2011年6月22日水曜日

電子書籍、先行き“読めず” 専用端末・コンテンツが伸び悩み

http://www.sankeibiz.jp/business/news/110622/bsj1106220503000-n1.htm
米アップルのタブレット型端末「iPad(アイパッド)」の人気とともに、急速な普及が期待された電子書籍市場の足踏み状態が続いている。昨年末に投入されたシャープとソニーの専用端末の売れ行きは、非公表ながらも「芳しくない」というのが業界の共通認識だ。印刷大手や通信、電機メーカーが展開しているコンテンツの配信サービスも順調とはいえない。関係者が期待するのは販売が好調なスマートフォン(高機能携帯電話)。通常の携帯電話よりも画面の大きい「スマホ」利用者の取り込みを急ぐ考えだ。
 「シャープ製は端末の直販制度が不評で、ソニー製は端末から書籍を直接購入できず、使い勝手がいまひとつ悪い」
■厳しい「2台持ち」
 シャープとソニーが昨年12月10日に発売したタブレット型の電子書籍端末「ガラパゴス」と「リーダー」の伸び悩みを、業界関係者はこう説明する。
 ガラパゴスはインターネットと郵送で注文を受け付ける通信販売が中心で、ソニーの「リーダー」はコンテンツを取り込むにはネットに接続したパソコンが欠かせない。この点が不評を招いているという。
 誤算だったのは端末の利用者が30~40代中心で、画面での読書に抵抗感を持たない若年層への浸透が進んでいないことだ。携帯電話に加え、もう1台の端末を所有する「2台持ち」は若者には費用的に厳しい。
ユーザーからは「新聞や雑誌などの定期配信コンテンツが好評」(シャープ)、「紙に近い画面で読みやすい」(ソニー)といった声もあるというが、専用端末の前途は厳しさが漂う。
 東芝やパナソニックもタブレット型端末を今後投入する予定だが、調査会社BCNによると5月の同端末の国内シェアは多機能タイプのiPadが87.6%と圧倒的。日本勢が牙城を崩すのは容易ではない。
■著作権問題など壁
当初の見通しを下回っているのは端末だけでなく、コンテンツも同様だ。
 シャープはガラパゴス向けに配信するコンテンツの目標数として「2010年12月末までに3万冊」を掲げたが、著作権問題などが壁となって5月20日時点でも約2万6000冊。リーダー向けも2万冊にすぎない。
 「『コンテンツが先か、端末が先か』といわれれば、絶対にコンテンツが先。残念ながら今年前半はユーザーが期待する作品が出ていない」
 野村総研主任コンサルタントの前原孝章氏は、売れ行きを牽引(けんいん)するような魅力的なコンテンツの少なさが、電子書籍が伸び悩んでいる原因だと指摘する。同総研は10年を「電子書籍元年」ととらえ、国内市場は右肩上がりで伸びると予測したものの、その通りに運ぶかどうかは雲行きが怪しくなってきた。
コンテンツ不足を解消し、電子書籍ビジネスが花開いたのは米国だ。ネット通販最大手のアマゾン・ドット・コムは英語圏向けに95万冊以上をそろえ、「紙の書籍の販売ランキング上位の9割以上が電子化され、価格も紙の半額以下」(前原氏)といい、質・量ともに日本の先を行く。
 4月以降は電子書籍の販売数が紙の書籍を上回るという逆転現象も起きた。
■「スマホ突破口」青写真描く関係者
日本では足踏み状態の電子書籍だが、将来をにらんで大手書店が動き出した。5月に国内最大手の紀伊国屋書店が配信サービスに参入。昨年の「本屋大賞」受賞作で映画化も決まった「天地明察」(沖方丁著)や「カラマーゾフの兄弟」(亀山郁夫訳)などの話題作をほかの電子書店に先んじて配信する。
 同書店の担当者は「独自コンテンツの効果で『紀伊国屋にはほかの本屋にないものがある』と感じてもらいたい」と話す。
 「電子書籍の行方を左右するのはスマートフォン」というのが業界の一致した見方だ。「ガラケー」(ガラパゴス携帯)と呼ばれる携帯電話向けの小説やコミックの配信は昨年、市場規模が米国を上回ったとされる。
 「日本人の若者はガラケーでもストレスなく小説やコミックを読んできた」(前原氏)だけに、画面の大きいスマホで突破口を開き、専用端末やタブレット型端末向けのコンテンツが拡大する。電子書籍ビジネスに取り組む関係者は、そんな青写真を描いている。

0 件のコメント:

コメントを投稿