、そのまま読める。

■「暗黒」の恐れ

 急成長の青空文庫だが、富田さんは「暗黒時代に突入する可能性がある」と危惧する。かぎを握るのは、著作権だ。

 出版物の場合、日本の著作権は、作者(翻訳ならば翻訳者も)の死後50年で切れて利用は自由になる。ところが、ここにきて環太平洋経済連携協定(TPP)などで、著作権の保護期間を20年延長して70年にできないかという議論がクローズアップされてきた。

 保護期間が延びても「今切れているものについて再延長にはならない」(文化庁)が、仮に来年から延びるとすれば、新たに文庫に仲間入りする作家が2033年まで途絶える。ゲーム機の文学全集ソフトや視覚障害者のための点訳など文庫の二次利用も制限され、富田さんは「文化の発展にとって大きな損失」と話す。

2012年1月25日水曜日

米国のEリーダ保有が3年連続急上昇、読書層全体に

http://www.ebook2forum.com/members/2012/01/us-ereaders-ownership-doubles-over-holiday-season/

2010年のホリデー・シーズンと同様、E-Bookの売上がまたも急上昇していることが確認されているが、1月23日に米国のNPOシンクタンク、ピュー・リサーチ・センターが発表した最新レポートで、タブレットとE-Readerの普及も倍増に近いペースで進んだことが明らかになった。これで3年連続だが、ベースが高くなっているので出版全体への影響は過去2年とは比較にならないだろう。

ピュー・センターは、米国人の知的生活におけるインターネットの影響を定期調査によってフォローしている (American Life Project)。11-12月に行われた電話による調査は16歳以上の2,986人を対象とし、1月の調査は18歳以上の2,008人を対象としている。11-12月中旬に10%だった成人のタブレット保有率は、数週間後の1月初旬には19%となり、E-Readerも同じ増加が見られた(誤差±2%)。タブレットの保有率はとくに中心的な読書層である年7.5万ドル以上の中所得以上の高学歴層で高く(36%)、カレッジ卒業以上では31%になっている。E-Bookの購入者は男性より女性に多い。

ホット(E-Reader)とクール(タブレット)は共存

E-Readerとタブレットを合わせたリーディング・デバイスの保有率は、18%から29%に上昇しているが、おそらくこれは米国の中心的読書層にEリーディングが行き渡ったことを示すものだろう。ちなみに。両方のデバイスの性格はかなり異なっており、活字メディアに限れば、タブレットは新聞・雑誌に強く、E-ReaderはE-Bookに強い(両方を保有するのは約1割)。後者はタブレットによって影響を受けると見られていたが、iPad登場時と同じく、Kindle Fireの登場によっても影響は受けなかったことになる。自慢ではないが、本誌の予測が再び実証された。
多機能の汎用機は専用機を兼ねるというのは、必ずしも真実ではない。TVの映画放送によっても映画館はなくならないのと同じだ。読書という行為は、広告を散りばめた新聞を読むのとは違う。中断され、集中を邪魔されては困るのだ。モードの違いだが、マクルーハンが説いた、ホット(没入型)メディアとクール(散漫型)メディアの関係は、21世紀にあっても継続している。商業メディアやマーケティングなど「業界人」は、基本的に「クール」の価値を絶対視しているので、ホットなものの存在意義を見落とすのである。職業病のようなものか。

2012年1月20日金曜日

アップル、iPad用デジタル教科書の「iBooks 2」を発表

http://japan.cnet.com/news/service/35013273/

 Appleは米国時間1月19日午前、ニューヨークで開催された同社の教育関連イベントでデジタル教科書を披露した。

 「iBooks 2」と名付けられた同サービスにより、教科書制作者はAppleの「iPad」向けに完全にインタラクティブな教科書を制作できるようになる。同社によると、ユーザーは画面上をスワイプすることによって教科書のページをめくり、各章にある動画を参照できるようになるという。同社OSにおいてお馴染みのピンチやタップといった操作も適用することができ、書籍に対するユーザーのさらなるインタラクションを可能にする。

 Appleが重視したのはインタラクティビティ(双方向性)である。子供たちは、3D画像を表示し、回転させることによって、例えばDNA構造がどのようになっているのかをより深く理解することができると同社は述べている。書籍は、文章や画像に対して操作がしやすいように、垂直方向と水平方向の間で表示を切り替えることも可能だ。

 従来型の教科書と同様に、iPadを使用して教科書に簡単に印を付けることができる。Appleは、文章を強調表示したり、ページにメモを加えたりする方法を披露した。これらのメモは後で、学習カードにまとめることができる。これらのカードは、基本的に縦3インチ(約7.6cm)横5インチ(約12.7cm)の仮想的なカードであり、学習用フラッシュカードと同様に片面にトピックを記し、もう片面に定義を記すことができる。

 Appleは既に、Pearson、McGraw Hill、Houghton Mifflin Harcourtといった多数の主要な教科書出版社と提携を締結している。これは重要なことである。Appleによると、これらの企業で、米国における全教科書の90%を出版しているという。

 では、これらの教科書はどこで利用できるのだろうか?Appleによると、iBooks 2は、App StoreからiPadに無料でダウンロード可能なアプリケーションであるという。教科書そのものの価格は14.99ドル以下で、一度購入すると追加料金なしで再ダウンロードが可能であるとAppleは述べている。「iBookstore」には教科書セクションも追加されている。

「教科書の再発明」……アップル、iBooks 2をリリース、制作アプリiBooks Authorは無償で提供!

http://www.rbbtoday.com/article/2012/01/20/85294.html

 米アップルは19日(現地時間)、ニューヨークでプレスイベントを行い、iPad向けのアプリとして「iBooks 2.0」を発表するとともに、「Pages」や「Keynote」などのビジネス用アプリケーションと連携して電子書籍を制作できるMac向けアプリ「iBooks Author」を無償で提供することを明らかにした。

 iBooks 2.0はiTunes Storeで、またiBooks AuthorはMac App Storeすでにダウンロード可能。また、iTunes Uについてはビデオ、書類、アプリを完全に教科課程として配信することができる。シラバス(講義の概要)なども任意に配信できるようになるという。iTunes Uは大学以外の高校・中学・小学校向けの配信に対応する。iTunes Uアプリは無償で提供される。

 上述のように、制作については無償のiBooks Authorで可能なため、教員が制作した資料は、学生がiPadさえ持っていればさまざまな場面で活用できるようになる。グラフィックスやムービーなども容易に埋め込むことができ、誰でも短時間で教材の制作が可能だ。

 アップルのフィル・シラー プロダクトマーケティング担当上級副社長は、プレゼンテーションで、「われわれは教科書を再発明(Reinventing Textbooks)するとともに、カリキュラムについても(iTunes Uで)再発明した」と説明。また、iBooks向けに高校用教科書については14.99ドルで販売することも明らかにし、数社の出版社パートナーとすでに協業の合意を取り付けていることも発表した。

2012年1月19日木曜日

日本の電子書籍普及率が低い3つの理由

http://news.nicovideo.jp/watch/nw180150

 日本でiPadが発売され、“電子書籍元年”ともいわれた2010年。紙の本と電子書籍の同時発売などの話題で盛り上がりを見せたが2011年には、市場が少し落ち着いたかのように感じられた。
 一方、アメリカでは電子書籍端末Kindleが浸透し、amazonでは電子書籍が紙の本の売り上げを上回るなど、電子書籍の普及率の高さをうかがえる。それでは、日本がアメリカに比べて電子書籍の普及率が低いのはなぜなのか。
 ダ・ヴィンチ電子ナビで、電子書籍に関する疑問、質問に答えるITライターのまつもとあつし氏がその理由を分析した。

 まつもとあつし氏によると、日本の電子書籍の普及率が低い理由は3つあげられるという。

1.日本とアメリカで本のパッケージ(文庫の存在や大きさや重さ)が異なる。
2.本が作られるプロセスが異なり、販売価格も異なっている。
3.Kindleが実現しているような利便性がまだ多くの国内電子書店では実現されていない。

 まず、1に関しては「日本には新書とか文庫というとても持ち歩きに適した本のフォーマットがあります。北米ではそうではなくて、本は大きくて重いものという捉え方が一般的のようです。もちろん一応ペーパーバックという種類の本はありますが、かなり質の悪い紙を使っていて、しかも分厚いので、お世辞にも読みやすいとは言えません。そんな環境なので、Kindleの薄さと軽さは“紙の本では得られない”メリットとして強いインパクトがあったはずです」と話す。
   
 さらに、Kindleで本を買えば内蔵された通信機能で本が配信されるので本屋さんに行く必要がないが、そもそも日本は世界的にみても書店の数がとても多い。手間がかかるくらいなら、最寄りの駅の本屋さんで手軽に本を買った方が早くて楽だ、というのは現状、合理的な考え方だといえる。

 続いて2に関しては本が作られる過程が日本とアメリカでは大きく異なる点がポイントになる。
「日本では、出版社が著者に原稿を書いてもらって、原稿料を払い、書店に本を流通させる「取次」と呼ばれる会社に本を納入します。その際、まず取次会社から出版社にお金が支払われるんですね。
 対して、北米では、“エージェント”と呼ばれる専門家が著者と契約して本を書いてもらい、出版社と交渉して本を世に出していきます。交渉の過程で販売方法や販売数が練り込まれますし、出版社もリスクをできるだけ小さくするため、マーケティングに工夫を凝らします。

 個人的には日本も少しずつ北米型に移行していくと考えていますが、少なくとも現時点では、紙の本に比べるとリスクが高くなってしまっている電子書籍にどうしても二の足を踏んでしまう会社も多いのも事実です。電子書籍元年と呼ばれた2010年に、電子書籍部門を立ち上げたところも、2011年はまずは、試しにアプリを作ったり、数多く生まれた電子書店に一部の作品を提供して売れ行きを試したり――という形で石橋を叩きながら進んだというのが実態ではないでしょうか?」

 最後に3番目の理由についてはこう話す。
「Kindleがすごいのは、Kindle専用端末だけじゃなく、パソコン、スマホ、タブレットなどいろんなデバイス用のアプリを用意していて、“一度買えば、どの端末でも読むことができる”“どこまで読んだか、どこに下線を引いたか”といった読書情報が同期されるところなんですね。あくまでKindleで買った本に限られますが、自炊したPDFと同じかそれ以上の使い勝手が実現されています」

一方日本の電子書籍は「ある程度、いろんな電子書店で電子書籍アプリを買っていくと、何をどこで買ったのかわからなくなってしまったり、機種変更の際買った電子書籍がどうなるのか、という不安もユーザーの側には出てくると思います。App Storeで買った電子書籍アプリの多くは、たとえばAndroidタブレットには移行できません(ただし、紀伊國屋書店のKinoppy、角川書店のBOOK☆WALKERなどのように移行のための仕組みを備える電子書店も増え始めている)」などの改善点を抱えている。

(ダ・ヴィンチ電子ナビ 「まつもとあつしのそれゆけ!電子書籍」より)

2012年1月18日水曜日

アマゾンのレンタル書籍は月間約30万人が利用、女子高生作家が6000ドル売上

http://japanese.engadget.com/2012/01/17/kindle-library/

本が無料で借りられます。借りますか。アマゾンの有料会員 Amazon Prime メンバーの答えは「もちろん」でした。Amazon Prime メンバー向けにはじまった Kindle の電子書籍レンタルサービス Kindle Owners' Lending Library について、アマゾンが多数の利用があったと例によって実績自慢プレスリリースを発表しています。いわく、12月のあいだに発生した書籍レンタルは29万5000回。最大で月に1度・1冊までレンタルできますので、つまり29万5000人が利用したことになります。

人気を受けてアマゾンはレンタル対象書籍の拡充を進めており、すでに対象タイトルは7万5000冊以上になったとのこと。また、著作権者向けには50万ドルの予算を確保しており、12月ぶんについては1回のレンタルあたり1.7ドル(×29.5万回≒50万ドル)が著者に支払われます。このレンタル予算は1月にはさらに増え、70万ドルとなる予定。

この好調な書籍レンタルを考える上で欠かせないのが、アマゾンが進めるインディー作家・出版社向けサービス Kindle Direct Publishing(KDP)です。KDP に参加した作家・出版社は、前述のレンタル料を得ることもできますし、もちろんアマゾン経由でに Kindle 本を売るということもできます。ただ、レンタルに参加することで、本の売上も伸ばせるというのがアマゾンの言い分。特に KDP のトップ作家10人は、12月だけで売上とレンタル料あわせて7万ドルを稼いだという話で、中には6200ドルを得た16歳の女子高校生(Rachel Yuさん)までいます。

もちろん、参加する作家が増えれば増えるほど、アマゾン / Kindle にとっては利用できるコンテンツが増えるという仕組み。はじめはオンライン書店 Amazon、次は電子書籍端末 Kindle、そして KDP と、アマゾンによる出版市場の包囲網は確実に進んでいます。

2012年1月16日月曜日

Amazonの電子書籍レンタル、著者もユーザーも確かな手ごたえ?

http://ebook.itmedia.co.jp/ebook/articles/1201/16/news070.html

米Amazon.comが昨年末から開始した電子書籍レンタルサービスは、ファンド設立による著者へのインセンティブも働き、初月からインパクトのある数字が並んだ。

 米Amazon.comは1月12日(現地時間)、昨年末から相次いで立ち上げた電子書籍レンタルサービスとそのファンドについて、初月の成果を公開した。

 同社は2011年末、Amazon Prime会員向けに電子書籍のレンタルサービス「Kindle Owners' Lending Library」を開始した。月1冊無料で貸し出しを受けることができる同サービスのラインアップはスタート時で約5000タイトル。米作家エージェント協会やThe Authors Guildなどは既存の出版契約の範疇を超えるものだとして参加出版社に注意を呼び掛けていた。

 その後同社は「KDP Select」と呼ぶ年額600万ドルのファンドを立ち上げ、電子書籍のレンタルから著者や版元が収益を得られる仕組みを構築。KDPとは「Kindle Direct Publishing」の略で、従来は「Kindle Digital Text Platform」(Kindle DTP)と呼ばれていた自己出版サービスのことだ。

 KDP Selectは、KDPで作品を出版しようとする作家や版元に対し、幾つかの要件――一定期間、著書をAmazonのみで販売することやKindle Owners' Lending Libraryでの著書貸し出し――に応じることができる場合に、レンタルされた回数に応じてファンドから配分を受けることができるというもの。

 Amazonによると、Kindle Owners' Lending Libraryは現在7万5000タイトルにまで拡大、2011年12月はKDP Selectが適用されているタイトルだけで29万5000回の貸し出しがあったという。KDP Selectは年間600万ドル、月にならすと50万ドルのファンドなので、同プログラムに参加した作家は著作1回の貸し出しにつき約1.7ドルの支払いを受けたことになる。

 キャロリン・マクレイ氏、アンバー・スコット氏などKDP Selectに参加する人気作家トップ10人に対して同プログラムから12月に支払われたのは総額7万ドルで、販売による印税も含めると、前月から最大449%の伸びとなったとしている。

 KDP Selectの創設によって、電子書籍のレンタルであっても著者に収益機会があることを成果を持って証明したAmazon。この成果を受け、1月分は基金を70万ドル上積みし、著者のさらなる参加につなげたい考えだ。

2012年1月13日金曜日

電子新聞/雑誌コンテンツ配信のビューン、閲覧履歴収集の理由を説明

http://japan.internet.com/busnews/20120113/3.html

ソフトバンク グループで電子新聞/雑誌コンテンツ配信サービスを手がけるビューンは2012年1月12日、NHK が同日「(ビューンが)スマートフォンなどに提供している電子書籍のソフトが、利用者が読んだ雑誌や新聞の内容や閲覧時間などの情報を無断で記録していた」と報じたことを受け、閲覧履歴などのデータを記録している目的と、記録の事実を利用者に告知していなかった理由を説明した。同社では、データから個人を特定する意図はなく、特定も不可能な状態だが、今後は利用規約などにデータ取得することを記載するとしている。

同社はコンテンツ配信サービス「ビューン」と「ビューン for Woman」において、ユーザーが対応スマートフォン用アプリケーションで読んだコンテンツの種類や回数といった閲覧履歴データと端末識別情報を記録し、管理用サーバーで収集している。集めた情報は、閲覧状況に応じた売上金をコンテンツ提供元の新聞社/出版社/テレビ局と分配するためのデータと、30日間の無料試用期間を適用するかどうかの判断材料として利用するという。そのうえで、これら情報から利用者個人の特定する意図はまったくないと説明している。

さらに同社は、収集した情報から利用者を特定することが不可能であるため、「個人情報」と認識していなかったという。今後は、サービス利用規約などを通じて収集の事実を広く告知する方針。

文科省、電子書籍の流通と利用の円滑化に関する検討会議報告を公表

http://news.braina.com/2012/0112/move_20120112_002____.html

文部科学省は1月10日、2010年10月に設置された、「電子書籍の流通と利用の円滑化に関する検討会議」が、14回の検討会議の結果をまとめた報告を公表した。

同検討議会は、2010年3月から6月にかけて総務省、文部科学省、経済産業省が合同で開催した「デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会」の結果、文科省で検討すべきと指摘された3つの課題、「デジタル・ネットワーク社会における図書館と公共サービスの在り方」 「出版物の権利処理の円滑化」 「出版者への権利付与」のそれぞれについて検討するため設置されたもので、作家、漫画家などの著作者、出版、図書館等の関係者と学術経験者で構成されていた。

報告は、「デジタル・ネットワーク社会における図書館と公共サービスの在り方」については、「国会図書館のデジタル化資料の活用は緊急の課題」として、
同デジタル化資料を、一定の範囲、条件のもとに公立図書館等で利用可能となるよう、著作権法の改正を行うことが適当と述べ、その対象物は、市場における入手が困難な出版物等(電子書籍市場の発展に影響を与えない範囲)としている。さらに利用方法としては、公立図書館等における閲覧とともに、「一定の条件下における複製も認める」としている。また、これらの資料の本文検索サービスの提供が必要として、「画像ファイル形式データのテキスト化が必要」としている。また、デジタル化資料の民間事業者等への提供については、図書館と民間事業者等が連携した新たなビジネスモデルの開発が必要として、有償配信サービスの限定的、実験的な事業の実施の検討も必要としている。

「出版物の権利処理の円滑化」については、、(1) 中小出版者や配信事業者など多様な主体によるビジネス展開の実現、(1) 孤児作品(権利者不明作品)等の権利処理の円滑化を目的とした「権利処理を円滑に行うための仕組み」の整備することが必要として、「出版物に関する情報を集中的に管理する取組」「権利処理の窓口的な機能を果たす取組」「権利処理に係る紛争の処理に資する取組」の実現に向けて、権利者、出版者、配信事業者等の関係者間の具体的な協議を行うとともに、文科省等の関係府省の積極的な関与、支援が重要としている。

「出版者への権利(著作隣接権)付与」については、出版者から「電子書籍の流通と利用の促進」と「出版物に係る権利侵害への対応」の2つの観点から、その必要性等が主張されたが、新たな権利者が増えることは配信事業者等の電子書籍市場への新規参入を阻む可能性があり、電子書籍市場に与える影響について、経済的、社会的検証を行うことが必要との意見もあり、出版者等が中心となり、その電子書籍市場に与える全般的な影響について検証が必要で、また、法制面における課題の整理等については、文化庁にで専門的な検討を実施するとされた。その上で、電子書籍市場の動向を注視しつつの意見を踏まえ、制度的対応も含めて、早急な検討を行うことが適当。国民各層にわたる幅広い立場からの意見を踏まえ、制度的対応も含めて、早急な検討を行うとして、「要継続検討」という結論となっている。

【詳細】「電子書籍の流通と利用の円滑化に関する検討会議」報告の公表

2012年1月11日水曜日

米Barnes & Noble、赤字拡大を受け電子書籍事業「Nook」売却を模索

http://androwire.jp/articles/2012/01/10/03/

急拡大を続けていた米国の大手書店チェーンが岐路に差し掛かっている。米Barnes & Nobleは1月5日(現地時間)、現在同社が展開している電子書籍ビジネス「Nook」の事業分離を模索していることを発表した。Nookは同社にとって急成長事業である一方で、立ち上げ期のコスト負担の問題を抱えている。米国書店チェーン最大手の将来の生き残りをかけた選択はどのような結果をもたらすのだろうか。

2000年代前半まではライバルのBordersとともに全米に急激に店舗展開を行っていたBarnes & Nobleだが、採算性の悪化により拠点統合が進みつつあり、最終的に破綻したBordersの一部店舗や事業を受け継ぐ形でリテール事業を維持しており、現在に至る。この背景にはオンラインストアの米Amazon.comの攻勢があり、顧客争奪戦で既存の書店チェーンが不利に立たされたこともあるとみられる。また、ここ数年はAmazon.comのKindleに代表される電子書籍の利用が急拡大しており、こうした新技術が紙の書籍の売上に影響を及ぼした可能性も考えられるだろう。Barnes & Nobleは小売店舗事業だけでなく、これまでにもオンライン事業に力を入れているほか、最近では「Nook」と呼ばれる電子書籍端末と、それに提供される電子書籍コンテンツの拡充を行っており、Amazon.comならびにKindleへの対抗を強めている。今回のBarnes & NobleのNook事業分離も、こうした情勢の変化が背景にある。

Barnes & Nobleが5日に発表した同社会計年度で2012年度の決算ガイダンスによれば、大学キャンパス等で展開しているBarnes & Noble Collegeを含む既存の書店事業の見通しはほぼ横ばい。一方でNookを含むオンライン事業のBN.comが40-50%の増加見込みとしている。BN.comでの紙の書籍販売は減少しているものの、急成長中の電子書籍コンテンツ売上は伸びており、相対的に電子書籍の占める比率が高くなっている。つまり、同社の成長要素は電子書籍事業に集約されているといえる。一方でNOOK Simple Touchの売上減少や、Nook事業への継続投資、さらに販売地域拡大に向けた広告費用等が重石となり、同年度の最終的な損失(EPS/LPS)は当初予想よりも高い1株あたり1.40ドルから1.10ドルの水準を見込んでいるという。こうした報告を受け、5日の同社株は取引終了時点で11.24ドルと前日比17%の急落を見せている。

損失が急拡大したことで、同社は株主らからのプレッシャーが強まっている。成長の余地がないながら比較的安定した収入を得ている既存の書店事業と、急成長が見込めるが初期投資負担が大きい電子書籍事業の両立が難しくなっていることが、今回の事業分離判断へとつながっている。Barnes & Nobleとしては今後縮小が見込まれる既存の書店事業から電子書籍事業へのシフトを模索して継続投資を行っているものの、投資家視点からみて許容範囲を超えつつあるのがその理由だ。Nookの最大のライバルはKindleであり、その競合のためにマーケティング費用や端末販売負担が大きくなるためだ。そのため、Barnes & Nobleは高コスト事業であるNookの売却を模索しなければならない状態に追い込まれつつある。最終的に2つの組織に事業分離するのか、あるいは潜在的な事業買収者が現れて事業を売却するのか、そう遠くない時期に改めて発表が行われることになるだろう。またWall Street Journalによれば、同社は出版事業であるSterling Publishing(2003年に買収)の売却も模索しており、赤字拡大から事業整理を積極的に進めつつある。

2012年1月6日金曜日

2012年を読み解く10のキー・トレンド (前)

http://www.ebook2forum.com/members/2012/01/key-trends-of-ebook-market-in-2012/

デジタルの動きは日本で鈍く、欧米ではさらに加速度がついている。米国では、1年前「5年以内に20%」と言われていたが、今は「1~5年以内に50%」という認識で出版業界が動いている。遠くない先に、その先まで考えるような事態になってもまったく驚きではない。それは印刷本の売れ行きしだいということだ。そして日本がどれだけ遅くても、いずれは同期することになる。一次生産者(著作者)と消費者がそれを必要と感じるならば、出版社がサボタージュを続けることはできない。

問題は、そのときに日本の出版市場と出版業界がどんな状態になっているか、ということだ。対応が遅いほど、出版社の選択は苦しいものとなる。出版の生産と流通が、同時にこれほど急速に変わる時代はなかったし、これほどグローバル化したこともなかった。これはすでに明白かつ現前していることで、あとで「想定外」にはして欲しくない。

出版社が自主的に(流通会社に頼らずに)デジタル出版インフラ造るには時間がかかる。印刷本と共存させるには印刷会社の協力が不可欠と思うが、それに依存するだけなら出版社のインフラにはならない。製作から販促まで、使えるサービスは高度化し、コストは劇的に安くなっているが、最適な環境を構築し、最適な形で運用する知恵をつけることが難しいのだ。現在米国で経験していることのほとんどは、ほぼすべてが日本でも共通する課題となる。というわけで、E-Book2.0プロジェクト(Forum/Magazine+)では、今年も日本という場を踏まえつつ、国境を越えた問題にアプローチしていきたい。

以下は、ランダムに10個選んだ2011年のキートレンドである。昨年顕著になってきて、今年様々なトピックやイベントと結びつくことが確実であるものを選んである。日本ではあまり問題になっていないものはあるが、市場の拡大あるいは国際化とともに、意識されるようになるだろう。

1.EPUB 3:E-Bookの独立とアプリ化の新パラダイムが始まる
2.HTML5:書籍から雑誌・新聞まで―出版サービスのプラットフォームからの自立を促す
3.自主出版:出版市場のインフラとして定着・成熟へ
4.ショートE-Book:出版を多様化し、ジャーナリズムの経済的基盤となる
5.アマゾン出版:堅実なマーケティングで着々と地歩を築く
6.メディア・タブレット:非アマゾン型を目指して機能別・用途別多様化へ
7.E-Reader:低価格化と高級化で多様なニーズを吸収
8.知的財産権問題:「海賊懸念」薄れ、社会的利害調整が本格化
9.図書館E-Book問題:泥沼化か「市場による決着」か
10.書店のサバイバル:テクノロジーを使った試行錯誤が続く