2011年4月20日水曜日

日本版コラム】苦境の出版業界、電子書籍に活路を見いだせるか

http://www.jiji.com/jc/ws?g=life-style&k=Life-Style224561
ずいぶん前から出版業界は厳しいと言われている。その厳しさは書店に高く積まれたままの書籍や、大学生が本を読まなくなったことなど、さまざまな現象を目にしながら実感する機会が多い。なぜ厳しいのか、そしてこれからどうなるのだろうと思っていたら、ちょうどよい本に出会った。
 先月発売されたフリージャーナリスト山田順さんの著書『出版大崩壊 電子書籍の罠』(文春新書)である。山田さんは光文社に勤務し、30年以上も編集者として勤めた後、2010年に退社した。光文社の時代は英語のペーパーバックスを彷彿とさせる「光文社ペーパーバックスシリーズ」を創刊し、編集長も務めていた。
 さて、私の友人が光文社ペーパーバックスシリーズから本を出版していた。『出版大崩壊』に興味を持ったのは、山田さんに世話になったこの友人からの勧めがきっかけだった。
 「出版社が電子書籍を進めてもあまりもうからないって話を書いた本が出るんだって」。この話を聞いた私は関心を抱いた。苦境に陥っている出版業界が活路を見いだそうとしているのが電子書籍の分野であって、その先行きはそれほど悪くないのではないか、出版社によって程度の差こそあれ起死回生を図れる会社もあるのではないか、というのが私の漠然とした印象だったからである。
 山田さんが本書の冒頭にも書いているように、2010年は「電子書籍元年」と呼ばれ、大きな変化が起きた年だった。「出版界に限らず、新聞、テレビなどを含めた既成メディアのすべてを巻き込んでいく、大きな潮流であり、2011年になってさらに加速化している」(本文より)のである。まだ始まったばかりのこの変化に関して、暗い先行きがすでに見通せてしまっているというのは本当なのだろうか。もしそうだとしたら、なぜなのか。多少の興味を抱きつつ疑心暗鬼になりながら手に取ったという次第だった。
 なぜ山田さんがそう考えるのかについては、ぜひ本書を読んで欲しい。もちろん詳しい内容は同書に譲らなければならないが、山田さんはさまざまな実例を挙げながら電子書籍を作り売っていく仕組みを分析し、自論を展開しているのだ。私自身、本書を読み終えてみて、あまりに暗い未来予想図だがそう考えるのもやむを得ないのかも知れない、と感じるようになった。
 出版社を襲う暗い未来。あまりに説得力があるのは、前述したように、多くの実例と分析が挙げられているからだ。しかしそれだけではない。単にデータを示して客観的に批評してみせているだけではなく、山田さん自身の体験もある。電子出版ビジネスの運営に乗り出したが、あまりうまくいかなかったという実体験まで盛り込んでいるところが、この本の説得力を大いに増す結果となっているのだ。
 本書の主なテーマは、電子書籍をめぐる現状と今後の見通しだ。だが、それに加えて、この本を読むと、変化の激しい出版業界の最近の動向について、大変わかりやすく解説してあって、混乱していた頭が整理され、まるで教科書を読んでいるように学べるというメリットもある。
 ところで、この本の帯には大きな文字で「某大手出版社が出版中止した『禁断の書』」「電子書籍の『不都合な真実』」などと書かれている。冒頭でも「当初、本書は電子化を積極的に進める出版社から出す予定で書いてきた。しかし、内容がその社が進める電子化に反するものだったためか、途中で中止」となったことが明かされている。その後に文藝春秋社から刊行されることになったわけだ。
 確かに「出版社に未来はない」といった内容の書籍を出版することは、その出版社の存在を否定するようで、なんとも言えない居心地の悪さがあるのだろう。しかし、これだけ大きく注目されている電子書籍を積極的に推進している社としては、こうした批判もあることを織り込んだ上で方針を決定しているわけではないのか。このような対応では、自信のなさが浮き彫りにされているように思えてならない。また、言論機関の一翼を担う存在としては、あまりに狭量な判断である。反論さえも許容できないほど、追い込まれた気分が充溢してしまっているのだろうか。
 そして、変化の激しい出版業界に、また大きな打撃が加えられた。3月11日に発生した東日本大震災である。流通が滞り、紙やインクの調達が困難となり、本の出版そのものが厳しくなっているのだ。だったら電子書籍を進めるチャンスなのだが、それも本書にあるようになかなかうまくいきそうもない。まさに「出版大崩壊」の崖っぷちに立たされた出版社。この先、どう生きるのかが注目される。

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