英Financial Timesは、米AppleのiPad経由で定期購読を申し込む新規顧客の顧客情報をあきらめるより、今後もオンライン版ニュースの定期購読を読者に直接販売していきたい考えだ。FT.comのマネージングディレクターが取材に応じ、そう語った。
Pearsonグループ傘下のFT紙は、紙媒体の定期購読サービスの一環として、デジタル版へのアクセスをオプションとして提供している。だがAppleはパブリッシャーに対し、同社のオンラインストアApp Storeを通して読者に定期購読を申し込ませるという方針を打ち出したのだ。
Appleの人気タブレット端末であるiPadは、FT.comの新規定期購読者の主要なけん引役となっている。それは、その大きくて美しいディスプレイやインタラクティブな機能の可能性、豊富な顧客ベースのおかげだ。
だが読者に提供する広告や製品を調整する上で購読者情報は不可欠であることから、FT紙は読者との直接の関係を重視しており、「定期購読の申し込みはApp Storeを経由させる」というAppleの方針に抵抗を示している。
「われわれは読者との直接の関係を失いたくない。読者と関係は当社のビジネスモデルの核だからだ」とロブ・グリムショー氏は4月4日、Reutersの取材に応じ、語っている。
同氏は、Appleとの交渉により良い結果を生み出せることに期待しているとしながらも、次のように語っている。「もし当社のビジネス方針と合わない流通経路が1つか2つあったとしても、当社にはほかにも選択肢が多数ある」
さらに同氏は「当社とAppleの間には優れた関係がある」とも続けている。
ルパート・マードック氏率いるNews Corp.傘下の米Wall Street Journalと同様、FT紙はその読者の多くをオンライン版の有料購読者に切り換えることに成功している。
FT紙の定期購読者数は紙媒体のピーク時には44万人だったが、現在はFT.comのおかげで有料定期購読者の総数は59万人にまで拡大している。
News Corp傘下の英Timesや米New York Timesなどを筆頭に、一般紙各社も目下、オンラインの読者に購読料を支払ってもらうべく、いわゆるペイウォール(有料コンテンツの壁)の構築に取り組んでおり、業界中がその取り組みに注目している。
London Timesは有料化により読者の90%以上を失ったが、同社によると、残った読者は非常に積極的な読者ばかりで非常に貴重な存在だという。一方、New York Times紙はまだ有料サービスを始めたばかりであり、一部の記事は依然として無償で提供されている。
News Corp.は先ごろ米国で、iPad向けの日刊紙「The Daily」の配信を開始したところだ。
グリムショー氏によると、FT.comが顧客との関係をAppleに譲り渡すことによって失うものは、他社と比べてはるかに多いという。なぜなら、他社はまだ成功裡のオンラインビジネスモデルを構築していないからだ。
「われわれには失うものがある。出版市場全体としては、また違った状況に置かれている」と同氏。
実際、FT Groupでは昨年の売上高のうち40%をデジタル版が占めている。グリムショー氏はオンラインビジネスの構築を終え、目下、モバイル戦略に重点的に取り組んでいるところだ。
モバイルユーザーはインターネットで過ごす時間のかなりをFacebookなどのソーシャルネットワークにあてているという事実を踏まえ、FTは目下、Facebookとの間で、FacebookのログインをFT.comと統合し、ユーザーがより容易にFT.comの記事を推薦できるようにするという取り組みについて協議中だ。
現在、ソーシャルネットワークでの推薦を通じてニュースに接するという、いわゆるソーシャルニュースの形態は、ニュースサイトへのトラフィックソースとして急速に勢いを伸ばしつつある。
グリムショー氏によると、ニュースを読んだユーザーがFT.comの定期購読者になる割合は、Facebookの推薦を通じてアクセスしたユーザーの方が、広く一般からアクセスしているユーザーと比べて4倍高くなっているという。
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