2011年7月25日月曜日

国際電子出版EXPO前後の電子書籍市場

http://ebook.itmedia.co.jp/ebook/articles/1107/24/news001.html

「電子書籍ってどこを押さえておけばいいの?」――忙しくて電子書籍市場の最新動向をチェックできない方のために最新動向を分かりやすくナビゲートする「eBook Forecast」。今回は、先日開催された「第15回国際電子出版EXPO」前後に起こった出来事を中心にお届けします。

国内の出版業界の複雑な構造なども相まって、ブレイクしているのかどうか分かりにくい国内の電子書籍市場。ICT総研が行った電子書籍コンテンツの国内需要予測調査によると、2015年度の電子書籍コンテンツ市場は1890億円(2010年度比で8.2倍)とまずまずの成長予測となっています。

この数字は、これまで国内の電子書籍市場をけん引してきたケータイコミックの市場も含んでいますが、2013年にはスマートフォン/タブレット/電子書籍専用端末向けの電子書籍市場がそれを逆転するとしており、「コンテンツホルダーである出版社の電子書籍への取り組みの本気度が今後の出版業界の命運を握っていると言える」と何だか当たり前の言葉で結んでいるのが面白いところです。

それでは、ここ1カ月ほどの電子書籍市場の動きと、今後について予測する「eBook Forecast」をお届けします。

続々と立ち上がる電子書籍ストア
まずは、6月上旬から7月上旬までに新たに開設された電子書書籍ストアです。

  Kinoppyは、紀伊國屋書店が運営する電子書籍販売サービス「BookWebPlus」と、紙の本を販売するネット通販サービス「BookWeb」を透過的に利用できるアプリで、iOS版とAndroid版が用意されています。一般に、紙では刊行されているが、電子書籍で提供されていない作品というのは多数存在します。後述するように一部の出版社は新刊書をすべて電子化することを決めており、幾分電子書籍への対応が進んでいますが、現実には電子書籍が提供されていない作品のほうが大多数です。

紀伊國屋書店はこうした状況を鑑み、ユーザーが不便を感じないように、紙と電子書籍を1つのアプリから購入可能にしているのです。同様の取り組みは、丸善やbk1、ジュンク堂などを傘下に持つ大日本印刷陣営の「honto」でも当然視野には入れているようですが、こちらは1つの旗の下で動くには、まだもう少し時間が必要でしょう。

そんなDNPの陣営といえるのが、富士通が立ち上げた電子書籍ストア「BooksV」です。富士通は3月にDNPと連携して電子書籍ビジネスへの参入を発表しており、予定よりやや遅れて6月22日にストアをオープンしました。

BooksVは、DNPの関連会社であるモバイルブック・ジェーピーのほか、同社グループのジー・サーチ、富士通エフ・オー・エムの出版ブランド「FOM出版」からコンテンツの提供を受け、30万点を超える強力なラインアップを武器にしています。30万点という数字は、雑誌の特集などを個別に切り出した雑誌記事・レポートなどを含んでおり、実際にはこうしたコンテンツが全体の9割以上を占めているのですが、「あの雑誌のあの特集だけ読みたい」といったニーズは確実に存在しますし、漫画は現時点で取り扱っていないことなどを考えると、ビジネスマンなどを中心に支持を集めそうです。

紀伊國屋書店や富士通のBooksVと比べると明らかに規模は小さいものの、ユーザーニーズをよく理解しているのが「ブックパブ」です。幾つかの出版社が集まって立ち上げたモール型のこの電子書籍ストアは、コンテンツをDRMフリーで提供しているのが大きな特徴です。

出版社が自らのコンテンツをDRMフリーで提供するのは、長期的にはともかく、少なくとも現時点ではかなりチャレンジングな取り組みです。だからこそ大手の出版社が名を連ねていないのですが、複数のDRMやフォーマットに対応するマルチビューワが一般的になるのか、こうしたDRMフリーコンテンツが一般的になるのかは注目したいところです。
2010年の国内電子書籍市場をけん引した2つの電子書籍ストアは今
こうした新たな電子書籍ストアが立ち上がる中、電子書籍元年と呼ばれた2010年の国内電子書籍市場をけん引した2つの電子書籍ストアは今、それぞれの道を歩みつつあります。

1つはソニーの「Reader Store」。これまで同ストアでは、シャープの電子書籍フォーマット「XMDF」形式の電子書籍を主に扱っていましたが、ファームのアップデートで新たにボイジャーのドットブック(.book)に対応しました。これにより、電子刊行物のフォーマットを.bookに統一している講談社の作品がReader Storeに並ぶことになり、ラインアップを大幅に拡充しています。専用の電子書籍端末「Reader」の最新モデルが8月にもリリースされるのではないかといううわさもあり、勢いは継続しているといえそうです。

一方、少し雲行きが怪しくなっているのが、「TSUYATA GALAPAGOS」です。TSUYATA GALAPAGOSは、シャープとカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)の合弁会社により運営されている電子書籍ストアですが、CCCは6月30日、TSUYATA GALAPAGOSとは別に独自の電子書籍ストア「TSUTAYA.com eBOOKS」をオープン、専用のAndroidアプリもリリースされました。

TSUTAYA.com eBOOKSでは、TSUTAYAの実店舗との連携を考慮し、TSUTAYA店舗で購入した紙書籍の電子書籍を安価に購入できるサービスを年内に開始する予定ですが、TSUYATA GALAPAGOSと別に新たなストアを立ち上げる必要があったのかは謎です。

TSUTAYA.com eBOOKSでは電子書籍のフォーマットに上述の.bookを採用していることなどを考えれば、(.bookの競合となる)XMDFを手掛けるシャープに配慮したともいえますが、そもそもTSUTAYA GALAPAGOSの出資比率はシャープが49%、CCC51%で、CCCの子会社扱いですし、代表取締役社長も2代続けてCCCから就任していますので、わざわざ別のストアを立ち上げる必要は本来さほどないはずです。それでもあえてTSUTAYA.com eBOOKsを立ち上げたのは、両社の関係がうまくいっていないのではないかと考えるのが自然です。リリース文には、「端末、iPhone、iPad、タブレット端末やPC向けなど多様な端末向けにTSUTAYAが本格的立ちあげる電子書店」とあるのも見方によってはトゲがあります。

そんなシャープは、7月に入ると、DRMフリーのXMDFを取り扱っていた「SpaceTownブックス」を11月で閉鎖すると発表し、多くのファンを悲しませました。

しかし、暗い話ばかりではありません。7月14日には、GALAPAGOSのOSをAndroid 2.3にアップデートすると発表しました。シャープはGALAPAGOSに搭載されているOSをLinuxベースと対外的には発表していましたが、これがAndroidベースだったのは明らかでしたから、Android 2.3へのアップデートを提供するのは一見歓迎できます。

しかし、筆者個人は、進化をうたったGALAPAGOSが過酷な生存競争に敗れつつあるのではと不安視しています。当初はGALAPAGOSからのみ利用可能だったTSUTAYA GALAPAGOSは、まずはシャープのスマートフォンに、6月にはシャープ以外のAndroid搭載スマートフォンからも利用可能となり、専用端末の意味合いは当初より薄れてきていますが、Android 2.3へのアップデートで専用端末を汎用化しようとしても、ハードウェア構成的に使えないアプリも多く、どっちつかずの端末になってしまったように思えてなりません。

5.5型のモバイルタイプは、このサイズにしては珍しい高解像度を備えているため、今後も一定の需要はあるでしょうが、10型のホームタイプは、Acerが最新のスペックでかつAndroid 3.0を搭載し、しかも3万円台の「ICONIA TAB A500」を提供するなど、競争力に欠けるのは明白です。ホームタイプがAndroid 3.xを搭載する可能性は限りなく低いでしょうし、仮にアップグレードされたとしても、スペック的に動作は厳しいでしょう。市場のニーズに合わせたといえば美談ですが、どこで差別化を図るのかといった部分が見えてこないのは危険な兆候です。

一方で、“第3の”GALAPAGOSタブレットがリリース間近であると取り上げられています。記事では7型のタブレットではないかと予想されていますが、恐らくAndroid 3.xを搭載してくるでしょう。7型タブレット市場は「GALAXY Tab SC-01C」や「Dell Streak 7」などをはじめ、最近多くのベンダーから製品がリリースされているホットスポットです。7型タブレットを「どっちつかず」と批判するAppleのスティーブ・ジョブス氏に負けることなく、今年後半は7型タブレットが大きく注目されそうです。

ちなみに、シャープは4月に、XMDFビルダーなどのオーサリング環境を7月に無償公開することを発表していましたが、7月24日時点で、まだリリースされていないことも気がかりです。シャープの動向はしばらく注視しておいてもよいでしょう。
楽天も電子書籍ビジネスに参入、専用端末はまずはパナソニックから

7月の上旬には電子書籍市場の祭典ともいえる「第15回国際電子出版EXPO」が開催され、各社がこの前後に大きな発表をしています。第15回国際電子出版EXPOでは幾つか大きな発表もありましたので、特設ページで確認するとよいでしょう。

そんな中、今注目を集めているのは、電子書籍ビジネスに本格参入する楽天です。
楽天は6月13日に、紀伊國屋書店、ソニー、パナソニックとともに、日本での電子書籍サービスを普及拡大させる取り組みを検討していくことで合意したと発表、国際電子出版EXPOでは、楽天が8月10日に立ち上げる予定の電子書籍ストア「Raboo」の専用端末と位置づけられるパナソニックの「UT-PB1」が披露されていました。ちなみにこの端末も7型の端末です。

楽天が立ち上げるRabooは、楽天経済圏を生かし、ユーザーにとって身近な存在になりそうですが、専用端末のUT-PB1は、Androidベースの電子書籍専用端末という意味では上述のGALAPAGOSが登場した当時と同じような路線なのが懸念されます。ただし、楽天、紀伊國屋書店、ソニー、パナソニックの4社連合では、れぞれが提供、運営している電子書籍端末や電子書籍ストアが相互接続できる環境の構築を進めるとしており、極端な話、ソニーのReaderなどでもRabooのコンテンツが読めるようになるでしょうから、少し洗練されている印象を受けます。

Kindleのような専用端末と、iPadなどの汎用タブレット端末との中間に「電子書籍用のタブレット端末」という市場があるのかどうか。それともそこも汎用タブレットが陣取るのか――ここでその答えを出す気はありませんが、1つの興味深い意見を紹介しておきます。先日eBook USERに掲載された、うめ・小沢高広氏、一色登希彦氏、藤井あや氏という電子書籍の出版経験を持つ現役漫画家による座談会で、電子書籍専用端末について語った部分です。


藤井 若い女の子が、本を読むために4万円出すかといったら出さないですよね。

小沢 しかも本そのものではなく、本棚のためにってことですし。ガラケーで漫画が読める利点というのは、電話の「ついで」に読めるからですよね。

Amazonタブレットの死角でNOOK2が高評価
国内の電子書籍市場では、いまだ外資勢の国内参入もはっきりとしない状況ですが、それぞれのプレイヤーが忙しく動き回っています。

その筆頭はやはりAmazon.com。5月ごろからうわさになっているタブレットが8月、いや10月、と人によってまちまちですが、リリースが迫っているようで、Appleとの競争が激化しそうです。

市場ではAmazonタブレットの話題で持ちきりですが、米非営利調査機関Pew Research Centerのレポートによると、米国ではタブレット端末より電子書籍端末の方が普及しており、電子書籍端末の保有率は過去6か月間で倍増したと報告されています。そうした中、Barnes & Nobleの新型電子書籍専用端末「NOOK2」が米消費者団体の評価で初めて「Kindle」を抜き、IDCが発表した2011年第1四半期(1~3月)における電子書籍端末出荷調査でも、Burnes & NobleがAmazonを追い抜き初の首位となるなど、Burnes & Nobleが勢いを増しています。

そんなAmazonからは、毎日のように電子書籍関連のニュースが発表されていますが、大きな動きになりそうなものが、学生向けにKindle版の教科書を貸し出す「Kindle Textbook Rental」サービスです。最大80%のコストセーブが可能な点なども魅力ですが、若いうちから電子書籍に慣れさせておくというのは、長期的に電子書籍市場にプラスに働きます。こうした取り組みが日本でも今後起こることに期待しましょう。
Google eBookstoreに対応した電子書籍端末も登場

Amazonに負けじと、IT業界のガリバーであるGoogleも大きく動き出しました。同社のGoogle eBookstoreは、数十万冊の有料タイトルだけでなく、著作権切れ作品を中心に300万冊の無料タイトルを取り扱う巨大な電子書籍ストアですが、このGoogle eBookstoreに対応する電子書籍リーダーがiriverから登場しました。それが「iRiver Story HD」で、AmazonのKindleの価格帯に近い約140ドルで販売されています。Wi-Fi接続経由でクラウド上の電子書籍を直接読むことができるようになっています。

正確には新製品というより、iRiverが2009年に発売した「iriver Story」の後継に位置づけられるStory HDが、米国発売に合わせてGoogle eBookstoreに対応したというものですが、AmazonにおけるKindle、AppleにおけるiPad、Barnes & NobleにおけるNOOKに相当する製品です。もっとも、Google eBookstoreはAPIが公開されていますので、今後同じような製品が登場してくる可能性は高いです。初物は避ける、という賢明なあなたのために、Story HDについては近日レビューをお届けする予定です。

この動きとは直接関係はありませんが、Googleは現在、書籍全文検索サービス「Google Book Search」(現Google Books)について、米国著作者協会(AG)や米出版社協会(AAP)から訴訟を起こされており、その和解締結でもめています。オプトイン方式への和解案修正にGoogle側が難色を示しているというもので、裁判が再開されるシナリオが濃厚になってきているようです。エンドユーザーというよりはコンテンツプロバイダー向けのトピックですが、気になる方はチェックしておきましょう。

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