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市場成立の高いハードル
電子書籍、あるいは電子雑誌と呼ばれる市場で、タブレットマシン向け、ということになると、iPad専用のデジタル配信コンテンツが想起されます。
iPadは2010年の販売台数が概ね75万台ほどとして出されています、今後右肩上がりに増えていくのではないかとの市場予測は出されていますが、累計では、実稼働している台数としては(カウントの仕方で変わっては来ますが)、100万から200万くらいの規模になろうかと考えられます。
雑誌として成立させるのに20万人の読者が必要だった場合、最大予測の200万人に対してシェアが10%を獲得する必要があります。雑誌自体のニーズが分散化を続ける現状も踏まえると、なかなかに厳しいという予想が立ちます。
この高いハードルを越えるには、
iPadを含めたタブレット市場の伸びを待つ
読者数が少なくても回るようなビジネスモデルをひねり出す
のいずれか、あるいは両方が必要となります。
電子書籍(メディア)はいつから成立可能か
では、タブレット市場は先々どうなるのかという見通しについては、2015年で年557万台との見通しが出されています。
ざっくりの業界感覚として、1000万台くらいが実稼働している状況になればメディアチャネルとして存在感を増してくるとの言い方がされているため、販売予測数字が正しいとするなら、2010年代の後半くらいから、タブレットデバイスを意識したメディアは成立しやすくなると予測出来ることになります。
反対側で、デジタルコンテンツ(というか漫画)販売サービスを展開している株式会社イーブックイニシアティブジャパンが上場しているように、スマートフォンやタブレット向けのデジタルでのコンテンツ流通については、相応の規模を確保しつつあります。同社については、PCも含めたマルチ配信を行っているため、特定のデバイスの市場評価には不適切なケースでもありますが、全体の流れとしては参考になるところと言えます。
市場の起爆剤として期待、あるいは出版業界が戦々恐々としながら注目しているのが、AmazonがKindleを市場投入しようとしていることです。PC的なツールであったタブレットと違い、書籍端末としての立ち位置が非常に強いツールなことから、よりダイレクトな影響を生むのではないかという、典型的な黒船論の構図となっています。
雑誌は雑誌としてもう難しいのか
上記の方策 2.のところで記述した、読者数が少なくても成立させられる仕掛けは、パッケージ販売と広告以外の収益チャネルを作ることとなります。一番大きなところでは、テレビの地方局が通販広告ばかりになっている。あるいは通販番組ばっかり流しているとの現象が該当します。メディアのリーチを、広告という間接的な商材にて収益転換するのではなく、直接的な物品販売需要にて転換させようとの話です。つまり、利益率を高めたいとのアプローチです。
全てはコミュニティビジネスに帰結する、とまとめると少々短絡的ですが、磁石となるコアの強いテーマが軸として存在し(特定の人やコンテンツテーマであることが多い)、周辺にマルチチャネル、マルチコンテンツ的に展開しつつ収益を確保していくという整理図はメディアコンテンツ界隈では一般化しつつあります。
出版業界でも、先日メディアファクトリーを買収した角川グループがこの方針を明確に表明しており、数字的にも順調な伸びを見せています。書籍パッケージという特定のコンテンツ形態を水平に展開する、いろんな本を順に出していくというモデルではなく、人気を得たコンテンツを映画にし、アニメにし、ゲームにし、グッズも売りイベントも、との展開させていくビジネスモデルに同社は転換しています。
「コンテンツ+リーチ」の仕組みをデジタルで
角川の最近の動きとしては、ニコニコ(ニワンゴ)と連携して同社のニコニコ静画にコンテンツを提供していくとの発表を出しています。
この発表は表面だけなぞると角川が電子書籍、電子雑誌の強化を進めている動きに他らならないのですが、少し突っ込んで解釈すると、雑誌や旧来の書店が持っていた「コンテンツ+リーチ」の仕組みをデジタルで再度作りなおそうとの試みに見えます。
補助線としては、こちらの記事が良いところでしょう。
なかなかにショッキングなタイトルですが、同様の趣旨での議論は他でも出ており、体感としては概ね正しい指摘と考えています。分かりやすいのが、「電子書籍のサイトを作ったんですけど、ユーザーがいないのでどうしたらいいでしょう」との相談が各所で交わされているという話です。
古典的な回答としては、いいコンテンツが無いのでユーザーがいつかない。なのでいいコンテンツを揃えるのが吉、となるのですが、どうも起きている事態を観察しているとそうとも言い切れないところがあります。間に立ってるはずのソーシャルも「これ面白いよ」と十分に見つけ切れてないように見えます。
角川が取ったアクションは、自分たちのコンテンツをよりいろんな人の目に触れやすい場所に出すようにした、という動きです。取り扱い書店を増やした、あるいは書店だけでなくコンビニにも並べるようにしたと言い換えても良いでしょうか。ネットに公開する=書店に本を卸す、という解釈では不正解というのがアクションから見て取れます。
電子雑誌のチャネル開発は出来ていなかった課題
つまり、紙の雑誌が販売が立たなくなってるという方はともかくとして、電子雑誌の側については、根本的なリーチの問題の捉え方を修正しないとならないとの見方が立ちます。出版社でも、取次や書店との関係が良い、営業に優れたところはしばしば良い成績を生んでいるように、チャネルの問題は(普段あまり言われませんが)厳然としてあります。
「何をどうすれば」の答えはまだはっきりとしていませんが、電子雑誌におけるチャネル開発、日経の記事の方に寄せるとインターネット上での販促というのは、実は出来てるようで出来ていなかった課題であると言えそうです。物販に行かないと雑誌は駄目だ、というのはもしかすると過渡的な現象か早計かもしれません。個人的には、マルチコンテンツのマルチチャネル化は必然の現象と捉えているので、緩やかな解釈としては正しいと感じています。
純粋(?)なメディアビジネスはどこに行くのか
では、純粋なメディアはどこにどう成立するのでしょう?
これは、禅問答みたいになってしまいますが「成立するところに適時成立する」との言い方がどうも正しいのではないかと、このところ考えています。
例えばの例として、手前味噌ながら弊社も多少関わっているのですが、WirelessWire News(ワイヤレスワイヤーニュース)という通信業界に特化したメディアサイトがあります。 同サイトは、業界のプロ向けを意識した一般人は視野から外してしまった専門メディアとの立ち位置ですが、業界内の濃いニーズに特化して絞ったスポンサーで成立させています。マスの読者といろんな広告主という汎用プラットフォームではなく特化した受託の変種のようなメディアです。
これは、一昔前の感覚としては、雑誌の中の一特集が切りだされてメディアになってるようなものかもしれません。あるテーマに絞ってステークホルダーも見える形で、ただしそこの濃度を高めたという仕組みで、メディアの立ちうるところにメディアを立たせる。役目を終えたら閉じるかサーバー代が残せる範囲では残す、という形です。
ある雑誌が汎用的な形でずーっと続く、というのはデジタルの環境では難しい感じになってくるのかもしれません。特定のファンコミュニティに近いようなテーマコンテンツサイト、折々の事情を鑑みてスナップショットで作られるオーダーメイドのメディア、あるいは角川のようなマルチプレイヤー。傾向としてはこのあたりに絞られていっているのでは、というのが最近の感覚です。
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