2011年6月28日火曜日

「Adobe Digital Publishing Suite」による電子出版を考える

http://journal.mycom.co.jp/column/dpk/001/index.html

1 電子出版を取り巻く現状について

電子書籍のファイル形式

iPadの登場で注目を集めるようになった電子出版ビジネス。現在は、従来のPCや携帯電話に加え、スマートフォン、タブレット型PCと、さまざまな端末が登場し、ファイルフォーマットについても国内外で乱立している。まさに混沌とした状態ではあるが、電子書籍の出力ファイルの制作には、紙の出版関係者にもなじみの深いDTPソフト「Adobe InDesign」のデータを元にするケースが多い。本稿では、電子出版ビジネスの状況と、InDesignでの電子書籍制作について考えてみたい。
まず、現状の主な電子書籍フォーマットについて整理してみよう。紙の出版物には、小説など文字を主体としたものと、雑誌のように写真と文字を複雑にレイアウトしたもの、写真集やマンガなど、画像を主体としたものなどがある。紙であれば、どのタイプであっても印刷されるものであるが、電子出版となると、再生される端末に適したフォーマットを選ぶ必要がある。
文字主体の電子出版物に採用されているフォーマットは、業界標準になりつつある「EPUB」や、Amazon独自の「AZW」、ボイジャーの「.book(ドットブック)」、シャープの「XMDF」などが挙げられる。これらのフォーマットは「タグ付きドキュメント」と呼ばれる、Webページで使われるようなファイル形式であり、HTMLドキュメントに近い特性を持つ。
EPUBは、どのような画面サイズでも読めるという点を重視しているため、ページ内のコンテンツは固定されていない。たとえば、端末側で読者が文字サイズを大きくする操作をした場合は、テキストや図版は次のページに流れ込み、全体のページ数表示も増える。印刷物のようにレイアウトが固定されているわけではないので、段組みや図版を多用する雑誌や新聞には適していないフォーマットといえる。
写真や文字を使い、かつ複雑なレイアウトで表現する雑誌や新聞などの場合、PC向けであれば「Flash(SWF)」や「PDF」が使われることが多いが、FlashはiPhoneやiPadで採用されておらず、絶対的なレイアウを保持するPDFの場合は、スマートフォンの小さな画面では拡大/縮小やスクロールを強いられることがあり、読みづらい。この分野では、各社が独自に開発した表現方法で提供しており、主流となっているフォーマットはまだ存在していない。
マンガの場合は、PDFのほか、セルシスの提供する「Comic Surfing」やイーブック・イニシアティブ・ジャパンの「ebi.j(イービーアイジェー)」といったフォーマットが使われる。これらは、日本の携帯電話向けの市場で発展してきたフォーマットともいえる。コマ単位で見せるなど、小さな画面での閲覧に対応する表現が確立されている。

スマートフォンやタブレットPC向け電子書籍のマーケット

最近続々と登場している、スマートフォンやタブレットPC向けの電子書籍マーケットについても触れておこう。iPhoneやiPadでは、「iBooks」など、EPUBやPDFに対応した閲覧アプリは登場しているものの、電子書籍ファイル販売サービスである「iBookstore」は、日本向けにはまだ提供されていない。このため、国内向けの電子書籍提供者は、文字主体・雑誌・新聞・マンガ・写真集など、その形態に関わらず、EPUBや PDFなどのコンテンツファイルと、それを閲覧するアプリを一体化したアプリとしてAppStoreで販売している。作品ごとにアプリで販売する場合もあれば、専用の閲覧アプリを配布し、そのアプリで再生可能な作品のファイル単位で課金して提供する形態もある。
AndroidOS端末向けには、Google公式のAndroidマーケットなどのアプリ販売サービスを通じて提供されている。提供形態は、 iPhone/iPad向けと同様に、閲覧アプリとコンテンツの一体型、専用の閲覧アプリ+コンテンツ単位の課金が多く見受けられる。Googleではこのほか、書籍検索サービスの「Google ブックス」に登録されている300万冊以上の書籍データを電子書籍として提供するプラットフォーム「Google eBookstore」が、2010年12月に開始した。有料の電子書籍の販売は米国など地域が限られており、今後日本も含め提供地域を拡大していく予定だ(※日本では、著作権の切れた無料コンテンツの閲覧は可能)。 AmazonのAZWフォーマットのファイルを販売するKindleStoreは、同社の電子書籍リーダー端末であるKindleや、スマートフォン向けの専用アプリで閲覧可能ではあるが、本格的な日本語の電子書籍の売買サービスは始まっていない。
次回は、アドビ システムズの「InDesign」を使用した電子出版制作など、国内における電子出版の現状を考えていきたい。

2 日本国内における電子出版の現状について

この連載では、「Adobe InDesign CS5.5」を核としたソリューション「Adobe Digital Publishing Suite」による、電子出版制作のための新しいワークフローについて考えていく。今回は、日本国内における電子出版の現状を紹介していきたい。

電子出版の国内事情は?

日本国内における電子出版の動きとしては、2010年12月にシャープがXMDFフォーマットの電子書籍端末「GALAPAGOS(ガラパゴス)」をリリースし、シャープとカルチュア・コンビニエンス・クラブによる電子ブックストアサービス「TSUTAYA GALAPAGOS」を開始し話題となった。TSUTAYA GALAPAGOSは、GALAPAGOSだけでなく、シャープ製のスマートフォンからも利用できる。メーカー系では、ソニーでも同時期にXMDFフォーマットの電子書籍端末「Reader」向けの電子書籍販売サイト「Reader Store」を開始した。
携帯キャリア自体のスマートフォン向け電子書籍の取組みとしては、まず2010年12月にソフトバンクがシャープ製をはじめとする端末に対応した電子書籍販売サイト「ソフトバンク ブックストア」を、続く2011年1月にはNTTドコモが大日本印刷およびCHIグループとともに電子書籍サービスに関する共同事業会社トゥ・ディファクトを設立して電子書籍ストア「2Dfacto(トゥ・ディファクト)」を開始。KDDIでは、2011年4月からauのAndroid搭載スマートフォン向け電子書籍の配信サービス「LISMO Book Store」を開始するなど、各社とも電子書籍に注力する姿勢が伺える。携帯キャリアが提供するこれらのサービスの大きな特長としては、携帯電話料金といっしょにコンテンツ購入代金を支払えるという決済方法が挙げられる。
大手出版社系で目立ったのが、2010年12月にスタートした角川グループホールディングスによる電子書籍プラットフォーム「Book☆Walker」だ。グループ企業の角川コンテンツゲートが運営するこのプラットフォームでは、.book形式に対応した電子書籍ビューワを iOS機器やAndroidOS機器向けに提供。2011年7月にPC向けに提供、今夏以降に「ニコニコ動画」やGREEなどの外部ソーシャルメディアとの連携サービスも予定しており、電子書籍コンテンツ流通という面でも注目を集めている。

電子書籍の制作ツールとしての「InDesign」

端末種別、ファイル形式、販売マーケットが複雑に絡みあう電子出版界だが、スマートフォンやタブレットPC向けの販売市場としては、iPadや iPhone向けのApp Storeが先行している。その成長に合わせ、電子書籍アプリを制作するソリューションも続々登場している。
モリサワが提供する「MCBook(エムシーブック)」は、InDesignの組版データを使ってアプリができる。ProFieldの「ProBridgeDesigner-i」は、InDesignからiPadアプリを出力できるプラグインだ。このほか、ポルタルトの提供する「moviliboSTUDIO」のように、WebブラウザからPDFをアップロードしてアプリを作れるサービスもあれば、PDFなどの素材をアプリ化し、App Storeへの申請を代行する受託型サービスを提供している企業もある。
これらのサービスは、iPhone/iPadだけでなく、今後成長が予想されるAndroidOS端末向けのアプリ市場にも対応していくと思われるが、アプリに内包するコンテンツファイルは、InDesigで制作が可能だ。InDesignにはPDFやEPUBファイルへの書き出し機能があり、国内で主流のフォーマットである.bookやXMDF作成ツールについても、InDesignの組版データからの変換をサポートしている。Amazonの AZWもPDFやEPUB、HTMLを変換して作ることができることから、電子書籍ファイルの制作ツールとしては、InDesignが最も汎用性があるといえる。
こうしたInDesignでの電子書籍ファイル作成は、文字が主体の印刷物の延長線上にあるものと言えるが、Adobeは2010年10月に、「InDesign CS5」(※現在は「CS5.5」も対応)を基盤とした、雑誌タイプの電子書籍制作を支援する製品「Adobe Digital Publishing Suite(ADPS)」を発表し、新世代の電子出版への駒を一歩進めた。この製品は、iPadやサムソンのGalaxyといった、タブレットPCを主な対象としたもので、制作環境以外に、コンテンツ配信管理や、アクセス解析ツールの「Adobe SiteCatalyst」によるレポーティングなどもサポートしている。
同製品は、既にiPadアプリとして提供されているWired Magazine誌やThe New Yorker誌で使われた技術を基にしており、縦/横の柔軟なレイアウト、スライドショー、ビデオ、音声、ハイパーリンク、Webブラウズ、360° ビュー、パノラマなど、デジタルならではのリッチな演出を可能としている。ADPSは、刺激的なアプローチを追求するクリエイターや編集者、効果的なブランディング手法を探りたいマーケターに支持されるのではないだろうか。未だ決定的な提供形態が確立していない雑誌タイプの電子書籍の主流となるのか、今後も注目していきたい。

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