2011年1月27日木曜日

主要携帯キャリア動向—主戦場はスマートフォンと専用端末へ

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電子書籍を利用するための端末としてもっとも期待されているのがスマートフォンやタブレット端末だ。iPhoneやiPadの登場で、国内にもこうした端末が急増しており、NTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンクモバイルの主要3キャリアが製品を発売している。それだけでなく、3キャリアはスマートフォン向け電子書籍配信にも力を入れ始めている。
 日本の携帯キャリアのビジネスモデルは、キャリア自身が独自のサービスを提供し、端末を自社のサービスに最適化して販売するというものだ。NTTドコモのiモードに代表されるように、これらはすでに大きな成功を収めており、スマートフォンが普及の兆しを見せている今、キャリアが同様のサービスに注力するのも当然の流れだろう。

フィーチャーフォン向け電子書籍市場の現在

 電子書籍というと、米国の方が先行しているようなイメージがあるが、これは一面的な見方にすぎず、日本でも電子書籍配信サービスはすでにスタートしていた。
 たとえば、1995年にパピレスがパソコン通信向けに「電子書店パピレス」を開設している。ビットウェイが、1999年にPC向けビューワー「Book Jacket」、2001年からPDA向けに「Book Jacket 2」を配信をしている。角川書店、講談社、光文社、集英社、新潮社、中央公論新社、徳間書店、文藝春秋による電子書籍販売サービス「電子文庫パブリ」は2000年のスタートだ。
 その後、一般の携帯電話(フィーチャーフォン)向けに上記企業を含む公式サイトが電子書籍配信サービスを行ない、一大市場を形成することになった。これら公式サイトでは、小さな画面でも見やすいユーザーインターフェースを備えた電子コミックス配信が支持され、主流となった。
 またこの市場形成は、高速なデータ通信の登場、パケット定額制によるダウンロードのしやすさ、月額制による電子書籍購入も可能なサービスの存在、電話利用料金との合算による請求など、ユーザーにとって利用しやすい環境が整えられた影響が指摘されている。
 2002年、NTTドコモが電子書籍をPDAやPCに配信するサービス「M-stage book」を開始しており、2004年にはマンガの配信をスタートさせた。ソフトバンクモバイルも、2004年に電子コミックの配信を始めている。 2005年、auブランドの携帯電話向けインターネット接続サービス「EZweb」において、書籍関連サービスのポータルサイト「EZ Book Land!」が公開された。EZ Book Land!は、電子書籍販売のサービス「EZブック」と、紙の書籍販売の新サービス「au Books」から構成されていた。
 現在の状況が伺える情報としては、まずシャープが「デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会」において公表した「電子ブック技術(XMDF)の取組みと国際標準化推進について」がある。これによれば、電子書籍フォーマットXMDFに対応する再生環境の市場ボリュームは、KDDI端末が3000万台、ソフトバンクモバイル端末が1600万台、NTTドコモ端末が1500万台、ゲーム端末が1000万台となっている。

XMDFベース再生環境の市場ボリューム
KDDI(au)端末3000万台
ソフトバンクモバイル端末1600万台
NTTドコモ端末1500万台
ゲーム端末1000万台

 またセルシスとボイジャーは、フィーチャーフォン・スマートフォン向け総合電子書籍ビューワー「BS Reader」(旧:BookSurfing)を提供している。KDDI(au)/NTTドコモ/ソフトバンクモバイル/ウィルコム/イー・モバイル向けの日本国内1100以上のサイトで採用されており、コミックを中心に9割を超えるシェアをうたっている。両社は、BS Readerに「.book」(ドットブック)フォーマットの読み込み機能を追加し、テキスト系電子書籍への対応を強化する予定だ。
 インプレスR&D インターネットメディア総合研究所の「電子書籍に関する市場規模の推計結果」(2010年7月)によれば、フィーチャーフォン向けの国内電子書籍市場はすでに513億円規模に達しており、市場は拡大を続けている(電子新聞や電子雑誌などの定期発行媒体、教育図書、企業向け情報提供、ゲーム性の高いものは含まず)。
 対して、新プラットフォーム(iPhoneを中心とするスマートフォン)対象の電子書籍市場規模(2009年度)は約6億円と推計されているものの、 Android端末の登場などにより、スマートフォン自体はさらなる普及が予測されている。これによって、フィーチャーフォン向けを追い抜くほどの電子書籍市場の拡大が期待/予測されており、注目が集まっているといえるのだ。

電子書籍市場規模の推移(単位:億円)。インプレスR&D インターネットメディア総合研究所の電子書籍に関する市場規模の推計結果より作成
電子書籍市場規模の推移
(電子書籍に関する市場規模の推計結果より)
年度PC向けフィーチャーフォン向け新プラットフォーム向け
2002年度10億円
2003年度18億円1億円
2004年度33億円12億円
2005年度48億円46億円
2006年度70億円112億円
2007年度72億円283億円
2008年度62億円402億円
2009年度55億円513億円6億円

 また、同研究所の「電子書籍ビジネス調査報告書 2010[新プラットフォーム編]」では、PCおよびフィーチャーフォン向け電子コミックが、2009年度電子書籍市場全体の約81%(457億円)を占めている点を指摘しており、市場を牽引していることが分かる。
 スマートフォン/電子書籍専用端末向けにおいても、やがては電子コミック配信が主流となる可能性がある。

2009年度電子書籍市場の内訳。インプレスR&D インターネットメディア総合研究所「電子書籍ビジネス調査報告書 2010[新プラットフォーム編]」より作成
電子書籍市場規模の2009年度内訳
(「電子書籍ビジネス調査報告書 2010[新プラットフォーム編]」より)
PC向けフィーチャーフォン向け
電子コミック29億円428億円
電子書籍(文芸系)18億円44億円
電子写真集8億円41億円
合計55億円513億円


スマートフォン向け電子書籍への注目

 米国では電子書籍を読める高機能な携帯電話はなく、2006年に米SonyがSony Readerを発売、そして2007年に米AmazonのKindleが登場したことで一気に電子書籍市場が拡大していった。
 特に、書籍のオンライン販売を行なうAmazonが約75万冊といわれる豊富な電子書籍を用意した点は大きい。さらにMVNO(仮想移動体通信事業者)として、3G通信を使った利用料を無料にして、いつでもどこでも電子書籍を購入できる環境を構築したのもポイントだ。
 また米Appleから登場したiPhone/iPod touch、そしてiPadがこの電子書籍の流れを決定づけた。iPhone/iPod touch、iPad向けにアプリの形で電子書籍や電子雑誌がいくつも登場したほか、Apple自身も電子書籍ストアとしてiBookstoreをスタートした。
 主にテキスト系電子書籍を配信するKindleやSony Readerに対して、iPhone/iPod touch/iPadでは、雑誌やコミック、マルチメディアコンテンツなども配信され、電子書籍の普及が加速している。
 それに対する日本は、フィーチャーフォン向け電子書籍配信に続き、iPhone/iPod touch/iPad向けに電子書籍を配信する動きが出版社から出てきており、PC向け電子書籍配信を行なう各社が取り組みを進めている。
 そうした中、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクモバイルがAndroid端末への注力を進めており、これまで公式サイトごとに電子書籍を配信していたのに対して、スマートフォン向けにこれら3キャリアが主導して電子書籍を配信する電子書籍ストアを開設しようとしている。

NTTドコモ

 NTTドコモは、2010年8月に大日本印刷と提携して電子書籍ビジネスに参入することを発表した。その後2010年12月には、大日本印刷の子会社であるCHIグループとの3社で、紙の書籍と電子書籍を同時に取り扱う「ハイブリッド型総合書店」を運営することに合意し、共同事業会社として「トゥ・ディファクト」(2Dfacto)を設立した。
 2011年1月には、共同事業会社が電子書籍ストアとしての「2Dfacto」を開設しており、12日からサービスをスタートさせている。 2Dfactoでは、大日本印刷傘下のオンライン書店「ビーケーワン(bk1)」ほか、大手書店「丸善」、「ジュンク堂」、「文教堂」などと連携し、紙の書籍も購入できるようにしたのが特徴で、電子と紙で購入履歴を一元化。共通ポイントの仕組みなども構築する計画。サービス開始時の電子書籍数は2万点で、今春までに10万点に拡充する方針だ。

「2Dfacto」はアプリの形になっており、まずドコモマーケットから専用アプリをダウンロードする。そのアプリ内で実際の電子書籍を購入する

 電子書籍閲覧ソフトは、電子書籍フォーマットとしてXMDF、.bookに対応するほか、セルシスとボイジャーによる統一フォーマット「BS Format」を読み込める総合電子書籍ビューワー「BS Reader」を利用できる。
 決済方法は、当初クレジットカードとWebMoneyのみの対応。2月以降、spモードのコンテンツ決済サービスを利用する形で、携帯電話料金と合わせた支払いが可能になる予定だ。
 2011年中には、複数の端末で同一の電子書籍を閲覧できる機能や、しおりやマーカーなどを複数端末で共有する「sync」(シンク)機能も提供する。対応端末はドコモのスマートフォン・タブレット端末、電子書籍端末で、「Xperia」、「GALAXY S」、「GALAXY Tab」、「LYNX 3D」、「REGZA Phone」、「Optimus chat」、「ブックリーダー SH-07C」をサポートする。

KDDI(au)

 KDDI(au)は、大日本印刷と並ぶ凸版印刷と提携。ソニーと朝日新聞社を含めた4社で、電子書籍配信事業を行う準備会社を7月に設立。11月には実際の事業会社としてブックリスタを設立した。
 このブックリスタを利用したKDDIの電子書籍配信サービスが「LISMO Book Store」だ。当初は電子書籍専用端末「biblio Leaf SP02」向けに配信を行い、当初2万点、11年度中に10万点まで書籍を拡充する。KDDIでは、今後ほかのスマートフォンにもサービスを対応させていく考えだ。

電子書籍専用端末「biblio Leaf SP02」
「biblio Leaf SP02」から見た「LISMO Book Store」のイメージ。約2000点の電子書籍を無料ダウンロード可能で、100点はあらかじめ「biblio Leaf SP02」に収録しているPC向け「LISMO Book Store」サイト

 決済については、「auかんたん決済」を利用することで、KDDI携帯電話の利用料と合算して請求される。

ソフトバンクモバイル

 前述の2つの連合に対して、独自のサービスを展開するのがソフトバンクモバイルだ。同社ではすでに子会社のビューンが雑誌配信サービス「ビューン」を展開しており、40の雑誌・新聞などを配信している。さらに、Androidスマートフォン向け電子書籍配信サービスとして「ソフトバンク ブックストア」も立ち上げている。

「ビューン」(iPadアプリ版)「ソフトバンク ブックストア」は15万点以上のラインナップをうたっている

 ソフトバンク ブックストアは、すでに15万点以上のラインナップを準備しており、現段階では最大の書籍ラインナップを誇るサービスだ。これだけの数を揃えられたのは、すでにフィーチャーフォン向けに提供していた電子書籍をそのままスマートフォン向けに提供しているからだという。これによって、早期にラインナップが充実した。現在の対応機種は「GALAPAGOS 003SH」「GALAPAGOS 005SH」の2機種だ。

「GALAPAGOS 003SH」「GALAPAGOS 005SH」

 電子書籍の購入代金は、携帯電話利用料とともに請求される。また利用限度額が設定されており、携帯電話契約日から3ヵ月以内の場合は毎月3000円以下、3ヵ月超の場合は毎月1万円以下となっている。
 さらに、任意のパスワードを設定することで、1ヵ月当たりの利用限度額変更や、ソフトバンク ブックストアからの購入を制限可能だ。ソフトバンクモバイルは、未成年の過度な購入を防止するために利用するよう呼びかけている。
 携帯3社の電子書籍配信では、凸版印刷や大日本印刷という印刷大手2社と連携するNTTドコモとKDDIに対し、独自の立ち位置でサービスを展開するソフトバンクという構図だ。

強みは購入のしやすさ、ただし懸念すべき点もあり

 キャリアが主導するサービスでは、携帯の月額料金と合算して電子書籍の支払いが行なえるため、書籍の購入のハードルが低くなり、普及に拍車が掛かることが予測される。複数端末を提供するキャリアだからこそ、複数のスマートフォン/専用端末で購入した電子書籍を読み回せるという利点も期待できるだろう。
 しかし、キャリアをまたいでMNPをした場合などに書籍が読めなくなるのではないか、スマートフォン以外のPCやキャリアが販売する端末以外のタブレット端末などでも読めるのかといった懸念もあり、今後のサービスがどう発展するのかは大きく注目を集めている。

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