2011年4月28日木曜日

【電子書籍】i文庫S、bREADER、SkyBook、豊平文庫 -iPhone青空文庫アプリ徹底比較- 第1回

iPhoneやAndroid機器の普及につれて「電子書籍」もずいぶんと身近なものになってきている。中でも電子書籍を手軽に楽しめるのが「青空文庫アプリ」だ。
青空文庫アプリは、Webブラウザや一般的な文書ビューアと違い、日本語を縦書きやルビを含めて和文として綺麗に表示できるところが特色となっている。
ということで、ここではiPhone用の代表的な青空文庫アプリである下記の4つを比較検証してみることにする。

i文庫S

bREADER-青空文庫

・ポケット文庫-SkyBook

・豊平文庫

尚、比較検証に際しては、なるべく各アプリのデフォルト設定を尊重しつつも、同じ条件で比較できるように、原則として表示サイズやその他の設定を合せるようにした。また、テスト機はiPhone4、各アプリは現時点の最新バージョンを使用した。
第一回の今回は、青空文庫アプリの基本でもある「青空文庫の表示性能」について、禁則処理、漢字等のルビ、挿絵、漢文等の表示などの点を比較検証してみる。
サンプルのテキストはi文庫Sに内蔵されている青空文庫の代表的な作品を中心に選んだ。

検証項目1:禁則処理

禁則処理とは、「。」「、」などの句読点は行の最初に来ない、といった表示上の禁止事項と、それの回避処理のことである。日本語を綺麗に表現する場合には欠かせない機能なのだが、昨年末KDDIから出たbiblio Leaf※1のように電子書籍端末を名乗っていながら平気で「。」が行頭に来てしまうものもあるから注意が必要だ。※1 http://www.j-cast.com/2010/10/19078596.html
ここでは、小林多喜二の「蟹工船」で検証してみる。

■i文庫S 禁則処理 
i文庫Sでは、「追い出し」で禁則処理を行なわれた。基本的な禁則処理はできている。
iB-K01
iB-K02
iB-K03
iB-K04
iB-K05

■bREADER 禁則処理 
bREADERは、「追い出し」か「ぶら下げ」を設定で選べるようだ。参考画像は行末を揃えるように設定したものだが、禁則処理だけでなく字詰めも行われている。また、「」( )などのバランスも調整して版面を仕上げているようだ。
bR-K01
bR-K02
bR-K03
bR-K04
bR-K05

■SkyBook 禁則処理 
SkyBookでは、「ぶら下げ」で禁則処理が行われた。禁則処理自体はできているのだが、SB-K03、SB-K04などを見てもわかるように行末がガタガタになってしまっている。
SB-K01
SB-K02
SB-K03
SB-K04
SB-K05

■豊平 禁則処理 
豊平文庫でも「ぶら下げ」で禁則処理が行われた。これも禁則処理自体はできているが、HO-K05などを見ると――の2倍ダーシが離れてしまっている。
HO-K01
HO-K02
HO-K03
HO-K04
HO-K05

検証項目2:ルビの表示

ルビは、文章内の任意の文字列に並んで、ふりがな/説明・注釈/異なる読み方などを付け加えたりするための補助情報のことである。通常縦書き文章では、その文字の右側に本文より小さな文字で表記される。
ここでは、芥川龍之介の「歯車」で検証してみる。

■i文庫S ルビ
i文庫S は、iB-R01を見てわかるように「格子-こうし」はいいが、「註文-ちゅうもん」はルビが若干下にズレている。また、「露-あらわ」は下に飛び出してしまっている。
iB-R01

■bREADER ルビ
bREADERは、通常のルビはほぼ中央、行末のルビは行末が揃うように表示されるようだ。
bR-R01

■SkyBook ルビ
SkyBookは、ほぼ中央にルビが表示されるようになっている。
SB-R01

■豊平 ルビ
豊平文庫 は、「註文-ちゅうもん」はいいようだが、 「格子-こうし」は上に偏ってしまっている。
HO-R01

検証項目3:英語表記とルビ

英語と日本語が入り混じった文章は、表示のバランスが難しく、また英語につけられるルビは、漢字などの場合と違って、複数のワードに対してつけられる場合があるため、より難しい処理が求められる。

■i文庫S -英語ルビ
i文庫Sは、参考画像のように「Crispissa」のルビが違うところについてしまっているし、「Behind stairs」のような2ワードの単語のルビもズレている。また、「Athbash法」のような英語と日本語で構成されるような単語では離れてしまっていて1単語に見えない。
iB-E01
iB-E02
iB-E03

■bREADER -英語ルビ
bREADERは、「Crispissa」「Zephyretta」や2ワードの「Behind stairs」でもほぼ中央にルビがつけられている。また「Athbash法」のような場合は英語部分にルビがつけられるようになっているようだ。

bR-E01
bR-E02
bR-E03

■SkyBook -英語ルビ
SkyBookは、「Crispissa」「Zephyretta」はほぼ中央にルビがつけられているが、「Behind stairs」のような2ワードではルビがずれてしまっている。「Athbash法」などの場合は英語部分にルビがつけられている。
SB-E01
SB-E02
SB-E03

■豊平 -英語ルビ
豊平文庫は、参考画像をみてもわかるように英語にはルビがつかなかった。また、英単語が横表示されず一文字ずつ縦表示されるようだ。
HO-E01
HO-E02
HO-E03

検証項目4:挿絵の表示

これは青空文庫に限らず、英語の本などでも同様だが、挿絵を入れると楽しくてわかりやすい本が出来上がる。
ここでは、殺人事件の証拠物件の挿絵などが登場する小栗虫太郎の「黒死館殺人事件」で比較してみよう。

■i文庫S -挿絵の表示
i文庫Sでは、iB-S02に挿絵のみが表示された。また挿絵のサイズは拡大されているようだ。

iB-S01
iB-S02
iB-S03

■bREADER -挿絵の表示
bREADERでは、bR-S02でもわかるように挿絵と文章が混在表示されるようだ。
bR-S01
bR-S02
bR-S03

■SkyBook -挿絵の表示
SkyBookは、i文庫Sと同様SB-S02に挿絵のみが表示される。また挿絵のサイズは通常のようだが、画像の枠が表示される。
SB-S01
SB-S02
SB-S03

■豊平 -挿絵の表示
豊平文庫もbREADERと同様、挿絵と文章の混在表できるようだが、画像に枠が表示されてしまうので浮いるように見える。
HO-S01
HO-S02
HO-S01

検証項目5:訓点等の表示

日本では古くから漢文の訓読が行われている。
訓読とは、漢文を読む際に中国語や仏典の読経などのように音読みせず、漢字の字義による訓読みを利用して、日本語として読むことである。
それを表記する訓点には、返り点や一二点などがあるが、青空文庫でも漢文が出てくるものがあるので、下記のサイトを参考に内藤湖南の「卑弥呼考」で比較検証してみよう。

[電子書籍] Windows 用の青空文庫ビューア、 3本を試してみる。
http://bluewatersoft.cocolog-nifty.com/blog/2010/04/windows-3-d1af.html

■i文庫S -訓点
i文庫Sは、参考画像を見てもわかるように、返り点、一二点等は全く表示されない。

iB-T01
iB-T02
iB-T03
iB-T04
iB-T05
iB-T06

■bREADER -訓点
bREADERでは、返り点、一二点などの訓点が表示される。上記サイトに登場したWindows 用の青空文庫ビューアと比較しても、行末揃えや割り註なども含めて高い表示能力がある。
bR-T01
iB-T02
iB-T03

■SkyBook -訓点
SkyBookもi文庫Sと同様に、返り点、一二点等は全く表示されない。
SB-T01
SB-T02
SB-T03
SB-T04

■豊平 -訓点
豊平文庫も、bREADERと同様に返り点、一二点等の訓点を表示することができる。
HO-T01
HO-T02
HO-T03
HO-T04


第1回検証のまとめ
今回取り上げた4つのiPhone用青空文庫アプリは、いずれも合格点といえる検証結果だった。
一方、同じ青空文庫作品を表示しても各アプリでずいぶん違って見えるものだというのも正直な感想だ。このような違いは今回のように比較検証してみないと気づかないのかも知れない。
個々のアプリについてだが、まず今年全面リニューアルされ新規アプリとして登場したi文庫Sは、やはり旧i文庫よりもよくなっていた。例えば旧i文庫では2倍ダーシが離れてしまっていたが、そのような問題点は改善されたようだ。ルビや訓点などの項目は多少残念な結果となったが、実用上問題はないだろう。
次に、これも今年になって新世代青空文庫アプリとして登場したbREADERだが、評判通りの素晴らしい出来栄えと言える。PC用を含む多くの青空文庫リーダーと比較してもこれだけキッチリと青空文庫を表示できるのは記憶にないくらいだ。
SkyBookもi文庫Sと同様、訓点の項目では残念な結果だったが、英語表示などではi文庫Sよりも好成績だった。
豊平文庫も以前よりも大分よくなった。今年になって訓点の表示もサポートしたため、その項目ではi文庫SやSkyBookよりも評価できる。
総じて言えば、 bREADERが全ての検証項目において頭ひとつ抜け出している。i文庫S、SkyBook、豊平文庫はそれぞれの項目で一長一短だったが、青空文庫を手軽に楽しむという点ではいずれも十分な性能を備えていると言える。
次回第2回以降では、電子書籍ビューアとしての基本的な操作性、使い勝手や電子書籍ならではの機能、その他特色などの観点で何回かに分けて徹底検証したいと思っている。乞うご期待。

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