2011年6月22日水曜日

Kindleにあふれる電子書籍スパム 出版革命のプラスとマイナス

http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1106/21/news073.html


AmazonのKindleで初めて100万部を販売した自費出版物が現れる一方で、Kindle向けオンライン書店にはスパム電子書籍があふれている。「Kindle書籍を1日に1冊ずつ作成する方法」まで出回っているという。
米Amazon.comの大ヒット商品である電子書籍端末「Kindle」がスパムの標的とされている。同端末向けのオンライン書店には目下、読む価値があるとは到底言えないような代物が溢れ、出版業界への進出を目指すAmazon.comの取り組みを阻害しかねない事態となっている。
 Amazonのセルフパブリッシングシステムでは現在、電子書籍あるいはデジタル書籍などと呼ばれる書籍が毎月何千冊と出版されている。その多くは、従来の意味では「書かれていない」書籍だ。
 そうした書籍は、代わりにPrivate Label Right(PLR)として知られるコンテンツを使ってまとめられている。PLRコンテンツとは、オンラインで非常に安価で入手し、自由にデジタル書籍にフォーマットし直すことができるデータのことだ。
 AmazonのWebサイトでは、従来型の書籍とともにこうした電子書籍がしばしば99セントで販売されており、その結果、読者は自分の読みたい書籍を見つけるために大量のタイトルの中を探して回らなければならないようになってきている。
 熱心なスパム業者であれば、「Autopilot Kindle Cash」というDVDボックスセットも購入しているかもしれない。このDVDセットは、「自分では一語も書かかずに1日に10~20冊もの新しいKindle書籍を出版する方法を伝授する」とうたったものだ。
 出版の世界では目下、著者に「読者に直接アクセスするための新たな方法」を与えることによって出版業界の従来の在り方を覆すというオンライン革命が進行中だが、最近のスパム現象はそうした革命の影の部分を表している。

急激な変化

 米国では2010年、電子書籍も含め、非従来型の書籍が280万点近く出版されたのに対し、従来型の書籍の出版点数はわずか31万6000点強にとどまった。2009年には、非従来型書籍の出版点数は133万点、従来型の書籍が30万2000点だった。これは、出版業界の専門家であるフォーダム大学ビジネススクールのアルバート・グレコ氏によるデータだ。
 同氏によると、2002年には、米国で出版された非従来型書籍は3万3000点にも満たず、一方、従来型の書籍は21万5000点以上が出版されていたという。
 「これは驚異的な増加だ。気が遠くなるような変化だ。プラスの側面として挙げられるのは、この変化のおかげで、書籍を執筆したものの取次を介した従来の方法ではそれを出版できずにいた非常に多くの人たちが助かっているという点だ」と同氏は言う。
 だがグレコ氏はマイナスの側面も指摘している。問題の1つは、著者がより多くの書籍を相手に読者の争奪戦を繰り広げなければならない点だという。「そうした書籍の多くは従来であれば決して日の目を見ることのなかったようなものだ」と同氏。
 こうした書籍の中には、ほかの作品をそのままコピーしただけのように見えるものもある。ニュージーランド在住の歴史小説作家であるシェイン・パーキンソン氏は今年早くに、自身のデビュー作「Sentence of Marriage」がAmazonで別の作家名で販売されているのを見つけたという。
 この件は最初、Amazonの英国のオンラインフォーラムでユーザーが突き止め、その後、解決に至ったという。
 「最初はショックだったし、信じられなかった。だがその一方で、この問題が見つかった経緯を思うと、誰かがわざわざわたしにこのことを知らせてくれたということに非常に感謝している」とパーキンソン氏は語っている。
 Amazonにとっては、Kindleを襲っている電子書籍スパムの波は、同社のセルフパブリッシングビジネスの推進を阻害し、同社の大ヒット商品であるKindleのブランドを損なうことにもつながりかねない。Barclays Capitalの推定では、Kindle端末は同社の2012年の売上高の約10%を占めている。
 「この問題はますます広まっていくだろう。いったん一部のスパム業者がこうした新しい販路を見つけたら、大量の同業者がその後に続くものだ」と書籍とソフトウェアの出版業者であるLogical Expressionsのスーザン・ダフロン社長は指摘する。
 Amazonは電子書籍の価格に応じて、その売上高の35~70%を著者に支払っている。これはスパム業者にとっては、この新たな販路に注力するための大いなる金銭的誘因となる。
 「自社製品の健全性を守りたいのであれば、Amazonは間違いなく、もっと品質管理に力を入れるべきだ」とダフロン氏は言う。
 「Amazonはこの問題の解消に懸命に取り組むだろう。この問題は、この市場における同社の優勢の多くを阻害する要因になる」とForrester Researchの電子リーダー担当アナリストであるジェームズ・マキビー氏も指摘している。
 同氏によると、セルフパブリッシングサービスがいかに急速に変質したかを目の当たりにした結果、Amazonは目下、同社の新サービス「Kindle Singles」については、提出物のチェックを行っているという。Kindle Singlesでは、短編小説や長めの報道記事、エッセイなど、短めの文章が扱われている。
 「差別化が一切、あるいはほとんど行われていない同じ内容の本が何種類も出版されても、顧客体験は向上しない。われわれは同一の内容が複数のバージョンで出版されている書籍を検出して排除するプロセスを設けた。当社のストアからそうしたコンテンツを排除することが狙いだ」とAmazonの広報担当者サラ・ゲルマン氏は6月14日付でReutersに送ってきたメールで述べている。同氏にはさらに問い合わせを行ったが、返答は得られなかった。

スパム急増の背景

 Kindleスパムはここ半年間で急増している。インターネットマーケティングの専門家、ポール・ウルフ氏によると、これは、Kindle書籍を1日に1冊ずつ作成する方法を伝授する内容のオンラインコース、そして皮肉なことにはそうした内容の電子書籍までもが幾つかリリースされている影響という。
 その手法の1つには、売れ始めた電子書籍をコピーして、タイトルと表紙をつけかえ、それまでとは若干異なる顧客層向けに出版し直すというものがある、とウルフ氏は説明する。
 Kindleと競合する電子書籍リーダーにはBarnes & Nobleが販売する「Nook」があるが、同社のオンライン書店にはまだスパムはあふれていない。
 「Barnes & Nobleは恐らくAmazonよりも積極的に電子書籍の内容を管理しているのだろう。もっとも、単にスパム業者にとってはKindleの大量のユーザーがより魅力的だからというだけかもしれない」とForresterのマキビー氏は指摘している。Barnes & Nobleにコメントを求めて問い合わせたが、返答は得られなかった。
 電子書籍の出版と流通を手掛けるSmashwordsもスパムには悩まされているが、同社創業者のマーク・コーカー氏によれば、AmazonのKindleほどひどい状況ではないという。
 Smashwordsでは、提出された電子書籍については、書式などの基本的な特徴を手作業でチェックした上で出版するという方針を採っている。コーカー氏によれば、スパムの明らかな特徴としては、表紙のデザインがお粗末だったり、表紙に作者の名前が載っていなかったり、書式が雑だったりといった点があげられるという。
 また同氏によれば、Smashwordsは四半期ごと著者への支払いを行っているが、Amazonの支払いは毎月だという。「当社の場合、支払いまでに時間があるため、その分、スパム業者を追跡するための時間を多く取ることができ、支払い前にアカウントを閉鎖できる可能性も高まる」と同氏。
 またAmazonは無料の電子書籍はあまり提供していないが、Smashwordsは多数提供している。そのため、スパム業者にとってはKindleで多くの書籍を出版する方が金銭的誘因が大きい、とさらにコーカー氏は続けている。
 同氏によると、Smashwordsで出版された無料の電子書籍がコピーされ、AmazonのKindleストアで再出版され、最低99セントという料金で販売されている例をこれまでに5~6件見つけたという。
 Forresterのマキビー氏によると、Amazonはソーシャルネットワーク的な解決策を編み出す必要があるという。読者が「自分の知っている人たち、あるいは過去にレビューを読んで気に入った人たちからの推薦」を見られるようにすれば、自分の希望のコンテンツを追跡しやすくなり、不正な推薦の回避にも役立つだろう、と同氏は言う。
 Logical Expressionsのダフロン氏は、「AmazonはKindleの出版システムへのアップロードを有料にすべきだ」と指摘している。そうすればスパム業者にとっての金銭的誘因は大幅にダウンすることになるからだ。
 「電子メールのスパムがこれほど問題になったのも同じ理由からだ。コストが一切かからないからだ」と同氏。「もし1冊の本のタイトルや作者を変えて12種類ものバージョンを異なる価格で出版できるのなら、たとえ1冊か2冊しか売れなくても、利益を上げられる。それでは業者の勝ち、Amazonの負けだ」

0 件のコメント:

コメントを投稿