http://www.ebook2forum.com/members/2011/10/next-generation-pub-standard-epub-3-supports-japanese-typesetting-rules/
EPUB 3の標準化を進めてきたIDPFは10月11日、会員による投票の結果、提案どおりに最終仕様(IDPF勧告)として採択し、公開したと発表した。EPUB 3は2010年5月に着手され、今年5月に勧告提案として決着して正式採択を残すだけとなっていた。最新のWeb標準であるHTML5をベースとし、リッ チメディアや対話機能、日本語縦組みを含む多言語表現、スタイルとレイアウトの拡張、メタデータファシリティ、MathML、アクセシビリティなどを含み、プリミティブだった従来の面目を一新した。
新世代の世界標準に日本語組版仕様が入った奇跡
IDPFのビル・マッコイ事務局長は「デジタル出版は、電子テキストから拡張E-Bookや新しい形の表現形態へと進化していますが、EPUB 3は、様々なデバイスやブラウザ、アプリを利用する読者に豊かな体験を届ける上での著者と出版者の能力を劇的に広げるでしょう」と述べている。彼が要約し たように、それは構造化され、信頼性が高く、デバイス非依存でアクセシビリティを備えた、新世代のツールをサポートする標準といえる。EPUB 3の機能に対応した製品の開発は、昨年5月以降に本格化しており、一部はリーディング・システムやオーサリング・ツールで実装され実用されている。
日本からみると、初の本格的E-Book標準ともいえるEPUB 3の中に日本語組版仕様を含められたことは、じつに画期的な成功といえる。事情を知る者からすれば、奇跡とも言えるものだ。成功の要因を3つあげておきたい。
第1は、大改訂のタイミングを的確に捉えたこと。大きな改訂は5年に一度のイベントで、1年~1.5年の集中的な活動の中で行われる。こんなチャンスはそうない。
第2に、国際舞台でチャンスを生かす上で必要な、実績あるエキスパートがいたこと。W3Cなど過去の活動の、有形無形の遺産がないと不可能である。
第3に、JEPAを中心によくまとまり、困難とみられた「公的支援」も得て、最も重要な日本国内での理解・支持・要求のとりまとめに成功したこと。
「国際標準」に対する日本の産業界(それにメディア)のリテラシーは高くない。そのため「日本 vs.…」とか「日本発」という間違った期待が、エンジニアを縛り、ITの標準化の場では最も必要とされる調整能力(=リーダーシップ)の発揮を妨げる傾向があり、そのために「独自利害」にのみこだわる日本人という風評が定着しているからだ。ただでさえ英語でのディベートというハンデがある上に、有難くない風評まで立っているのだから、国際舞台で活動する日本のエキスパートは、技術、人格、実績、調整能力のいずれでも高い水準が求められる。しかし、逆にそうした人物は日本では煙たがられることが多いのだから、成功率が低いのは当然だろう。
EPUB についても、日本の理解は高くなかった。最もITから遠いところにいる出版界がユーザーなのだから当然でもある。出版界の関心は、対話機能でもマルチメ ディアでも、アクセシビリティでもない日本語組版、それも「縦組・ルビ」に集中していた。文章に正書法がなく、文字にも組版にも標準というものがない(整合性のない無数のルールが存在する)日本語というユニークな言語文化を前提にしつつ、そうした渾然たる表現をサポートする「標準」を仕様化しようとするの だから、あらゆるレベルの議論が噴出するのも無理もない。誰しも「日本語」については熱くなる傾向があるが、それは言語生活が混沌としており、また日本語 以外を知らないからでもある。そして日本人以外は、そうした熱い話に付き合ってはくれない。
EPUB 3の日本語仕様を、まだきちんとチェックしたわけではないが、標準に「完全」ということはあり得ない。標準はあくまで技術経済的に解決する手段を規定する ものだからだ。それに飽き足らず、経済的余裕があれば、別の道はいくらでもある。日本語組版は、木版、活版、写植、DTP、Webと、実現技術が変化する 間に変化してきた。出版社や編集部ごとに違う無数の「ローカルルール」はその遺産であり残骸である。この際、「仕分け」が必要だろう。EPUB 3に日本語仕様を盛り込むことでわれわれが勝ち取ったものは、E-Readerやタブレット、Webブラウザ、E-Bookオーサリングツールを含む世界のIT製品での日本語組版のサポートだ。これにより、日本語の国際化を進め、日本語作品をそのまま海外に輸出することも容易になる。これをどう生かすかは出版界の仕事だ。
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