http://www.asahi.com/culture/news_culture/TKY201201240364.html
インターネット図書館の先駆けとして、15年前に始まった青空文庫。昨年、収録作品が1万点を超えた。折からのタブレット型端末の普及で、利用者も着実に増えている。
■元日の告知
「あまねく人の上に広がる青空のように、万人が本を共有できたら」。横浜市のライター、富田倫生(みちお)さん(59)ら4人の呼びかけで始まった青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)。毎年元日に、著作権が新たに切れ、収蔵可能になった作家が告知される。今年は童話作家の小川未明ら15人が加わった。
利用が無償なら、入力や校正もすべてボランティア。これまで編集者や学校の先生など延べ800人が支えてきた。高校のクラスや大学のサークルなど団体で参加する例も。ネットの掲示板やメールでやりとりしているという。
入力方法は、元の本を見ながら手作業で打ち込むか、スキャナーで読み取って文字ファイルにする方法がほとんどだ。できあがったものをメールで運営サイドに送ると、ファイルが文庫の仕様に合わせた形に変換され、掲載される。
文庫には、少数だが著作権の保護期間中のものもある。「スローなブギにしてくれ」などの著作がある片岡義男さん(71)の一部作品もそう。入力ボランティアの知人から公開を持ちかけられた片岡さんは「作品を広く読んでもらおうと賛同した」という。
■急増のわけ
青空文庫はここ数年、アクセスが急増している。なぜだろうか。
一つは、アップル社の「iPad(アイパッド)」などタブレット型と呼ばれる薄い板状の情報端末が続々と登場したのが理由だ。無料または有料の専用ビューワー(閲覧用ソフト)を導入すれば、画面にタッチしてめくったり、ワンクリックで次ページに進めたりと、紙の本を読む感覚に近づいた。また、図書館や電子書籍販売サイトなど多方面から文庫にリンクが張られるようになったのも大きい。
青空文庫は現在、テキストファイルとXHTMLファイルの2種類が中心だ。テキストファイルはダウンロードしてワードやメモ帳に貼り付けても読めるし、XHTMLファイルなら「インターネットエクスプローラ」などのウェブブラウザーで、そのまま読める。
■「暗黒」の恐れ
急成長の青空文庫だが、富田さんは「暗黒時代に突入する可能性がある」と危惧する。かぎを握るのは、著作権だ。
出版物の場合、日本の著作権は、作者(翻訳ならば翻訳者も)の死後50年で切れて利用は自由になる。ところが、ここにきて環太平洋経済連携協定(TPP)などで、著作権の保護期間を20年延長して70年にできないかという議論がクローズアップされてきた。
保護期間が延びても「今切れているものについて再延長にはならない」(文化庁)が、仮に来年から延びるとすれば、新たに文庫に仲間入りする作家が2033年まで途絶える。ゲーム機の文学全集ソフトや視覚障害者のための点訳など文庫の二次利用も制限され、富田さんは「文化の発展にとって大きな損失」と話す。
2012年1月26日木曜日
2012年1月19日木曜日
日本の電子書籍普及率が低い3つの理由
http://news.nicovideo.jp/watch/nw180150
日本でiPadが発売され、“電子書籍元年”ともいわれた2010年。紙の本と電子書籍の同時発売などの話題で盛り上がりを見せたが2011年には、市場が少し落ち着いたかのように感じられた。
一方、アメリカでは電子書籍端末Kindleが浸透し、amazonでは電子書籍が紙の本の売り上げを上回るなど、電子書籍の普及率の高さをうかがえる。それでは、日本がアメリカに比べて電子書籍の普及率が低いのはなぜなのか。
ダ・ヴィンチ電子ナビで、電子書籍に関する疑問、質問に答えるITライターのまつもとあつし氏がその理由を分析した。
まつもとあつし氏によると、日本の電子書籍の普及率が低い理由は3つあげられるという。
1.日本とアメリカで本のパッケージ(文庫の存在や大きさや重さ)が異なる。
2.本が作られるプロセスが異なり、販売価格も異なっている。
3.Kindleが実現しているような利便性がまだ多くの国内電子書店では実現されていない。
まず、1に関しては「日本には新書とか文庫というとても持ち歩きに適した本のフォーマットがあります。北米ではそうではなくて、本は大きくて重いものという捉え方が一般的のようです。もちろん一応ペーパーバックという種類の本はありますが、かなり質の悪い紙を使っていて、しかも分厚いので、お世辞にも読みやすいとは言えません。そんな環境なので、Kindleの薄さと軽さは“紙の本では得られない”メリットとして強いインパクトがあったはずです」と話す。
さらに、Kindleで本を買えば内蔵された通信機能で本が配信されるので本屋さんに行く必要がないが、そもそも日本は世界的にみても書店の数がとても多い。手間がかかるくらいなら、最寄りの駅の本屋さんで手軽に本を買った方が早くて楽だ、というのは現状、合理的な考え方だといえる。
続いて2に関しては本が作られる過程が日本とアメリカでは大きく異なる点がポイントになる。
「日本では、出版社が著者に原稿を書いてもらって、原稿料を払い、書店に本を流通させる「取次」と呼ばれる会社に本を納入します。その際、まず取次会社から出版社にお金が支払われるんですね。
対して、北米では、“エージェント”と呼ばれる専門家が著者と契約して本を書いてもらい、出版社と交渉して本を世に出していきます。交渉の過程で販売方法や販売数が練り込まれますし、出版社もリスクをできるだけ小さくするため、マーケティングに工夫を凝らします。
個人的には日本も少しずつ北米型に移行していくと考えていますが、少なくとも現時点では、紙の本に比べるとリスクが高くなってしまっている電子書籍にどうしても二の足を踏んでしまう会社も多いのも事実です。電子書籍元年と呼ばれた2010年に、電子書籍部門を立ち上げたところも、2011年はまずは、試しにアプリを作ったり、数多く生まれた電子書店に一部の作品を提供して売れ行きを試したり――という形で石橋を叩きながら進んだというのが実態ではないでしょうか?」
最後に3番目の理由についてはこう話す。
「Kindleがすごいのは、Kindle専用端末だけじゃなく、パソコン、スマホ、タブレットなどいろんなデバイス用のアプリを用意していて、“一度買えば、どの端末でも読むことができる”“どこまで読んだか、どこに下線を引いたか”といった読書情報が同期されるところなんですね。あくまでKindleで買った本に限られますが、自炊したPDFと同じかそれ以上の使い勝手が実現されています」
一方日本の電子書籍は「ある程度、いろんな電子書店で電子書籍アプリを買っていくと、何をどこで買ったのかわからなくなってしまったり、機種変更の際買った電子書籍がどうなるのか、という不安もユーザーの側には出てくると思います。App Storeで買った電子書籍アプリの多くは、たとえばAndroidタブレットには移行できません(ただし、紀伊國屋書店のKinoppy、角川書店のBOOK☆WALKERなどのように移行のための仕組みを備える電子書店も増え始めている)」などの改善点を抱えている。
(ダ・ヴィンチ電子ナビ 「まつもとあつしのそれゆけ!電子書籍」より)
日本でiPadが発売され、“電子書籍元年”ともいわれた2010年。紙の本と電子書籍の同時発売などの話題で盛り上がりを見せたが2011年には、市場が少し落ち着いたかのように感じられた。
一方、アメリカでは電子書籍端末Kindleが浸透し、amazonでは電子書籍が紙の本の売り上げを上回るなど、電子書籍の普及率の高さをうかがえる。それでは、日本がアメリカに比べて電子書籍の普及率が低いのはなぜなのか。
ダ・ヴィンチ電子ナビで、電子書籍に関する疑問、質問に答えるITライターのまつもとあつし氏がその理由を分析した。
まつもとあつし氏によると、日本の電子書籍の普及率が低い理由は3つあげられるという。
1.日本とアメリカで本のパッケージ(文庫の存在や大きさや重さ)が異なる。
2.本が作られるプロセスが異なり、販売価格も異なっている。
3.Kindleが実現しているような利便性がまだ多くの国内電子書店では実現されていない。
まず、1に関しては「日本には新書とか文庫というとても持ち歩きに適した本のフォーマットがあります。北米ではそうではなくて、本は大きくて重いものという捉え方が一般的のようです。もちろん一応ペーパーバックという種類の本はありますが、かなり質の悪い紙を使っていて、しかも分厚いので、お世辞にも読みやすいとは言えません。そんな環境なので、Kindleの薄さと軽さは“紙の本では得られない”メリットとして強いインパクトがあったはずです」と話す。
さらに、Kindleで本を買えば内蔵された通信機能で本が配信されるので本屋さんに行く必要がないが、そもそも日本は世界的にみても書店の数がとても多い。手間がかかるくらいなら、最寄りの駅の本屋さんで手軽に本を買った方が早くて楽だ、というのは現状、合理的な考え方だといえる。
続いて2に関しては本が作られる過程が日本とアメリカでは大きく異なる点がポイントになる。
「日本では、出版社が著者に原稿を書いてもらって、原稿料を払い、書店に本を流通させる「取次」と呼ばれる会社に本を納入します。その際、まず取次会社から出版社にお金が支払われるんですね。
対して、北米では、“エージェント”と呼ばれる専門家が著者と契約して本を書いてもらい、出版社と交渉して本を世に出していきます。交渉の過程で販売方法や販売数が練り込まれますし、出版社もリスクをできるだけ小さくするため、マーケティングに工夫を凝らします。
個人的には日本も少しずつ北米型に移行していくと考えていますが、少なくとも現時点では、紙の本に比べるとリスクが高くなってしまっている電子書籍にどうしても二の足を踏んでしまう会社も多いのも事実です。電子書籍元年と呼ばれた2010年に、電子書籍部門を立ち上げたところも、2011年はまずは、試しにアプリを作ったり、数多く生まれた電子書店に一部の作品を提供して売れ行きを試したり――という形で石橋を叩きながら進んだというのが実態ではないでしょうか?」
最後に3番目の理由についてはこう話す。
「Kindleがすごいのは、Kindle専用端末だけじゃなく、パソコン、スマホ、タブレットなどいろんなデバイス用のアプリを用意していて、“一度買えば、どの端末でも読むことができる”“どこまで読んだか、どこに下線を引いたか”といった読書情報が同期されるところなんですね。あくまでKindleで買った本に限られますが、自炊したPDFと同じかそれ以上の使い勝手が実現されています」
一方日本の電子書籍は「ある程度、いろんな電子書店で電子書籍アプリを買っていくと、何をどこで買ったのかわからなくなってしまったり、機種変更の際買った電子書籍がどうなるのか、という不安もユーザーの側には出てくると思います。App Storeで買った電子書籍アプリの多くは、たとえばAndroidタブレットには移行できません(ただし、紀伊國屋書店のKinoppy、角川書店のBOOK☆WALKERなどのように移行のための仕組みを備える電子書店も増え始めている)」などの改善点を抱えている。
(ダ・ヴィンチ電子ナビ 「まつもとあつしのそれゆけ!電子書籍」より)
2012年1月6日金曜日
2012年を読み解く10のキー・トレンド (前)
http://www.ebook2forum.com/members/2012/01/key-trends-of-ebook-market-in-2012/
デジタルの動きは日本で鈍く、欧米ではさらに加速度がついている。米国では、1年前「5年以内に20%」と言われていたが、今は「1~5年以内に50%」という認識で出版業界が動いている。遠くない先に、その先まで考えるような事態になってもまったく驚きではない。それは印刷本の売れ行きしだいということだ。そして日本がどれだけ遅くても、いずれは同期することになる。一次生産者(著作者)と消費者がそれを必要と感じるならば、出版社がサボタージュを続けることはできない。
問題は、そのときに日本の出版市場と出版業界がどんな状態になっているか、ということだ。対応が遅いほど、出版社の選択は苦しいものとなる。出版の生産と流通が、同時にこれほど急速に変わる時代はなかったし、これほどグローバル化したこともなかった。これはすでに明白かつ現前していることで、あとで「想定外」にはして欲しくない。
出版社が自主的に(流通会社に頼らずに)デジタル出版インフラ造るには時間がかかる。印刷本と共存させるには印刷会社の協力が不可欠と思うが、それに依存するだけなら出版社のインフラにはならない。製作から販促まで、使えるサービスは高度化し、コストは劇的に安くなっているが、最適な環境を構築し、最適な形で運用する知恵をつけることが難しいのだ。現在米国で経験していることのほとんどは、ほぼすべてが日本でも共通する課題となる。というわけで、E-Book2.0プロジェクト(Forum/Magazine+)では、今年も日本という場を踏まえつつ、国境を越えた問題にアプローチしていきたい。
以下は、ランダムに10個選んだ2011年のキートレンドである。昨年顕著になってきて、今年様々なトピックやイベントと結びつくことが確実であるものを選んである。日本ではあまり問題になっていないものはあるが、市場の拡大あるいは国際化とともに、意識されるようになるだろう。
1.EPUB 3:E-Bookの独立とアプリ化の新パラダイムが始まる
2.HTML5:書籍から雑誌・新聞まで―出版サービスのプラットフォームからの自立を促す
3.自主出版:出版市場のインフラとして定着・成熟へ
4.ショートE-Book:出版を多様化し、ジャーナリズムの経済的基盤となる
5.アマゾン出版:堅実なマーケティングで着々と地歩を築く
6.メディア・タブレット:非アマゾン型を目指して機能別・用途別多様化へ
7.E-Reader:低価格化と高級化で多様なニーズを吸収
8.知的財産権問題:「海賊懸念」薄れ、社会的利害調整が本格化
9.図書館E-Book問題:泥沼化か「市場による決着」か
10.書店のサバイバル:テクノロジーを使った試行錯誤が続く
デジタルの動きは日本で鈍く、欧米ではさらに加速度がついている。米国では、1年前「5年以内に20%」と言われていたが、今は「1~5年以内に50%」という認識で出版業界が動いている。遠くない先に、その先まで考えるような事態になってもまったく驚きではない。それは印刷本の売れ行きしだいということだ。そして日本がどれだけ遅くても、いずれは同期することになる。一次生産者(著作者)と消費者がそれを必要と感じるならば、出版社がサボタージュを続けることはできない。
問題は、そのときに日本の出版市場と出版業界がどんな状態になっているか、ということだ。対応が遅いほど、出版社の選択は苦しいものとなる。出版の生産と流通が、同時にこれほど急速に変わる時代はなかったし、これほどグローバル化したこともなかった。これはすでに明白かつ現前していることで、あとで「想定外」にはして欲しくない。
出版社が自主的に(流通会社に頼らずに)デジタル出版インフラ造るには時間がかかる。印刷本と共存させるには印刷会社の協力が不可欠と思うが、それに依存するだけなら出版社のインフラにはならない。製作から販促まで、使えるサービスは高度化し、コストは劇的に安くなっているが、最適な環境を構築し、最適な形で運用する知恵をつけることが難しいのだ。現在米国で経験していることのほとんどは、ほぼすべてが日本でも共通する課題となる。というわけで、E-Book2.0プロジェクト(Forum/Magazine+)では、今年も日本という場を踏まえつつ、国境を越えた問題にアプローチしていきたい。
以下は、ランダムに10個選んだ2011年のキートレンドである。昨年顕著になってきて、今年様々なトピックやイベントと結びつくことが確実であるものを選んである。日本ではあまり問題になっていないものはあるが、市場の拡大あるいは国際化とともに、意識されるようになるだろう。
1.EPUB 3:E-Bookの独立とアプリ化の新パラダイムが始まる
2.HTML5:書籍から雑誌・新聞まで―出版サービスのプラットフォームからの自立を促す
3.自主出版:出版市場のインフラとして定着・成熟へ
4.ショートE-Book:出版を多様化し、ジャーナリズムの経済的基盤となる
5.アマゾン出版:堅実なマーケティングで着々と地歩を築く
6.メディア・タブレット:非アマゾン型を目指して機能別・用途別多様化へ
7.E-Reader:低価格化と高級化で多様なニーズを吸収
8.知的財産権問題:「海賊懸念」薄れ、社会的利害調整が本格化
9.図書館E-Book問題:泥沼化か「市場による決着」か
10.書店のサバイバル:テクノロジーを使った試行錯誤が続く
2011年11月28日月曜日
今度こそ立ちあがるか?電子書籍市場 メディアビジネスはどこに行くのか
http://ascii.jp/elem/000/000/651/651747/
市場成立の高いハードル
電子書籍、あるいは電子雑誌と呼ばれる市場で、タブレットマシン向け、ということになると、iPad専用のデジタル配信コンテンツが想起されます。
iPadは2010年の販売台数が概ね75万台ほどとして出されています、今後右肩上がりに増えていくのではないかとの市場予測は出されていますが、累計では、実稼働している台数としては(カウントの仕方で変わっては来ますが)、100万から200万くらいの規模になろうかと考えられます。
雑誌として成立させるのに20万人の読者が必要だった場合、最大予測の200万人に対してシェアが10%を獲得する必要があります。雑誌自体のニーズが分散化を続ける現状も踏まえると、なかなかに厳しいという予想が立ちます。
この高いハードルを越えるには、
iPadを含めたタブレット市場の伸びを待つ
読者数が少なくても回るようなビジネスモデルをひねり出す
のいずれか、あるいは両方が必要となります。
電子書籍(メディア)はいつから成立可能か
では、タブレット市場は先々どうなるのかという見通しについては、2015年で年557万台との見通しが出されています。
・2011年上半期のiPad出荷台数は70万台、市場シェア85%に――ICT総研調べ
ざっくりの業界感覚として、1000万台くらいが実稼働している状況になればメディアチャネルとして存在感を増してくるとの言い方がされているため、販売予測数字が正しいとするなら、2010年代の後半くらいから、タブレットデバイスを意識したメディアは成立しやすくなると予測出来ることになります。
反対側で、デジタルコンテンツ(というか漫画)販売サービスを展開している株式会社イーブックイニシアティブジャパンが上場しているように、スマートフォンやタブレット向けのデジタルでのコンテンツ流通については、相応の規模を確保しつつあります。同社については、PCも含めたマルチ配信を行っているため、特定のデバイスの市場評価には不適切なケースでもありますが、全体の流れとしては参考になるところと言えます。
市場の起爆剤として期待、あるいは出版業界が戦々恐々としながら注目しているのが、AmazonがKindleを市場投入しようとしていることです。PC的なツールであったタブレットと違い、書籍端末としての立ち位置が非常に強いツールなことから、よりダイレクトな影響を生むのではないかという、典型的な黒船論の構図となっています。
雑誌は雑誌としてもう難しいのか
上記の方策 2.のところで記述した、読者数が少なくても成立させられる仕掛けは、パッケージ販売と広告以外の収益チャネルを作ることとなります。一番大きなところでは、テレビの地方局が通販広告ばかりになっている。あるいは通販番組ばっかり流しているとの現象が該当します。メディアのリーチを、広告という間接的な商材にて収益転換するのではなく、直接的な物品販売需要にて転換させようとの話です。つまり、利益率を高めたいとのアプローチです。
全てはコミュニティビジネスに帰結する、とまとめると少々短絡的ですが、磁石となるコアの強いテーマが軸として存在し(特定の人やコンテンツテーマであることが多い)、周辺にマルチチャネル、マルチコンテンツ的に展開しつつ収益を確保していくという整理図はメディアコンテンツ界隈では一般化しつつあります。
出版業界でも、先日メディアファクトリーを買収した角川グループがこの方針を明確に表明しており、数字的にも順調な伸びを見せています。書籍パッケージという特定のコンテンツ形態を水平に展開する、いろんな本を順に出していくというモデルではなく、人気を得たコンテンツを映画にし、アニメにし、ゲームにし、グッズも売りイベントも、との展開させていくビジネスモデルに同社は転換しています。
「コンテンツ+リーチ」の仕組みをデジタルで
角川の最近の動きとしては、ニコニコ(ニワンゴ)と連携して同社のニコニコ静画にコンテンツを提供していくとの発表を出しています。
・ニコニコ静画(電子書籍)スタート!
この発表は表面だけなぞると角川が電子書籍、電子雑誌の強化を進めている動きに他らならないのですが、少し突っ込んで解釈すると、雑誌や旧来の書店が持っていた「コンテンツ+リーチ」の仕組みをデジタルで再度作りなおそうとの試みに見えます。
補助線としては、こちらの記事が良いところでしょう。
・ネットは市場全体を縮小させてしまう ネットの恐ろしきマイナス効果
なかなかにショッキングなタイトルですが、同様の趣旨での議論は他でも出ており、体感としては概ね正しい指摘と考えています。分かりやすいのが、「電子書籍のサイトを作ったんですけど、ユーザーがいないのでどうしたらいいでしょう」との相談が各所で交わされているという話です。
古典的な回答としては、いいコンテンツが無いのでユーザーがいつかない。なのでいいコンテンツを揃えるのが吉、となるのですが、どうも起きている事態を観察しているとそうとも言い切れないところがあります。間に立ってるはずのソーシャルも「これ面白いよ」と十分に見つけ切れてないように見えます。
角川が取ったアクションは、自分たちのコンテンツをよりいろんな人の目に触れやすい場所に出すようにした、という動きです。取り扱い書店を増やした、あるいは書店だけでなくコンビニにも並べるようにしたと言い換えても良いでしょうか。ネットに公開する=書店に本を卸す、という解釈では不正解というのがアクションから見て取れます。
電子雑誌のチャネル開発は出来ていなかった課題
つまり、紙の雑誌が販売が立たなくなってるという方はともかくとして、電子雑誌の側については、根本的なリーチの問題の捉え方を修正しないとならないとの見方が立ちます。出版社でも、取次や書店との関係が良い、営業に優れたところはしばしば良い成績を生んでいるように、チャネルの問題は(普段あまり言われませんが)厳然としてあります。
「何をどうすれば」の答えはまだはっきりとしていませんが、電子雑誌におけるチャネル開発、日経の記事の方に寄せるとインターネット上での販促というのは、実は出来てるようで出来ていなかった課題であると言えそうです。物販に行かないと雑誌は駄目だ、というのはもしかすると過渡的な現象か早計かもしれません。個人的には、マルチコンテンツのマルチチャネル化は必然の現象と捉えているので、緩やかな解釈としては正しいと感じています。
純粋(?)なメディアビジネスはどこに行くのか
では、純粋なメディアはどこにどう成立するのでしょう?
これは、禅問答みたいになってしまいますが「成立するところに適時成立する」との言い方がどうも正しいのではないかと、このところ考えています。
例えばの例として、手前味噌ながら弊社も多少関わっているのですが、WirelessWire News(ワイヤレスワイヤーニュース)という通信業界に特化したメディアサイトがあります。 同サイトは、業界のプロ向けを意識した一般人は視野から外してしまった専門メディアとの立ち位置ですが、業界内の濃いニーズに特化して絞ったスポンサーで成立させています。マスの読者といろんな広告主という汎用プラットフォームではなく特化した受託の変種のようなメディアです。
これは、一昔前の感覚としては、雑誌の中の一特集が切りだされてメディアになってるようなものかもしれません。あるテーマに絞ってステークホルダーも見える形で、ただしそこの濃度を高めたという仕組みで、メディアの立ちうるところにメディアを立たせる。役目を終えたら閉じるかサーバー代が残せる範囲では残す、という形です。
ある雑誌が汎用的な形でずーっと続く、というのはデジタルの環境では難しい感じになってくるのかもしれません。特定のファンコミュニティに近いようなテーマコンテンツサイト、折々の事情を鑑みてスナップショットで作られるオーダーメイドのメディア、あるいは角川のようなマルチプレイヤー。傾向としてはこのあたりに絞られていっているのでは、というのが最近の感覚です。
市場成立の高いハードル
電子書籍、あるいは電子雑誌と呼ばれる市場で、タブレットマシン向け、ということになると、iPad専用のデジタル配信コンテンツが想起されます。
iPadは2010年の販売台数が概ね75万台ほどとして出されています、今後右肩上がりに増えていくのではないかとの市場予測は出されていますが、累計では、実稼働している台数としては(カウントの仕方で変わっては来ますが)、100万から200万くらいの規模になろうかと考えられます。
雑誌として成立させるのに20万人の読者が必要だった場合、最大予測の200万人に対してシェアが10%を獲得する必要があります。雑誌自体のニーズが分散化を続ける現状も踏まえると、なかなかに厳しいという予想が立ちます。
この高いハードルを越えるには、
iPadを含めたタブレット市場の伸びを待つ
読者数が少なくても回るようなビジネスモデルをひねり出す
のいずれか、あるいは両方が必要となります。
電子書籍(メディア)はいつから成立可能か
では、タブレット市場は先々どうなるのかという見通しについては、2015年で年557万台との見通しが出されています。
・2011年上半期のiPad出荷台数は70万台、市場シェア85%に――ICT総研調べ
ざっくりの業界感覚として、1000万台くらいが実稼働している状況になればメディアチャネルとして存在感を増してくるとの言い方がされているため、販売予測数字が正しいとするなら、2010年代の後半くらいから、タブレットデバイスを意識したメディアは成立しやすくなると予測出来ることになります。
反対側で、デジタルコンテンツ(というか漫画)販売サービスを展開している株式会社イーブックイニシアティブジャパンが上場しているように、スマートフォンやタブレット向けのデジタルでのコンテンツ流通については、相応の規模を確保しつつあります。同社については、PCも含めたマルチ配信を行っているため、特定のデバイスの市場評価には不適切なケースでもありますが、全体の流れとしては参考になるところと言えます。
市場の起爆剤として期待、あるいは出版業界が戦々恐々としながら注目しているのが、AmazonがKindleを市場投入しようとしていることです。PC的なツールであったタブレットと違い、書籍端末としての立ち位置が非常に強いツールなことから、よりダイレクトな影響を生むのではないかという、典型的な黒船論の構図となっています。
雑誌は雑誌としてもう難しいのか
上記の方策 2.のところで記述した、読者数が少なくても成立させられる仕掛けは、パッケージ販売と広告以外の収益チャネルを作ることとなります。一番大きなところでは、テレビの地方局が通販広告ばかりになっている。あるいは通販番組ばっかり流しているとの現象が該当します。メディアのリーチを、広告という間接的な商材にて収益転換するのではなく、直接的な物品販売需要にて転換させようとの話です。つまり、利益率を高めたいとのアプローチです。
全てはコミュニティビジネスに帰結する、とまとめると少々短絡的ですが、磁石となるコアの強いテーマが軸として存在し(特定の人やコンテンツテーマであることが多い)、周辺にマルチチャネル、マルチコンテンツ的に展開しつつ収益を確保していくという整理図はメディアコンテンツ界隈では一般化しつつあります。
出版業界でも、先日メディアファクトリーを買収した角川グループがこの方針を明確に表明しており、数字的にも順調な伸びを見せています。書籍パッケージという特定のコンテンツ形態を水平に展開する、いろんな本を順に出していくというモデルではなく、人気を得たコンテンツを映画にし、アニメにし、ゲームにし、グッズも売りイベントも、との展開させていくビジネスモデルに同社は転換しています。
「コンテンツ+リーチ」の仕組みをデジタルで
角川の最近の動きとしては、ニコニコ(ニワンゴ)と連携して同社のニコニコ静画にコンテンツを提供していくとの発表を出しています。
・ニコニコ静画(電子書籍)スタート!
この発表は表面だけなぞると角川が電子書籍、電子雑誌の強化を進めている動きに他らならないのですが、少し突っ込んで解釈すると、雑誌や旧来の書店が持っていた「コンテンツ+リーチ」の仕組みをデジタルで再度作りなおそうとの試みに見えます。
補助線としては、こちらの記事が良いところでしょう。
・ネットは市場全体を縮小させてしまう ネットの恐ろしきマイナス効果
なかなかにショッキングなタイトルですが、同様の趣旨での議論は他でも出ており、体感としては概ね正しい指摘と考えています。分かりやすいのが、「電子書籍のサイトを作ったんですけど、ユーザーがいないのでどうしたらいいでしょう」との相談が各所で交わされているという話です。
古典的な回答としては、いいコンテンツが無いのでユーザーがいつかない。なのでいいコンテンツを揃えるのが吉、となるのですが、どうも起きている事態を観察しているとそうとも言い切れないところがあります。間に立ってるはずのソーシャルも「これ面白いよ」と十分に見つけ切れてないように見えます。
角川が取ったアクションは、自分たちのコンテンツをよりいろんな人の目に触れやすい場所に出すようにした、という動きです。取り扱い書店を増やした、あるいは書店だけでなくコンビニにも並べるようにしたと言い換えても良いでしょうか。ネットに公開する=書店に本を卸す、という解釈では不正解というのがアクションから見て取れます。
電子雑誌のチャネル開発は出来ていなかった課題
つまり、紙の雑誌が販売が立たなくなってるという方はともかくとして、電子雑誌の側については、根本的なリーチの問題の捉え方を修正しないとならないとの見方が立ちます。出版社でも、取次や書店との関係が良い、営業に優れたところはしばしば良い成績を生んでいるように、チャネルの問題は(普段あまり言われませんが)厳然としてあります。
「何をどうすれば」の答えはまだはっきりとしていませんが、電子雑誌におけるチャネル開発、日経の記事の方に寄せるとインターネット上での販促というのは、実は出来てるようで出来ていなかった課題であると言えそうです。物販に行かないと雑誌は駄目だ、というのはもしかすると過渡的な現象か早計かもしれません。個人的には、マルチコンテンツのマルチチャネル化は必然の現象と捉えているので、緩やかな解釈としては正しいと感じています。
純粋(?)なメディアビジネスはどこに行くのか
では、純粋なメディアはどこにどう成立するのでしょう?
これは、禅問答みたいになってしまいますが「成立するところに適時成立する」との言い方がどうも正しいのではないかと、このところ考えています。
例えばの例として、手前味噌ながら弊社も多少関わっているのですが、WirelessWire News(ワイヤレスワイヤーニュース)という通信業界に特化したメディアサイトがあります。 同サイトは、業界のプロ向けを意識した一般人は視野から外してしまった専門メディアとの立ち位置ですが、業界内の濃いニーズに特化して絞ったスポンサーで成立させています。マスの読者といろんな広告主という汎用プラットフォームではなく特化した受託の変種のようなメディアです。
これは、一昔前の感覚としては、雑誌の中の一特集が切りだされてメディアになってるようなものかもしれません。あるテーマに絞ってステークホルダーも見える形で、ただしそこの濃度を高めたという仕組みで、メディアの立ちうるところにメディアを立たせる。役目を終えたら閉じるかサーバー代が残せる範囲では残す、という形です。
ある雑誌が汎用的な形でずーっと続く、というのはデジタルの環境では難しい感じになってくるのかもしれません。特定のファンコミュニティに近いようなテーマコンテンツサイト、折々の事情を鑑みてスナップショットで作られるオーダーメイドのメディア、あるいは角川のようなマルチプレイヤー。傾向としてはこのあたりに絞られていっているのでは、というのが最近の感覚です。
2011年10月11日火曜日
ビューワ開発者から見た、電子書籍業界のいま 電子書籍覆面座談会
http://ebook.itmedia.co.jp/ebook/articles/1110/06/news006_1.html
電子書籍において、ビューワの操作性が読書体験に及ぼす影響は大きい。ユーザーとコンテンツの出会いを演出するのがビューワ開発者の力量だ。本企画では、電子書籍ビューワの開発者に集まっていただき、覆面座談会という形で電子書籍市場の今を聞いた。
2人の開発者が電子書籍ビューワ開発の苦労や葛藤を明らかに
電子書籍にまつわるさまざまな課題点が指摘される中で、コンテンツの内容に次いで言及される機会が多いのが「ビューワの操作性」。操作の分かりやすさ、カスタマイズ性など、ビューワの使い勝手がそのまま電子書籍という媒体の評価につながることも少なくない。
ビューワ開発者からすると、世代やリテラシーを問わない実装や、キャリア側が要求する仕様との兼ね合い、さらにiOSやAndroidといったプラットフォームの仕様に依存する制限など、さまざまな葛藤があることだろう。こうした点について、国産の電子書籍ビューワの開発者お二人に覆面座談会という形で事情を伺った。
一人は、ケータイキャリアを中心に採用されている著名な電子書籍ビューワの開発者「T氏」、もう一人は、iOSやAndroid向けに電子書籍ビューワアプリを開発する「X氏」だ。それでは早速ご覧いただこう。ビューワの設計思想、デバイスやターゲットユーザーに応じた設計の違い、さらに各キャリアや出版社との日ごろのやりとりなど、ビューワ開発者から見た電子書籍業界を。
ビューワ開発者かく語りき
―― 今日はよろしくお願いします。まずはお二人の自己紹介からお願いできますか。
T もともとはガラケー向けのビューワの開発をやっていまして、その後Android向けのビューワの開発を手掛けるようになりました。最初は様子見でガラケーの移植版から始めたのですが、世の中の携帯がAndroidに急速に移行しているのと、Android自身のバージョンアップの速さもあり、順次ビューワの機能追加、および各種サービス事業者向けへの展開をしています。
―― いまはAndroidの案件が中心ですか。
T そうですね。自社のソリューションをカスタマイズしてキャリアさんに出すという形です。ガラケーはもう何年もやっていますが、今後販売台数が減っていくのは間違いないので、ビジネスとしてAndroid向けに注力していかなくちゃいけないというところです。
―― Xさんは、最初はiOS向けにビューワをリリースし、その後Android向けにも展開されていますよね。
X はい。ここ数年でネットワーク周りの状況がいろいろ変化し、そこに追いつこうとしている間に、どんどん変わっていったというのが実情ですね。
ユーザーの感覚が落ち着くまでもう2~3年掛かる
―― 今、お二人が開発されているビューワも含めて、世間にはさまざまなビューワがありますが、インタフェースや挙動はバラバラです。例えば画面の右側をタップしたときに、ページが進むものもあれば戻るものもあったり、タップにすら反応しなかったり。お二人はこうした部分の設計をどう決めてらっしゃるんですか。
X 今は何がいいかという正解がありませんし、みんな「どうしたらいいんだろう」といいながらあがいている、そういう時期だと思うんですよ。「こういうのが常識だろう」というユーザーの感覚が落ち着くのにもう2~3年掛かると思うので、その過渡期といったところでしょうね。
T 出版社と話をしていると、最初は「このページめくりのエフェクトはいいね」となるんですが、しばらくして「すいません、やっぱり飽きました。やめときましょう」みたいな展開になることが多いですね。出版社の方はどうしても紙の本のイメージを前提にめくりの話をされますが、慣れてくるとやっぱり邪魔なんですよね。
―― ビューワを開発されるとき、そういった仕様は、出版社からの依頼で決めるのか、それともご自身でいろいろ調べて実装していくんでしょうか。
T まずはOSの作法に合わせます。iPhoneとAndroid、ガラケーもそうですが、OSやプラットフォームならではの作法があるので、それを守るのが第一ですね。例えば、Androidだと1.6まではピンチに非対応なので、ピンチ前提で作ってしまうとUIが破たんします。だからやっぱりプラスマイナスボタンを出さなきゃダメだよね、とか。
また、「画面タップでメニューを出す」というiOSアプリによくある操作は、Androidの作法からするとNGなんです。Androidはメニューボタンを押してメニューを出すから、それに合わせてUIを変えなきゃいけない。ただ、たいていの出版社はiPhoneを前提に話をするんですよね。「そこは違う」と伝えるんですが、押し切られることもあって難しいところです。
―― Xさんのビューワは「使われないから機能から省く」ではなく、「設定でオフにする」という方向で対処されていますよね。
X ページめくりの機能が必要か否かという議論でいくと、僕たちではなくユーザーが判断すればいい話だと考えています。先ほどお話ししたように今は過渡期なので、いろいろなやり方を「まずはトライしてみてよ」という意味であえて残しています。設定項目が多すぎるとダメという話もあるので、シンプルにしたいのは山々ですが、これは僕が決める問題ではないかなと。
T Android向けの仕事だと、キャリアやサービス側が絡むので、いろんなビューワベンダーに「これは共通仕様として最低限守ってくれ」と言われてその仕様に合わせざるを得なくなることが多いですね。
―― つまり、ある電子書籍ストアで、見た目は1つのアプリだけど、買ったコンテンツの種類によってアプリに内包されているビューワが立ち上がるようになっているので、それぞれで操作性を統一するよう要求されるという、そういうことですよね。
T そうです。同じストアから買ったコンテンツなのにフォーマットごとに作法がバラバラというのはユーザー視点で考えれば確かに大変なので、これはしょうがないかなと思います。
それと、長い歴史を持つXMDFや.bookにも独自の作法が存在しますが、それをひっくり返されちゃうのも逆にあります。例えば右左をタップしたら進むとか、上下で1行ずつ進むとか、ビューワごとの作法があります。XMDFに至ってはザウルス以来の作法があるので、XMDFを使い慣れた人間からすると、「何でこんなに使い方が違うんだよ」みたいになったりもしますね。さらに最近はタッチ操作などUIの前提条件が変わってきているので、それをどこまで踏襲しつつOSの作法に合わせるかが難しいところです。
iOS、Android、Windows Phone 7……UIの設計はますます困難に
―― iOS向けのビューワアプリだと、設定画面の呼び出し方も、画面中央をタップするタイプもあれば、例えば「理想書店」のように上もしくは下にドラッグしたら出てくるタイプもあったりとバラバラですが、これはAndroidのようなメニューボタンがないから、そうせざるを得ないということなんでしょうか。
T そうです。特に電子書籍のビューワは、とにかく全画面にコンテンツ表示させたいというのがあるので、そうした設計になるんですよね。ほかのアプリだとタイトルバーに置かれたボタンから辿れますけど、全画面でコンテンツを出されちゃうともうどうしようもない。iOS系はもう百花繚乱ですよね。Android端末をメインで触っているわたしなんかがたまに触ると、どうすればいいんだろう? てなっちゃう(笑)。
X 全画面表示で使えるボタンはホームボタンしかないということになると、操作としては完全に詰んでいるんですよね。だから、何か操作方法を考えなくちゃいけなくて、その中で一番単純なのが、真ん中タップだということです。どうしようもないんで、とりあえず何かたたいたら起こる、という範ちゅうで収めるしかないですよね。
T だから、既存の電子書籍ビューワの多くが「タップ=進む」なんですよ。気軽に読み進めたいっていうニーズがあるわけですよね。先ほどの理想書店の場合は、タップにそういう割り当て済みの操作が存在するので、ほかの操作にしなくちゃいけなかったんでしょうね。
画像系のビューワは特にそうですが、フリックのつもりが動いちゃったり、逆だったりすることが多いですね。慣れている人と慣れてない人、はらうスピードが速い人と遅い人がいるので、チューニングが難しいんですよ。最大公約数もありませんし。
また、特に問題になりやすいのが、「タップとロングタップの差」です。スマートフォンに慣れている方は使い分けられるんですけど、そうじゃない方だと震えてしまってうまく押せなかったりで、微調整が大変です。画面サイズにも関係するので、なおさらですね。
X 僕もユーザーからメニューが出ないとか、結構クレームが来ましたね。いったいどんな操作をしているんだろうと。
―― 例えばそれは年齢による違いとか、リテラシーの違いとか、有意な傾向はあるものですか?
T やっぱり年配の方は、ロングタップが難しいようですね。後はユーザーのPC歴。慣れてない人の方が、操作中に手がぶれてしまっている印象はありますね。
X 「母親が操作していたら、操作のたびに何か動くといわれた。これをオフにする機能を付けろ」って言われて、機能を付け足したことがありました。タップしてめくろうと思ったら指が当たったみたいで、ピンチになって拡大になっちゃうから、こんな機能は要らないって言われて。
T サービス提供社側から、この機能は使わないから要らないとか言われることもあります。ありすぎて分からなくなるとか、どうせ使われないとか。確かに、そういうオン/オフの設定を触る人ってあまりいないんですよね。そもそもメニューまでたどり着かなかったりするので。だったら取っ払ってくれと。恐らくサポートが大変なので、できるだけ制限して問い合わせがこないようにしてくれということだと思います。
―― なるほど。サポート絡みの事情ですか。概して、Tさんの場合はITリテラシーが低い人に合わせて仕様の部分で切る、といったところでしょうか。
※写真
Metro UIを採用したWindows Phone 7.5。OS間で異なるUIが開発の障壁に?
T そうですね。Androidだと、OSの作法に合わせるというのも心掛けています。普通にブラウザを触っていれば、OSの作法に慣れてくるはずなので。逆にビューワ側で勝手なことをやってしまうと、「何か違う」って違和感を覚えるはずなんですよ。
―― OS標準の操作に合わせておくことが、ITリテラシーが低い人への対策にもなるということですね。Androidもこれから初心者がどんどん流入してくる可能性が高いわけですけど、そこはもうOSの作法で学んでくれと。
T はい。ただ出版社の方はiPhoneに合わせて話をしてくるので、Androidのユーザーが本格的に使い始めたら、お互い違う意見を言ってくると思うんですよ。今後そこは揉めるかもという懸念はあります。しかも、Windows Phone 7が新しく出てきたじゃないですか。あれはMetro UIというまったく別のUIなので、iOS、Androidと三つ巴になってきたらとてもじゃないですが共通化できないでしょうね。そうした事情が分からない出版社の方の意見は、今後もっと増えるとみています。
ユーザーに「要らない」と言われる機能は、見せ方に問題があるだけかもしれない
―― ビューワの機能で、本全体のどのくらいの割合を読んだかという、既読表示の機能がありますよね。あれなんかはどう思われますか?
T 「あんまり画面にごちゃごちゃ出さないでくれ、うざったいから」ってユーザーから言われちゃうんですよね(笑)。
―― それに敢然と立ち向かっているのがiBooksなんですけど(笑)。先日の漫画家さんの座談会でも話題に上りましたが、iBooksだとページの左右に紙の厚みを示すデザインがあります。こういうのはXさんの設計思想からするとどうでしょう?
X 厚みが変わらないやつですよね(笑)。こうした縁を付けようと思ったら、その分ページの面積を減らさなくちゃならないので、ちょっと違うかなと思います。
※写真
iBooks
T 余白というのは本来、印刷などの都合であって、コンテンツは関係ないですから。もっとフルに見せて、情報量を増やしてくれと思いますね。
そもそも、既読の割合を気にするコンテンツと、気にしないコンテンツがあると思います。長編作品なら「どのくらいまで読んだかな」というのがあるでしょうけど、短編だとあまり気にしなかったり。ガラケーはどこまで見てるか表示できないことも多いのですが、閉じたときにどこまで読んだかページ位置を保存していることもあってか、あまり批判は聞かないですね。特に漫画は1話売りが多いですし。
X 僕は結構ユーザーから言われますね。
T ただ、声の大きい人が大多数というわけじゃないですよね、実際のところ。
X つまり「要らない」と自信を持って言える人と、「要る」と自信を持って言える人、どっちなんだってことですよね。「どっちでもいい」という人と「要る」人だったら、それは「要る」ってこと。「要らない」と「どっちでもいい」なら「要らない」。その考えでいったら、やっぱり「要る」になるんじゃないかなと。
T ただ、「要る」と思ったけど、消してみたら気にならなかったという人もいる(笑)。
X それは「どっちでもいい」人ですよ。問題なのは「要らない」という人の中に、僕ら開発者の見せ方が下手くそだから要らないといっている人が含まれていることなんですよね。「こんなウザいのは要らない」という声、それが怖いんですよ。それさえクリアできればもちろん付けたいですし。どういったアプローチがいいのかは、開発ですごく悩むところです。
―― 例えばシャープのGALAPAGOSだと、ページ番号の表示は文字サイズを変えても変わらないんですよね。最初全部で500ページって表示があったとするじゃないですか。それで、文字サイズを小さくして1ページに収まる文字量が倍になったら250ページに減るはずなのに、500ページのまま変わらない。どうなるかというと、1ページめくるたびにページ番号が1つずつスキップされるという。
X おお、考えましたね。
T XMDFはザウルスのころからやってて、ノウハウはあるはずなんですけどね。どうやって計算してるんだろう。デフォルトのフォントサイズでやってるってことですよね、それって。
―― デフォルトのフォントサイズでページ数をカウントして、大きくなったり小さくなったりしたら、分母を変えずに分子をいじるということですよね。だから考え方としてはパーセンテージに近い。結果として、めくった次も同じページというケースが発生するわけですよね。1、1、1、2、2、2とか。
X 電子教科書になったときに「教科書の何ページを開いて」って言われてページを開けたところ、みんな違うところを開けていたという笑い話がありましたけど、その辺りを考慮した結果かもしれませんね。
―― それにしても、操作性に多少なりとも共通項のあるページめくりに比べて、既読位置の表示方法はバラバラですよね。デジタルコミックに至ってはコマ単位表示でページという概念もないわけですし。
T そうですね。デジタルコミックではしおりを保存したときや、目次のところに「何コマ目」というのを表示していますね。コマ系だったら何コマ目、ページ系だったら何ページ目というように。
―― なるほど。「何コマ目」なんですよね。そう考えても、ページングで考えられているものとは作り方がまったく異なりますね。
「書庫に保存したい」「買ったらすぐ読みたい」、相反する2つの需要
※写真
写真はezPDFreader(Android版)。画面下部に各ページのサムネイルを表示していることが分かる
―― 最近のビューワのトレンドとして、画面下部に各ページのサムネイルを表示できるというのがありますよね。国内でもそうですし、海外のPDFビューワ、例えばezPDFreaderにもあります。読み込みが遅いのが残念なんですが。
X 読み込みの遅さは、デバイスのハードウェアスペックが高くないので、どうしても出てきます。でもそれは過渡期ゆえのことであって、もう1~2年もしたら解決するんじゃないかと。CPUを2~3個に増やせば済みますから(笑)。
T ヤッパのビューワなんかは、ページをめくったら必ず全体表示するので、それ用に低い解像度の画像を用意していて、ペラペラめくる分にはかなり高速です。キャッシュもしているようですし、そこが1つの売りですよね。頻繁に拡大するユースケースが多いから、そうなっているんでしょうね、恐らく。
―― ガラケーでも、スペック依存の問題はありましたか?
T ガラケーは、auだとコンテンツサイズが1.5Mバイトまでという制限があるので、そこに縛られますね。よく「なぜコミックスを話数単位で分割するんだ」といわれるんですが、それは容量制限の問題です。コマ分割は画面サイズの問題で、コンテンツの分割は配信側の問題ということになります。また、スマートフォンでコンテンツサイズの制限が解除になったからといっても、例えば3G回線で50Mバイトのデータを落とすのはきついですからね。
読者からすると「買ったらすぐに読みたい」なんですよ。繰り返して読む方はコンテンツを書棚に残しておきたがるんですけど、読み捨て的な需要も実は多くて、ストリーミングで今すぐ読みたいという相反する需要があったりして、とても難しい問題です。
―― ストリーミングだと、例えばマガストアですね。そういった仕様を最終的に決定しているのは誰なんですか。
T サービス側です。ストリーミングだとダウンロード側よりもDRMを考えなくて済むので、提供する側としては実装が楽なんですよ。DRMを考え出すと、結局出版社がコンテンツを出したくないとか、そういう話も出てくるので。
E Ink採用端末向けには設計に違いも
―― 少し話は変わりますが、電子書籍端末は液晶以外にE Inkを採用した製品もあります。E Ink向けのビューワでは、液晶の場合と設計を変えざるを得ないところがあるそうですね。
T ボタンを押したときの操作性ですね。普通ならボタン押しっぱなしでパッパッとめくるじゃないですか。ところがE Inkは画面の書き替えに時間が掛かるので、表示が間に合わなくてめくれないんですよ。E Inkを採用しているソニーの「Reader」やKDDIの「biblio Leaf SP02」では、液晶の端末と違って、ボタンを押していったん離すことでページがめくられますよね。
―― なるほど。押すだけじゃなくて、押して離さなくちゃいけない。
T ええ、離したときです。だから、押しっぱなしでは連続めくりができません。製品によって多少違いますけど、E Inkはページが切り替わるまで確か0.8秒くらい掛かるので、自然とそうした設計になります。
「デジタルコミックはコマ区切りが標準」という人も実は多い
―― 画面サイズについてはどうでしょう。Tさんだと、これまではガラケー、いまはAndroid中心ということで、サイズの種類も多そうですね。
T そうですね。ガラケーでは多少の大小はありますがだいたい同じ画面サイズで、解像度は基本的にQVGAとWVGAの2種類ですが、スマートフォンになってから、さまざまな画面サイズと解像度のものが登場しています。片手で持てる小さいものから、GALAXY TabやXOOMなどの大きなものもありますし。物理的な画面サイズが違うと、やっぱり世界が変わってきますからね。
基本的には表示倍率を変えて画面に合わせるのですが、何でも無限に拡大すると粗くなりますし、さらにオーサリング時に「最低限この範囲は表示」「最大はここまで」という設定があるのでそれらを基に表示を計算しています。もともとガラケーは、各キャリアごとに標準とするサイズが違います。コンテンツを作る側はそれぞれのサイズ向けに生成する手間は掛けたくありませんから、1つの元データから別々に最終データを作るという概念を導入しているわけです。
出版社の編集の方からは、「ページで作る方が楽なのは分かっているが、ガラケーで漫画を読んでいる人たちは『デジタルコミック』としてその動きに慣れてしまっているので、ページでは売れない」とよく聞きます。つまり、コマ区切りが標準というデジタルコミックならではの動きに慣れている層が一定数いるわけです。だからといって最初からコマ区切りで制作してしまうと、いざ売れたから単行本化しようという段階で困るわけですが(笑)。
―― 今、デジタルコミックは幾つか種類があるじゃないですか。ページ全体を見せるタイプもあれば、ページを拡大しながら右上、左上、右下、左下という逆Zの順序でスクロールするタイプ、完全なコマ単位で横に長ければスクロールするタイプ、だいたいその3パターンですかね。
T そうだと思います。スクロールについては逆Zに限らず、コマに合わせて読む順番をオーサリングできますね。スクロールするスピードも制御できます。
―― こうしたスタイルが出てきたのは2003年前後ということですが、7、8年経ってこのスタイルに慣れたユーザーが増え、漫画の読者の中でも、コマ分割タイプに慣れているユーザーもいれば、1ページ単位で決められたレイアウトがなじむユーザーもいると。
T そうですね。「携帯で見る漫画はこう」みたいな。ガラケーに関しては、9割はコマ形式での配信だそうです。実際に編集者の方に聞くと、「だってコマが売れるんだもん」という(笑)。製作コストが10倍ぐらい違うらしいので、できればコマ形式で配信はしたくないというお話はよく伺います。
実際に使っていても、iPhoneサイズぐらいだと、まだコマ分割タイプの方が見やすいですよね。ページだと頻繁に拡大しなくちゃならないので。GALAXY Tabぐらいの画面サイズになると、まあいいかなという気になるんですけど。
X 元の漫画がどういう形で描かれているかですよね。元からデジタルコミックを前提に制作されているのならともかく、ページング前提で制作されたものを無理やり切り貼りして、バイブのところでブルブルブルっていうのはちょっと。個人的には、ページングで作られたものはそのまま見たいですね。
―― 携帯漫画のバイブ機能、あれは誰がディレクションしてるんですか。
T 出版社によって外注のオーサリング会社に丸投げもあれば編集者がやることもあったりとさまざまなようです。TVアニメを静止画で取り込んで漫画風に見せるコンテンツなどでは、アニメの演出家の方が絵コンテみたいな感じで細かく演出を入れているそうです。
―― その一方で「これ、やっといて」みたいな感じで紙の単行本をポーンと渡されて、自炊みたいな感じで裁断して、後はお任せというパターンもあると。
T あるようですね。聞くところでは、吹き出しが切れているのをくっつけたり、足らないコマを勝手に描き足しちゃうケースもあるそうです。それはちょっとどうかなとは思うんですけど。海外のオーサリング業者に出したらひどいのが返ってきたという話も聞きますね。
EPUB 3はあくまでもフォーマットで、運用フローはまだない
―― 今、EPUB 3という新しい規格が出てこようとしています。お二人はEPUB 3についてどのような見解をお持ちですか?
X EPUB 3はHTMLの拡張でしょ。HTMLの拡張ということは、HTMLを表示しなくてはいけない。HTMLを正確に表示するためには現状WebKitとかのライブラリを使うしかない。
でも、文字を表示して横にルビを打つだけなんて、文字を書ければ出ますよね。そこに対してHTMLのレンダラを持ってきて、CSSのレンダラを持ってきて……となると、初めから書けないくらい実装難度が高いんですよね。オープンソースのソフトウェアを持ってきたらいいと簡単に言う方もいますけど、どうやって使っていいか分からないものを持ってきても、うまくはまるか分かりませんしね。今のビューワをEPUB 3対応させたいとは思いますが、実装するのはコストが高いので悩ましいところですね。
T わたしは直接EPUB 3にはタッチしていませんが、組版をそこまで意識しなきゃいけないのかな、という気はします。それと、あんなに仕様が大盛りだと、果たしてそれに合わせたコンテンツが作れるのかなという。
あと、例えばiBooksは今のEPUB 2でも独自拡張していますよね。だからEPUB 3といっていても、昔のブラウザ問題みたいな、例えばIEだけスクロールバーの色を変えられたりとか、そうなる懸念はありますね。特にEPUB 3はJavaScriptも全部動いちゃうんで、高機能なものを作ろうとすると、挙動もみんな違うし、作るコストも高くなるという。
―― コンテンツについては、紙を前提に制作されたものと、これから増えるであろうボーンデジタルの違いもあるかと思います。例えば漫画なら、既存のものはPDFやZIP圧縮JPEGで見せるとか、あるいはEPUB 3で一手間掛けてコマ単位で切って見せていくかという。それに加えて、今後、何か出てくるかもしれないけど、現時点ではまだ見えてないと。
T そうですね。作り手側もいきなり作れるわけじゃないですからね。EPUB 3はあくまでもフォーマットであって、アウトプットをEPUB 3にする標準的な運用フローはまだないじゃないですか。
X ユーザーにとってはフォーマットなんてどうでもいいですしね。ましてやDRMが掛かっていたらどのフォーマットも無理ですからね(笑)。
T そこがFlashが支持される理由の1つですよね。凝ったものが確実に作れて、しかも実行モジュール込みだからDRMも掛けられる。結局のところ、リッチなコンテンツで作るんだったら、じゃあ、みんな「やわらか戦車」つくるのか、という話になってきますよね。あれは全然違うものじゃないですか。アニメでもない、まあ、パラパラアニメですよね。
X 個人的には、漫画家さんにはそういったものにチャレンジしてもらうのではなく、その時間を使って、好きなように描いてほしいですね。
T 漫画家さんは本を出して初めてまとまった収入になるわけですし、もちろんデジタルコミックがお金になるのならやる人は増えるでしょうけど。何だかんだ言って電子書籍単体で収益を上げている方はそうそういないですしね。
1年でこれだけ変わったら、むしろ十分
―― 最後に、ビューワに限らず、電子書籍界隈で最近気になっていることがあれば。
T これからの新しいサービスですが、楽天の「Raboo」は、すでに楽天市場でECとしての実績がある分、ほかの電子書籍ストアとは違うかなと思います。楽天で買い物しました、楽天スーパーポイントが500ポイントある、じゃあ電子書籍でも買おうかみたいな。配送料も要らないですし、そういう強みがありますよね。
X 僕は、日本に来るといわれていたAmazonやGoogleに何の動きもないのが「まだ来ない」なのか、それともこのままスルーされてしまうのかが気になっています。もしかして、日本という狭い市場に対してコストが合わない、やるだけの価値がないと判断されたのかなと。
T ある会社で電子書籍のコンテンツ制作をやっている人から、彼らから打診があってテストコンテンツを作ったという話は聞きましたね。
X ええ、いろいろなところに打診は行ってるようですが、Goしないというところがやばいのかな、という気がしますね。
T Amazonは流通から課金から何から全部抑えているわけで、普通に考えると出版社がちょこちょこやったところで勝ち目はないので、出版社はあれを使って商売するしかないのかなと思います。特にKindleはマルチプラットフォームでやっていますから、あれに勝つのは難しいですよ。
ただ、日本の出版や流通は複雑で、出版社に話を持って行っても、コンテンツがそろうわけじゃなかったりもしますし。本来は出版権であって著作権ではないはずが、出版社が全部握っている。そういう日本特有の構造があるから「面倒だな」ってなると思うんですよね。
X 出版社としては、黒船が来たので身を潜めて「過ぎ去れ」と思ってるんでしょうけどね。たいていの出版社は電子書籍なんか望んじゃいないですからね。望んじゃいないものはやりたくないですよね。
T いままでの仕組みと違うものになっていくと、既得利権を持つ方はどうしても抵抗しますよね。ある印刷会社は、極端な話、既存の印刷工場などを縮小していきたいらしいんですけど、電子を全面的に推進して人を切れるかというとそうもいかないので、そこはソフトランディングしていくしかないと。
―― なるほど。
T ただ出版自体が下り坂であるのは間違いないので、新たな媒体ができたつもりでやっていくしかないと思います。ある総合書籍ストアは、電子書籍サービス側でユーザー情報を取りながら紙の本と電子書籍で総合的にマネタイズしていくという話をされていて、それはそれで正しいと思いました。
ただ実際は、パブーのような新興勢力がやるか、Amazonのような大きいところがやるか、そのどちらかだと思います。特にAmazonは本屋であると同時にIT企業なので、あそこまでできるという。ただ、どんなにいいサービスを作っても、コンテンツを集めないことには誰も振り向いてくれないので。問題はそこですよね。
X 構図はこれからいろいろ変わってくるでしょうが、いきなり勢力図が変わることはないでしょうし、焦らずもうちょっとゆっくり見ていても構わないんじゃないかなと。「1年たってこれだけしか変わらなかった」ではなく「1年でこれだけ変わったら十分じゃない?」という。紙の印刷を始めて何十年、何百年ってやってきたわけですからね。Amazonだって、いきなりKindleをバーンと売り出したわけじゃなくて、それまでに書籍通販として経験を積んできたからできたわけで。
―― 確かに、総括を急ぎたがっているような感はあります。
T 電子書籍ビジネスって、例えば電子書庫パブリやeBookJapanなどは2000年ぐらいから、パピレスは1995年にサービスインしているわけで、別に去年はじめて出てきたわけじゃないですか。出版社からするとXMDFや.bookでいままで培った運用フローがあるので、当面はそれでモノを出していくしかないんですね。だからこそ角川とかはひとまず.bookでやろうとなったわけで。
要するに今現在、できる運用フローはそれだけなわけです。EPUB 3も研究はしているでしょうが、今すぐ始められる状態じゃないわけで、その辺りが実際に立ち上がるのは来年、再来年といったところではないでしょうか。
―― 今年来年といわず、もう少し長いスパンで見ていく必要があるということですね。今日はありがとうございました。
電子書籍において、ビューワの操作性が読書体験に及ぼす影響は大きい。ユーザーとコンテンツの出会いを演出するのがビューワ開発者の力量だ。本企画では、電子書籍ビューワの開発者に集まっていただき、覆面座談会という形で電子書籍市場の今を聞いた。
2人の開発者が電子書籍ビューワ開発の苦労や葛藤を明らかに
電子書籍にまつわるさまざまな課題点が指摘される中で、コンテンツの内容に次いで言及される機会が多いのが「ビューワの操作性」。操作の分かりやすさ、カスタマイズ性など、ビューワの使い勝手がそのまま電子書籍という媒体の評価につながることも少なくない。
ビューワ開発者からすると、世代やリテラシーを問わない実装や、キャリア側が要求する仕様との兼ね合い、さらにiOSやAndroidといったプラットフォームの仕様に依存する制限など、さまざまな葛藤があることだろう。こうした点について、国産の電子書籍ビューワの開発者お二人に覆面座談会という形で事情を伺った。
一人は、ケータイキャリアを中心に採用されている著名な電子書籍ビューワの開発者「T氏」、もう一人は、iOSやAndroid向けに電子書籍ビューワアプリを開発する「X氏」だ。それでは早速ご覧いただこう。ビューワの設計思想、デバイスやターゲットユーザーに応じた設計の違い、さらに各キャリアや出版社との日ごろのやりとりなど、ビューワ開発者から見た電子書籍業界を。
ビューワ開発者かく語りき
―― 今日はよろしくお願いします。まずはお二人の自己紹介からお願いできますか。
T もともとはガラケー向けのビューワの開発をやっていまして、その後Android向けのビューワの開発を手掛けるようになりました。最初は様子見でガラケーの移植版から始めたのですが、世の中の携帯がAndroidに急速に移行しているのと、Android自身のバージョンアップの速さもあり、順次ビューワの機能追加、および各種サービス事業者向けへの展開をしています。
―― いまはAndroidの案件が中心ですか。
T そうですね。自社のソリューションをカスタマイズしてキャリアさんに出すという形です。ガラケーはもう何年もやっていますが、今後販売台数が減っていくのは間違いないので、ビジネスとしてAndroid向けに注力していかなくちゃいけないというところです。
―― Xさんは、最初はiOS向けにビューワをリリースし、その後Android向けにも展開されていますよね。
X はい。ここ数年でネットワーク周りの状況がいろいろ変化し、そこに追いつこうとしている間に、どんどん変わっていったというのが実情ですね。
ユーザーの感覚が落ち着くまでもう2~3年掛かる
―― 今、お二人が開発されているビューワも含めて、世間にはさまざまなビューワがありますが、インタフェースや挙動はバラバラです。例えば画面の右側をタップしたときに、ページが進むものもあれば戻るものもあったり、タップにすら反応しなかったり。お二人はこうした部分の設計をどう決めてらっしゃるんですか。
X 今は何がいいかという正解がありませんし、みんな「どうしたらいいんだろう」といいながらあがいている、そういう時期だと思うんですよ。「こういうのが常識だろう」というユーザーの感覚が落ち着くのにもう2~3年掛かると思うので、その過渡期といったところでしょうね。
T 出版社と話をしていると、最初は「このページめくりのエフェクトはいいね」となるんですが、しばらくして「すいません、やっぱり飽きました。やめときましょう」みたいな展開になることが多いですね。出版社の方はどうしても紙の本のイメージを前提にめくりの話をされますが、慣れてくるとやっぱり邪魔なんですよね。
―― ビューワを開発されるとき、そういった仕様は、出版社からの依頼で決めるのか、それともご自身でいろいろ調べて実装していくんでしょうか。
T まずはOSの作法に合わせます。iPhoneとAndroid、ガラケーもそうですが、OSやプラットフォームならではの作法があるので、それを守るのが第一ですね。例えば、Androidだと1.6まではピンチに非対応なので、ピンチ前提で作ってしまうとUIが破たんします。だからやっぱりプラスマイナスボタンを出さなきゃダメだよね、とか。
また、「画面タップでメニューを出す」というiOSアプリによくある操作は、Androidの作法からするとNGなんです。Androidはメニューボタンを押してメニューを出すから、それに合わせてUIを変えなきゃいけない。ただ、たいていの出版社はiPhoneを前提に話をするんですよね。「そこは違う」と伝えるんですが、押し切られることもあって難しいところです。
―― Xさんのビューワは「使われないから機能から省く」ではなく、「設定でオフにする」という方向で対処されていますよね。
X ページめくりの機能が必要か否かという議論でいくと、僕たちではなくユーザーが判断すればいい話だと考えています。先ほどお話ししたように今は過渡期なので、いろいろなやり方を「まずはトライしてみてよ」という意味であえて残しています。設定項目が多すぎるとダメという話もあるので、シンプルにしたいのは山々ですが、これは僕が決める問題ではないかなと。
T Android向けの仕事だと、キャリアやサービス側が絡むので、いろんなビューワベンダーに「これは共通仕様として最低限守ってくれ」と言われてその仕様に合わせざるを得なくなることが多いですね。
―― つまり、ある電子書籍ストアで、見た目は1つのアプリだけど、買ったコンテンツの種類によってアプリに内包されているビューワが立ち上がるようになっているので、それぞれで操作性を統一するよう要求されるという、そういうことですよね。
T そうです。同じストアから買ったコンテンツなのにフォーマットごとに作法がバラバラというのはユーザー視点で考えれば確かに大変なので、これはしょうがないかなと思います。
それと、長い歴史を持つXMDFや.bookにも独自の作法が存在しますが、それをひっくり返されちゃうのも逆にあります。例えば右左をタップしたら進むとか、上下で1行ずつ進むとか、ビューワごとの作法があります。XMDFに至ってはザウルス以来の作法があるので、XMDFを使い慣れた人間からすると、「何でこんなに使い方が違うんだよ」みたいになったりもしますね。さらに最近はタッチ操作などUIの前提条件が変わってきているので、それをどこまで踏襲しつつOSの作法に合わせるかが難しいところです。
iOS、Android、Windows Phone 7……UIの設計はますます困難に
―― iOS向けのビューワアプリだと、設定画面の呼び出し方も、画面中央をタップするタイプもあれば、例えば「理想書店」のように上もしくは下にドラッグしたら出てくるタイプもあったりとバラバラですが、これはAndroidのようなメニューボタンがないから、そうせざるを得ないということなんでしょうか。
T そうです。特に電子書籍のビューワは、とにかく全画面にコンテンツ表示させたいというのがあるので、そうした設計になるんですよね。ほかのアプリだとタイトルバーに置かれたボタンから辿れますけど、全画面でコンテンツを出されちゃうともうどうしようもない。iOS系はもう百花繚乱ですよね。Android端末をメインで触っているわたしなんかがたまに触ると、どうすればいいんだろう? てなっちゃう(笑)。
X 全画面表示で使えるボタンはホームボタンしかないということになると、操作としては完全に詰んでいるんですよね。だから、何か操作方法を考えなくちゃいけなくて、その中で一番単純なのが、真ん中タップだということです。どうしようもないんで、とりあえず何かたたいたら起こる、という範ちゅうで収めるしかないですよね。
T だから、既存の電子書籍ビューワの多くが「タップ=進む」なんですよ。気軽に読み進めたいっていうニーズがあるわけですよね。先ほどの理想書店の場合は、タップにそういう割り当て済みの操作が存在するので、ほかの操作にしなくちゃいけなかったんでしょうね。
画像系のビューワは特にそうですが、フリックのつもりが動いちゃったり、逆だったりすることが多いですね。慣れている人と慣れてない人、はらうスピードが速い人と遅い人がいるので、チューニングが難しいんですよ。最大公約数もありませんし。
また、特に問題になりやすいのが、「タップとロングタップの差」です。スマートフォンに慣れている方は使い分けられるんですけど、そうじゃない方だと震えてしまってうまく押せなかったりで、微調整が大変です。画面サイズにも関係するので、なおさらですね。
X 僕もユーザーからメニューが出ないとか、結構クレームが来ましたね。いったいどんな操作をしているんだろうと。
―― 例えばそれは年齢による違いとか、リテラシーの違いとか、有意な傾向はあるものですか?
T やっぱり年配の方は、ロングタップが難しいようですね。後はユーザーのPC歴。慣れてない人の方が、操作中に手がぶれてしまっている印象はありますね。
X 「母親が操作していたら、操作のたびに何か動くといわれた。これをオフにする機能を付けろ」って言われて、機能を付け足したことがありました。タップしてめくろうと思ったら指が当たったみたいで、ピンチになって拡大になっちゃうから、こんな機能は要らないって言われて。
T サービス提供社側から、この機能は使わないから要らないとか言われることもあります。ありすぎて分からなくなるとか、どうせ使われないとか。確かに、そういうオン/オフの設定を触る人ってあまりいないんですよね。そもそもメニューまでたどり着かなかったりするので。だったら取っ払ってくれと。恐らくサポートが大変なので、できるだけ制限して問い合わせがこないようにしてくれということだと思います。
―― なるほど。サポート絡みの事情ですか。概して、Tさんの場合はITリテラシーが低い人に合わせて仕様の部分で切る、といったところでしょうか。
※写真
Metro UIを採用したWindows Phone 7.5。OS間で異なるUIが開発の障壁に?
T そうですね。Androidだと、OSの作法に合わせるというのも心掛けています。普通にブラウザを触っていれば、OSの作法に慣れてくるはずなので。逆にビューワ側で勝手なことをやってしまうと、「何か違う」って違和感を覚えるはずなんですよ。
―― OS標準の操作に合わせておくことが、ITリテラシーが低い人への対策にもなるということですね。Androidもこれから初心者がどんどん流入してくる可能性が高いわけですけど、そこはもうOSの作法で学んでくれと。
T はい。ただ出版社の方はiPhoneに合わせて話をしてくるので、Androidのユーザーが本格的に使い始めたら、お互い違う意見を言ってくると思うんですよ。今後そこは揉めるかもという懸念はあります。しかも、Windows Phone 7が新しく出てきたじゃないですか。あれはMetro UIというまったく別のUIなので、iOS、Androidと三つ巴になってきたらとてもじゃないですが共通化できないでしょうね。そうした事情が分からない出版社の方の意見は、今後もっと増えるとみています。
ユーザーに「要らない」と言われる機能は、見せ方に問題があるだけかもしれない
―― ビューワの機能で、本全体のどのくらいの割合を読んだかという、既読表示の機能がありますよね。あれなんかはどう思われますか?
T 「あんまり画面にごちゃごちゃ出さないでくれ、うざったいから」ってユーザーから言われちゃうんですよね(笑)。
―― それに敢然と立ち向かっているのがiBooksなんですけど(笑)。先日の漫画家さんの座談会でも話題に上りましたが、iBooksだとページの左右に紙の厚みを示すデザインがあります。こういうのはXさんの設計思想からするとどうでしょう?
X 厚みが変わらないやつですよね(笑)。こうした縁を付けようと思ったら、その分ページの面積を減らさなくちゃならないので、ちょっと違うかなと思います。
※写真
iBooks
T 余白というのは本来、印刷などの都合であって、コンテンツは関係ないですから。もっとフルに見せて、情報量を増やしてくれと思いますね。
そもそも、既読の割合を気にするコンテンツと、気にしないコンテンツがあると思います。長編作品なら「どのくらいまで読んだかな」というのがあるでしょうけど、短編だとあまり気にしなかったり。ガラケーはどこまで見てるか表示できないことも多いのですが、閉じたときにどこまで読んだかページ位置を保存していることもあってか、あまり批判は聞かないですね。特に漫画は1話売りが多いですし。
X 僕は結構ユーザーから言われますね。
T ただ、声の大きい人が大多数というわけじゃないですよね、実際のところ。
X つまり「要らない」と自信を持って言える人と、「要る」と自信を持って言える人、どっちなんだってことですよね。「どっちでもいい」という人と「要る」人だったら、それは「要る」ってこと。「要らない」と「どっちでもいい」なら「要らない」。その考えでいったら、やっぱり「要る」になるんじゃないかなと。
T ただ、「要る」と思ったけど、消してみたら気にならなかったという人もいる(笑)。
X それは「どっちでもいい」人ですよ。問題なのは「要らない」という人の中に、僕ら開発者の見せ方が下手くそだから要らないといっている人が含まれていることなんですよね。「こんなウザいのは要らない」という声、それが怖いんですよ。それさえクリアできればもちろん付けたいですし。どういったアプローチがいいのかは、開発ですごく悩むところです。
―― 例えばシャープのGALAPAGOSだと、ページ番号の表示は文字サイズを変えても変わらないんですよね。最初全部で500ページって表示があったとするじゃないですか。それで、文字サイズを小さくして1ページに収まる文字量が倍になったら250ページに減るはずなのに、500ページのまま変わらない。どうなるかというと、1ページめくるたびにページ番号が1つずつスキップされるという。
X おお、考えましたね。
T XMDFはザウルスのころからやってて、ノウハウはあるはずなんですけどね。どうやって計算してるんだろう。デフォルトのフォントサイズでやってるってことですよね、それって。
―― デフォルトのフォントサイズでページ数をカウントして、大きくなったり小さくなったりしたら、分母を変えずに分子をいじるということですよね。だから考え方としてはパーセンテージに近い。結果として、めくった次も同じページというケースが発生するわけですよね。1、1、1、2、2、2とか。
X 電子教科書になったときに「教科書の何ページを開いて」って言われてページを開けたところ、みんな違うところを開けていたという笑い話がありましたけど、その辺りを考慮した結果かもしれませんね。
―― それにしても、操作性に多少なりとも共通項のあるページめくりに比べて、既読位置の表示方法はバラバラですよね。デジタルコミックに至ってはコマ単位表示でページという概念もないわけですし。
T そうですね。デジタルコミックではしおりを保存したときや、目次のところに「何コマ目」というのを表示していますね。コマ系だったら何コマ目、ページ系だったら何ページ目というように。
―― なるほど。「何コマ目」なんですよね。そう考えても、ページングで考えられているものとは作り方がまったく異なりますね。
「書庫に保存したい」「買ったらすぐ読みたい」、相反する2つの需要
※写真
写真はezPDFreader(Android版)。画面下部に各ページのサムネイルを表示していることが分かる
―― 最近のビューワのトレンドとして、画面下部に各ページのサムネイルを表示できるというのがありますよね。国内でもそうですし、海外のPDFビューワ、例えばezPDFreaderにもあります。読み込みが遅いのが残念なんですが。
X 読み込みの遅さは、デバイスのハードウェアスペックが高くないので、どうしても出てきます。でもそれは過渡期ゆえのことであって、もう1~2年もしたら解決するんじゃないかと。CPUを2~3個に増やせば済みますから(笑)。
T ヤッパのビューワなんかは、ページをめくったら必ず全体表示するので、それ用に低い解像度の画像を用意していて、ペラペラめくる分にはかなり高速です。キャッシュもしているようですし、そこが1つの売りですよね。頻繁に拡大するユースケースが多いから、そうなっているんでしょうね、恐らく。
―― ガラケーでも、スペック依存の問題はありましたか?
T ガラケーは、auだとコンテンツサイズが1.5Mバイトまでという制限があるので、そこに縛られますね。よく「なぜコミックスを話数単位で分割するんだ」といわれるんですが、それは容量制限の問題です。コマ分割は画面サイズの問題で、コンテンツの分割は配信側の問題ということになります。また、スマートフォンでコンテンツサイズの制限が解除になったからといっても、例えば3G回線で50Mバイトのデータを落とすのはきついですからね。
読者からすると「買ったらすぐに読みたい」なんですよ。繰り返して読む方はコンテンツを書棚に残しておきたがるんですけど、読み捨て的な需要も実は多くて、ストリーミングで今すぐ読みたいという相反する需要があったりして、とても難しい問題です。
―― ストリーミングだと、例えばマガストアですね。そういった仕様を最終的に決定しているのは誰なんですか。
T サービス側です。ストリーミングだとダウンロード側よりもDRMを考えなくて済むので、提供する側としては実装が楽なんですよ。DRMを考え出すと、結局出版社がコンテンツを出したくないとか、そういう話も出てくるので。
E Ink採用端末向けには設計に違いも
―― 少し話は変わりますが、電子書籍端末は液晶以外にE Inkを採用した製品もあります。E Ink向けのビューワでは、液晶の場合と設計を変えざるを得ないところがあるそうですね。
T ボタンを押したときの操作性ですね。普通ならボタン押しっぱなしでパッパッとめくるじゃないですか。ところがE Inkは画面の書き替えに時間が掛かるので、表示が間に合わなくてめくれないんですよ。E Inkを採用しているソニーの「Reader」やKDDIの「biblio Leaf SP02」では、液晶の端末と違って、ボタンを押していったん離すことでページがめくられますよね。
―― なるほど。押すだけじゃなくて、押して離さなくちゃいけない。
T ええ、離したときです。だから、押しっぱなしでは連続めくりができません。製品によって多少違いますけど、E Inkはページが切り替わるまで確か0.8秒くらい掛かるので、自然とそうした設計になります。
「デジタルコミックはコマ区切りが標準」という人も実は多い
―― 画面サイズについてはどうでしょう。Tさんだと、これまではガラケー、いまはAndroid中心ということで、サイズの種類も多そうですね。
T そうですね。ガラケーでは多少の大小はありますがだいたい同じ画面サイズで、解像度は基本的にQVGAとWVGAの2種類ですが、スマートフォンになってから、さまざまな画面サイズと解像度のものが登場しています。片手で持てる小さいものから、GALAXY TabやXOOMなどの大きなものもありますし。物理的な画面サイズが違うと、やっぱり世界が変わってきますからね。
基本的には表示倍率を変えて画面に合わせるのですが、何でも無限に拡大すると粗くなりますし、さらにオーサリング時に「最低限この範囲は表示」「最大はここまで」という設定があるのでそれらを基に表示を計算しています。もともとガラケーは、各キャリアごとに標準とするサイズが違います。コンテンツを作る側はそれぞれのサイズ向けに生成する手間は掛けたくありませんから、1つの元データから別々に最終データを作るという概念を導入しているわけです。
出版社の編集の方からは、「ページで作る方が楽なのは分かっているが、ガラケーで漫画を読んでいる人たちは『デジタルコミック』としてその動きに慣れてしまっているので、ページでは売れない」とよく聞きます。つまり、コマ区切りが標準というデジタルコミックならではの動きに慣れている層が一定数いるわけです。だからといって最初からコマ区切りで制作してしまうと、いざ売れたから単行本化しようという段階で困るわけですが(笑)。
―― 今、デジタルコミックは幾つか種類があるじゃないですか。ページ全体を見せるタイプもあれば、ページを拡大しながら右上、左上、右下、左下という逆Zの順序でスクロールするタイプ、完全なコマ単位で横に長ければスクロールするタイプ、だいたいその3パターンですかね。
T そうだと思います。スクロールについては逆Zに限らず、コマに合わせて読む順番をオーサリングできますね。スクロールするスピードも制御できます。
―― こうしたスタイルが出てきたのは2003年前後ということですが、7、8年経ってこのスタイルに慣れたユーザーが増え、漫画の読者の中でも、コマ分割タイプに慣れているユーザーもいれば、1ページ単位で決められたレイアウトがなじむユーザーもいると。
T そうですね。「携帯で見る漫画はこう」みたいな。ガラケーに関しては、9割はコマ形式での配信だそうです。実際に編集者の方に聞くと、「だってコマが売れるんだもん」という(笑)。製作コストが10倍ぐらい違うらしいので、できればコマ形式で配信はしたくないというお話はよく伺います。
実際に使っていても、iPhoneサイズぐらいだと、まだコマ分割タイプの方が見やすいですよね。ページだと頻繁に拡大しなくちゃならないので。GALAXY Tabぐらいの画面サイズになると、まあいいかなという気になるんですけど。
X 元の漫画がどういう形で描かれているかですよね。元からデジタルコミックを前提に制作されているのならともかく、ページング前提で制作されたものを無理やり切り貼りして、バイブのところでブルブルブルっていうのはちょっと。個人的には、ページングで作られたものはそのまま見たいですね。
―― 携帯漫画のバイブ機能、あれは誰がディレクションしてるんですか。
T 出版社によって外注のオーサリング会社に丸投げもあれば編集者がやることもあったりとさまざまなようです。TVアニメを静止画で取り込んで漫画風に見せるコンテンツなどでは、アニメの演出家の方が絵コンテみたいな感じで細かく演出を入れているそうです。
―― その一方で「これ、やっといて」みたいな感じで紙の単行本をポーンと渡されて、自炊みたいな感じで裁断して、後はお任せというパターンもあると。
T あるようですね。聞くところでは、吹き出しが切れているのをくっつけたり、足らないコマを勝手に描き足しちゃうケースもあるそうです。それはちょっとどうかなとは思うんですけど。海外のオーサリング業者に出したらひどいのが返ってきたという話も聞きますね。
EPUB 3はあくまでもフォーマットで、運用フローはまだない
―― 今、EPUB 3という新しい規格が出てこようとしています。お二人はEPUB 3についてどのような見解をお持ちですか?
X EPUB 3はHTMLの拡張でしょ。HTMLの拡張ということは、HTMLを表示しなくてはいけない。HTMLを正確に表示するためには現状WebKitとかのライブラリを使うしかない。
でも、文字を表示して横にルビを打つだけなんて、文字を書ければ出ますよね。そこに対してHTMLのレンダラを持ってきて、CSSのレンダラを持ってきて……となると、初めから書けないくらい実装難度が高いんですよね。オープンソースのソフトウェアを持ってきたらいいと簡単に言う方もいますけど、どうやって使っていいか分からないものを持ってきても、うまくはまるか分かりませんしね。今のビューワをEPUB 3対応させたいとは思いますが、実装するのはコストが高いので悩ましいところですね。
T わたしは直接EPUB 3にはタッチしていませんが、組版をそこまで意識しなきゃいけないのかな、という気はします。それと、あんなに仕様が大盛りだと、果たしてそれに合わせたコンテンツが作れるのかなという。
あと、例えばiBooksは今のEPUB 2でも独自拡張していますよね。だからEPUB 3といっていても、昔のブラウザ問題みたいな、例えばIEだけスクロールバーの色を変えられたりとか、そうなる懸念はありますね。特にEPUB 3はJavaScriptも全部動いちゃうんで、高機能なものを作ろうとすると、挙動もみんな違うし、作るコストも高くなるという。
―― コンテンツについては、紙を前提に制作されたものと、これから増えるであろうボーンデジタルの違いもあるかと思います。例えば漫画なら、既存のものはPDFやZIP圧縮JPEGで見せるとか、あるいはEPUB 3で一手間掛けてコマ単位で切って見せていくかという。それに加えて、今後、何か出てくるかもしれないけど、現時点ではまだ見えてないと。
T そうですね。作り手側もいきなり作れるわけじゃないですからね。EPUB 3はあくまでもフォーマットであって、アウトプットをEPUB 3にする標準的な運用フローはまだないじゃないですか。
X ユーザーにとってはフォーマットなんてどうでもいいですしね。ましてやDRMが掛かっていたらどのフォーマットも無理ですからね(笑)。
T そこがFlashが支持される理由の1つですよね。凝ったものが確実に作れて、しかも実行モジュール込みだからDRMも掛けられる。結局のところ、リッチなコンテンツで作るんだったら、じゃあ、みんな「やわらか戦車」つくるのか、という話になってきますよね。あれは全然違うものじゃないですか。アニメでもない、まあ、パラパラアニメですよね。
X 個人的には、漫画家さんにはそういったものにチャレンジしてもらうのではなく、その時間を使って、好きなように描いてほしいですね。
T 漫画家さんは本を出して初めてまとまった収入になるわけですし、もちろんデジタルコミックがお金になるのならやる人は増えるでしょうけど。何だかんだ言って電子書籍単体で収益を上げている方はそうそういないですしね。
1年でこれだけ変わったら、むしろ十分
―― 最後に、ビューワに限らず、電子書籍界隈で最近気になっていることがあれば。
T これからの新しいサービスですが、楽天の「Raboo」は、すでに楽天市場でECとしての実績がある分、ほかの電子書籍ストアとは違うかなと思います。楽天で買い物しました、楽天スーパーポイントが500ポイントある、じゃあ電子書籍でも買おうかみたいな。配送料も要らないですし、そういう強みがありますよね。
X 僕は、日本に来るといわれていたAmazonやGoogleに何の動きもないのが「まだ来ない」なのか、それともこのままスルーされてしまうのかが気になっています。もしかして、日本という狭い市場に対してコストが合わない、やるだけの価値がないと判断されたのかなと。
T ある会社で電子書籍のコンテンツ制作をやっている人から、彼らから打診があってテストコンテンツを作ったという話は聞きましたね。
X ええ、いろいろなところに打診は行ってるようですが、Goしないというところがやばいのかな、という気がしますね。
T Amazonは流通から課金から何から全部抑えているわけで、普通に考えると出版社がちょこちょこやったところで勝ち目はないので、出版社はあれを使って商売するしかないのかなと思います。特にKindleはマルチプラットフォームでやっていますから、あれに勝つのは難しいですよ。
ただ、日本の出版や流通は複雑で、出版社に話を持って行っても、コンテンツがそろうわけじゃなかったりもしますし。本来は出版権であって著作権ではないはずが、出版社が全部握っている。そういう日本特有の構造があるから「面倒だな」ってなると思うんですよね。
X 出版社としては、黒船が来たので身を潜めて「過ぎ去れ」と思ってるんでしょうけどね。たいていの出版社は電子書籍なんか望んじゃいないですからね。望んじゃいないものはやりたくないですよね。
T いままでの仕組みと違うものになっていくと、既得利権を持つ方はどうしても抵抗しますよね。ある印刷会社は、極端な話、既存の印刷工場などを縮小していきたいらしいんですけど、電子を全面的に推進して人を切れるかというとそうもいかないので、そこはソフトランディングしていくしかないと。
―― なるほど。
T ただ出版自体が下り坂であるのは間違いないので、新たな媒体ができたつもりでやっていくしかないと思います。ある総合書籍ストアは、電子書籍サービス側でユーザー情報を取りながら紙の本と電子書籍で総合的にマネタイズしていくという話をされていて、それはそれで正しいと思いました。
ただ実際は、パブーのような新興勢力がやるか、Amazonのような大きいところがやるか、そのどちらかだと思います。特にAmazonは本屋であると同時にIT企業なので、あそこまでできるという。ただ、どんなにいいサービスを作っても、コンテンツを集めないことには誰も振り向いてくれないので。問題はそこですよね。
X 構図はこれからいろいろ変わってくるでしょうが、いきなり勢力図が変わることはないでしょうし、焦らずもうちょっとゆっくり見ていても構わないんじゃないかなと。「1年たってこれだけしか変わらなかった」ではなく「1年でこれだけ変わったら十分じゃない?」という。紙の印刷を始めて何十年、何百年ってやってきたわけですからね。Amazonだって、いきなりKindleをバーンと売り出したわけじゃなくて、それまでに書籍通販として経験を積んできたからできたわけで。
―― 確かに、総括を急ぎたがっているような感はあります。
T 電子書籍ビジネスって、例えば電子書庫パブリやeBookJapanなどは2000年ぐらいから、パピレスは1995年にサービスインしているわけで、別に去年はじめて出てきたわけじゃないですか。出版社からするとXMDFや.bookでいままで培った運用フローがあるので、当面はそれでモノを出していくしかないんですね。だからこそ角川とかはひとまず.bookでやろうとなったわけで。
要するに今現在、できる運用フローはそれだけなわけです。EPUB 3も研究はしているでしょうが、今すぐ始められる状態じゃないわけで、その辺りが実際に立ち上がるのは来年、再来年といったところではないでしょうか。
―― 今年来年といわず、もう少し長いスパンで見ていく必要があるということですね。今日はありがとうございました。
2011年10月4日火曜日
iPad追撃へ燃えるキンドル・ファイア
http://www.sankeibiz.jp/macro/news/111003/mcb1110030502013-n1.htm
■成功の絶対条件はコンテンツ戦略
世界中のPCメーカーがこぞってタブレット型端末を生み出そうと試みてきた。しかし、これらの端末は消費者が一番求めていたある物を欠いていたため、成功には至らなかった。コンテンツがなかったのだ。
だが、先週その全貌が明らかになったアマゾンのキンドル・ファイアは、それら敗者を尻目に成功を遂げるだろう。タブレット型端末を世に送り出すよりもずっと前から、アマゾンはコンテンツの獲得に力を注いできたからだ。
多くの解説者が「果たしてファイアはアップルのiPad(アイパッド)に対抗できるだろうか」との視点から分析を加えているが、私はこの2つの端末が競い合うことにはならないと考えている。少なくとも、現時点では。
◆抜けて2社が優位
なぜなら、現状の未成熟の市場では、タブレット型端末において本当のユーザー体験を提供できるアマゾンとアップルの2社だけが他社に比べて優位に立っており、それぞれがお互いの売り上げを奪い合う構図にはならないからだ。
キンドル・ファイアの価格は199ドル(約1万5300円)。単なる好奇心からでも多くの人が購入を検討する手ごろな価格だ。もしかしたら、私がかつて経験したように、iPadとキンドル端末の両方を購入するかもしれない。
長期的に見れば、2年後にアップルとアマゾンが互いに商売敵となって競争をし始めたときに、消費者の選択はいかにコンテンツが手に入りやすいかにかかってくる。今のところ、アマゾンはアップルに対して競争優位にある。これまでに、アマゾン上でコンテンツ製作者の商品を販売することによってコンテンツ製作者との取引関係をすでに築いているからだ。
この市場にとってもう一つ重要な要素となるのがユーザー体験だが、ここではアップルに軍配が上がるだろう。アップルはそのオペレーティングシステムと、システム上で使えるアプリを完全に管理できているからだ。それに対し、アマゾンは、グーグルのアンドロイドをオペレーティングシステムとして採用し、アプリにも一貫性がない。ユーザーにとっては頼りなく感じられるだろう。ただ、アマゾンの名誉のためにいえば、この新しいキンドル・ファイアにおいて彼らはユーザー体験の改善に最大限の努力を行った。
タブレット型端末市場はいまだ若く、発展途上にある。タブレットPCなるものが出てきてからすでに10年ほどたつが、アップルがiTunesを通じたコンテンツ配信と、シンプルで調和のとれたユーザー体験を組み合わせて初めてこの市場が生まれたと言ってよい。コンテンツとユーザー体験、これが違いを生むのだ。覚えているだろう、さえない音楽機器が山のようにあった中で、アップルが初めてiTunesとiPodを組み合わせて独り勝ちしたことを。
米ヒューレット・パッカード(HP)や、ブラックベリーを製造するカナダのRIM、そしてその他たくさんのハードウエアメーカーが競争力のあるハードウエア機器を作ろうと試みてきた。しかし、これらは10年前のタブレットPCとさして変わるところもないハードウエア機器にすぎないのである。コンテンツとアプリを欠いたタブレット型端末は、高価なウェブブラウザにしかならない。
HPもRIMも、その他のハードウエアメーカーとともにこの市場から退散しようとしている。消費者は、「コンテンツはないが、動作の速い機器」には興味がない。初期のキンドルが、パワーが欠けていたにもかかわらずアメリカやヨーロッパで成功を収めることができた理由はここにある。アマゾンは大量のコンテンツを用意していたのだ。
◆年月かけ取引契約
先週ニューヨークに滞在していた私は、キンドルやiPad片手に地下鉄に乗る人を何百人も見かけた。彼らがこれらの端末を何に使っていたか。皆一様に、何らかのコンテンツを読んだり見たりしていた。コンテンツのない機器は、地下鉄テストに落第してしまうだろう。この大切な鍵となる要素が、アップルとアマゾン以外のどのタブレット型端末にも欠けている。
アマゾンのCEO(最高経営責任者)であるジェフ・ベゾスはこうしたコンテンツの価値を深く理解し、キンドル・ファイア発売のはるか前から、何年もかけて映画や音楽スタジオとコンテンツ取引契約を交わすために交渉を続けてきた。このプロセスは複雑で、ほとんどのハードウエア会社はやりたくもないだろうし、実際に着手もできないだろう。
例えば、キンドルは日本市場ではまだ販売されていない商品だが、アマゾンは日本の消費者にも良い体験を提供したいと考え、すでに最低3年は日本で書籍の版権をめぐる交渉に取り組んできた。もちろん、映画や音楽コンテンツについても同じである。
デジタルコンテンツビジネスに長年携わってきた者として私が言えるのは、コンテンツ獲得は簡単な仕事ではないということだ。なぜなら、大規模なコンテンツ保有者は、新しい機器によってもたらされ得る潜在的で長期的な収入増よりも、四半期あたりの収益率をより高めたいと考えがちだからだ。それでも、アマゾンは、タブレット型端末を成功に導くには、キンドルがハードウエア・プラットホームではなく、コンテンツ・プラットホームでなければならないことを理解している。
アマゾンはこの1つの目的に集中し、世界中のあらゆるタイプの出版社からデジタルコンテンツ契約を取りつけてきた。それに加えて、彼らはすでに大規模なユーザー基盤を抱えており、このユーザーたちをデジタルコンテンツの顧客に変貌させることは難しくない。これらすべてを考慮すると、ファイアの成功の道筋が見えてくる。
◆対抗ならグーグル
ただひとつ、アマゾンやアップルにこの市場で対抗できる会社があるとするならば、それはグーグルだろう。もし、彼らがモバイル機器による決済ビジネスの拡大に成功し、その決済プラットホームにもっと多くのユーザーをひきつけることができれば、グーグルにとってデジタルコンテンツ分野へのビジネス展開は最良のプランになる。グーグルには、ビデオコンテンツ・プラットホームとしてはユーチューブが、そして書籍、雑誌、新聞といったその他のコンテンツのためにはアンドロイドアプリがあるのだ。
グーグルがこれらを組み合わせて実際に始動させるまでは、アマゾンのキンドル・ファイアとアップルのiPadが、古びた馬車ばかり目につくこの世界にたった2台ある自動車として走り続けるだろう。
■成功の絶対条件はコンテンツ戦略
世界中のPCメーカーがこぞってタブレット型端末を生み出そうと試みてきた。しかし、これらの端末は消費者が一番求めていたある物を欠いていたため、成功には至らなかった。コンテンツがなかったのだ。
だが、先週その全貌が明らかになったアマゾンのキンドル・ファイアは、それら敗者を尻目に成功を遂げるだろう。タブレット型端末を世に送り出すよりもずっと前から、アマゾンはコンテンツの獲得に力を注いできたからだ。
多くの解説者が「果たしてファイアはアップルのiPad(アイパッド)に対抗できるだろうか」との視点から分析を加えているが、私はこの2つの端末が競い合うことにはならないと考えている。少なくとも、現時点では。
◆抜けて2社が優位
なぜなら、現状の未成熟の市場では、タブレット型端末において本当のユーザー体験を提供できるアマゾンとアップルの2社だけが他社に比べて優位に立っており、それぞれがお互いの売り上げを奪い合う構図にはならないからだ。
キンドル・ファイアの価格は199ドル(約1万5300円)。単なる好奇心からでも多くの人が購入を検討する手ごろな価格だ。もしかしたら、私がかつて経験したように、iPadとキンドル端末の両方を購入するかもしれない。
長期的に見れば、2年後にアップルとアマゾンが互いに商売敵となって競争をし始めたときに、消費者の選択はいかにコンテンツが手に入りやすいかにかかってくる。今のところ、アマゾンはアップルに対して競争優位にある。これまでに、アマゾン上でコンテンツ製作者の商品を販売することによってコンテンツ製作者との取引関係をすでに築いているからだ。
この市場にとってもう一つ重要な要素となるのがユーザー体験だが、ここではアップルに軍配が上がるだろう。アップルはそのオペレーティングシステムと、システム上で使えるアプリを完全に管理できているからだ。それに対し、アマゾンは、グーグルのアンドロイドをオペレーティングシステムとして採用し、アプリにも一貫性がない。ユーザーにとっては頼りなく感じられるだろう。ただ、アマゾンの名誉のためにいえば、この新しいキンドル・ファイアにおいて彼らはユーザー体験の改善に最大限の努力を行った。
タブレット型端末市場はいまだ若く、発展途上にある。タブレットPCなるものが出てきてからすでに10年ほどたつが、アップルがiTunesを通じたコンテンツ配信と、シンプルで調和のとれたユーザー体験を組み合わせて初めてこの市場が生まれたと言ってよい。コンテンツとユーザー体験、これが違いを生むのだ。覚えているだろう、さえない音楽機器が山のようにあった中で、アップルが初めてiTunesとiPodを組み合わせて独り勝ちしたことを。
米ヒューレット・パッカード(HP)や、ブラックベリーを製造するカナダのRIM、そしてその他たくさんのハードウエアメーカーが競争力のあるハードウエア機器を作ろうと試みてきた。しかし、これらは10年前のタブレットPCとさして変わるところもないハードウエア機器にすぎないのである。コンテンツとアプリを欠いたタブレット型端末は、高価なウェブブラウザにしかならない。
HPもRIMも、その他のハードウエアメーカーとともにこの市場から退散しようとしている。消費者は、「コンテンツはないが、動作の速い機器」には興味がない。初期のキンドルが、パワーが欠けていたにもかかわらずアメリカやヨーロッパで成功を収めることができた理由はここにある。アマゾンは大量のコンテンツを用意していたのだ。
◆年月かけ取引契約
先週ニューヨークに滞在していた私は、キンドルやiPad片手に地下鉄に乗る人を何百人も見かけた。彼らがこれらの端末を何に使っていたか。皆一様に、何らかのコンテンツを読んだり見たりしていた。コンテンツのない機器は、地下鉄テストに落第してしまうだろう。この大切な鍵となる要素が、アップルとアマゾン以外のどのタブレット型端末にも欠けている。
アマゾンのCEO(最高経営責任者)であるジェフ・ベゾスはこうしたコンテンツの価値を深く理解し、キンドル・ファイア発売のはるか前から、何年もかけて映画や音楽スタジオとコンテンツ取引契約を交わすために交渉を続けてきた。このプロセスは複雑で、ほとんどのハードウエア会社はやりたくもないだろうし、実際に着手もできないだろう。
例えば、キンドルは日本市場ではまだ販売されていない商品だが、アマゾンは日本の消費者にも良い体験を提供したいと考え、すでに最低3年は日本で書籍の版権をめぐる交渉に取り組んできた。もちろん、映画や音楽コンテンツについても同じである。
デジタルコンテンツビジネスに長年携わってきた者として私が言えるのは、コンテンツ獲得は簡単な仕事ではないということだ。なぜなら、大規模なコンテンツ保有者は、新しい機器によってもたらされ得る潜在的で長期的な収入増よりも、四半期あたりの収益率をより高めたいと考えがちだからだ。それでも、アマゾンは、タブレット型端末を成功に導くには、キンドルがハードウエア・プラットホームではなく、コンテンツ・プラットホームでなければならないことを理解している。
アマゾンはこの1つの目的に集中し、世界中のあらゆるタイプの出版社からデジタルコンテンツ契約を取りつけてきた。それに加えて、彼らはすでに大規模なユーザー基盤を抱えており、このユーザーたちをデジタルコンテンツの顧客に変貌させることは難しくない。これらすべてを考慮すると、ファイアの成功の道筋が見えてくる。
◆対抗ならグーグル
ただひとつ、アマゾンやアップルにこの市場で対抗できる会社があるとするならば、それはグーグルだろう。もし、彼らがモバイル機器による決済ビジネスの拡大に成功し、その決済プラットホームにもっと多くのユーザーをひきつけることができれば、グーグルにとってデジタルコンテンツ分野へのビジネス展開は最良のプランになる。グーグルには、ビデオコンテンツ・プラットホームとしてはユーチューブが、そして書籍、雑誌、新聞といったその他のコンテンツのためにはアンドロイドアプリがあるのだ。
グーグルがこれらを組み合わせて実際に始動させるまでは、アマゾンのキンドル・ファイアとアップルのiPadが、古びた馬車ばかり目につくこの世界にたった2台ある自動車として走り続けるだろう。
2011年7月27日水曜日
まもなく「日本を追い越す」米国の電子書籍市場 -- 王者アマゾンを「いつもの顔ぶれ」が追撃
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20110726/221682/?P=1
アメリカの電子書籍市場が順調に拡大している。
アマゾンでは、既に電子書籍の販売数が紙の書籍を上回ったとされる。出尽くし感のある電子書籍リーダーでも、7月17日にグーグルの電子書籍販売サービス「Google eBooks」に初めて対応した電子書籍端末が、韓国のデジタル機器メーカーのアイリバー(iRiver)から発売された。
日本では、大騒ぎの割になかなか普及の進まない電子書籍だが、米国ではなぜうまくいったのか。なぜいまだに、電子書籍端末が次々と出てくるのか。ここでちょっと振り返っておきたい。
スタートでは出遅れたアメリカの電子書籍
電子書籍リーダーではアメリカで独走状態にあるアマゾンの「Kindle」が発売されたのは2007年11月のこと。しかし、電子書籍の試みはそれよりはるかに早く、1990年代後半から複数のベンチャー企業が端末を発売。2006年にはソニーの「Sony Reader」が好意的なレビューを集めるなど、「胎動」は既に存在していた。2008年の電子書籍リーダーのリストというのが手元にあるが、主なものだけでも8種類(Kindle含む)がリストアップされている。
しかし、2007年時点の各種推計によると、当時のアメリカの書籍全体に占める電子書籍の比率はわずか0.2%にとどまっていた。これに対して同時期の日本の比率は2%あり、日本の方が「はるかに進んでいた」のである。
当時は、なぜ「アメリカはダメなのか」についていろいろな説明がなされていた。いわく、「コンテンツの品揃えが悪い」「ダウンロードの仕方が面倒」「日本と異なり、ユーザーの間でダウンロードして読むというスタイルが浸透していない」「アメリカの車中心のライフスタイルでは、オーディオブック(本を読み上げて音声で聴くもの)の方が合っている」「紙の書籍が安価なため、電子版による価格減の魅力が少ない」などなど。「やはり紙の方が読みやすい」といった意見も聞かれた。
実は、円ドル換算レートにもよるが、現在でも日本の方が電子書籍の市場は大きい。米出版社協会(AAP)の調べによると、アメリカの2010年の電子書籍売り上げは4億4130万ドル(約360億円)。一方、日本での同年の売り上げは、インプレスR&Dの調べによると、650億円だ.
こうした日本の「電子書籍」の大半は、携帯電話向けのコミック。いわば、「非主流」のコンテンツを最適なニッチ・ユーザーに届けるためのルートとなっている。
上記のような状況が続いていたため、Kindleの発売前には「うまくいかないだろう」との見方も多かった。しかしフタを開けてみたら発売後5時間で売り切れ、その後は端末も電子書籍コンテンツも順調に伸びている。
Kindleがヒットしたのは、それまでの電子書籍端末と大きく異なっていたからにほかならない。先に挙げた「アメリカのダメな点」のうち、「コンテンツの品揃えが悪い」「ダウンロードの仕方が面倒」の2点を解消していたのである。
アマゾンのキンドルが成功した理由
携帯ネットワークに常時接続する機能が内蔵され、パソコンに同期する必要がなく、購入した電子書籍を直接端末にダウンロードできる。ユーザー側で面倒なWi-Fiの設定も携帯キャリアとの契約も月額アクセス料金も不要なので、ユーザーの心理的な敷居は大幅に下がり、「ダウンロードの手間」が大幅に省かれた。
これは、アマゾンが携帯キャリア(当初はスプリント、現在はAT&T)からネットワークの卸提供を受け、同社自身が「MVNO」として自由に料金を設定できることで可能になった。このように、料金的にも使い勝手的にも、「ネット」の存在がユーザーからはほとんど見えない使い方を筆者は「透明なネット」と呼んでいるが、その最初の本格的な例がKindleであった。
また、アマゾンのスケールメリットを生かして、電子書籍そのものの品揃えが豊富である。既にアマゾンのアカウントを持っているユーザーにとっては、紙と電子書籍のどちらでも同じ程度の手間で買える「品揃え」となる。
タイミングも良かったと思われる。Kindleが発売された2007年には、アップルがスマートフォンの「iPhone」を発売した。「アメリカのダメな点」の3点目として挙げた「コンテンツをダウンロードして読むというスタイル」がその後アメリカで急速に浸透したのは、KindleとiPhoneがきっかけになったと考えていい。無線によるダウンロードというコンセプトが、両者の相乗効果で「話題」「流行」となり、ユーザーに急速に受け入れられていった。
背景には、遅れていた3G携帯ネットワークの展開がこの頃、ようやくアメリカ全土にほぼ行き渡ったことがある。携帯事業者が新ネットワーク対応端末への切り替えを促進するために、新しいコンセプトの端末やそのためのサービスを積極的に取り入れるという、数年に一度の特異な時期に当たっていたことが大きかった。
この後、多くの競合端末やサービスが登場した。Kindleと同様の機能や使い勝手を持つ「専用端末」としては、ソニーの「Reader」や大手書店バーンズ・アンド・ノーブルの「Nook」などがあり、またiPhoneやiPadなどの多機能端末でも、Kindleのアプリを載せたり、アップルのiBookを利用するなどの方法で、電子書籍を読むことができる。
2010年3月のAAPの発表によると、2011年2月の書籍販売全体の20%を電子書籍が占めるようになっている。また、アマゾンでは、同社の2011年4月の売り上げのうち、紙の書籍を100とすると電子書籍が105となったと発表(有料の書籍のみの比較、無料のものを含めると電子書籍がもっと多いと推測される)。アナリストは、アメリカの電子書籍売上の3分の2のシェアをアマゾンが握っていると推測している。
2010年のアンケート調査によると、電子書籍用端末として最も多く使われているのはパソコンで、これにKindleが僅差で続き、圧倒的な強みを見せている。
「ダメな点」の4番目として「アメリカのライフスタイルが問題」とも指摘されていたが、実はアメリカ人は本をよく読む。アメリカでソニーの電子書籍事業を手がける担当者はこう語る。
「ブッククラブ活動を楽しむ人が多いです。数人の友人同士で同じ本の同じ部分を読み、定期的に誰かの家に集まって、お茶やワインを片手にその本について語り合うという活動で、最近では主婦同士の集まりなどでも活用されています。例えば人気テレビ番組を友人の間で話題にするのと同じように、ベストセラー本について話題にするのです」
こうした場面でも、紙の書籍と同様に、電子書籍も活躍しているわけだ。
そして主流となった電子書籍の特徴
電子書籍で人気のあるコンテンツは、何か特徴があるのだろうか。
「紙の書籍とだいたい同じです。電子書籍だと、ロングテール(売り上げのあまり大きくない「尾」部分のもの)が活性化するという説もあるようですが、実際には紙の書籍以上に、ベストセラーの比率が大きいと言われています」とソニーの担当氏は話す。
例えば、ハーレクイン・ロマンスなどの女性向けロマンス小説では、電子書籍なら読む時も買う時も「恥ずかしくないからいい」ということもあり、サスペンスやロマンスなどといった『読み捨て』的なタイトルには電子書籍が好まれるとの記事を読んだ記憶がある。また、ベストセラーのジャンルでいえば、映画化もされたスウェーデン作家の話題の小説「ドラゴン・タトゥーの女」が今年4月に史上初の電子書籍のミリオンセラーとなった(出所はこちら)。
日本の電子書籍が「紙の書籍とは異なる特殊コンテンツ、一部のユーザー向け」であるために伸びしろが小さいのに対し、「Kindle以降」のアメリカの電子書籍は、「紙の書籍の代替、主流ユーザー向けの書籍コンテンツ」という、より大きな潜在市場にこうして伸びていったのである。
この潜在市場の大きさが、市場の成長率に表れている。日本の2009年から2010年の伸び率は13.2%。これに対し、アメリカは同じ期間で164.4%という爆発的な成長の真只中なのである。この勢いで行くと、米国の電子書籍は、名実ともに日本を追い越すことになる。
現在、電子書籍は紙の本よりも少々安い価格が付けられているが、筆者のユーザー目線からすれば、それよりも電子書籍の使い勝手が主要な購入動機だ。「その場で入手でき意識せずに持ち歩ける手軽さ」「紙よりもかさ張らず軽い」「サーバーに購入履歴が保存されているため紛失の心配がない」「保存場所が必要ない」などといった点だ。
我が家では、子供の課題図書レポートがあるのを忘れていて、今夜中にどうしても本を入手しなければいけないという時に、慌てて騒ぐことなくKindleで電子書籍を購入できて感謝したことがあった。
一方、ビジネス書などで他ページの図を参照する場合や、雑誌・新聞のように、「ランダムアクセス」を多用するコンテンツについては電子書籍端末では読みにくい。紙の書籍とそれぞれの得意分野があるように思う。
また端末も、ユーザーの嗜好によっても、使い分けされている。iPadやスマートフォンを電子書籍以外の多くの目的にも使う「テック指向ユーザー」とは異なり、ブッククラブに参加する主婦などにとっては、本を読むことだけに機能を最適化して絞り込み、月額料金も不要な専用端末が合っている。こうした「マス層」の支持が、上述した「Kindleの強み」の背景だ。
このように、アメリカの電子書籍はアマゾンというキープレーヤーが本気を出したことで初速がつき、4年たった現在もアマゾンが先頭を爆走中だ。しかし、まだ勝負は終わっていない。
本コラムで過去2回、これまでそれぞれの得意分野に棲み分けていた有力プレーヤーが、映像や音楽などの有料コンテンツにそれぞれ相互参入し、「総合コンテンツ・プレーヤー」戦略に動いている様子を見たが、電子書籍もその有料コンテンツの1つである。
iPadの電子書籍リーダーとパソコンの「iBook」でアップルは既に参入済み、ソニーもアメリカ市場では継続して電子書籍市場で戦っており、日本の市場にも再参入している。ここに、今回おなじみのグーグルが参入してきて、いつもの顔ぶれが揃ったことになる。
戦線拡大するデジタル・コンテンツ商売
これまで見てきたように、グーグルは有料コンテンツ販売の実績があまりない。今回の電子書籍プロジェクトでは、「Google eBook」をオープン・プラットフォームとして展開し、端末は自社製でなく韓国のアイリバーなどの第三者が担当する。ちょうどスマートフォンのOS(基本ソフト)「Android」と同様のやり方だ。コンテンツは、「販売」よりも無料タイトルの配布(300万タイトル)を強調している。
アマゾンとアップルが、ストアと端末の組み合わせによる「販売」の仕組みであるのに対して、グーグルは独自の「クラウド」戦略の一環として電子書籍を位置づけている。こう考えられよう。
端末ベンダーは、アマゾンとアップルのエコシステムからはじきだされた下位プレーヤーであるため、そう簡単にアマゾンの牙城は崩せない。スマートフォンでは携帯電話事業者の販売ルートがカギとなったが、アイリバー製の電子書籍端末は大手ディスカウントチェーンのターゲット(Target)で販売することになっており、どの程度追撃できるか興味深い。
翻って日本の電子書籍の行方は
さて、こうしたアメリカの状況と比較して、日本の電子書籍は今後どうなっていくのだろうか。
アメリカの以前の例でも見たように、「文化の違い」というのはあまりアテにならないだろう。ユーザーの洗練度も日本は申し分ない。日本で「主流の書籍」の電子書籍化がなかなか進まないのは、既存の流通ルートの抵抗が大きいから、というのは既に定説と言える。
アメリカでアマゾンが電子書籍の「ブレークスルー」を実現できた背景には、紙の書籍で販売実績を積み上げ、出版社との力関係が出来上がっていたことに加え、アマゾンは紙の流通を前提とした資産を持たない挑戦者、という特別な立場だったことがある。
アメリカほどアマゾンのシェアが大きくない日本の書籍業界では、電子書籍を積極的に進めるモチベーションを持った「中の人」がまだ存在しない。ソニーはハードメーカーとしては大手だが、書籍販売の分野で「みんなを儲けさせてあげている」という、書籍業界への無言の圧力をかけられないのがつらい。
時代の流れに遅れないよう、出版社や卸など既存プレーヤーも皆それなりに電子書籍には取り組んでいるが、「本業」と比べて投資の割に売り上げはまだ小さいので、なかなか本腰にならない。本気のモチベーションを持つのは、先進的な出版社など、まだ少数のように見受けられる。
このため、電子書籍ビジネスが十分な初速を得られる閾値に達するまで、まだ相当に時間がかかるのではないかと思う。これを加速するには、例えばiPhoneとソフトバンクの例のように、販売力やコンテンツ調達力を持った強力なパートナーの存在が必要なのでは、と筆者は考えている。最近、楽天とパナソニックが電子書籍で提携したが、こうした試みが起爆剤になるのかどうか。
筆者は、夏休みで日本に帰ってきた折、狂ったように文庫本やマンガを買いあさってしまった。そのおかげでスーツケースがパンクしそうになり、重くて大変だったので、改めて「日本でも電子書籍がほしい」と強く感じている。また、本の著者の端くれとしても、電子書籍で少しでも多くの人に読んでもらえるようになってほしいと考えている。
アメリカの電子書籍市場が順調に拡大している。
アマゾンでは、既に電子書籍の販売数が紙の書籍を上回ったとされる。出尽くし感のある電子書籍リーダーでも、7月17日にグーグルの電子書籍販売サービス「Google eBooks」に初めて対応した電子書籍端末が、韓国のデジタル機器メーカーのアイリバー(iRiver)から発売された。
日本では、大騒ぎの割になかなか普及の進まない電子書籍だが、米国ではなぜうまくいったのか。なぜいまだに、電子書籍端末が次々と出てくるのか。ここでちょっと振り返っておきたい。
スタートでは出遅れたアメリカの電子書籍
電子書籍リーダーではアメリカで独走状態にあるアマゾンの「Kindle」が発売されたのは2007年11月のこと。しかし、電子書籍の試みはそれよりはるかに早く、1990年代後半から複数のベンチャー企業が端末を発売。2006年にはソニーの「Sony Reader」が好意的なレビューを集めるなど、「胎動」は既に存在していた。2008年の電子書籍リーダーのリストというのが手元にあるが、主なものだけでも8種類(Kindle含む)がリストアップされている。
しかし、2007年時点の各種推計によると、当時のアメリカの書籍全体に占める電子書籍の比率はわずか0.2%にとどまっていた。これに対して同時期の日本の比率は2%あり、日本の方が「はるかに進んでいた」のである。
当時は、なぜ「アメリカはダメなのか」についていろいろな説明がなされていた。いわく、「コンテンツの品揃えが悪い」「ダウンロードの仕方が面倒」「日本と異なり、ユーザーの間でダウンロードして読むというスタイルが浸透していない」「アメリカの車中心のライフスタイルでは、オーディオブック(本を読み上げて音声で聴くもの)の方が合っている」「紙の書籍が安価なため、電子版による価格減の魅力が少ない」などなど。「やはり紙の方が読みやすい」といった意見も聞かれた。
実は、円ドル換算レートにもよるが、現在でも日本の方が電子書籍の市場は大きい。米出版社協会(AAP)の調べによると、アメリカの2010年の電子書籍売り上げは4億4130万ドル(約360億円)。一方、日本での同年の売り上げは、インプレスR&Dの調べによると、650億円だ.
こうした日本の「電子書籍」の大半は、携帯電話向けのコミック。いわば、「非主流」のコンテンツを最適なニッチ・ユーザーに届けるためのルートとなっている。
上記のような状況が続いていたため、Kindleの発売前には「うまくいかないだろう」との見方も多かった。しかしフタを開けてみたら発売後5時間で売り切れ、その後は端末も電子書籍コンテンツも順調に伸びている。
Kindleがヒットしたのは、それまでの電子書籍端末と大きく異なっていたからにほかならない。先に挙げた「アメリカのダメな点」のうち、「コンテンツの品揃えが悪い」「ダウンロードの仕方が面倒」の2点を解消していたのである。
アマゾンのキンドルが成功した理由
携帯ネットワークに常時接続する機能が内蔵され、パソコンに同期する必要がなく、購入した電子書籍を直接端末にダウンロードできる。ユーザー側で面倒なWi-Fiの設定も携帯キャリアとの契約も月額アクセス料金も不要なので、ユーザーの心理的な敷居は大幅に下がり、「ダウンロードの手間」が大幅に省かれた。
これは、アマゾンが携帯キャリア(当初はスプリント、現在はAT&T)からネットワークの卸提供を受け、同社自身が「MVNO」として自由に料金を設定できることで可能になった。このように、料金的にも使い勝手的にも、「ネット」の存在がユーザーからはほとんど見えない使い方を筆者は「透明なネット」と呼んでいるが、その最初の本格的な例がKindleであった。
また、アマゾンのスケールメリットを生かして、電子書籍そのものの品揃えが豊富である。既にアマゾンのアカウントを持っているユーザーにとっては、紙と電子書籍のどちらでも同じ程度の手間で買える「品揃え」となる。
タイミングも良かったと思われる。Kindleが発売された2007年には、アップルがスマートフォンの「iPhone」を発売した。「アメリカのダメな点」の3点目として挙げた「コンテンツをダウンロードして読むというスタイル」がその後アメリカで急速に浸透したのは、KindleとiPhoneがきっかけになったと考えていい。無線によるダウンロードというコンセプトが、両者の相乗効果で「話題」「流行」となり、ユーザーに急速に受け入れられていった。
背景には、遅れていた3G携帯ネットワークの展開がこの頃、ようやくアメリカ全土にほぼ行き渡ったことがある。携帯事業者が新ネットワーク対応端末への切り替えを促進するために、新しいコンセプトの端末やそのためのサービスを積極的に取り入れるという、数年に一度の特異な時期に当たっていたことが大きかった。
この後、多くの競合端末やサービスが登場した。Kindleと同様の機能や使い勝手を持つ「専用端末」としては、ソニーの「Reader」や大手書店バーンズ・アンド・ノーブルの「Nook」などがあり、またiPhoneやiPadなどの多機能端末でも、Kindleのアプリを載せたり、アップルのiBookを利用するなどの方法で、電子書籍を読むことができる。
2010年3月のAAPの発表によると、2011年2月の書籍販売全体の20%を電子書籍が占めるようになっている。また、アマゾンでは、同社の2011年4月の売り上げのうち、紙の書籍を100とすると電子書籍が105となったと発表(有料の書籍のみの比較、無料のものを含めると電子書籍がもっと多いと推測される)。アナリストは、アメリカの電子書籍売上の3分の2のシェアをアマゾンが握っていると推測している。
2010年のアンケート調査によると、電子書籍用端末として最も多く使われているのはパソコンで、これにKindleが僅差で続き、圧倒的な強みを見せている。
(注)ソニーの商品名についてはForrester Researchの元資料の記述が「eReader」となっているため、グラフではそのまま掲載しているが、実際の商品名は「Reader」である。
「ダメな点」の4番目として「アメリカのライフスタイルが問題」とも指摘されていたが、実はアメリカ人は本をよく読む。アメリカでソニーの電子書籍事業を手がける担当者はこう語る。
「ブッククラブ活動を楽しむ人が多いです。数人の友人同士で同じ本の同じ部分を読み、定期的に誰かの家に集まって、お茶やワインを片手にその本について語り合うという活動で、最近では主婦同士の集まりなどでも活用されています。例えば人気テレビ番組を友人の間で話題にするのと同じように、ベストセラー本について話題にするのです」
こうした場面でも、紙の書籍と同様に、電子書籍も活躍しているわけだ。
そして主流となった電子書籍の特徴
電子書籍で人気のあるコンテンツは、何か特徴があるのだろうか。
「紙の書籍とだいたい同じです。電子書籍だと、ロングテール(売り上げのあまり大きくない「尾」部分のもの)が活性化するという説もあるようですが、実際には紙の書籍以上に、ベストセラーの比率が大きいと言われています」とソニーの担当氏は話す。
例えば、ハーレクイン・ロマンスなどの女性向けロマンス小説では、電子書籍なら読む時も買う時も「恥ずかしくないからいい」ということもあり、サスペンスやロマンスなどといった『読み捨て』的なタイトルには電子書籍が好まれるとの記事を読んだ記憶がある。また、ベストセラーのジャンルでいえば、映画化もされたスウェーデン作家の話題の小説「ドラゴン・タトゥーの女」が今年4月に史上初の電子書籍のミリオンセラーとなった(出所はこちら)。
日本の電子書籍が「紙の書籍とは異なる特殊コンテンツ、一部のユーザー向け」であるために伸びしろが小さいのに対し、「Kindle以降」のアメリカの電子書籍は、「紙の書籍の代替、主流ユーザー向けの書籍コンテンツ」という、より大きな潜在市場にこうして伸びていったのである。
この潜在市場の大きさが、市場の成長率に表れている。日本の2009年から2010年の伸び率は13.2%。これに対し、アメリカは同じ期間で164.4%という爆発的な成長の真只中なのである。この勢いで行くと、米国の電子書籍は、名実ともに日本を追い越すことになる。
現在、電子書籍は紙の本よりも少々安い価格が付けられているが、筆者のユーザー目線からすれば、それよりも電子書籍の使い勝手が主要な購入動機だ。「その場で入手でき意識せずに持ち歩ける手軽さ」「紙よりもかさ張らず軽い」「サーバーに購入履歴が保存されているため紛失の心配がない」「保存場所が必要ない」などといった点だ。
我が家では、子供の課題図書レポートがあるのを忘れていて、今夜中にどうしても本を入手しなければいけないという時に、慌てて騒ぐことなくKindleで電子書籍を購入できて感謝したことがあった。
一方、ビジネス書などで他ページの図を参照する場合や、雑誌・新聞のように、「ランダムアクセス」を多用するコンテンツについては電子書籍端末では読みにくい。紙の書籍とそれぞれの得意分野があるように思う。
また端末も、ユーザーの嗜好によっても、使い分けされている。iPadやスマートフォンを電子書籍以外の多くの目的にも使う「テック指向ユーザー」とは異なり、ブッククラブに参加する主婦などにとっては、本を読むことだけに機能を最適化して絞り込み、月額料金も不要な専用端末が合っている。こうした「マス層」の支持が、上述した「Kindleの強み」の背景だ。
このように、アメリカの電子書籍はアマゾンというキープレーヤーが本気を出したことで初速がつき、4年たった現在もアマゾンが先頭を爆走中だ。しかし、まだ勝負は終わっていない。
本コラムで過去2回、これまでそれぞれの得意分野に棲み分けていた有力プレーヤーが、映像や音楽などの有料コンテンツにそれぞれ相互参入し、「総合コンテンツ・プレーヤー」戦略に動いている様子を見たが、電子書籍もその有料コンテンツの1つである。
iPadの電子書籍リーダーとパソコンの「iBook」でアップルは既に参入済み、ソニーもアメリカ市場では継続して電子書籍市場で戦っており、日本の市場にも再参入している。ここに、今回おなじみのグーグルが参入してきて、いつもの顔ぶれが揃ったことになる。
戦線拡大するデジタル・コンテンツ商売
これまで見てきたように、グーグルは有料コンテンツ販売の実績があまりない。今回の電子書籍プロジェクトでは、「Google eBook」をオープン・プラットフォームとして展開し、端末は自社製でなく韓国のアイリバーなどの第三者が担当する。ちょうどスマートフォンのOS(基本ソフト)「Android」と同様のやり方だ。コンテンツは、「販売」よりも無料タイトルの配布(300万タイトル)を強調している。
アマゾンとアップルが、ストアと端末の組み合わせによる「販売」の仕組みであるのに対して、グーグルは独自の「クラウド」戦略の一環として電子書籍を位置づけている。こう考えられよう。
端末ベンダーは、アマゾンとアップルのエコシステムからはじきだされた下位プレーヤーであるため、そう簡単にアマゾンの牙城は崩せない。スマートフォンでは携帯電話事業者の販売ルートがカギとなったが、アイリバー製の電子書籍端末は大手ディスカウントチェーンのターゲット(Target)で販売することになっており、どの程度追撃できるか興味深い。
翻って日本の電子書籍の行方は
さて、こうしたアメリカの状況と比較して、日本の電子書籍は今後どうなっていくのだろうか。
アメリカの以前の例でも見たように、「文化の違い」というのはあまりアテにならないだろう。ユーザーの洗練度も日本は申し分ない。日本で「主流の書籍」の電子書籍化がなかなか進まないのは、既存の流通ルートの抵抗が大きいから、というのは既に定説と言える。
アメリカでアマゾンが電子書籍の「ブレークスルー」を実現できた背景には、紙の書籍で販売実績を積み上げ、出版社との力関係が出来上がっていたことに加え、アマゾンは紙の流通を前提とした資産を持たない挑戦者、という特別な立場だったことがある。
アメリカほどアマゾンのシェアが大きくない日本の書籍業界では、電子書籍を積極的に進めるモチベーションを持った「中の人」がまだ存在しない。ソニーはハードメーカーとしては大手だが、書籍販売の分野で「みんなを儲けさせてあげている」という、書籍業界への無言の圧力をかけられないのがつらい。
時代の流れに遅れないよう、出版社や卸など既存プレーヤーも皆それなりに電子書籍には取り組んでいるが、「本業」と比べて投資の割に売り上げはまだ小さいので、なかなか本腰にならない。本気のモチベーションを持つのは、先進的な出版社など、まだ少数のように見受けられる。
このため、電子書籍ビジネスが十分な初速を得られる閾値に達するまで、まだ相当に時間がかかるのではないかと思う。これを加速するには、例えばiPhoneとソフトバンクの例のように、販売力やコンテンツ調達力を持った強力なパートナーの存在が必要なのでは、と筆者は考えている。最近、楽天とパナソニックが電子書籍で提携したが、こうした試みが起爆剤になるのかどうか。
筆者は、夏休みで日本に帰ってきた折、狂ったように文庫本やマンガを買いあさってしまった。そのおかげでスーツケースがパンクしそうになり、重くて大変だったので、改めて「日本でも電子書籍がほしい」と強く感じている。また、本の著者の端くれとしても、電子書籍で少しでも多くの人に読んでもらえるようになってほしいと考えている。
電子書籍 表現の拡大への可能性 長尾真・国立国会図書館長
http://sankei.jp.msn.com/life/news/110726/bks11072608180000-n1.htm
東日本大震災は筆舌に尽くしがたい大きな被害を引きおこした。4カ月たった現在も多くの人が避難施設で過ごし、がれきなどの整理、復興の目途は立っていない。そういった中で子供たちは勉強をしたい、本を読みたいと思い、また大人は健康問題、家事や住居など種々の問題で調べものをしたいと思っている。
役場の人たちも新しい事態に直面し、種々の参考になる資料が必要となるが、それらはすべて流されてしまって手元にはないという状況である。全国から多くの本が送られてきているが、それらを適切に整理して各地に振り分けるのは大変だし、それらを置く図書室はなく、また貸し出しなどをする図書館司書もいない。
このような状況において電子書籍が見なおされている。電子読書端末をもっていれば必要なものを直接読むことができるからである。
したがって国として出版社に呼びかけ、過去10年、20年の出版物を電子書籍として1カ所のデータベースに集める。この際、多くの人が同時に読むことを前提として、1冊あたり定価の何十倍かのお金を電子書籍提供の出版社に支払う。そして学校や役場、避難所など、必要なところに電子読書端末を多数配布して、自分の必要とする本、資料を自由に読めるようにする。こうして、公共図書館や学校の図書室が整備されるまでの何年かをしのぐことが考えられる。幸い被災地への資料の送信は著作権者の方々から一般的な許諾が得られているようなので、これは1つの有力な方法と考えられるだろう。
国立国会図書館においては電子図書館の建設をずっと続けてきており、現在では100万冊が電子的に読めるようになっている。またネット上の多くの貴重な情報を集めているが、特に東日本大震災の時は被災した各地の地方自治体や関係機関の発信する情報を毎週のように集めてきた。
このような歴史的な大災害における人々の声、記録、ビデオ映像、インタビューの記録、政府や地方自治体その他の関係機関の発する情報などを種々の観点からの研究に役立てるようにすることが大切であり、これらの記録の収集と保存を呼びかけている。
このような大災害でただ1つしかない貴重な資料がなくなる危険を避けるためには、それらをデジタル化し、そのコピーを何カ所かに分散して保存することが大切となる。既に京都の社寺が持っている国宝級の美術品などをデジタル複製する努力がなされているが、これは適切な方法である。拠点分散という意味からも国立国会図書館は東京だけでなく関西館をもち、そこに資料の一部を保存するとともに電子図書館機能を置き、万一の場合もサービスができるようにしているのである。
電子書籍を推進してゆくことが大切だという人と、紙の本の良さを重視しそれに反対する人との意見がいろいろと交差している。
しかしそこでの議論の多くは、現在の紙の本をそのまま電子化した電子書籍と現在の電子読書端末を前提としてのものであり、将来もっと便利な電子読書端末が作られること、紙の本では絶対に表現できないすぐれた機能を電子書籍が持っていることを念頭においた議論が必要である。
たとえば外国語を学習するテキストの場合、単語や文の発音は紙の本では聞けないが、電子書籍では聞くことができる。紙の本なら写真しか貼れないが、電子書籍ならビデオ映像を埋め込んで見せることもできる。また電子読書端末に読者が文章を打ちこんで、作者に感想や意見を伝えることもできるし、同じ本を読んでいる人たちとネット経由で意見交換をすることもできるだろう。
これまでの読書の様態とは全く違った世界が展開されるようになるわけで、著作者、読者にとって魅力のある時代が来ることは間違いないのである。
東日本大震災は筆舌に尽くしがたい大きな被害を引きおこした。4カ月たった現在も多くの人が避難施設で過ごし、がれきなどの整理、復興の目途は立っていない。そういった中で子供たちは勉強をしたい、本を読みたいと思い、また大人は健康問題、家事や住居など種々の問題で調べものをしたいと思っている。
役場の人たちも新しい事態に直面し、種々の参考になる資料が必要となるが、それらはすべて流されてしまって手元にはないという状況である。全国から多くの本が送られてきているが、それらを適切に整理して各地に振り分けるのは大変だし、それらを置く図書室はなく、また貸し出しなどをする図書館司書もいない。
このような状況において電子書籍が見なおされている。電子読書端末をもっていれば必要なものを直接読むことができるからである。
したがって国として出版社に呼びかけ、過去10年、20年の出版物を電子書籍として1カ所のデータベースに集める。この際、多くの人が同時に読むことを前提として、1冊あたり定価の何十倍かのお金を電子書籍提供の出版社に支払う。そして学校や役場、避難所など、必要なところに電子読書端末を多数配布して、自分の必要とする本、資料を自由に読めるようにする。こうして、公共図書館や学校の図書室が整備されるまでの何年かをしのぐことが考えられる。幸い被災地への資料の送信は著作権者の方々から一般的な許諾が得られているようなので、これは1つの有力な方法と考えられるだろう。
国立国会図書館においては電子図書館の建設をずっと続けてきており、現在では100万冊が電子的に読めるようになっている。またネット上の多くの貴重な情報を集めているが、特に東日本大震災の時は被災した各地の地方自治体や関係機関の発信する情報を毎週のように集めてきた。
このような歴史的な大災害における人々の声、記録、ビデオ映像、インタビューの記録、政府や地方自治体その他の関係機関の発する情報などを種々の観点からの研究に役立てるようにすることが大切であり、これらの記録の収集と保存を呼びかけている。
このような大災害でただ1つしかない貴重な資料がなくなる危険を避けるためには、それらをデジタル化し、そのコピーを何カ所かに分散して保存することが大切となる。既に京都の社寺が持っている国宝級の美術品などをデジタル複製する努力がなされているが、これは適切な方法である。拠点分散という意味からも国立国会図書館は東京だけでなく関西館をもち、そこに資料の一部を保存するとともに電子図書館機能を置き、万一の場合もサービスができるようにしているのである。
電子書籍を推進してゆくことが大切だという人と、紙の本の良さを重視しそれに反対する人との意見がいろいろと交差している。
しかしそこでの議論の多くは、現在の紙の本をそのまま電子化した電子書籍と現在の電子読書端末を前提としてのものであり、将来もっと便利な電子読書端末が作られること、紙の本では絶対に表現できないすぐれた機能を電子書籍が持っていることを念頭においた議論が必要である。
たとえば外国語を学習するテキストの場合、単語や文の発音は紙の本では聞けないが、電子書籍では聞くことができる。紙の本なら写真しか貼れないが、電子書籍ならビデオ映像を埋め込んで見せることもできる。また電子読書端末に読者が文章を打ちこんで、作者に感想や意見を伝えることもできるし、同じ本を読んでいる人たちとネット経由で意見交換をすることもできるだろう。
これまでの読書の様態とは全く違った世界が展開されるようになるわけで、著作者、読者にとって魅力のある時代が来ることは間違いないのである。
2011年7月25日月曜日
国際電子出版EXPO前後の電子書籍市場
http://ebook.itmedia.co.jp/ebook/articles/1107/24/news001.html
「電子書籍ってどこを押さえておけばいいの?」――忙しくて電子書籍市場の最新動向をチェックできない方のために最新動向を分かりやすくナビゲートする「eBook Forecast」。今回は、先日開催された「第15回国際電子出版EXPO」前後に起こった出来事を中心にお届けします。
国内の出版業界の複雑な構造なども相まって、ブレイクしているのかどうか分かりにくい国内の電子書籍市場。ICT総研が行った電子書籍コンテンツの国内需要予測調査によると、2015年度の電子書籍コンテンツ市場は1890億円(2010年度比で8.2倍)とまずまずの成長予測となっています。
この数字は、これまで国内の電子書籍市場をけん引してきたケータイコミックの市場も含んでいますが、2013年にはスマートフォン/タブレット/電子書籍専用端末向けの電子書籍市場がそれを逆転するとしており、「コンテンツホルダーである出版社の電子書籍への取り組みの本気度が今後の出版業界の命運を握っていると言える」と何だか当たり前の言葉で結んでいるのが面白いところです。
それでは、ここ1カ月ほどの電子書籍市場の動きと、今後について予測する「eBook Forecast」をお届けします。
続々と立ち上がる電子書籍ストア
まずは、6月上旬から7月上旬までに新たに開設された電子書書籍ストアです。
Kinoppyは、紀伊國屋書店が運営する電子書籍販売サービス「BookWebPlus」と、紙の本を販売するネット通販サービス「BookWeb」を透過的に利用できるアプリで、iOS版とAndroid版が用意されています。一般に、紙では刊行されているが、電子書籍で提供されていない作品というのは多数存在します。後述するように一部の出版社は新刊書をすべて電子化することを決めており、幾分電子書籍への対応が進んでいますが、現実には電子書籍が提供されていない作品のほうが大多数です。
紀伊國屋書店はこうした状況を鑑み、ユーザーが不便を感じないように、紙と電子書籍を1つのアプリから購入可能にしているのです。同様の取り組みは、丸善やbk1、ジュンク堂などを傘下に持つ大日本印刷陣営の「honto」でも当然視野には入れているようですが、こちらは1つの旗の下で動くには、まだもう少し時間が必要でしょう。
そんなDNPの陣営といえるのが、富士通が立ち上げた電子書籍ストア「BooksV」です。富士通は3月にDNPと連携して電子書籍ビジネスへの参入を発表しており、予定よりやや遅れて6月22日にストアをオープンしました。
BooksVは、DNPの関連会社であるモバイルブック・ジェーピーのほか、同社グループのジー・サーチ、富士通エフ・オー・エムの出版ブランド「FOM出版」からコンテンツの提供を受け、30万点を超える強力なラインアップを武器にしています。30万点という数字は、雑誌の特集などを個別に切り出した雑誌記事・レポートなどを含んでおり、実際にはこうしたコンテンツが全体の9割以上を占めているのですが、「あの雑誌のあの特集だけ読みたい」といったニーズは確実に存在しますし、漫画は現時点で取り扱っていないことなどを考えると、ビジネスマンなどを中心に支持を集めそうです。
紀伊國屋書店や富士通のBooksVと比べると明らかに規模は小さいものの、ユーザーニーズをよく理解しているのが「ブックパブ」です。幾つかの出版社が集まって立ち上げたモール型のこの電子書籍ストアは、コンテンツをDRMフリーで提供しているのが大きな特徴です。
出版社が自らのコンテンツをDRMフリーで提供するのは、長期的にはともかく、少なくとも現時点ではかなりチャレンジングな取り組みです。だからこそ大手の出版社が名を連ねていないのですが、複数のDRMやフォーマットに対応するマルチビューワが一般的になるのか、こうしたDRMフリーコンテンツが一般的になるのかは注目したいところです。
2010年の国内電子書籍市場をけん引した2つの電子書籍ストアは今
こうした新たな電子書籍ストアが立ち上がる中、電子書籍元年と呼ばれた2010年の国内電子書籍市場をけん引した2つの電子書籍ストアは今、それぞれの道を歩みつつあります。
1つはソニーの「Reader Store」。これまで同ストアでは、シャープの電子書籍フォーマット「XMDF」形式の電子書籍を主に扱っていましたが、ファームのアップデートで新たにボイジャーのドットブック(.book)に対応しました。これにより、電子刊行物のフォーマットを.bookに統一している講談社の作品がReader Storeに並ぶことになり、ラインアップを大幅に拡充しています。専用の電子書籍端末「Reader」の最新モデルが8月にもリリースされるのではないかといううわさもあり、勢いは継続しているといえそうです。
一方、少し雲行きが怪しくなっているのが、「TSUYATA GALAPAGOS」です。TSUYATA GALAPAGOSは、シャープとカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)の合弁会社により運営されている電子書籍ストアですが、CCCは6月30日、TSUYATA GALAPAGOSとは別に独自の電子書籍ストア「TSUTAYA.com eBOOKS」をオープン、専用のAndroidアプリもリリースされました。
TSUTAYA.com eBOOKSでは、TSUTAYAの実店舗との連携を考慮し、TSUTAYA店舗で購入した紙書籍の電子書籍を安価に購入できるサービスを年内に開始する予定ですが、TSUYATA GALAPAGOSと別に新たなストアを立ち上げる必要があったのかは謎です。
TSUTAYA.com eBOOKSでは電子書籍のフォーマットに上述の.bookを採用していることなどを考えれば、(.bookの競合となる)XMDFを手掛けるシャープに配慮したともいえますが、そもそもTSUTAYA GALAPAGOSの出資比率はシャープが49%、CCC51%で、CCCの子会社扱いですし、代表取締役社長も2代続けてCCCから就任していますので、わざわざ別のストアを立ち上げる必要は本来さほどないはずです。それでもあえてTSUTAYA.com eBOOKsを立ち上げたのは、両社の関係がうまくいっていないのではないかと考えるのが自然です。リリース文には、「端末、iPhone、iPad、タブレット端末やPC向けなど多様な端末向けにTSUTAYAが本格的立ちあげる電子書店」とあるのも見方によってはトゲがあります。
そんなシャープは、7月に入ると、DRMフリーのXMDFを取り扱っていた「SpaceTownブックス」を11月で閉鎖すると発表し、多くのファンを悲しませました。
しかし、暗い話ばかりではありません。7月14日には、GALAPAGOSのOSをAndroid 2.3にアップデートすると発表しました。シャープはGALAPAGOSに搭載されているOSをLinuxベースと対外的には発表していましたが、これがAndroidベースだったのは明らかでしたから、Android 2.3へのアップデートを提供するのは一見歓迎できます。
しかし、筆者個人は、進化をうたったGALAPAGOSが過酷な生存競争に敗れつつあるのではと不安視しています。当初はGALAPAGOSからのみ利用可能だったTSUTAYA GALAPAGOSは、まずはシャープのスマートフォンに、6月にはシャープ以外のAndroid搭載スマートフォンからも利用可能となり、専用端末の意味合いは当初より薄れてきていますが、Android 2.3へのアップデートで専用端末を汎用化しようとしても、ハードウェア構成的に使えないアプリも多く、どっちつかずの端末になってしまったように思えてなりません。
5.5型のモバイルタイプは、このサイズにしては珍しい高解像度を備えているため、今後も一定の需要はあるでしょうが、10型のホームタイプは、Acerが最新のスペックでかつAndroid 3.0を搭載し、しかも3万円台の「ICONIA TAB A500」を提供するなど、競争力に欠けるのは明白です。ホームタイプがAndroid 3.xを搭載する可能性は限りなく低いでしょうし、仮にアップグレードされたとしても、スペック的に動作は厳しいでしょう。市場のニーズに合わせたといえば美談ですが、どこで差別化を図るのかといった部分が見えてこないのは危険な兆候です。
一方で、“第3の”GALAPAGOSタブレットがリリース間近であると取り上げられています。記事では7型のタブレットではないかと予想されていますが、恐らくAndroid 3.xを搭載してくるでしょう。7型タブレット市場は「GALAXY Tab SC-01C」や「Dell Streak 7」などをはじめ、最近多くのベンダーから製品がリリースされているホットスポットです。7型タブレットを「どっちつかず」と批判するAppleのスティーブ・ジョブス氏に負けることなく、今年後半は7型タブレットが大きく注目されそうです。
ちなみに、シャープは4月に、XMDFビルダーなどのオーサリング環境を7月に無償公開することを発表していましたが、7月24日時点で、まだリリースされていないことも気がかりです。シャープの動向はしばらく注視しておいてもよいでしょう。
楽天も電子書籍ビジネスに参入、専用端末はまずはパナソニックから
7月の上旬には電子書籍市場の祭典ともいえる「第15回国際電子出版EXPO」が開催され、各社がこの前後に大きな発表をしています。第15回国際電子出版EXPOでは幾つか大きな発表もありましたので、特設ページで確認するとよいでしょう。
そんな中、今注目を集めているのは、電子書籍ビジネスに本格参入する楽天です。
楽天は6月13日に、紀伊國屋書店、ソニー、パナソニックとともに、日本での電子書籍サービスを普及拡大させる取り組みを検討していくことで合意したと発表、国際電子出版EXPOでは、楽天が8月10日に立ち上げる予定の電子書籍ストア「Raboo」の専用端末と位置づけられるパナソニックの「UT-PB1」が披露されていました。ちなみにこの端末も7型の端末です。
楽天が立ち上げるRabooは、楽天経済圏を生かし、ユーザーにとって身近な存在になりそうですが、専用端末のUT-PB1は、Androidベースの電子書籍専用端末という意味では上述のGALAPAGOSが登場した当時と同じような路線なのが懸念されます。ただし、楽天、紀伊國屋書店、ソニー、パナソニックの4社連合では、れぞれが提供、運営している電子書籍端末や電子書籍ストアが相互接続できる環境の構築を進めるとしており、極端な話、ソニーのReaderなどでもRabooのコンテンツが読めるようになるでしょうから、少し洗練されている印象を受けます。
Kindleのような専用端末と、iPadなどの汎用タブレット端末との中間に「電子書籍用のタブレット端末」という市場があるのかどうか。それともそこも汎用タブレットが陣取るのか――ここでその答えを出す気はありませんが、1つの興味深い意見を紹介しておきます。先日eBook USERに掲載された、うめ・小沢高広氏、一色登希彦氏、藤井あや氏という電子書籍の出版経験を持つ現役漫画家による座談会で、電子書籍専用端末について語った部分です。
藤井 若い女の子が、本を読むために4万円出すかといったら出さないですよね。
小沢 しかも本そのものではなく、本棚のためにってことですし。ガラケーで漫画が読める利点というのは、電話の「ついで」に読めるからですよね。
Amazonタブレットの死角でNOOK2が高評価
国内の電子書籍市場では、いまだ外資勢の国内参入もはっきりとしない状況ですが、それぞれのプレイヤーが忙しく動き回っています。
その筆頭はやはりAmazon.com。5月ごろからうわさになっているタブレットが8月、いや10月、と人によってまちまちですが、リリースが迫っているようで、Appleとの競争が激化しそうです。
市場ではAmazonタブレットの話題で持ちきりですが、米非営利調査機関Pew Research Centerのレポートによると、米国ではタブレット端末より電子書籍端末の方が普及しており、電子書籍端末の保有率は過去6か月間で倍増したと報告されています。そうした中、Barnes & Nobleの新型電子書籍専用端末「NOOK2」が米消費者団体の評価で初めて「Kindle」を抜き、IDCが発表した2011年第1四半期(1~3月)における電子書籍端末出荷調査でも、Burnes & NobleがAmazonを追い抜き初の首位となるなど、Burnes & Nobleが勢いを増しています。
そんなAmazonからは、毎日のように電子書籍関連のニュースが発表されていますが、大きな動きになりそうなものが、学生向けにKindle版の教科書を貸し出す「Kindle Textbook Rental」サービスです。最大80%のコストセーブが可能な点なども魅力ですが、若いうちから電子書籍に慣れさせておくというのは、長期的に電子書籍市場にプラスに働きます。こうした取り組みが日本でも今後起こることに期待しましょう。
Google eBookstoreに対応した電子書籍端末も登場
Amazonに負けじと、IT業界のガリバーであるGoogleも大きく動き出しました。同社のGoogle eBookstoreは、数十万冊の有料タイトルだけでなく、著作権切れ作品を中心に300万冊の無料タイトルを取り扱う巨大な電子書籍ストアですが、このGoogle eBookstoreに対応する電子書籍リーダーがiriverから登場しました。それが「iRiver Story HD」で、AmazonのKindleの価格帯に近い約140ドルで販売されています。Wi-Fi接続経由でクラウド上の電子書籍を直接読むことができるようになっています。
正確には新製品というより、iRiverが2009年に発売した「iriver Story」の後継に位置づけられるStory HDが、米国発売に合わせてGoogle eBookstoreに対応したというものですが、AmazonにおけるKindle、AppleにおけるiPad、Barnes & NobleにおけるNOOKに相当する製品です。もっとも、Google eBookstoreはAPIが公開されていますので、今後同じような製品が登場してくる可能性は高いです。初物は避ける、という賢明なあなたのために、Story HDについては近日レビューをお届けする予定です。
この動きとは直接関係はありませんが、Googleは現在、書籍全文検索サービス「Google Book Search」(現Google Books)について、米国著作者協会(AG)や米出版社協会(AAP)から訴訟を起こされており、その和解締結でもめています。オプトイン方式への和解案修正にGoogle側が難色を示しているというもので、裁判が再開されるシナリオが濃厚になってきているようです。エンドユーザーというよりはコンテンツプロバイダー向けのトピックですが、気になる方はチェックしておきましょう。
「電子書籍ってどこを押さえておけばいいの?」――忙しくて電子書籍市場の最新動向をチェックできない方のために最新動向を分かりやすくナビゲートする「eBook Forecast」。今回は、先日開催された「第15回国際電子出版EXPO」前後に起こった出来事を中心にお届けします。
国内の出版業界の複雑な構造なども相まって、ブレイクしているのかどうか分かりにくい国内の電子書籍市場。ICT総研が行った電子書籍コンテンツの国内需要予測調査によると、2015年度の電子書籍コンテンツ市場は1890億円(2010年度比で8.2倍)とまずまずの成長予測となっています。
この数字は、これまで国内の電子書籍市場をけん引してきたケータイコミックの市場も含んでいますが、2013年にはスマートフォン/タブレット/電子書籍専用端末向けの電子書籍市場がそれを逆転するとしており、「コンテンツホルダーである出版社の電子書籍への取り組みの本気度が今後の出版業界の命運を握っていると言える」と何だか当たり前の言葉で結んでいるのが面白いところです。
それでは、ここ1カ月ほどの電子書籍市場の動きと、今後について予測する「eBook Forecast」をお届けします。
続々と立ち上がる電子書籍ストア
まずは、6月上旬から7月上旬までに新たに開設された電子書書籍ストアです。
Kinoppyは、紀伊國屋書店が運営する電子書籍販売サービス「BookWebPlus」と、紙の本を販売するネット通販サービス「BookWeb」を透過的に利用できるアプリで、iOS版とAndroid版が用意されています。一般に、紙では刊行されているが、電子書籍で提供されていない作品というのは多数存在します。後述するように一部の出版社は新刊書をすべて電子化することを決めており、幾分電子書籍への対応が進んでいますが、現実には電子書籍が提供されていない作品のほうが大多数です。
紀伊國屋書店はこうした状況を鑑み、ユーザーが不便を感じないように、紙と電子書籍を1つのアプリから購入可能にしているのです。同様の取り組みは、丸善やbk1、ジュンク堂などを傘下に持つ大日本印刷陣営の「honto」でも当然視野には入れているようですが、こちらは1つの旗の下で動くには、まだもう少し時間が必要でしょう。
そんなDNPの陣営といえるのが、富士通が立ち上げた電子書籍ストア「BooksV」です。富士通は3月にDNPと連携して電子書籍ビジネスへの参入を発表しており、予定よりやや遅れて6月22日にストアをオープンしました。
BooksVは、DNPの関連会社であるモバイルブック・ジェーピーのほか、同社グループのジー・サーチ、富士通エフ・オー・エムの出版ブランド「FOM出版」からコンテンツの提供を受け、30万点を超える強力なラインアップを武器にしています。30万点という数字は、雑誌の特集などを個別に切り出した雑誌記事・レポートなどを含んでおり、実際にはこうしたコンテンツが全体の9割以上を占めているのですが、「あの雑誌のあの特集だけ読みたい」といったニーズは確実に存在しますし、漫画は現時点で取り扱っていないことなどを考えると、ビジネスマンなどを中心に支持を集めそうです。
紀伊國屋書店や富士通のBooksVと比べると明らかに規模は小さいものの、ユーザーニーズをよく理解しているのが「ブックパブ」です。幾つかの出版社が集まって立ち上げたモール型のこの電子書籍ストアは、コンテンツをDRMフリーで提供しているのが大きな特徴です。
出版社が自らのコンテンツをDRMフリーで提供するのは、長期的にはともかく、少なくとも現時点ではかなりチャレンジングな取り組みです。だからこそ大手の出版社が名を連ねていないのですが、複数のDRMやフォーマットに対応するマルチビューワが一般的になるのか、こうしたDRMフリーコンテンツが一般的になるのかは注目したいところです。
2010年の国内電子書籍市場をけん引した2つの電子書籍ストアは今
こうした新たな電子書籍ストアが立ち上がる中、電子書籍元年と呼ばれた2010年の国内電子書籍市場をけん引した2つの電子書籍ストアは今、それぞれの道を歩みつつあります。
1つはソニーの「Reader Store」。これまで同ストアでは、シャープの電子書籍フォーマット「XMDF」形式の電子書籍を主に扱っていましたが、ファームのアップデートで新たにボイジャーのドットブック(.book)に対応しました。これにより、電子刊行物のフォーマットを.bookに統一している講談社の作品がReader Storeに並ぶことになり、ラインアップを大幅に拡充しています。専用の電子書籍端末「Reader」の最新モデルが8月にもリリースされるのではないかといううわさもあり、勢いは継続しているといえそうです。
一方、少し雲行きが怪しくなっているのが、「TSUYATA GALAPAGOS」です。TSUYATA GALAPAGOSは、シャープとカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)の合弁会社により運営されている電子書籍ストアですが、CCCは6月30日、TSUYATA GALAPAGOSとは別に独自の電子書籍ストア「TSUTAYA.com eBOOKS」をオープン、専用のAndroidアプリもリリースされました。
TSUTAYA.com eBOOKSでは、TSUTAYAの実店舗との連携を考慮し、TSUTAYA店舗で購入した紙書籍の電子書籍を安価に購入できるサービスを年内に開始する予定ですが、TSUYATA GALAPAGOSと別に新たなストアを立ち上げる必要があったのかは謎です。
TSUTAYA.com eBOOKSでは電子書籍のフォーマットに上述の.bookを採用していることなどを考えれば、(.bookの競合となる)XMDFを手掛けるシャープに配慮したともいえますが、そもそもTSUTAYA GALAPAGOSの出資比率はシャープが49%、CCC51%で、CCCの子会社扱いですし、代表取締役社長も2代続けてCCCから就任していますので、わざわざ別のストアを立ち上げる必要は本来さほどないはずです。それでもあえてTSUTAYA.com eBOOKsを立ち上げたのは、両社の関係がうまくいっていないのではないかと考えるのが自然です。リリース文には、「端末、iPhone、iPad、タブレット端末やPC向けなど多様な端末向けにTSUTAYAが本格的立ちあげる電子書店」とあるのも見方によってはトゲがあります。
そんなシャープは、7月に入ると、DRMフリーのXMDFを取り扱っていた「SpaceTownブックス」を11月で閉鎖すると発表し、多くのファンを悲しませました。
しかし、暗い話ばかりではありません。7月14日には、GALAPAGOSのOSをAndroid 2.3にアップデートすると発表しました。シャープはGALAPAGOSに搭載されているOSをLinuxベースと対外的には発表していましたが、これがAndroidベースだったのは明らかでしたから、Android 2.3へのアップデートを提供するのは一見歓迎できます。
しかし、筆者個人は、進化をうたったGALAPAGOSが過酷な生存競争に敗れつつあるのではと不安視しています。当初はGALAPAGOSからのみ利用可能だったTSUTAYA GALAPAGOSは、まずはシャープのスマートフォンに、6月にはシャープ以外のAndroid搭載スマートフォンからも利用可能となり、専用端末の意味合いは当初より薄れてきていますが、Android 2.3へのアップデートで専用端末を汎用化しようとしても、ハードウェア構成的に使えないアプリも多く、どっちつかずの端末になってしまったように思えてなりません。
5.5型のモバイルタイプは、このサイズにしては珍しい高解像度を備えているため、今後も一定の需要はあるでしょうが、10型のホームタイプは、Acerが最新のスペックでかつAndroid 3.0を搭載し、しかも3万円台の「ICONIA TAB A500」を提供するなど、競争力に欠けるのは明白です。ホームタイプがAndroid 3.xを搭載する可能性は限りなく低いでしょうし、仮にアップグレードされたとしても、スペック的に動作は厳しいでしょう。市場のニーズに合わせたといえば美談ですが、どこで差別化を図るのかといった部分が見えてこないのは危険な兆候です。
一方で、“第3の”GALAPAGOSタブレットがリリース間近であると取り上げられています。記事では7型のタブレットではないかと予想されていますが、恐らくAndroid 3.xを搭載してくるでしょう。7型タブレット市場は「GALAXY Tab SC-01C」や「Dell Streak 7」などをはじめ、最近多くのベンダーから製品がリリースされているホットスポットです。7型タブレットを「どっちつかず」と批判するAppleのスティーブ・ジョブス氏に負けることなく、今年後半は7型タブレットが大きく注目されそうです。
ちなみに、シャープは4月に、XMDFビルダーなどのオーサリング環境を7月に無償公開することを発表していましたが、7月24日時点で、まだリリースされていないことも気がかりです。シャープの動向はしばらく注視しておいてもよいでしょう。
楽天も電子書籍ビジネスに参入、専用端末はまずはパナソニックから
7月の上旬には電子書籍市場の祭典ともいえる「第15回国際電子出版EXPO」が開催され、各社がこの前後に大きな発表をしています。第15回国際電子出版EXPOでは幾つか大きな発表もありましたので、特設ページで確認するとよいでしょう。
そんな中、今注目を集めているのは、電子書籍ビジネスに本格参入する楽天です。
楽天は6月13日に、紀伊國屋書店、ソニー、パナソニックとともに、日本での電子書籍サービスを普及拡大させる取り組みを検討していくことで合意したと発表、国際電子出版EXPOでは、楽天が8月10日に立ち上げる予定の電子書籍ストア「Raboo」の専用端末と位置づけられるパナソニックの「UT-PB1」が披露されていました。ちなみにこの端末も7型の端末です。
楽天が立ち上げるRabooは、楽天経済圏を生かし、ユーザーにとって身近な存在になりそうですが、専用端末のUT-PB1は、Androidベースの電子書籍専用端末という意味では上述のGALAPAGOSが登場した当時と同じような路線なのが懸念されます。ただし、楽天、紀伊國屋書店、ソニー、パナソニックの4社連合では、れぞれが提供、運営している電子書籍端末や電子書籍ストアが相互接続できる環境の構築を進めるとしており、極端な話、ソニーのReaderなどでもRabooのコンテンツが読めるようになるでしょうから、少し洗練されている印象を受けます。
Kindleのような専用端末と、iPadなどの汎用タブレット端末との中間に「電子書籍用のタブレット端末」という市場があるのかどうか。それともそこも汎用タブレットが陣取るのか――ここでその答えを出す気はありませんが、1つの興味深い意見を紹介しておきます。先日eBook USERに掲載された、うめ・小沢高広氏、一色登希彦氏、藤井あや氏という電子書籍の出版経験を持つ現役漫画家による座談会で、電子書籍専用端末について語った部分です。
藤井 若い女の子が、本を読むために4万円出すかといったら出さないですよね。
小沢 しかも本そのものではなく、本棚のためにってことですし。ガラケーで漫画が読める利点というのは、電話の「ついで」に読めるからですよね。
Amazonタブレットの死角でNOOK2が高評価
国内の電子書籍市場では、いまだ外資勢の国内参入もはっきりとしない状況ですが、それぞれのプレイヤーが忙しく動き回っています。
その筆頭はやはりAmazon.com。5月ごろからうわさになっているタブレットが8月、いや10月、と人によってまちまちですが、リリースが迫っているようで、Appleとの競争が激化しそうです。
市場ではAmazonタブレットの話題で持ちきりですが、米非営利調査機関Pew Research Centerのレポートによると、米国ではタブレット端末より電子書籍端末の方が普及しており、電子書籍端末の保有率は過去6か月間で倍増したと報告されています。そうした中、Barnes & Nobleの新型電子書籍専用端末「NOOK2」が米消費者団体の評価で初めて「Kindle」を抜き、IDCが発表した2011年第1四半期(1~3月)における電子書籍端末出荷調査でも、Burnes & NobleがAmazonを追い抜き初の首位となるなど、Burnes & Nobleが勢いを増しています。
そんなAmazonからは、毎日のように電子書籍関連のニュースが発表されていますが、大きな動きになりそうなものが、学生向けにKindle版の教科書を貸し出す「Kindle Textbook Rental」サービスです。最大80%のコストセーブが可能な点なども魅力ですが、若いうちから電子書籍に慣れさせておくというのは、長期的に電子書籍市場にプラスに働きます。こうした取り組みが日本でも今後起こることに期待しましょう。
Google eBookstoreに対応した電子書籍端末も登場
Amazonに負けじと、IT業界のガリバーであるGoogleも大きく動き出しました。同社のGoogle eBookstoreは、数十万冊の有料タイトルだけでなく、著作権切れ作品を中心に300万冊の無料タイトルを取り扱う巨大な電子書籍ストアですが、このGoogle eBookstoreに対応する電子書籍リーダーがiriverから登場しました。それが「iRiver Story HD」で、AmazonのKindleの価格帯に近い約140ドルで販売されています。Wi-Fi接続経由でクラウド上の電子書籍を直接読むことができるようになっています。
正確には新製品というより、iRiverが2009年に発売した「iriver Story」の後継に位置づけられるStory HDが、米国発売に合わせてGoogle eBookstoreに対応したというものですが、AmazonにおけるKindle、AppleにおけるiPad、Barnes & NobleにおけるNOOKに相当する製品です。もっとも、Google eBookstoreはAPIが公開されていますので、今後同じような製品が登場してくる可能性は高いです。初物は避ける、という賢明なあなたのために、Story HDについては近日レビューをお届けする予定です。
この動きとは直接関係はありませんが、Googleは現在、書籍全文検索サービス「Google Book Search」(現Google Books)について、米国著作者協会(AG)や米出版社協会(AAP)から訴訟を起こされており、その和解締結でもめています。オプトイン方式への和解案修正にGoogle側が難色を示しているというもので、裁判が再開されるシナリオが濃厚になってきているようです。エンドユーザーというよりはコンテンツプロバイダー向けのトピックですが、気になる方はチェックしておきましょう。
2011年6月28日火曜日
キャリアの電子書籍サービスは、実際はどれが読みやすい?
http://ascii.jp/elem/000/000/615/615314/
第2回に続いてキャリアが提供する電子書籍サービスを比較していこう。前回はストアの機能自体を比較したが、今度は買った本の読みやすさに関わる機能を比較した。実際の書物と違い、ページをめくる、しおりを挟む、といった何気ない操作も、スマホ上ではタッチパネルでの操作となる。データの保存先はどこ? というスマートフォンならではの気になる点もある。実は意外と3社とも使い勝手が大きく違った。
電子書籍を見るにあたって必ず気になるだろう点を、下記の表にまとめている。
まず最初の「ストアとリーダーは別アプリ?」という項目は、要は電子書籍ストア用のアプリ以外に、書籍を読むために必要なアプリがあるかということ。ソフトバンクブックストアが一部必要としているのは「書籍閲覧アプリ」のことだ。
スマートフォン上の電子書籍といえば、ページが「めくれる」演出が印象的だが、今回の比較では2Dfactoのみ対応していた。
また、大画面のスマートフォンでも、書籍によっては文字が読みづらいことがあり、ピンチ操作で拡大縮小ができるとやはり便利だ。これは逆にLISMO Book Storeとソフトバンクブックストアで対応。コミックは書籍によって違いがあり、ケータイ風のコマ毎表示するタイプと、1ページをそのまま切り替えるタイプがある。個人的にはスマートフォンでは1ページずつ切り替えるほうが自然な気がする(コマ割や文字の大きさにもよるが)。
書籍への書き込みについては、2Dfactoのみ自由にマーカーやメモを入力できたので、使い方によっては便利そうだ。書籍の保存先は大量に読む読者であれば、microSDが選択できると安心だ。
さて、実際に読み始めると、機能が非常に多いことに気づく。前述の比較表以外でも、書籍内のキーワード検索が可能。文字列を入力すると、その文字列のあるページに飛ぶ。文字を長押しして選択すると、Wikipediaなどで用語検索もできるし、書籍内にマーカーで線を引いたり、メモ(ノート)を入力できる。しおりは何枚も挟むことが可能だ。このマーカーやメモ、しおりは、位置が記録されており、いつでもそのページを簡単に開くことができる。
また「縦組み」「横組み」の変更も可能だ(作品によっては固定になっている)。縦組みでは右開きだった書籍が、横組みでは左開きに切り替わる。文字と背景の色まで変更できるのには驚いた。ルビを振ることができるほか、行間や字間の調整にも対応している。さらには画面タップしてページを「進む」「戻す」場合、それぞれの操作が認識される画面のエリアまで決められるので、“自分に最適な読書環境”を目指すのであれば、本アプリはかなり望みに近い設定が実現できそうだ。もっとも、筆者の場合は初期設定のままでもまったく普通に使えたので、必ず設定をいじらないといけないわけでもない。
2Dfactoは機能が多いために、どこを操作して目的の設定を変更するのか、正直パッと見ではわかりにくい。しかしLISMO Book Storeの場合は、とりあえずメニューを開けばいいので慣れていなくてもすぐに覚えられる。ただしシンプルゆえに、カスタマイズの楽しみは少ない。本棚もデフォルトのもののみを使うことになる。その本棚は「作品」「著者」「カテゴリ」「ダウンロード」「サンプル」でのみ分類されるので、書籍の数が増えると少々整理が大変になりそうだ。ただし、本棚でメニューを開くと検索は可能である。
読書を中断して手動でしおりを挟む場合もやはりメニューから行なうが、肝心のしおりが2枚しか挟めないのは残念。ページ移動は目次からの指定や、全ページをパーセント単位で表わし、その数字で移動する。
ここまではLISMO Book Storeのシンプルな面をお伝えしたが、「表示設定」は非常に細かい。文字サイズは5パターン、太字設定もある。縦横表示の切り替え/余白調整/行間/ルビ表示/柱(書籍の余白に記載された文字)の表示、さらには1行送りで読んでいくこともできる。コミックの表示ではバックライト表示や、作品によっては「コマ表示」「ページ表示」を好みで選択が可能だ(表示方法が「コマ表示」のみに決められている作品もある)。
そして「レビュー投稿」機能があるのも今後使っていくうえで期待したい機能だ。最後のページまで到達したときや、作品タイトルの長押しで投稿メニューが表示される。
ソフトバンクブックストアには、ケータイと同じように単行本単位ではなく、1話単位で販売されているコミックが大量にある。そのような作品では1話分を読み終わったときに次の話を探す検索メニューが表示される。これは単純だが良い機能だと思う。
ただしリーダーとしての機能はLISMO Book Store以上にシンプル。並び替え機能はもちろん著者名/ジャンル別に分類することは可能だが、書籍内に挟めるしおりは1枚だけというのはさすがに不便だ。特に実用書/解説書の類では、後で読み返したい部分に多数目印をつけておきたものである。これは今後の機能強化に期待だ。
他の2サービスと違い、この「ソフトバンクブックストア」には自作した電子書籍のデータや、仕事のファイルの管理機能がある。対応ファイル形式は PDF/Word/Excel/ePub。実際にファイルを読むためには別途ビューアーアプリが必要だが、書籍をまとめて管理できるのは便利だ。
また読まなくなった本は「書庫」に移動する機能がある。書庫に移動した本は普段は本棚(マイブック)に表示されないので、本を整理しやすくなるだろう。簡単に取り出せるので、削除はしたくないが今は読まない本を入れておけばいい。なお、あくまで本棚機能に表示されなくなるだけなので、データ自体は端末に保存されている。
また「マイブックス検索」という、microSDカード内にある書籍とストア内の書籍を探す機能がある。1回のキーワード入力で同時に探せるわけではないが、本を大量に管理するようになったときには便利だろう。
電子書籍を読むだけならスムーズだが
3サービスとも単に購入した電子書籍を読むだけなら、特に不満は生じない。しおり機能については、2Dfacto以外はもっと充実してほしいし、マーカー機能やメモ機能も実用書やビジネス書では、使えると大変便利になる。機能が増え過ぎると使いきれないかもしれないが、せっかくスマートフォンで見ているのだから、紙の書籍では難しいことができると「電子書籍で良かった!」と実感できるように思える。
そういう意味では2Dfactoの「書籍内検索」、LISMO Book Storeの「レビュー投稿」、ソフトバンクブックストアの「次話検索」「マイブックス検索」といった機能は、それぞれ他のサービスにも入ってくるとうれしい。ストア同様これからさらに充実することを期待したい。
第2回に続いてキャリアが提供する電子書籍サービスを比較していこう。前回はストアの機能自体を比較したが、今度は買った本の読みやすさに関わる機能を比較した。実際の書物と違い、ページをめくる、しおりを挟む、といった何気ない操作も、スマホ上ではタッチパネルでの操作となる。データの保存先はどこ? というスマートフォンならではの気になる点もある。実は意外と3社とも使い勝手が大きく違った。
案外大きな違いがある3社のサービス
比較したサービスは前回と同じくNTTドコモの「2Dfacto」(テスト機種/GALAXY S SC-02B)、auの「LISMO Book Store」(テスト機種/IS03)」、ソフトバンクモバイルの「ソフトバンクブックストア」(テスト機種/003SH)だ。電子書籍を見るにあたって必ず気になるだろう点を、下記の表にまとめている。
| ドコモ「2Dfacto」 | au「LISMO Book Store」 | ソフトバンク 「ソフトバンクブックストア」 | |
|---|---|---|---|
| ストアとリーダーは別アプリ? | 同じ | 同じ | 別アプリ必要 |
| 次ページ表示時の演出 | ページめくりまたはスクロール | スクロールまたは画面切り替え | スクロールまたは画面切り替え |
| 前/次ページに移動する方法 | フリックまたはタップ | フリックまたはタップ | フリックまたはタップ |
| コミックの見せ方 | ページ単位 | ページ単位/コマ単位 | コマ単位 |
| 文字サイズ変更 | ○ | ○ | ○ |
| フォント変更 | ○ | ×(太さは変更可能) | ×(太さは変更可能) |
| 書籍内への書き込み | ○ | × | × |
| データ保存先 | 本体メモリ、またはmicroSD/ユーザーメモリの選択が可能 | microSD | microSD |
まず最初の「ストアとリーダーは別アプリ?」という項目は、要は電子書籍ストア用のアプリ以外に、書籍を読むために必要なアプリがあるかということ。ソフトバンクブックストアが一部必要としているのは「書籍閲覧アプリ」のことだ。
スマートフォン上の電子書籍といえば、ページが「めくれる」演出が印象的だが、今回の比較では2Dfactoのみ対応していた。
| ソフトバンクはストアアプリとリーダーアプリが別途必要。ページがめくれる演出は2Dfactoのみ | ||
また、大画面のスマートフォンでも、書籍によっては文字が読みづらいことがあり、ピンチ操作で拡大縮小ができるとやはり便利だ。これは逆にLISMO Book Storeとソフトバンクブックストアで対応。コミックは書籍によって違いがあり、ケータイ風のコマ毎表示するタイプと、1ページをそのまま切り替えるタイプがある。個人的にはスマートフォンでは1ページずつ切り替えるほうが自然な気がする(コマ割や文字の大きさにもよるが)。
書籍への書き込みについては、2Dfactoのみ自由にマーカーやメモを入力できたので、使い方によっては便利そうだ。書籍の保存先は大量に読む読者であれば、microSDが選択できると安心だ。
| 2Dfactoは、文章にメモを入れたり、マーカーで色を塗ったり、さらにアプリ内で画面の明るさを変更できたりと芸が細かい | ||
機能が豊富過ぎる!カスタマイズ派に嬉しい「2Dfacto」
ストアで電子書籍を購入して、データをダウンロードすると、2Dfactoアプリの「一覧」などに本が並ぶ。並び方はワンタッチで、書籍タイトル/購入順/読んだ順/著者名順に変更できる。アプリ内に自分で新しく本棚を作ることもできるので、本の分類に便利だろう。書籍の保存先は本体メモリ、もしくはメモリカード/ユーザーメモリが選択できるようになっているが、本体内に10GBほどのユーザーメモリがあるGALAXY Sの場合はこのユーザーメモリに保存される。ただし、著作権保護のために本体メモリにしか保存できない作品もある。| 購入した電子書籍が並ぶ書棚は、ユーザーが複数作れるなど、データが管理しやすくなっている。ただし肝心のデータをGALAXY SではmicroSDに保存できないのは残念 | ||
さて、実際に読み始めると、機能が非常に多いことに気づく。前述の比較表以外でも、書籍内のキーワード検索が可能。文字列を入力すると、その文字列のあるページに飛ぶ。文字を長押しして選択すると、Wikipediaなどで用語検索もできるし、書籍内にマーカーで線を引いたり、メモ(ノート)を入力できる。しおりは何枚も挟むことが可能だ。このマーカーやメモ、しおりは、位置が記録されており、いつでもそのページを簡単に開くことができる。
| 全文検索や選択した範囲のテキストをWikipediaで検索したりと、機能が豊富 | ||
また「縦組み」「横組み」の変更も可能だ(作品によっては固定になっている)。縦組みでは右開きだった書籍が、横組みでは左開きに切り替わる。文字と背景の色まで変更できるのには驚いた。ルビを振ることができるほか、行間や字間の調整にも対応している。さらには画面タップしてページを「進む」「戻す」場合、それぞれの操作が認識される画面のエリアまで決められるので、“自分に最適な読書環境”を目指すのであれば、本アプリはかなり望みに近い設定が実現できそうだ。もっとも、筆者の場合は初期設定のままでもまったく普通に使えたので、必ず設定をいじらないといけないわけでもない。
| さらには横組みに変更したり、背景色を変えたりとカスタマイズの自由度は一番だ | ||
| 画面のどの範囲までタップ操作を認識するかも変更できる | ||
全体的にシンプルだが表示設定にはこだわれる「LISMO Book Store」
2Dfactoと比べるとシンプルなアプリだが、特に印象的なのは画面をタッチしてもツール関連のメニューが表示されないことだろう。設定を変更したい場合は「MENU」ボタンでメニューを開く。2Dfactoは機能が多いために、どこを操作して目的の設定を変更するのか、正直パッと見ではわかりにくい。しかしLISMO Book Storeの場合は、とりあえずメニューを開けばいいので慣れていなくてもすぐに覚えられる。ただしシンプルゆえに、カスタマイズの楽しみは少ない。本棚もデフォルトのもののみを使うことになる。その本棚は「作品」「著者」「カテゴリ」「ダウンロード」「サンプル」でのみ分類されるので、書籍の数が増えると少々整理が大変になりそうだ。ただし、本棚でメニューを開くと検索は可能である。
| 操作は基本的に「MENU」ボタンから行なう。書棚は2Dfactoと比べると随分シンプルだ | ||
読書を中断して手動でしおりを挟む場合もやはりメニューから行なうが、肝心のしおりが2枚しか挟めないのは残念。ページ移動は目次からの指定や、全ページをパーセント単位で表わし、その数字で移動する。
ここまではLISMO Book Storeのシンプルな面をお伝えしたが、「表示設定」は非常に細かい。文字サイズは5パターン、太字設定もある。縦横表示の切り替え/余白調整/行間/ルビ表示/柱(書籍の余白に記載された文字)の表示、さらには1行送りで読んでいくこともできる。コミックの表示ではバックライト表示や、作品によっては「コマ表示」「ページ表示」を好みで選択が可能だ(表示方法が「コマ表示」のみに決められている作品もある)。
| ただし文章の見せ方などの設定項目は多い | ||
そして「レビュー投稿」機能があるのも今後使っていくうえで期待したい機能だ。最後のページまで到達したときや、作品タイトルの長押しで投稿メニューが表示される。
| 読み終わったあとにレビューを投稿できる機能があるのは電子書籍ならではだ |
自作データや仕事の書類もまとめられる「ソフトバンクブックストア」
保存先の設定は特に見当たらず、データは自動的にmicroSDへ保存された。表ではアプリが2つに分かれているように書いたが、ユーザーが実際に操作するのはソフトバンクブックストアアプリからのみだ。また標準のリーダーである「書籍閲覧アプリ」以外にも、「BSReaderアプリ for ソフトバンク」が必要な作品もあった。これらは操作の中でインストールするように誘導されるので気にする必要はない。ソフトバンクブックストアには、ケータイと同じように単行本単位ではなく、1話単位で販売されているコミックが大量にある。そのような作品では1話分を読み終わったときに次の話を探す検索メニューが表示される。これは単純だが良い機能だと思う。
| 著作権保護の関係か、一部キャプチャー不可能な画面もあったので実機を撮影している。コミックなどで次の話数や関連書籍を続けて検索して購入できる点は便利だ | ||
ただしリーダーとしての機能はLISMO Book Store以上にシンプル。並び替え機能はもちろん著者名/ジャンル別に分類することは可能だが、書籍内に挟めるしおりは1枚だけというのはさすがに不便だ。特に実用書/解説書の類では、後で読み返したい部分に多数目印をつけておきたものである。これは今後の機能強化に期待だ。
| 表示のカスタマイズやしおり機能などはとことんシンプルだ | ||
他の2サービスと違い、この「ソフトバンクブックストア」には自作した電子書籍のデータや、仕事のファイルの管理機能がある。対応ファイル形式は PDF/Word/Excel/ePub。実際にファイルを読むためには別途ビューアーアプリが必要だが、書籍をまとめて管理できるのは便利だ。
また読まなくなった本は「書庫」に移動する機能がある。書庫に移動した本は普段は本棚(マイブック)に表示されないので、本を整理しやすくなるだろう。簡単に取り出せるので、削除はしたくないが今は読まない本を入れておけばいい。なお、あくまで本棚機能に表示されなくなるだけなので、データ自体は端末に保存されている。
| 書棚である「マイブック」機能もやはりシンプルなもの。ただし、ユーザーのファイルについても一括して管理できる | ||
また「マイブックス検索」という、microSDカード内にある書籍とストア内の書籍を探す機能がある。1回のキーワード入力で同時に探せるわけではないが、本を大量に管理するようになったときには便利だろう。
| しばらく読まない書籍は「書庫」に移動することで表面には出てこなくなる。また、メモリーカード内のデータやストア内のデータをキーワード検索できる | ||
電子書籍を読むだけならスムーズだが
本の管理とまでなると、機能的にはまだまだ
3サービスとも単に購入した電子書籍を読むだけなら、特に不満は生じない。しおり機能については、2Dfacto以外はもっと充実してほしいし、マーカー機能やメモ機能も実用書やビジネス書では、使えると大変便利になる。機能が増え過ぎると使いきれないかもしれないが、せっかくスマートフォンで見ているのだから、紙の書籍では難しいことができると「電子書籍で良かった!」と実感できるように思える。 そういう意味では2Dfactoの「書籍内検索」、LISMO Book Storeの「レビュー投稿」、ソフトバンクブックストアの「次話検索」「マイブックス検索」といった機能は、それぞれ他のサービスにも入ってくるとうれしい。ストア同様これからさらに充実することを期待したい。
「Adobe Digital Publishing Suite」による電子出版を考える
http://journal.mycom.co.jp/column/dpk/001/index.html
まず、現状の主な電子書籍フォーマットについて整理してみよう。紙の出版物には、小説など文字を主体としたものと、雑誌のように写真と文字を複雑にレイアウトしたもの、写真集やマンガなど、画像を主体としたものなどがある。紙であれば、どのタイプであっても印刷されるものであるが、電子出版となると、再生される端末に適したフォーマットを選ぶ必要がある。
文字主体の電子出版物に採用されているフォーマットは、業界標準になりつつある「EPUB」や、Amazon独自の「AZW」、ボイジャーの「.book(ドットブック)」、シャープの「XMDF」などが挙げられる。これらのフォーマットは「タグ付きドキュメント」と呼ばれる、Webページで使われるようなファイル形式であり、HTMLドキュメントに近い特性を持つ。
EPUBは、どのような画面サイズでも読めるという点を重視しているため、ページ内のコンテンツは固定されていない。たとえば、端末側で読者が文字サイズを大きくする操作をした場合は、テキストや図版は次のページに流れ込み、全体のページ数表示も増える。印刷物のようにレイアウトが固定されているわけではないので、段組みや図版を多用する雑誌や新聞には適していないフォーマットといえる。
写真や文字を使い、かつ複雑なレイアウトで表現する雑誌や新聞などの場合、PC向けであれば「Flash(SWF)」や「PDF」が使われることが多いが、FlashはiPhoneやiPadで採用されておらず、絶対的なレイアウを保持するPDFの場合は、スマートフォンの小さな画面では拡大/縮小やスクロールを強いられることがあり、読みづらい。この分野では、各社が独自に開発した表現方法で提供しており、主流となっているフォーマットはまだ存在していない。
マンガの場合は、PDFのほか、セルシスの提供する「Comic Surfing」やイーブック・イニシアティブ・ジャパンの「ebi.j(イービーアイジェー)」といったフォーマットが使われる。これらは、日本の携帯電話向けの市場で発展してきたフォーマットともいえる。コマ単位で見せるなど、小さな画面での閲覧に対応する表現が確立されている。
AndroidOS端末向けには、Google公式のAndroidマーケットなどのアプリ販売サービスを通じて提供されている。提供形態は、 iPhone/iPad向けと同様に、閲覧アプリとコンテンツの一体型、専用の閲覧アプリ+コンテンツ単位の課金が多く見受けられる。Googleではこのほか、書籍検索サービスの「Google ブックス」に登録されている300万冊以上の書籍データを電子書籍として提供するプラットフォーム「Google eBookstore」が、2010年12月に開始した。有料の電子書籍の販売は米国など地域が限られており、今後日本も含め提供地域を拡大していく予定だ(※日本では、著作権の切れた無料コンテンツの閲覧は可能)。 AmazonのAZWフォーマットのファイルを販売するKindleStoreは、同社の電子書籍リーダー端末であるKindleや、スマートフォン向けの専用アプリで閲覧可能ではあるが、本格的な日本語の電子書籍の売買サービスは始まっていない。
次回は、アドビ システムズの「InDesign」を使用した電子出版制作など、国内における電子出版の現状を考えていきたい。
携帯キャリア自体のスマートフォン向け電子書籍の取組みとしては、まず2010年12月にソフトバンクがシャープ製をはじめとする端末に対応した電子書籍販売サイト「ソフトバンク ブックストア」を、続く2011年1月にはNTTドコモが大日本印刷およびCHIグループとともに電子書籍サービスに関する共同事業会社トゥ・ディファクトを設立して電子書籍ストア「2Dfacto(トゥ・ディファクト)」を開始。KDDIでは、2011年4月からauのAndroid搭載スマートフォン向け電子書籍の配信サービス「LISMO Book Store」を開始するなど、各社とも電子書籍に注力する姿勢が伺える。携帯キャリアが提供するこれらのサービスの大きな特長としては、携帯電話料金といっしょにコンテンツ購入代金を支払えるという決済方法が挙げられる。
大手出版社系で目立ったのが、2010年12月にスタートした角川グループホールディングスによる電子書籍プラットフォーム「Book☆Walker」だ。グループ企業の角川コンテンツゲートが運営するこのプラットフォームでは、.book形式に対応した電子書籍ビューワを iOS機器やAndroidOS機器向けに提供。2011年7月にPC向けに提供、今夏以降に「ニコニコ動画」やGREEなどの外部ソーシャルメディアとの連携サービスも予定しており、電子書籍コンテンツ流通という面でも注目を集めている。
モリサワが提供する「MCBook(エムシーブック)」は、InDesignの組版データを使ってアプリができる。ProFieldの「ProBridgeDesigner-i」は、InDesignからiPadアプリを出力できるプラグインだ。このほか、ポルタルトの提供する「moviliboSTUDIO」のように、WebブラウザからPDFをアップロードしてアプリを作れるサービスもあれば、PDFなどの素材をアプリ化し、App Storeへの申請を代行する受託型サービスを提供している企業もある。
これらのサービスは、iPhone/iPadだけでなく、今後成長が予想されるAndroidOS端末向けのアプリ市場にも対応していくと思われるが、アプリに内包するコンテンツファイルは、InDesigで制作が可能だ。InDesignにはPDFやEPUBファイルへの書き出し機能があり、国内で主流のフォーマットである.bookやXMDF作成ツールについても、InDesignの組版データからの変換をサポートしている。Amazonの AZWもPDFやEPUB、HTMLを変換して作ることができることから、電子書籍ファイルの制作ツールとしては、InDesignが最も汎用性があるといえる。
こうしたInDesignでの電子書籍ファイル作成は、文字が主体の印刷物の延長線上にあるものと言えるが、Adobeは2010年10月に、「InDesign CS5」(※現在は「CS5.5」も対応)を基盤とした、雑誌タイプの電子書籍制作を支援する製品「Adobe Digital Publishing Suite(ADPS)」を発表し、新世代の電子出版への駒を一歩進めた。この製品は、iPadやサムソンのGalaxyといった、タブレットPCを主な対象としたもので、制作環境以外に、コンテンツ配信管理や、アクセス解析ツールの「Adobe SiteCatalyst」によるレポーティングなどもサポートしている。
同製品は、既にiPadアプリとして提供されているWired Magazine誌やThe New Yorker誌で使われた技術を基にしており、縦/横の柔軟なレイアウト、スライドショー、ビデオ、音声、ハイパーリンク、Webブラウズ、360° ビュー、パノラマなど、デジタルならではのリッチな演出を可能としている。ADPSは、刺激的なアプローチを追求するクリエイターや編集者、効果的なブランディング手法を探りたいマーケターに支持されるのではないだろうか。未だ決定的な提供形態が確立していない雑誌タイプの電子書籍の主流となるのか、今後も注目していきたい。
1 電子出版を取り巻く現状について
電子書籍のファイル形式
iPadの登場で注目を集めるようになった電子出版ビジネス。現在は、従来のPCや携帯電話に加え、スマートフォン、タブレット型PCと、さまざまな端末が登場し、ファイルフォーマットについても国内外で乱立している。まさに混沌とした状態ではあるが、電子書籍の出力ファイルの制作には、紙の出版関係者にもなじみの深いDTPソフト「Adobe InDesign」のデータを元にするケースが多い。本稿では、電子出版ビジネスの状況と、InDesignでの電子書籍制作について考えてみたい。まず、現状の主な電子書籍フォーマットについて整理してみよう。紙の出版物には、小説など文字を主体としたものと、雑誌のように写真と文字を複雑にレイアウトしたもの、写真集やマンガなど、画像を主体としたものなどがある。紙であれば、どのタイプであっても印刷されるものであるが、電子出版となると、再生される端末に適したフォーマットを選ぶ必要がある。
文字主体の電子出版物に採用されているフォーマットは、業界標準になりつつある「EPUB」や、Amazon独自の「AZW」、ボイジャーの「.book(ドットブック)」、シャープの「XMDF」などが挙げられる。これらのフォーマットは「タグ付きドキュメント」と呼ばれる、Webページで使われるようなファイル形式であり、HTMLドキュメントに近い特性を持つ。
EPUBは、どのような画面サイズでも読めるという点を重視しているため、ページ内のコンテンツは固定されていない。たとえば、端末側で読者が文字サイズを大きくする操作をした場合は、テキストや図版は次のページに流れ込み、全体のページ数表示も増える。印刷物のようにレイアウトが固定されているわけではないので、段組みや図版を多用する雑誌や新聞には適していないフォーマットといえる。
写真や文字を使い、かつ複雑なレイアウトで表現する雑誌や新聞などの場合、PC向けであれば「Flash(SWF)」や「PDF」が使われることが多いが、FlashはiPhoneやiPadで採用されておらず、絶対的なレイアウを保持するPDFの場合は、スマートフォンの小さな画面では拡大/縮小やスクロールを強いられることがあり、読みづらい。この分野では、各社が独自に開発した表現方法で提供しており、主流となっているフォーマットはまだ存在していない。
マンガの場合は、PDFのほか、セルシスの提供する「Comic Surfing」やイーブック・イニシアティブ・ジャパンの「ebi.j(イービーアイジェー)」といったフォーマットが使われる。これらは、日本の携帯電話向けの市場で発展してきたフォーマットともいえる。コマ単位で見せるなど、小さな画面での閲覧に対応する表現が確立されている。
スマートフォンやタブレットPC向け電子書籍のマーケット
最近続々と登場している、スマートフォンやタブレットPC向けの電子書籍マーケットについても触れておこう。iPhoneやiPadでは、「iBooks」など、EPUBやPDFに対応した閲覧アプリは登場しているものの、電子書籍ファイル販売サービスである「iBookstore」は、日本向けにはまだ提供されていない。このため、国内向けの電子書籍提供者は、文字主体・雑誌・新聞・マンガ・写真集など、その形態に関わらず、EPUBや PDFなどのコンテンツファイルと、それを閲覧するアプリを一体化したアプリとしてAppStoreで販売している。作品ごとにアプリで販売する場合もあれば、専用の閲覧アプリを配布し、そのアプリで再生可能な作品のファイル単位で課金して提供する形態もある。AndroidOS端末向けには、Google公式のAndroidマーケットなどのアプリ販売サービスを通じて提供されている。提供形態は、 iPhone/iPad向けと同様に、閲覧アプリとコンテンツの一体型、専用の閲覧アプリ+コンテンツ単位の課金が多く見受けられる。Googleではこのほか、書籍検索サービスの「Google ブックス」に登録されている300万冊以上の書籍データを電子書籍として提供するプラットフォーム「Google eBookstore」が、2010年12月に開始した。有料の電子書籍の販売は米国など地域が限られており、今後日本も含め提供地域を拡大していく予定だ(※日本では、著作権の切れた無料コンテンツの閲覧は可能)。 AmazonのAZWフォーマットのファイルを販売するKindleStoreは、同社の電子書籍リーダー端末であるKindleや、スマートフォン向けの専用アプリで閲覧可能ではあるが、本格的な日本語の電子書籍の売買サービスは始まっていない。
次回は、アドビ システムズの「InDesign」を使用した電子出版制作など、国内における電子出版の現状を考えていきたい。
2 日本国内における電子出版の現状について
この連載では、「Adobe InDesign CS5.5」を核としたソリューション「Adobe Digital Publishing Suite」による、電子出版制作のための新しいワークフローについて考えていく。今回は、日本国内における電子出版の現状を紹介していきたい。電子出版の国内事情は?
日本国内における電子出版の動きとしては、2010年12月にシャープがXMDFフォーマットの電子書籍端末「GALAPAGOS(ガラパゴス)」をリリースし、シャープとカルチュア・コンビニエンス・クラブによる電子ブックストアサービス「TSUTAYA GALAPAGOS」を開始し話題となった。TSUTAYA GALAPAGOSは、GALAPAGOSだけでなく、シャープ製のスマートフォンからも利用できる。メーカー系では、ソニーでも同時期にXMDFフォーマットの電子書籍端末「Reader」向けの電子書籍販売サイト「Reader Store」を開始した。携帯キャリア自体のスマートフォン向け電子書籍の取組みとしては、まず2010年12月にソフトバンクがシャープ製をはじめとする端末に対応した電子書籍販売サイト「ソフトバンク ブックストア」を、続く2011年1月にはNTTドコモが大日本印刷およびCHIグループとともに電子書籍サービスに関する共同事業会社トゥ・ディファクトを設立して電子書籍ストア「2Dfacto(トゥ・ディファクト)」を開始。KDDIでは、2011年4月からauのAndroid搭載スマートフォン向け電子書籍の配信サービス「LISMO Book Store」を開始するなど、各社とも電子書籍に注力する姿勢が伺える。携帯キャリアが提供するこれらのサービスの大きな特長としては、携帯電話料金といっしょにコンテンツ購入代金を支払えるという決済方法が挙げられる。
大手出版社系で目立ったのが、2010年12月にスタートした角川グループホールディングスによる電子書籍プラットフォーム「Book☆Walker」だ。グループ企業の角川コンテンツゲートが運営するこのプラットフォームでは、.book形式に対応した電子書籍ビューワを iOS機器やAndroidOS機器向けに提供。2011年7月にPC向けに提供、今夏以降に「ニコニコ動画」やGREEなどの外部ソーシャルメディアとの連携サービスも予定しており、電子書籍コンテンツ流通という面でも注目を集めている。
電子書籍の制作ツールとしての「InDesign」
端末種別、ファイル形式、販売マーケットが複雑に絡みあう電子出版界だが、スマートフォンやタブレットPC向けの販売市場としては、iPadや iPhone向けのApp Storeが先行している。その成長に合わせ、電子書籍アプリを制作するソリューションも続々登場している。モリサワが提供する「MCBook(エムシーブック)」は、InDesignの組版データを使ってアプリができる。ProFieldの「ProBridgeDesigner-i」は、InDesignからiPadアプリを出力できるプラグインだ。このほか、ポルタルトの提供する「moviliboSTUDIO」のように、WebブラウザからPDFをアップロードしてアプリを作れるサービスもあれば、PDFなどの素材をアプリ化し、App Storeへの申請を代行する受託型サービスを提供している企業もある。
これらのサービスは、iPhone/iPadだけでなく、今後成長が予想されるAndroidOS端末向けのアプリ市場にも対応していくと思われるが、アプリに内包するコンテンツファイルは、InDesigで制作が可能だ。InDesignにはPDFやEPUBファイルへの書き出し機能があり、国内で主流のフォーマットである.bookやXMDF作成ツールについても、InDesignの組版データからの変換をサポートしている。Amazonの AZWもPDFやEPUB、HTMLを変換して作ることができることから、電子書籍ファイルの制作ツールとしては、InDesignが最も汎用性があるといえる。
こうしたInDesignでの電子書籍ファイル作成は、文字が主体の印刷物の延長線上にあるものと言えるが、Adobeは2010年10月に、「InDesign CS5」(※現在は「CS5.5」も対応)を基盤とした、雑誌タイプの電子書籍制作を支援する製品「Adobe Digital Publishing Suite(ADPS)」を発表し、新世代の電子出版への駒を一歩進めた。この製品は、iPadやサムソンのGalaxyといった、タブレットPCを主な対象としたもので、制作環境以外に、コンテンツ配信管理や、アクセス解析ツールの「Adobe SiteCatalyst」によるレポーティングなどもサポートしている。
同製品は、既にiPadアプリとして提供されているWired Magazine誌やThe New Yorker誌で使われた技術を基にしており、縦/横の柔軟なレイアウト、スライドショー、ビデオ、音声、ハイパーリンク、Webブラウズ、360° ビュー、パノラマなど、デジタルならではのリッチな演出を可能としている。ADPSは、刺激的なアプローチを追求するクリエイターや編集者、効果的なブランディング手法を探りたいマーケターに支持されるのではないだろうか。未だ決定的な提供形態が確立していない雑誌タイプの電子書籍の主流となるのか、今後も注目していきたい。
2011年6月22日水曜日
電子書籍、先行き“読めず” 専用端末・コンテンツが伸び悩み
http://www.sankeibiz.jp/business/news/110622/bsj1106220503000-n1.htm
米アップルのタブレット型端末「iPad(アイパッド)」の人気とともに、急速な普及が期待された電子書籍市場の足踏み状態が続いている。昨年末に投入されたシャープとソニーの専用端末の売れ行きは、非公表ながらも「芳しくない」というのが業界の共通認識だ。印刷大手や通信、電機メーカーが展開しているコンテンツの配信サービスも順調とはいえない。関係者が期待するのは販売が好調なスマートフォン(高機能携帯電話)。通常の携帯電話よりも画面の大きい「スマホ」利用者の取り込みを急ぐ考えだ。
「シャープ製は端末の直販制度が不評で、ソニー製は端末から書籍を直接購入できず、使い勝手がいまひとつ悪い」
■厳しい「2台持ち」
シャープとソニーが昨年12月10日に発売したタブレット型の電子書籍端末「ガラパゴス」と「リーダー」の伸び悩みを、業界関係者はこう説明する。
ガラパゴスはインターネットと郵送で注文を受け付ける通信販売が中心で、ソニーの「リーダー」はコンテンツを取り込むにはネットに接続したパソコンが欠かせない。この点が不評を招いているという。
誤算だったのは端末の利用者が30~40代中心で、画面での読書に抵抗感を持たない若年層への浸透が進んでいないことだ。携帯電話に加え、もう1台の端末を所有する「2台持ち」は若者には費用的に厳しい。
ユーザーからは「新聞や雑誌などの定期配信コンテンツが好評」(シャープ)、「紙に近い画面で読みやすい」(ソニー)といった声もあるというが、専用端末の前途は厳しさが漂う。
東芝やパナソニックもタブレット型端末を今後投入する予定だが、調査会社BCNによると5月の同端末の国内シェアは多機能タイプのiPadが87.6%と圧倒的。日本勢が牙城を崩すのは容易ではない。
■著作権問題など壁
当初の見通しを下回っているのは端末だけでなく、コンテンツも同様だ。
シャープはガラパゴス向けに配信するコンテンツの目標数として「2010年12月末までに3万冊」を掲げたが、著作権問題などが壁となって5月20日時点でも約2万6000冊。リーダー向けも2万冊にすぎない。
「『コンテンツが先か、端末が先か』といわれれば、絶対にコンテンツが先。残念ながら今年前半はユーザーが期待する作品が出ていない」
野村総研主任コンサルタントの前原孝章氏は、売れ行きを牽引(けんいん)するような魅力的なコンテンツの少なさが、電子書籍が伸び悩んでいる原因だと指摘する。同総研は10年を「電子書籍元年」ととらえ、国内市場は右肩上がりで伸びると予測したものの、その通りに運ぶかどうかは雲行きが怪しくなってきた。
コンテンツ不足を解消し、電子書籍ビジネスが花開いたのは米国だ。ネット通販最大手のアマゾン・ドット・コムは英語圏向けに95万冊以上をそろえ、「紙の書籍の販売ランキング上位の9割以上が電子化され、価格も紙の半額以下」(前原氏)といい、質・量ともに日本の先を行く。
4月以降は電子書籍の販売数が紙の書籍を上回るという逆転現象も起きた。
■「スマホ突破口」青写真描く関係者
日本では足踏み状態の電子書籍だが、将来をにらんで大手書店が動き出した。5月に国内最大手の紀伊国屋書店が配信サービスに参入。昨年の「本屋大賞」受賞作で映画化も決まった「天地明察」(沖方丁著)や「カラマーゾフの兄弟」(亀山郁夫訳)などの話題作をほかの電子書店に先んじて配信する。
同書店の担当者は「独自コンテンツの効果で『紀伊国屋にはほかの本屋にないものがある』と感じてもらいたい」と話す。
「電子書籍の行方を左右するのはスマートフォン」というのが業界の一致した見方だ。「ガラケー」(ガラパゴス携帯)と呼ばれる携帯電話向けの小説やコミックの配信は昨年、市場規模が米国を上回ったとされる。
「日本人の若者はガラケーでもストレスなく小説やコミックを読んできた」(前原氏)だけに、画面の大きいスマホで突破口を開き、専用端末やタブレット型端末向けのコンテンツが拡大する。電子書籍ビジネスに取り組む関係者は、そんな青写真を描いている。
Kindleにあふれる電子書籍スパム 出版革命のプラスとマイナス
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1106/21/news073.html
Amazonのセルフパブリッシングシステムでは現在、電子書籍あるいはデジタル書籍などと呼ばれる書籍が毎月何千冊と出版されている。その多くは、従来の意味では「書かれていない」書籍だ。
そうした書籍は、代わりにPrivate Label Right(PLR)として知られるコンテンツを使ってまとめられている。PLRコンテンツとは、オンラインで非常に安価で入手し、自由にデジタル書籍にフォーマットし直すことができるデータのことだ。
AmazonのWebサイトでは、従来型の書籍とともにこうした電子書籍がしばしば99セントで販売されており、その結果、読者は自分の読みたい書籍を見つけるために大量のタイトルの中を探して回らなければならないようになってきている。
熱心なスパム業者であれば、「Autopilot Kindle Cash」というDVDボックスセットも購入しているかもしれない。このDVDセットは、「自分では一語も書かかずに1日に10~20冊もの新しい Kindle書籍を出版する方法を伝授する」とうたったものだ。
出版の世界では目下、著者に「読者に直接アクセスするための新たな方法」を与えることによって出版業界の従来の在り方を覆すというオンライン革命が進行中だが、最近のスパム現象はそうした革命の影の部分を表している。
同氏によると、2002年には、米国で出版された非従来型書籍は3万3000点にも満たず、一方、従来型の書籍は21万5000点以上が出版されていたという。
「これは驚異的な増加だ。気が遠くなるような変化だ。プラスの側面として挙げられるのは、この変化のおかげで、書籍を執筆したものの取次を介した従来の方法ではそれを出版できずにいた非常に多くの人たちが助かっているという点だ」と同氏は言う。
だがグレコ氏はマイナスの側面も指摘している。問題の1つは、著者がより多くの書籍を相手に読者の争奪戦を繰り広げなければならない点だという。「そうした書籍の多くは従来であれば決して日の目を見ることのなかったようなものだ」と同氏。
こうした書籍の中には、ほかの作品をそのままコピーしただけのように見えるものもある。ニュージーランド在住の歴史小説作家であるシェイン・パーキンソン氏は今年早くに、自身のデビュー作「Sentence of Marriage」がAmazonで別の作家名で販売されているのを見つけたという。
この件は最初、Amazonの英国のオンラインフォーラムでユーザーが突き止め、その後、解決に至ったという。
「最初はショックだったし、信じられなかった。だがその一方で、この問題が見つかった経緯を思うと、誰かがわざわざわたしにこのことを知らせてくれたということに非常に感謝している」とパーキンソン氏は語っている。
Amazonにとっては、Kindleを襲っている電子書籍スパムの波は、同社のセルフパブリッシングビジネスの推進を阻害し、同社の大ヒット商品であるKindleのブランドを損なうことにもつながりかねない。Barclays Capitalの推定では、Kindle端末は同社の2012年の売上高の約10%を占めている。
「この問題はますます広まっていくだろう。いったん一部のスパム業者がこうした新しい販路を見つけたら、大量の同業者がその後に続くものだ」と書籍とソフトウェアの出版業者であるLogical Expressionsのスーザン・ダフロン社長は指摘する。
Amazonは電子書籍の価格に応じて、その売上高の35~70%を著者に支払っている。これはスパム業者にとっては、この新たな販路に注力するための大いなる金銭的誘因となる。
「自社製品の健全性を守りたいのであれば、Amazonは間違いなく、もっと品質管理に力を入れるべきだ」とダフロン氏は言う。
「Amazonはこの問題の解消に懸命に取り組むだろう。この問題は、この市場における同社の優勢の多くを阻害する要因になる」とForrester Researchの電子リーダー担当アナリストであるジェームズ・マキビー氏も指摘している。
同氏によると、セルフパブリッシングサービスがいかに急速に変質したかを目の当たりにした結果、Amazonは目下、同社の新サービス「Kindle Singles」については、提出物のチェックを行っているという。Kindle Singlesでは、短編小説や長めの報道記事、エッセイなど、短めの文章が扱われている。
「差別化が一切、あるいはほとんど行われていない同じ内容の本が何種類も出版されても、顧客体験は向上しない。われわれは同一の内容が複数のバージョンで出版されている書籍を検出して排除するプロセスを設けた。当社のストアからそうしたコンテンツを排除することが狙いだ」とAmazonの広報担当者サラ・ゲルマン氏は6月14日付でReutersに送ってきたメールで述べている。同氏にはさらに問い合わせを行ったが、返答は得られなかった。
その手法の1つには、売れ始めた電子書籍をコピーして、タイトルと表紙をつけかえ、それまでとは若干異なる顧客層向けに出版し直すというものがある、とウルフ氏は説明する。
Kindleと競合する電子書籍リーダーにはBarnes & Nobleが販売する「Nook」があるが、同社のオンライン書店にはまだスパムはあふれていない。
「Barnes & Nobleは恐らくAmazonよりも積極的に電子書籍の内容を管理しているのだろう。もっとも、単にスパム業者にとってはKindleの大量のユーザーがより魅力的だからというだけかもしれない」とForresterのマキビー氏は指摘している。Barnes & Nobleにコメントを求めて問い合わせたが、返答は得られなかった。
電子書籍の出版と流通を手掛けるSmashwordsもスパムには悩まされているが、同社創業者のマーク・コーカー氏によれば、AmazonのKindleほどひどい状況ではないという。
Smashwordsでは、提出された電子書籍については、書式などの基本的な特徴を手作業でチェックした上で出版するという方針を採っている。コーカー氏によれば、スパムの明らかな特徴としては、表紙のデザインがお粗末だったり、表紙に作者の名前が載っていなかったり、書式が雑だったりといった点があげられるという。
また同氏によれば、Smashwordsは四半期ごと著者への支払いを行っているが、Amazonの支払いは毎月だという。「当社の場合、支払いまでに時間があるため、その分、スパム業者を追跡するための時間を多く取ることができ、支払い前にアカウントを閉鎖できる可能性も高まる」と同氏。
またAmazonは無料の電子書籍はあまり提供していないが、Smashwordsは多数提供している。そのため、スパム業者にとってはKindleで多くの書籍を出版する方が金銭的誘因が大きい、とさらにコーカー氏は続けている。
同氏によると、Smashwordsで出版された無料の電子書籍がコピーされ、AmazonのKindleストアで再出版され、最低99セントという料金で販売されている例をこれまでに5~6件見つけたという。
Forresterのマキビー氏によると、Amazonはソーシャルネットワーク的な解決策を編み出す必要があるという。読者が「自分の知っている人たち、あるいは過去にレビューを読んで気に入った人たちからの推薦」を見られるようにすれば、自分の希望のコンテンツを追跡しやすくなり、不正な推薦の回避にも役立つだろう、と同氏は言う。
Logical Expressionsのダフロン氏は、「AmazonはKindleの出版システムへのアップロードを有料にすべきだ」と指摘している。そうすればスパム業者にとっての金銭的誘因は大幅にダウンすることになるからだ。
「電子メールのスパムがこれほど問題になったのも同じ理由からだ。コストが一切かからないからだ」と同氏。「もし1冊の本のタイトルや作者を変えて12種類ものバージョンを異なる価格で出版できるのなら、たとえ1冊か2冊しか売れなくても、利益を上げられる。それでは業者の勝ち、Amazonの負けだ」
AmazonのKindleで初めて100万部を販売した自費出版物が現れる一方で、Kindle向けオンライン書店にはスパム電子書籍があふれている。「Kindle書籍を1日に1冊ずつ作成する方法」まで出回っているという。(ロイター)
米Amazon.comの大ヒット商品である電子書籍端末「Kindle」がスパムの標的とされている。同端末向けのオンライン書店には目下、読む価値があるとは到底言えないような代物が溢れ、出版業界への進出を目指すAmazon.comの取り組みを阻害しかねない事態となっている。Amazonのセルフパブリッシングシステムでは現在、電子書籍あるいはデジタル書籍などと呼ばれる書籍が毎月何千冊と出版されている。その多くは、従来の意味では「書かれていない」書籍だ。
そうした書籍は、代わりにPrivate Label Right(PLR)として知られるコンテンツを使ってまとめられている。PLRコンテンツとは、オンラインで非常に安価で入手し、自由にデジタル書籍にフォーマットし直すことができるデータのことだ。
AmazonのWebサイトでは、従来型の書籍とともにこうした電子書籍がしばしば99セントで販売されており、その結果、読者は自分の読みたい書籍を見つけるために大量のタイトルの中を探して回らなければならないようになってきている。
熱心なスパム業者であれば、「Autopilot Kindle Cash」というDVDボックスセットも購入しているかもしれない。このDVDセットは、「自分では一語も書かかずに1日に10~20冊もの新しい Kindle書籍を出版する方法を伝授する」とうたったものだ。
出版の世界では目下、著者に「読者に直接アクセスするための新たな方法」を与えることによって出版業界の従来の在り方を覆すというオンライン革命が進行中だが、最近のスパム現象はそうした革命の影の部分を表している。
急激な変化
米国では2010年、電子書籍も含め、非従来型の書籍が280万点近く出版されたのに対し、従来型の書籍の出版点数はわずか31万6000点強にとどまった。2009年には、非従来型書籍の出版点数は133万点、従来型の書籍が30万2000点だった。これは、出版業界の専門家であるフォーダム大学ビジネススクールのアルバート・グレコ氏によるデータだ。同氏によると、2002年には、米国で出版された非従来型書籍は3万3000点にも満たず、一方、従来型の書籍は21万5000点以上が出版されていたという。
「これは驚異的な増加だ。気が遠くなるような変化だ。プラスの側面として挙げられるのは、この変化のおかげで、書籍を執筆したものの取次を介した従来の方法ではそれを出版できずにいた非常に多くの人たちが助かっているという点だ」と同氏は言う。
だがグレコ氏はマイナスの側面も指摘している。問題の1つは、著者がより多くの書籍を相手に読者の争奪戦を繰り広げなければならない点だという。「そうした書籍の多くは従来であれば決して日の目を見ることのなかったようなものだ」と同氏。
こうした書籍の中には、ほかの作品をそのままコピーしただけのように見えるものもある。ニュージーランド在住の歴史小説作家であるシェイン・パーキンソン氏は今年早くに、自身のデビュー作「Sentence of Marriage」がAmazonで別の作家名で販売されているのを見つけたという。
この件は最初、Amazonの英国のオンラインフォーラムでユーザーが突き止め、その後、解決に至ったという。
「最初はショックだったし、信じられなかった。だがその一方で、この問題が見つかった経緯を思うと、誰かがわざわざわたしにこのことを知らせてくれたということに非常に感謝している」とパーキンソン氏は語っている。
Amazonにとっては、Kindleを襲っている電子書籍スパムの波は、同社のセルフパブリッシングビジネスの推進を阻害し、同社の大ヒット商品であるKindleのブランドを損なうことにもつながりかねない。Barclays Capitalの推定では、Kindle端末は同社の2012年の売上高の約10%を占めている。
「この問題はますます広まっていくだろう。いったん一部のスパム業者がこうした新しい販路を見つけたら、大量の同業者がその後に続くものだ」と書籍とソフトウェアの出版業者であるLogical Expressionsのスーザン・ダフロン社長は指摘する。
Amazonは電子書籍の価格に応じて、その売上高の35~70%を著者に支払っている。これはスパム業者にとっては、この新たな販路に注力するための大いなる金銭的誘因となる。
「自社製品の健全性を守りたいのであれば、Amazonは間違いなく、もっと品質管理に力を入れるべきだ」とダフロン氏は言う。
「Amazonはこの問題の解消に懸命に取り組むだろう。この問題は、この市場における同社の優勢の多くを阻害する要因になる」とForrester Researchの電子リーダー担当アナリストであるジェームズ・マキビー氏も指摘している。
同氏によると、セルフパブリッシングサービスがいかに急速に変質したかを目の当たりにした結果、Amazonは目下、同社の新サービス「Kindle Singles」については、提出物のチェックを行っているという。Kindle Singlesでは、短編小説や長めの報道記事、エッセイなど、短めの文章が扱われている。
「差別化が一切、あるいはほとんど行われていない同じ内容の本が何種類も出版されても、顧客体験は向上しない。われわれは同一の内容が複数のバージョンで出版されている書籍を検出して排除するプロセスを設けた。当社のストアからそうしたコンテンツを排除することが狙いだ」とAmazonの広報担当者サラ・ゲルマン氏は6月14日付でReutersに送ってきたメールで述べている。同氏にはさらに問い合わせを行ったが、返答は得られなかった。
スパム急増の背景
Kindleスパムはここ半年間で急増している。インターネットマーケティングの専門家、ポール・ウルフ氏によると、これは、Kindle書籍を 1日に1冊ずつ作成する方法を伝授する内容のオンラインコース、そして皮肉なことにはそうした内容の電子書籍までもが幾つかリリースされている影響という。その手法の1つには、売れ始めた電子書籍をコピーして、タイトルと表紙をつけかえ、それまでとは若干異なる顧客層向けに出版し直すというものがある、とウルフ氏は説明する。
Kindleと競合する電子書籍リーダーにはBarnes & Nobleが販売する「Nook」があるが、同社のオンライン書店にはまだスパムはあふれていない。
「Barnes & Nobleは恐らくAmazonよりも積極的に電子書籍の内容を管理しているのだろう。もっとも、単にスパム業者にとってはKindleの大量のユーザーがより魅力的だからというだけかもしれない」とForresterのマキビー氏は指摘している。Barnes & Nobleにコメントを求めて問い合わせたが、返答は得られなかった。
電子書籍の出版と流通を手掛けるSmashwordsもスパムには悩まされているが、同社創業者のマーク・コーカー氏によれば、AmazonのKindleほどひどい状況ではないという。
Smashwordsでは、提出された電子書籍については、書式などの基本的な特徴を手作業でチェックした上で出版するという方針を採っている。コーカー氏によれば、スパムの明らかな特徴としては、表紙のデザインがお粗末だったり、表紙に作者の名前が載っていなかったり、書式が雑だったりといった点があげられるという。
また同氏によれば、Smashwordsは四半期ごと著者への支払いを行っているが、Amazonの支払いは毎月だという。「当社の場合、支払いまでに時間があるため、その分、スパム業者を追跡するための時間を多く取ることができ、支払い前にアカウントを閉鎖できる可能性も高まる」と同氏。
またAmazonは無料の電子書籍はあまり提供していないが、Smashwordsは多数提供している。そのため、スパム業者にとってはKindleで多くの書籍を出版する方が金銭的誘因が大きい、とさらにコーカー氏は続けている。
同氏によると、Smashwordsで出版された無料の電子書籍がコピーされ、AmazonのKindleストアで再出版され、最低99セントという料金で販売されている例をこれまでに5~6件見つけたという。
Forresterのマキビー氏によると、Amazonはソーシャルネットワーク的な解決策を編み出す必要があるという。読者が「自分の知っている人たち、あるいは過去にレビューを読んで気に入った人たちからの推薦」を見られるようにすれば、自分の希望のコンテンツを追跡しやすくなり、不正な推薦の回避にも役立つだろう、と同氏は言う。
Logical Expressionsのダフロン氏は、「AmazonはKindleの出版システムへのアップロードを有料にすべきだ」と指摘している。そうすればスパム業者にとっての金銭的誘因は大幅にダウンすることになるからだ。
「電子メールのスパムがこれほど問題になったのも同じ理由からだ。コストが一切かからないからだ」と同氏。「もし1冊の本のタイトルや作者を変えて12種類ものバージョンを異なる価格で出版できるのなら、たとえ1冊か2冊しか売れなくても、利益を上げられる。それでは業者の勝ち、Amazonの負けだ」
2011年6月15日水曜日
電子書籍がもたらした「価格の自由」 「本のリンク」が書籍のマーケティングを変える!
http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20110613/220732/?ST=manage
2010年は日本の「電子書籍元年」と呼ばれた。この年の前半にアップルがiPadを発表・発売した。後半には、日本メーカーが独自の電子書籍リーダーを競って発売した。紙の書籍が新刊として発行されると同時に、あるいはそのちょっと後に、電子書籍が発売されるケースが増えた。
2010年は日本の「電子書籍元年」と呼ばれた。この年の前半にアップルがiPadを発表・発売した。後半には、日本メーカーが独自の電子書籍リーダーを競って発売した。紙の書籍が新刊として発行されると同時に、あるいはそのちょっと後に、電子書籍が発売されるケースが増えた。
電子書籍の登場で出版界は「価格の自由」を手に入れた
こうして日本でもぼっ発した電子書籍戦争が、日本の出版ビジネスに与えた最大のインパクトは何だろうか?
私は「価格変更の自由」だと考える。日本の出版業界は、長い間再販制度の下にあり、一度発売した本は同じ定価で売り続けるというやり方に慣れきっている。その定価の設定も、初版の発行部数を前提に、コストを積み上げて決めることが一般化している。このため、日本の出版ビジネスには「価格戦略」がほとんどなかった。売れ行きが悪いから値下げして売るといったことさえしないのだから。
しかし、電子書籍には再販制度が適用されない。値下げも値上げも自由である。実際に時々、値下げされた電子書籍を目にする。そもそも、最初の価格設定がバラバラである。紙の本では、同じジャンルでページ数も同じぐらいなら、価格に大きな差がつくことは珍しい。でも、電子書籍を見ると、同じテーマを扱ったビジネス書が、大幅に異なる価格で売られていたりする。
電子書籍の形式や内容ばかりに目が行きがちだが、価格の設定・変更の面で、紙版と電子版の書籍に大きな違いがあることに、もっと注目すべきである。著者は、2010年後半のほとんどの時間を電子書籍の執筆・製作に費やした。この短期連載では、この経験を元に、主に価格に注目しながら、電子書籍のマーケティング、そして電子書籍と出版ビジネスの関係を論じてみたい。
電子書籍で「本のリンク」を実現
私はiPadの発表に刺激されて、「どうしても電子書籍を作りたい」「それも電子書籍ならではの工夫をした本を書き下ろしたい」と考えた。それを実現したのが拙著『マクドナルドはなぜケータイで安売りを始めたのか? クーポン・オマケ・ゲームのビジネス戦略』(講談社)である。最初から電子書籍化を前提に原稿を書き、2010年11月に紙版を発行、同年12月に電子版を刊行した。
内容は、私が面白いと感じた価格戦略の実例を紹介し、解説するものである。マクドナルドやファミリーマートなど、最先端の価格戦略を実践していて、かつ身近な企業を題材にした。ゲームソフトやゲーム機の話も取り上げた。中学生でも興味をもって読める、経済学の入門書を本気で目指したからだ。
この電子書籍は、iPhone用とiPad用のアプリとして発売した。電子書籍ならではの工夫をあれこれ検討し、いくつかは断念したが、いくつかは実現した。iPhoneの画面で読んだ時の文字の読みやすさを考えて、図で使う文字サイズなどを執筆前に決めていた。大量に動画をつけた。音声入りの動画もある。
今回、私が作った電子書籍の一番の工夫は「本のリンク」だ。これが後に説明する価格戦略と密接にかかわってくる。これを発想した経緯から説明しよう。
『マクドナルドはなぜケータイで安売りを始めたのか?』には、ゲーム機のプレイステーションを題材にした章がある。私はそれほどゲーム機に詳しくない。それでも、中学生にも経済に興味を持ってもらうために、どうしてもゲーム機の話を入れたかったからだ。この章を書くため、関連する本を何冊も読んだ。その中で『美学vs.実利 「チーム久夛良木」対任天堂の総力戦15年史』(講談社)がダントツに面白いと感じた。このため、この章では、『美学vs.実利』からあれこれ引用している。
偶然なことに、同書を担当した編集者の倉田卓史さんが私の電子書籍の担当になった。これが縁で、『美学vs.実利』の著者の西田宗千佳さんと電子書籍をめぐる話をする機会を得た。西田さんは2010年に『iPadvs.キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏』と『電子書籍革命の真実 未来の本 本の未来』という2冊の電子書籍関連本を出している。
西田さんとの話し合いの中で思惑が一致したのが、私の本と西田さんの本を「リンク」することだった。具体的には、『美学vs.実利』の中で私が一番参考にした章を、私の『マクドナルドはなぜ……』の電子版にオマケとして丸々つけさせてもらう。他方、『美学vs.実利』の電子版が出るときには、私の『マクドナルドはなぜ……』でゲーム機ビジネスの基礎理論を書いた章を、オマケとして提供する。こうして1章ずつをオマケとして提供し合うことで、本と本をリンクさせようとしたのである。実際に、私の電子書籍の末尾には、西田さんの本の第3章がついている。
本のリンクは、その輪をどんどん広げることを目指している。私自身が過去に講談社から出した本で、関連する部分を追加のオマケとしてつける。他の著者が新しく電子書籍を出す時にも、相互に関連する内容があれば、オマケを交換する。交換によって新しく提供してもらうオマケは、アプリの「無料アップデート」機能を使って読者に届ける。
「本のリンク」が書籍のマーケティングを変える!
無料アップデートによるオマケの追加は、本の販売促進策として画期的なものである。もし、既にかなりの読者がいる電子書籍Aに、関連するテーマを扱った電子書籍Bの一部をオマケにつけることにして、無料アップデートできるようにするとどうなるか? 電子書籍Bにとっては、効率的な販売促進策になる。関連するテーマに興味がある読者に対して、特に関連性が深い部分を試し読みしてもらえるからだ。
しかも、この販売促進策は、電子書籍が出版されてからかなり年月が経過した場合にも有効である。出版から何年か経過した本であっても、新刊としてこれから売り出す本とリンクすれば、ついでに宣伝できるからだ。これまで、本の販売促進は、新刊として発行する時に集中的に行うのが一般的だった。従って、発行時に売れないと、その後もヒットしない確率がきわめて高かった。だから、新刊として扱われる時期が過ぎてしまうと、余計に販売促進策が打たれなくなる。電子書籍の世界では、「本のリンク」を使うことで、この欠点を補うことができるのである。
マーケティングの工夫で電子書籍市場を切り開く
電子書籍の市場は、日本ではまだまだ小さい。一般的に、電子書籍は儲からないというのが今の日本の現状である。売れているのは、紙版がベストセラーになった本の電子版が、紙版の“七光り”で売れるケースくらいではないだろうか。
こうした現状を打破するために、著者や版元はもっと、電子書籍ならではのマーケティング戦略を工夫するべきだ。その時には価格戦略が重要になる。次回は、紙版と電子版それぞれの商品としての基本性質つまり「商品としての本の性質」を考える。その上で、その後の2回で、価格戦略についてもっと詳しく論じる。
2011年6月7日火曜日
電子書籍が紙に負ける5つのポイント
http://wiredvision.jp/news/201106/2011060622.html
米Amazon.com社が最初の『Kindle』を発売し、電子書籍という革命を始めたのは3年半前のことだ。現在同社は、紙の本の売り上げよりも電子書籍の売り上げのほうが大きいという状態にある(日本語版記事)。
日本が江戸時代に、銃を捨てて刀に戻ったような、珍しい「時代逆行」が生じないかぎり、電子書籍は、紙の本を引き継ぐ「21世紀の書籍」になることだろう。
実は筆者は、今まで電子書籍リーダーというものを買ったことがなかった。生まれつき、単一機能の機器というものが嫌いだからだ。しかし、iPadを使い始めて以来というもの、紙の本はまったく購入しなくなってしまった。本は今後、完全に消え失せるということはないだろうが、ニッチなメディアという周縁的な存在になっていくことだろう。
しかしそれでも、電子書籍には根本的な欠陥がいくつかある。電子書籍には、紙の本にはかなわない(少なくとも、簡単にはかなわない)側面が、まだいくつかあるのだ。逆にいえば、以下の5つの問題が解決されさえすれば、電子書籍は制限なく成長していくことだろう。
1)読了へのプレッシャーがない。
今年2月、『The New York Times』のテクノロジー記者(元Wiredで記事を書いていたジェナ・ワーサム)が興奮した様子で、電子書籍をやっと最後まで読み終わることができた、と書いていた。ハイテクに精通した記者が、なぜそこまで時間がかかったのだろうか。本人が素晴らしい説明をしている。読み始めても、電子書籍だと「続きを読む」ことを忘れてしまうのだ。読み通すには、真摯な「新年の決意」が必要だった。
電子書籍は、視界のどこかに存在するということがない。読み始めたものは最後まで読め、と訴えてくる力に欠けるのだ。1,000冊を超える電子書籍を持っていたとしても、視界に入ってこなければ忘れられてしまう。
この問題を解決する方法は、『A Shore Thing』を読み始めてもう17日がたつが、まだ47ページめだ、ということを思い出させてくれる通知がポップアップで登場することだろう。
2)購入した本を1カ所にまとめられない。
物理的な本では、本棚を自分で整理し、その中から本を選ぶというプロセスがある。しかし、タブレットやスマートフォンの場合は、アプリごとに「本棚」ができてしまい、いろいろな所から購入した電子書籍を、まとめて1カ所で見ることができない。まとめるためのアプリが存在しないのだ。(電子リーダーはさらにつらい。専用の店以外からは何も買えないのだから)。
小さな問題だと思うかもしれないが、本屋がユーザーの本棚のサイズや形を決め、本棚にはその本屋で買った本しか並べるな、というルールを強制してきたとしたらどう思うか、考えてみてほしい。
iOSデバイス上で共通ライブラリーのようなものを作るとすれば、ルート情報を使うことが必要になるが、米Apple社は開発者にそれを許していない。また、仮にこの制限がなくなったとしても、各ベンダーの協力を取り付けるという問題がある。各社が競合していること、このような均一化が価格競争につながりかねないことなどを考えると、協力が得られるとは限らない。
3)思考を助ける「余白への書き込み」ができない。
文章をハイライトする機能だけでは十分ではない。注意深い読み手は、著者と議論したり、論点を展開したり、読んですぐに思いついたことを書き留めたりしたいものだ。そして、そのようなメモはオリジナルの近くにある必要がある----別のノートにというのでは話にならない。発明されそうでまだ発明されていない、気の利いたインデックス化システムがあろうと、それは変わらない。
本への書き込みというものは、本を誰かと共有すると、また興味深い「偶然の発見」を生み出していくものだ。こうした書き込みがまったくできないことは電子書籍の弱点だ。
書き込みの体験を再現するには新しい標準が必要だ。そしてそういった標準は、プロプライエタリな電子書籍技術を用いている各社によって共通して採用されなければならない。こうした新しい方向性は、『OpenMargin』[以下の動画]を見てもらうと、どんなものかわかるだろう。
4)位置づけとしては使い捨てなのに、価格がそうなっていない。
ハリウッドがDVDの特典でやっているように、電子書籍がそれ自体の価値をきちんと追加しない限り、レンタルに等しいものに13ドルを出すのは納得がいかないところがある。電子書籍は発行にほとんど費用がかからないのに、出版社が設定している基本となるカバープライスは、紙で出された新作の割引価格よりわずかに安いだけなのだ。
電子書籍は、貸すことも、地元の図書館に寄付することも、転売することもできない。物理的な空間を占めておらず、そのため、データを削除する際にも複雑な感情が生じにくい。このことは、次の項目とも関係してくる。
5)インテリア・デザインにならない。
くだらないと言うかもしれないが、物理的な本棚というものは、自分の人となりをほかの人々に無言で紹介するものではないだろうか。われわれが公共スペースに置く本、置かない本、そしてその並べ方は、世間に自分をどう思ってほしいかを雄弁に語るものだ(虚栄も混じるだろうが)。本棚はわれわれの紋章や名刺のようなもので、会話を始めるきっかけにもなるものだ。電子書籍リーダーの奥深くに隠されてしまえば、本棚の語る言葉は誰にも聞こえなくなってしまう。
ただし、古いメディアが完全に廃れるということは、今までもなかった。インターネット以前のラジオやテレビや映画は、いまでも存在する。だから、本がすぐ廃れるということはあり得ないだろう。電子書籍と物理的な本の両方を使い続ける方法が、両方の世界のいちばんよいところを取り入れる方法なのかもしれない。
米Amazon.com社が最初の『Kindle』を発売し、電子書籍という革命を始めたのは3年半前のことだ。現在同社は、紙の本の売り上げよりも電子書籍の売り上げのほうが大きいという状態にある(日本語版記事)。
日本が江戸時代に、銃を捨てて刀に戻ったような、珍しい「時代逆行」が生じないかぎり、電子書籍は、紙の本を引き継ぐ「21世紀の書籍」になることだろう。
実は筆者は、今まで電子書籍リーダーというものを買ったことがなかった。生まれつき、単一機能の機器というものが嫌いだからだ。しかし、iPadを使い始めて以来というもの、紙の本はまったく購入しなくなってしまった。本は今後、完全に消え失せるということはないだろうが、ニッチなメディアという周縁的な存在になっていくことだろう。
しかしそれでも、電子書籍には根本的な欠陥がいくつかある。電子書籍には、紙の本にはかなわない(少なくとも、簡単にはかなわない)側面が、まだいくつかあるのだ。逆にいえば、以下の5つの問題が解決されさえすれば、電子書籍は制限なく成長していくことだろう。
1)読了へのプレッシャーがない。
今年2月、『The New York Times』のテクノロジー記者(元Wiredで記事を書いていたジェナ・ワーサム)が興奮した様子で、電子書籍をやっと最後まで読み終わることができた、と書いていた。ハイテクに精通した記者が、なぜそこまで時間がかかったのだろうか。本人が素晴らしい説明をしている。読み始めても、電子書籍だと「続きを読む」ことを忘れてしまうのだ。読み通すには、真摯な「新年の決意」が必要だった。
電子書籍は、視界のどこかに存在するということがない。読み始めたものは最後まで読め、と訴えてくる力に欠けるのだ。1,000冊を超える電子書籍を持っていたとしても、視界に入ってこなければ忘れられてしまう。
この問題を解決する方法は、『A Shore Thing』を読み始めてもう17日がたつが、まだ47ページめだ、ということを思い出させてくれる通知がポップアップで登場することだろう。
2)購入した本を1カ所にまとめられない。
物理的な本では、本棚を自分で整理し、その中から本を選ぶというプロセスがある。しかし、タブレットやスマートフォンの場合は、アプリごとに「本棚」ができてしまい、いろいろな所から購入した電子書籍を、まとめて1カ所で見ることができない。まとめるためのアプリが存在しないのだ。(電子リーダーはさらにつらい。専用の店以外からは何も買えないのだから)。
小さな問題だと思うかもしれないが、本屋がユーザーの本棚のサイズや形を決め、本棚にはその本屋で買った本しか並べるな、というルールを強制してきたとしたらどう思うか、考えてみてほしい。
iOSデバイス上で共通ライブラリーのようなものを作るとすれば、ルート情報を使うことが必要になるが、米Apple社は開発者にそれを許していない。また、仮にこの制限がなくなったとしても、各ベンダーの協力を取り付けるという問題がある。各社が競合していること、このような均一化が価格競争につながりかねないことなどを考えると、協力が得られるとは限らない。
3)思考を助ける「余白への書き込み」ができない。
文章をハイライトする機能だけでは十分ではない。注意深い読み手は、著者と議論したり、論点を展開したり、読んですぐに思いついたことを書き留めたりしたいものだ。そして、そのようなメモはオリジナルの近くにある必要がある----別のノートにというのでは話にならない。発明されそうでまだ発明されていない、気の利いたインデックス化システムがあろうと、それは変わらない。
本への書き込みというものは、本を誰かと共有すると、また興味深い「偶然の発見」を生み出していくものだ。こうした書き込みがまったくできないことは電子書籍の弱点だ。
書き込みの体験を再現するには新しい標準が必要だ。そしてそういった標準は、プロプライエタリな電子書籍技術を用いている各社によって共通して採用されなければならない。こうした新しい方向性は、『OpenMargin』[以下の動画]を見てもらうと、どんなものかわかるだろう。
4)位置づけとしては使い捨てなのに、価格がそうなっていない。
ハリウッドがDVDの特典でやっているように、電子書籍がそれ自体の価値をきちんと追加しない限り、レンタルに等しいものに13ドルを出すのは納得がいかないところがある。電子書籍は発行にほとんど費用がかからないのに、出版社が設定している基本となるカバープライスは、紙で出された新作の割引価格よりわずかに安いだけなのだ。
電子書籍は、貸すことも、地元の図書館に寄付することも、転売することもできない。物理的な空間を占めておらず、そのため、データを削除する際にも複雑な感情が生じにくい。このことは、次の項目とも関係してくる。
5)インテリア・デザインにならない。
くだらないと言うかもしれないが、物理的な本棚というものは、自分の人となりをほかの人々に無言で紹介するものではないだろうか。われわれが公共スペースに置く本、置かない本、そしてその並べ方は、世間に自分をどう思ってほしいかを雄弁に語るものだ(虚栄も混じるだろうが)。本棚はわれわれの紋章や名刺のようなもので、会話を始めるきっかけにもなるものだ。電子書籍リーダーの奥深くに隠されてしまえば、本棚の語る言葉は誰にも聞こえなくなってしまう。
ただし、古いメディアが完全に廃れるということは、今までもなかった。インターネット以前のラジオやテレビや映画は、いまでも存在する。だから、本がすぐ廃れるということはあり得ないだろう。電子書籍と物理的な本の両方を使い続ける方法が、両方の世界のいちばんよいところを取り入れる方法なのかもしれない。
2011年5月16日月曜日
「紙も電子も」成り立つか…新潮社、全新刊を配信へ
2010年が「電子書籍元年」と呼ばれるきっかけとなったアップルの多機能端末「iPad」の日本発売から、もうすぐ1年。電子書籍を配信する「電子書店」が数多く登場したが、過渡期で乱立気味だとも言える。
同社はまた、作者の許諾を得られなかったものを除き、新刊書籍すべてを電子化していくと発表。電子化の時期は紙の本の発売から半年後、価格は紙の本の8割を基本にするという。
米国では今や新刊の多くが紙と電子で同時出版され、それが電子書籍の普及を促したと言われるが、新潮社はあえて時間差を設けた。日本ではまだ紙と電子の売れ行きの差が大きいことに加え、同社には新潮文庫という大きな柱がある。単行本の約3年後に発売される文庫の売り上げに極力影響を与えない「単行本→電子本→文庫本」というすみ分けが可能なのか。同社の示した方針はその意味でも、出版界で注目されている。
「電子化の時期や価格はとりあえずのもの。どういうビジネスモデルが考えられるか、市場や読者の動向を見ながら試行錯誤していきたい」と柴田部長。「紙か電子か」ではなく、「紙も電子も」は成り立つのか。当面は、さまざまな試みが続きそうだ。
自分の読みたい本をどこで買えば良いのか、分かりにくいと感じている人が多いのではないか。
新潮社は先月末、「新潮ライブ!」(http://www.shincho-live.jp/)というサイトを開設した。「購入ナビゲーションサイト」というだけあって、自社の電子書籍約580点がどの書店で購入でき、どの端末で読めるかが一目瞭然。お目当ての本を買える書店に真っすぐ案内してもらえる。同社の書籍に限っては、書店間の縦割りが解消されたと言っていい。柴田静也・開発部長は「自社作品の何が電子化され、どこで読めるのかを指し示すのが出版社の使命と考えた」と話す。同社はまた、作者の許諾を得られなかったものを除き、新刊書籍すべてを電子化していくと発表。電子化の時期は紙の本の発売から半年後、価格は紙の本の8割を基本にするという。
米国では今や新刊の多くが紙と電子で同時出版され、それが電子書籍の普及を促したと言われるが、新潮社はあえて時間差を設けた。日本ではまだ紙と電子の売れ行きの差が大きいことに加え、同社には新潮文庫という大きな柱がある。単行本の約3年後に発売される文庫の売り上げに極力影響を与えない「単行本→電子本→文庫本」というすみ分けが可能なのか。同社の示した方針はその意味でも、出版界で注目されている。
「電子化の時期や価格はとりあえずのもの。どういうビジネスモデルが考えられるか、市場や読者の動向を見ながら試行錯誤していきたい」と柴田部長。「紙か電子か」ではなく、「紙も電子も」は成り立つのか。当面は、さまざまな試みが続きそうだ。
電子書籍の「専用端末」はどこへ向かうのか ~ここまでの電子書籍端末総まとめ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/topic/feature/20110516_445529.html
タブレットに最適化されたAndroid 3.0を搭載した「Optimus Pad」や「XOOM Wi-Fi」が相次いで発売される一方、先月末には東日本大震災の影響で延期になっていた「iPad 2」も発売となり、今世間ではタブレットデバイスのブームともいえる状況だ。さらに国内でも東芝、ソニーといった大手メーカーがAndroid搭載タブレットの投入を表明しており、今後さらなる盛り上がりが到来することが予想される。
その一方で、一息ついた印象があるのが、昨年(2010年)末から発売ラッシュにあった電子書籍専用端末だ。中でも昨年12月のソニー、シャープの相次ぐ製品投入は記憶に新しいが、今年に入ってからは新たな専用端末の動きは少ない。新製品が少ないというだけで製品を店頭で見かける機会が減っているわけではないのだが、昨年あれだけ「電子書籍元年」と騒がれてニュースになったことを考えると、こうした専用端末の動きは、かなり目立たない印象だ。
もっともこれは日本国内に限ったことではなく、海外に目を向けても、読書専用端末の投入の動きはやや落ち着きつつある。今噂されているのはBarnes & Nobleの端末「NOOK」の新モデルくらいだが、これは海外ですでに高いシェアを持つ製品の新モデルという位置づけで(あくまでも噂だが)、新たなベンダーなりメーカーが参入しようとしているわけではない。
今回は、ハードウェアの側から見た電子書籍市場の動向をまとめつつ、これまでの電子書籍端末レビュー記事の総集編という位置づけで、現在入手可能な電子書籍端末を、過去に国内で発売された電子書籍端末などとも比較しながら、傾向や選び方などを見ていきたい。
●やはり「iPad」なのか
ここ数カ月間、筆者がさまざまな人から決まったように受ける質問が「電子書籍端末って結局どれがいいんですかね」というものだ。多くの人はここで筆者の口から専用端末の名前が出ることを期待しているようなのだが、それに対して「うーん、やっぱり汎用性の高いiPadですかねぇ」などと無難な回答をして相手をがっかりさせるのが、最近はもはやお決まりとなりつつある。
とくに新モデルであるiPad 2では、初代iPadのネックの1つであった厚みがおよそ3分の2となり、取り回しが大幅によくなったことからも、今後しばらく同様の回答をし続けることになるのではないかと思う。実際にしばらくiPad 2を使ってみると、薄型化によって読書端末としての使い勝手は格段に向上したと思えるからだ。
ちなみにiPadをすでに所有している人に対しては「7型のGALAXY Tabもなかなかいいですよ」と答えることも多いのだが、回線契約のほか厚みがネックになるようで、実機を見せるといまいちウケがよくない。GALAXY Tabの新モデル「GALAXY Tab 10.1」はiPad 2を超える薄さということで期待が持てるが、読書アプリそのものは従来のAndroidアプリを使うわけで、革新的なユーザー体験が期待できるかというと微妙だ。現状のAndroid対応の読書アプリの多くは単ページ表示が基準なので、Android 3.0対応で見開きがきちんと表示できるようになることに期待するくらいだ。
ただ、いずれにせよ話題の中心は汎用のタブレットであり、読書専用端末が話題にのぼる機会はやはり多くない。これはおそらく筆者の周辺に限った傾向ではないように思える。
●ハードウェアレベルでは、過去の製品とそれほど差はない
ここで、2011年春までの読書専用端末の動きをざっと振り返ってみよう。
2010年に多くの電子書籍端末が登場したのは、前年から世界に向けて発売が開始された「Kindle 2」の影響もあろうが、やはり大きかったのは「iPad」の登場だろう。国内では2010年5月に発売が開始されたこのタブレットデバイスによって、電子書籍端末の市場は大きく広がったと言っていい。
iPadそのものはあくまで汎用端末であり、電子書籍専用の端末というわけではないのだが(そもそも標準アプリである iBookstoreはいまだに日本語コンテンツの販売を行なっていない)、日本語の電子書籍を快適に読めるデバイスが、ようやく手の入りやすいところまで下りてきたというのが、正しい表現だろう。紙の本を裁断およびスキャンしてデジタルデータに変換する「自炊」が果たした役割も大きい。
これらのブームを背景に2010年暮れまでに登場したのが、ソニーの「Reader」や、シャープの「GALAPAGOS」といった面々だ。前者はすでに北米で発売されていた端末を日本向けにローカライズしたもので、新たにXMDFに対応しているものの、通信機能を持たないことから、端末から直接オンラインストアに接続してコンテンツを購入することはできない。また、シリーズの中で唯一通信機能を持つ「Dairy Edition」は、今のところ国内では未発売だ。
一方の「GALAPAGOS」はWi-Fiを搭載しており、オンラインストア「TSUTAYA GALAPAGOS」から直接コンテンツを買えるメリットはあるが、追加プログラムのインストールには対応しないことから、iPadのようにさまざまなオンラインストアが利用できるといった選択肢には乏しい。派生機種まで含めて見ると、GALAPAGOSモバイルモデルに3G機能を搭載したNTTドコモ「SH-07C」はTSUTAYA GALAPAGOSに加えて2Dfactoに対応したり、またシャープ製のAndroidスマートフォンで購入済みコンテンツを利用できるアプリがリリースされたりはしているのだが、帯に短し襷に長しといった印象はなくはない。
これら端末が一挙に登場した2010年は一般に電子書籍元年と言われるわけだが、では過去に登場した電子書籍端末と何が違うのか? というのは、誰しも疑問に思うところだろう。具体的に名前を挙げると、ソニーの「LIBRIe」、パナソニックの「ΣBook」およびその後継の「Words Gear」などだ。現行製品ではあるが、富士通フロンテックの「FLEPia」についても、ここに加えていいだろう。
実際にこれら端末を現行製品と比較してみると、実はハードウェアとしては、それほど決定的な違いがないことに驚く。通信機能が強化されていたり、タッチ操作対応の製品が増えているなどの違いはあるが、基本的なコンセプトについてはそれほど変わっていない。むしろ最新の製品のほうが、ディスプレイがワイド画面になったことにより、電子書籍の単ページ表示時に上下に無駄な余白を生ずるようになり、見づらく感じられる節もなくはない。
中でも製品として短命に終わった「Words Gear」などは、その液晶のクオリティだけ見れば、今でも十分に現役として通ずる製品だ。やや乱暴ではあるが、電子書籍においては単体のハードウェアの完成度よりも、トータルソリューションが大事であることを痛感させられる。
実際、ここ1~2年海外で大ヒットしている「Kindle」にしても「NOOK」にしても、ハードウェアとしてはよくまとまってはいるものの、突出してこれといった機能があるわけではない。消費者に受けているのは、コンテンツ購入から読書までのシームレスな操作感、そしてコンテンツの充実度だろう。日本の産業はモノづくりに立脚していると言われるが、単体のモノづくりに注力するあまりソリューション全体のマネジメントが欠けている、もしくは実現できない何らかの背景が存在していて、電子書籍の世界ではそれが目に見えやすいというだけにすぎないように思える。
ただし念のために補足しておくと、電子書籍の事業者に話を聞いて回っても、こうした問題点に決して気づいていないわけではない。どちらかというと、そんなことはもちろん分かっている、今取り組んでいる、という意見が大勢を占める。消費者側から見えるだけの成果が挙げられていないだけで、会社として前向きに取り組んでいるという点ではどこも共通している。もっとも「まずはプラットフォームとなるハードウェアを提供する」という方向性に注力するあまり、冒頭に述べたような汎用端末に押されつつあるという感は、消費者視点で見た場合はなくはない。
余談だが、電子書籍絡みの記者発表会では、コンテンツを保有している出版社に対する配慮の言葉が目立つ一方、そのコンテンツを生み出す著者へのリスペクトや、ユーザー側の読書体験や使い勝手があまり目立たないように感じる。こうした点についても、少し違和感を感じないでもない。
●電子書籍のインターフェイスはiOS/Androidでどう変わるか
話を戻そう。現在市販されている電子書籍の専用端末は、OSとしてはたいていがLinuxベースだが、インターフェイスの実装はまったく異なる。それゆえ操作性がバラバラで、複数の端末を使うと操作性の点で混乱することも少なくない。
例えば「ページをめくる」という行為1つをとっても、ページの右側をタップするのか左側をタップすべきなのかが統一されていないし、メニュー画面を呼び出す場合も、画面の中央をタップ、画面を上下にドラッグ、専用ボタンを押すなど、操作方法はバラバラだ。日本の電子書籍ならではといえる縦書き横書き切替やルビ表示オンオフや、文字部分だけを抜き出して表示できるリフロー機能が加わると、話はさらにややこしくなる。
本というのは、短期間に読み終えて、次から次へと手に取っていくものだ。これが例えば車などであれば、いったん購入すれば年単位で乗り続けるわけで、インターフェイスの些細な違いは慣れで吸収されてしまう。それ以前に車の場合はアクセルとブレーキの左右の位置にせよ、右ハンドルという仕様にせよ、基本的に統一されているので、乗り替えは容易だ。
ところがこれが本になると、最短で数時間で読み終えて次の本に移ってしまうわけで、せっかく慣れたインターフェイスが次の本になるとガラリと変わってしまうようでは、ユーザー側としては困ってしまう。短時間でいくつもの本を渡り歩くゆえ、あらかじめ操作性が統一されていることが重要になるわけだ。紙の本であれば物理的に「めくる」だけで済むわけだが、現行の電子書籍ではこうした操作性がバラバラであり、ページをめくっていたつもりが後退していたりといったことがしょっちゅう起こりうる。本の内容に没頭したいのに、インターフェイスがそれを妨げるというのは、まさに本末転倒だ。
むしろこれは本1冊が1つのアプリになっている「読書アプリ」に顕著な傾向であり、読書専用の電子書籍端末を提供することで統一した操作性を提供しようというのは、1つの解ではある。ただ、それにしても端末ごとに操作性がバラバラすぎるというのが、問題点の1つ目。そしてもう1つの問題点は、iOSやAndroidなど、スマートフォンおよびタブレットデバイスに用いられているOSが急速に普及しつつあり、今後こちらの操作性に収斂されていく可能性が高いことだ。
機器のボタン配置といったインターフェイスは、ユーザビリティの優劣が与える影響は限定的で、むしろ市場で主流になっている製品の操作性に従っていく傾向がある。例えば電子辞書については、2000年代の初め頃は、各社の製品が独自のボタン配置を採用していたが、現在ではPCと携帯電話の折衷のようなキーレイアウトにほぼ統一されてしまっている。同じような動きが電子書籍の専用端末でも起こってくることは、十分に予測できる。つまりiOS やAndroidなどのインターフェイスが、専用端末にフィードバックされるという可能性だ。
もちろん、読書端末の側で操作性が独自の進化を遂げる可能性もなくはない。しかし最近では、「Kindle」や「NOOK」、さらに「GALAPAGOS」のように、専用端末と同じ名前を冠するアプリがスマートフォン向けの単体アプリとして提供されるケースも多い。そうなると、同じ名前なのにまったく異なる挙動というのは、OS固有の最低限のメニュー表示などは別にして、少なくなっていくのではないかと見る。
今の日本の電子書籍市場では、1つのプラットフォームで提供されている電子書籍のラインナップはせいぜい数万冊レベルで、読みたい本を読むためには端末やアプリを取り替えなくてはならない。こうした点からも、操作性の違いは、今後もしばらく問題になり続けるのではないかと思う。
●シチュエーションごとにおすすめの電子書籍端末
こうした現状を踏まえて「電子書籍端末として、現状はどの機種がおすすめか」というのを、もうすこしシチュエーションをかみくだいて見ていきたい。
筆者は本誌でレビューした電子書籍端末のほぼすべてを自腹で購入しており、今もそのほとんどが手元で使える状態にあるが、その中で筆者がここ数カ月間メインに使ってきたのは7型液晶を搭載した「GALAXY Tab」だ。iPadで読書をする際に大きなネックになる「画面が大きすぎる」という問題をクリアしていることに加え、アプリを取り替えれば多くの電子書籍が読める点、また自炊データをmicroSD経由で転送して「i文庫」で読める点は、非常にポイントが高い。
中でも「i文庫」というアプリは、内蔵の青空文庫コンテンツはもちろん、PDF、ZIP圧縮JPEGについて、共通のインターフェイスで操作できる(iPad用では同様のアプリはいくつもあるが、Android用ということでは数少ない)。またタップ時のページめくりの方向などを、かなり細かくカスタマイズできる。そのため他の読書アプリに操作性を合わせることで、併用時にもインターフェイスの違いを極力感じずに読書に没頭できるというわけだ。ネックになるのは、KindleやReaderなど6型の読書端末と比べた場合、若干重量があることだろう。
自炊データではなくストアからの購入を主眼に置くならば、現状では「iPad」の右に出る端末はないだろう。さまざまな電子書籍ストアを選ぶことができるし、自炊データも問題なく読める。ネックになるのは9.6型というサイズで、雑誌を表示するならともかく、電車の中などで小説や単行本を読もうとすると、やや画面が大きすぎる感はなくはない。iPad 2で厚みの部分が改善された現在、残った最大のネックと言えばここだろう。もっともシャープのベールビュー液晶のように、広視野角と狭視野角を切り替えられるような液晶が搭載されれば、それはそれでよいのかもしれない。
では用途を変えて、通勤時の往復に適した端末は何かというと、個人的には「GALAPAGOS」のモバイルモデルを推す。反応速度やインターフェイス面で難はなくはないのと、電池の減りが速い点に疑問は残るが、端末側からの操作でコンテンツが購入でき、しかも片手で操作が完結するサイズという点で、ほかに対抗馬がいないというのが現状だ(前述のGALAXY Tabなどは、片手で持ち運べるサイズではあるものの、片手で持ったまますべての操作を行なうには難がある)。筆者はライフスタイルが合わないので利用していないが、新聞や雑誌の定期購読に対応している点も、GALAPAGOSの大きな魅力だと言える。
ただし自炊データは読みやすいとは言えないので、基本的には連携ストアである「TSUTAYA GALAPAGOS」の品揃えに満足できるかどうかが判断の決め手になる。先日は新たに漫画コンテンツの配信がスタートしており、今後のラインナップ拡充に期待が持てる。またGALAPAGOSで購入したコンテンツが読めるAndroidアプリも発表されているので、購入したGALAPAGOS本体を将来的に手放すことになった場合でも、こちらを用いれば表示できるという安心感もある(現状ではシャープ端末のみ対応というのはやや疑問だが)。
●E Inkなど電子ペーパー陣営の巻き返しにも期待
一方、ソニーの「Reader」や「Kindle」などE Inkの電子ペーパー端末は、日本語コンテンツの数が充実していれば話は別なのだが、画像をリサイズするとジャギーが出やすいというE Inkの特性からして自炊データの表示には不向きであり、現状フィットするシチュエーションがあまりないと感じる。
本体が軽量で電池寿命が長い点、目が疲れにくい点は電子ペーパー端末のメリットなのだが、マンガコンテンツが占める割合が多い日本の電子書籍市場においては、前述のジャギーが発生する可能性が高く、海外に比べるとヒットする余地が少ないのでは、という懸念はある。筆者の手元にこれらの端末があるにもかかわらず、起動する機会が完全に失われてしまっているのが現状だ。特にソニーは製品発表時に予告されたコンテンツ数をいまだにクリアできておらず、ひとえに連携ストアのコンテンツの拡充に期待したい。
最後になるが、個人的にはE Ink以外の電子ペーパー端末にも期待したい。伏兵がいるとすれば、富士通フロンテックの「FLEPia」だろう。現行モデルは法人向けで価格も10万円弱で、ページの切り替えに最低でも数秒を要するなど、個人向けの電子書籍端末としては難があるが、昨年から各種展示会で披露されている新型電子ペーパーを用いた試作品は、8~9型と思われる画面サイズながらKindleなど6型のE Ink端末と同等の軽さで、カラーでありながらページめくりも実用の範囲内だ。同社がコンシューマ向け電子書籍端末としてこの製品を投入してくるかはまったくの未知数だし、なにより価格も不透明だが、個人的にはPDFのビューアとして大いに期待している。
ともあれ、タブレットデバイスの急速な普及を前に、電子書籍専用端末のありようがあらためて問われているのは事実。敢えて専用端末という選択をするのであれば汎用端末にない強みがあってしかるべきで、ハードウェアの出しっぱなしで終わった過去の轍を踏まないためにも、特に国内の電子書籍市場においては、この1年ほどがひとつの山になりそうな気がしなくもない。
その一方で、一息ついた印象があるのが、昨年(2010年)末から発売ラッシュにあった電子書籍専用端末だ。中でも昨年12月のソニー、シャープの相次ぐ製品投入は記憶に新しいが、今年に入ってからは新たな専用端末の動きは少ない。新製品が少ないというだけで製品を店頭で見かける機会が減っているわけではないのだが、昨年あれだけ「電子書籍元年」と騒がれてニュースになったことを考えると、こうした専用端末の動きは、かなり目立たない印象だ。
もっともこれは日本国内に限ったことではなく、海外に目を向けても、読書専用端末の投入の動きはやや落ち着きつつある。今噂されているのはBarnes & Nobleの端末「NOOK」の新モデルくらいだが、これは海外ですでに高いシェアを持つ製品の新モデルという位置づけで(あくまでも噂だが)、新たなベンダーなりメーカーが参入しようとしているわけではない。
今回は、ハードウェアの側から見た電子書籍市場の動向をまとめつつ、これまでの電子書籍端末レビュー記事の総集編という位置づけで、現在入手可能な電子書籍端末を、過去に国内で発売された電子書籍端末などとも比較しながら、傾向や選び方などを見ていきたい。
●やはり「iPad」なのか
| iPad 2。初代iPadに比べて約5mm薄型化され、読書端末としての使い勝手も向上した |
とくに新モデルであるiPad 2では、初代iPadのネックの1つであった厚みがおよそ3分の2となり、取り回しが大幅によくなったことからも、今後しばらく同様の回答をし続けることになるのではないかと思う。実際にしばらくiPad 2を使ってみると、薄型化によって読書端末としての使い勝手は格段に向上したと思えるからだ。
ちなみにiPadをすでに所有している人に対しては「7型のGALAXY Tabもなかなかいいですよ」と答えることも多いのだが、回線契約のほか厚みがネックになるようで、実機を見せるといまいちウケがよくない。GALAXY Tabの新モデル「GALAXY Tab 10.1」はiPad 2を超える薄さということで期待が持てるが、読書アプリそのものは従来のAndroidアプリを使うわけで、革新的なユーザー体験が期待できるかというと微妙だ。現状のAndroid対応の読書アプリの多くは単ページ表示が基準なので、Android 3.0対応で見開きがきちんと表示できるようになることに期待するくらいだ。
| GALAXY Tab。ほかにあまりない7型カラー液晶を搭載 | iPad 2とGALAXY Tabの比較。縦横比率が違うので一概に比較はできないが、表示面積はおよそ倍くらい違う | iPad 2とGALAXY Tabの厚みの比較。GALAXY Tabのほうがやや厚ぼったい |
●ハードウェアレベルでは、過去の製品とそれほど差はない
| 初代iPad(左)とKindle 2(右) |
2010年に多くの電子書籍端末が登場したのは、前年から世界に向けて発売が開始された「Kindle 2」の影響もあろうが、やはり大きかったのは「iPad」の登場だろう。国内では2010年5月に発売が開始されたこのタブレットデバイスによって、電子書籍端末の市場は大きく広がったと言っていい。
iPadそのものはあくまで汎用端末であり、電子書籍専用の端末というわけではないのだが(そもそも標準アプリである iBookstoreはいまだに日本語コンテンツの販売を行なっていない)、日本語の電子書籍を快適に読めるデバイスが、ようやく手の入りやすいところまで下りてきたというのが、正しい表現だろう。紙の本を裁断およびスキャンしてデジタルデータに変換する「自炊」が果たした役割も大きい。
| ソニーの「Reader」。これは6型の「Touch Edition」 |
| シャープの「GALAPAGOS」。これは5.5型のモバイルモデル |
これら端末が一挙に登場した2010年は一般に電子書籍元年と言われるわけだが、では過去に登場した電子書籍端末と何が違うのか? というのは、誰しも疑問に思うところだろう。具体的に名前を挙げると、ソニーの「LIBRIe」、パナソニックの「ΣBook」およびその後継の「Words Gear」などだ。現行製品ではあるが、富士通フロンテックの「FLEPia」についても、ここに加えていいだろう。
| ソニーの「LIBRIe(EBR-1000EP)」。2004年4月発売 | パナソニック(旧・松下電器産業)の「ΣBook」。2004年2月発売 | パナソニック システムソリューションズ(旧・松下電器産業)の「Words Gear」。2006年12月発売 |
中でも製品として短命に終わった「Words Gear」などは、その液晶のクオリティだけ見れば、今でも十分に現役として通ずる製品だ。やや乱暴ではあるが、電子書籍においては単体のハードウェアの完成度よりも、トータルソリューションが大事であることを痛感させられる。
実際、ここ1~2年海外で大ヒットしている「Kindle」にしても「NOOK」にしても、ハードウェアとしてはよくまとまってはいるものの、突出してこれといった機能があるわけではない。消費者に受けているのは、コンテンツ購入から読書までのシームレスな操作感、そしてコンテンツの充実度だろう。日本の産業はモノづくりに立脚していると言われるが、単体のモノづくりに注力するあまりソリューション全体のマネジメントが欠けている、もしくは実現できない何らかの背景が存在していて、電子書籍の世界ではそれが目に見えやすいというだけにすぎないように思える。
ただし念のために補足しておくと、電子書籍の事業者に話を聞いて回っても、こうした問題点に決して気づいていないわけではない。どちらかというと、そんなことはもちろん分かっている、今取り組んでいる、という意見が大勢を占める。消費者側から見えるだけの成果が挙げられていないだけで、会社として前向きに取り組んでいるという点ではどこも共通している。もっとも「まずはプラットフォームとなるハードウェアを提供する」という方向性に注力するあまり、冒頭に述べたような汎用端末に押されつつあるという感は、消費者視点で見た場合はなくはない。
余談だが、電子書籍絡みの記者発表会では、コンテンツを保有している出版社に対する配慮の言葉が目立つ一方、そのコンテンツを生み出す著者へのリスペクトや、ユーザー側の読書体験や使い勝手があまり目立たないように感じる。こうした点についても、少し違和感を感じないでもない。
●電子書籍のインターフェイスはiOS/Androidでどう変わるか
話を戻そう。現在市販されている電子書籍の専用端末は、OSとしてはたいていがLinuxベースだが、インターフェイスの実装はまったく異なる。それゆえ操作性がバラバラで、複数の端末を使うと操作性の点で混乱することも少なくない。
| メニュー画面の呼び出し方は機種によって異なる。タッチ対応製品では画面の中央をタップする方式が多い |
本というのは、短期間に読み終えて、次から次へと手に取っていくものだ。これが例えば車などであれば、いったん購入すれば年単位で乗り続けるわけで、インターフェイスの些細な違いは慣れで吸収されてしまう。それ以前に車の場合はアクセルとブレーキの左右の位置にせよ、右ハンドルという仕様にせよ、基本的に統一されているので、乗り替えは容易だ。
ところがこれが本になると、最短で数時間で読み終えて次の本に移ってしまうわけで、せっかく慣れたインターフェイスが次の本になるとガラリと変わってしまうようでは、ユーザー側としては困ってしまう。短時間でいくつもの本を渡り歩くゆえ、あらかじめ操作性が統一されていることが重要になるわけだ。紙の本であれば物理的に「めくる」だけで済むわけだが、現行の電子書籍ではこうした操作性がバラバラであり、ページをめくっていたつもりが後退していたりといったことがしょっちゅう起こりうる。本の内容に没頭したいのに、インターフェイスがそれを妨げるというのは、まさに本末転倒だ。
むしろこれは本1冊が1つのアプリになっている「読書アプリ」に顕著な傾向であり、読書専用の電子書籍端末を提供することで統一した操作性を提供しようというのは、1つの解ではある。ただ、それにしても端末ごとに操作性がバラバラすぎるというのが、問題点の1つ目。そしてもう1つの問題点は、iOSやAndroidなど、スマートフォンおよびタブレットデバイスに用いられているOSが急速に普及しつつあり、今後こちらの操作性に収斂されていく可能性が高いことだ。
機器のボタン配置といったインターフェイスは、ユーザビリティの優劣が与える影響は限定的で、むしろ市場で主流になっている製品の操作性に従っていく傾向がある。例えば電子辞書については、2000年代の初め頃は、各社の製品が独自のボタン配置を採用していたが、現在ではPCと携帯電話の折衷のようなキーレイアウトにほぼ統一されてしまっている。同じような動きが電子書籍の専用端末でも起こってくることは、十分に予測できる。つまりiOS やAndroidなどのインターフェイスが、専用端末にフィードバックされるという可能性だ。
| 約10年前の電子辞書では、決定ボタンが手前中央にあるなど、独自色の強いキー配列を採用していた。写真は1999年発売のカシオ「XD-1500」 | 最近の電子辞書では、決定キーが上下左右キーと一体化した携帯電話ライクなスタイルが主流。位置も向かって右側と、PCの作法に合わせられている。写真はシャープ「PW-A9000」 |
今の日本の電子書籍市場では、1つのプラットフォームで提供されている電子書籍のラインナップはせいぜい数万冊レベルで、読みたい本を読むためには端末やアプリを取り替えなくてはならない。こうした点からも、操作性の違いは、今後もしばらく問題になり続けるのではないかと思う。
●シチュエーションごとにおすすめの電子書籍端末
こうした現状を踏まえて「電子書籍端末として、現状はどの機種がおすすめか」というのを、もうすこしシチュエーションをかみくだいて見ていきたい。
| 「GALAXY Tab」はユーティリティを使わなくともmicroSDで自炊データなどのコンテンツを転送できる |
| 「i文庫 for Android」の設定画面。iPad版もおおむね同様の設定項目を持つ |
自炊データではなくストアからの購入を主眼に置くならば、現状では「iPad」の右に出る端末はないだろう。さまざまな電子書籍ストアを選ぶことができるし、自炊データも問題なく読める。ネックになるのは9.6型というサイズで、雑誌を表示するならともかく、電車の中などで小説や単行本を読もうとすると、やや画面が大きすぎる感はなくはない。iPad 2で厚みの部分が改善された現在、残った最大のネックと言えばここだろう。もっともシャープのベールビュー液晶のように、広視野角と狭視野角を切り替えられるような液晶が搭載されれば、それはそれでよいのかもしれない。
では用途を変えて、通勤時の往復に適した端末は何かというと、個人的には「GALAPAGOS」のモバイルモデルを推す。反応速度やインターフェイス面で難はなくはないのと、電池の減りが速い点に疑問は残るが、端末側からの操作でコンテンツが購入でき、しかも片手で操作が完結するサイズという点で、ほかに対抗馬がいないというのが現状だ(前述のGALAXY Tabなどは、片手で持ち運べるサイズではあるものの、片手で持ったまますべての操作を行なうには難がある)。筆者はライフスタイルが合わないので利用していないが、新聞や雑誌の定期購読に対応している点も、GALAPAGOSの大きな魅力だと言える。
| 「TSUTAYA GALAPAGOS」では先日からコミックの配信がスタートした |
●E Inkなど電子ペーパー陣営の巻き返しにも期待
| 自炊などのデータを入れると、解像度に合わせて自動リサイズされることでジャギーが発生し読みづらくなる。リサイズされない解像度を指定して出力する方法もあるが、かなり面倒 |
本体が軽量で電池寿命が長い点、目が疲れにくい点は電子ペーパー端末のメリットなのだが、マンガコンテンツが占める割合が多い日本の電子書籍市場においては、前述のジャギーが発生する可能性が高く、海外に比べるとヒットする余地が少ないのでは、という懸念はある。筆者の手元にこれらの端末があるにもかかわらず、起動する機会が完全に失われてしまっているのが現状だ。特にソニーは製品発表時に予告されたコンテンツ数をいまだにクリアできておらず、ひとえに連携ストアのコンテンツの拡充に期待したい。
| 富士通フロンテックの「FLEPia」。カラー電子ペーパーを採用している。写真は従来モデルだが、各種展示会ではすでに次期モデルの試作品が展示されている |
ともあれ、タブレットデバイスの急速な普及を前に、電子書籍専用端末のありようがあらためて問われているのは事実。敢えて専用端末という選択をするのであれば汎用端末にない強みがあってしかるべきで、ハードウェアの出しっぱなしで終わった過去の轍を踏まないためにも、特に国内の電子書籍市場においては、この1年ほどがひとつの山になりそうな気がしなくもない。
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